俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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今回は女子組です!
深夜テンションで書き上げるとこうなってしまうなんて・・・。
何だこれ・・・。


追記
誤字修正しました!
大佐殿、いつも報告ありがとうございます!


スグリ

[ヴィラン襲撃6]

 

ギリギリで傾けた首筋をかすめる様に、白い刃が通り過ぎていく。

「ッらぁ!!」

 

その側面に手を当てて爆破しようと力を込めれば―――――刃から枝分かれするみてぇに、刃が生えてきやがる。

舌打ちしながら体を反らして躱すが、さっきから同じような事の繰り返しばかり。

いい加減、イライラしてきやがった。

 

つーかッ・・・!

 

「逃げんじゃねぇ、クソムシ野郎ッ!!」

 

遥か頭上で、歯茎から生えた刃を使いまるで虫のように六足歩行する陰に中指を立てる。

歯を自在に伸ばして操作する個性・・・かは知らねぇが、歯の数だけ手数があるのは間違いない。

 

目が布で隠されている分、視界は狭いようだが見えていない訳じゃない。

聴覚の役割は大きいが、視界の狭さを狙った奇襲は避けるべきだろうな。

 

「ッ―――――――!」

 

声に反応して、また上から何本も刃が降ってくる。

照準を合わせるみてぇに手を向けてみるが・・・数本だった刃はすぐに枝分かれし始める。

爆破での対処を諦めて横に跳ぶが――――軌道修正しやがった何本かはこっちの方に来てやがる。

 

「ああぁぁぁ!面倒くせぇッ!」

 

限界まで引きつけて、至近距離で両手を前に突き出す。

 

BOOOOM!!

 

それなりの火力で何とか砕けるのが数本。

それ以上は、ただの勘・・・感覚だがおそらく抜かれる。

 

 

砕け散った刃の破片が浅く手足を切り裂く感触に舌打ちしながら、ヤツの動きを頭の中で予測する。

あのクソジジイのところで付けた考える癖が、今少しだけ役に立ってやがる。

 

 

 

――――奴の動きは虫に近い。

俺達を切り刻んで、奴の言う・・・肉面?切った後を見るためだけに動いてやがる。

そのために、まず目の前で動く獲物を狙う。

 

普通の思考ならB組の奴を背負った麗日を狙うだろうに、奴は麗日を無視して俺にも攻撃を仕掛けてきやがった。

 

目の前を動く者にすぐに意識が移る、野性的な思考。

なら不用意な動きは奴の攻撃を誘うだけだ。

足並みそろえて2人がかりでぶつかって、注意を分散した方が勝率は上がる。

 

だが―――――

 

 

BOOOOOOOOOOM!!

 

「―――――オラッ、かかって来やがれクソムシ野郎!」

 

 

 

 

 

足元を爆破し、自ら周囲に張った爆煙による煙幕を散らし爆豪は声を張り上げる。

目の前で動く新鮮な獲物に、再び刃が降り注いでいく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

死刑囚〈ムーンフィッシュ〉の思考は爆豪が予想した通り単純な欲望により左右されていた。

人体を切り裂き、その断面に興奮を覚える彼にとって敵の優先順位などどうでも良い。

 

もちろん無防備に意識を失った男子生徒を切り刻むほうが簡単だという思考はあったが、自分に飛び掛かってくる少女を切り裂いた方が早くてむしろ活きが良い

その程度の〈虫〉のような思考。

 

しかし、彼の思考の単純さは戦闘面での反応速度にも繋がる。

歯の刃で追いかけ、避けられたら追う。

それが出来るだけの操作性と速さが彼の個性にあった事は彼にとって最大の幸福と言えるだろう。

 

足元よりもさらに下で、今も刃を爆破した少女の体に再び裂傷が刻まれた音が耳に届く。

確実に、追い詰めている。

流れ出す血の臭いも濃くなり始めた事から、ムーンフィッシュは獲物が弱り始める時間が来たことを確信する。

 

後は失血により動きが鈍った所を切り刻むだけで、肉面が見られる。

そのことに体を震わせて―――――

 

 

 

視界の端で、何かが動いたことに気が付く。

顔に布を巻きつけるためのベルトの隙間から確認すれば、そこに居たのはいつの間にか姿を消していたもう一人の少女。

その背に背負われていた少年が居なくなっていたが、それよりも見失っていた筈の獲物が戻ってきたことに彼の心は喜びに染まる。

 

 

先ほどまで追っていた少女が何かを叫び駆け寄っているが、そんなことはもう気にすることは無い。

新しく表れた肉に、彼は複数の刃を口元から射出する。

 

 

その僅か前に、爆発を推進力にしてもう一人の少女が庇う様に突撃したため、爆煙が邪魔だがそれでも確実に切り裂けるだけの数の刃を打ち込んでいく。

 

 

ガガガガガガガガッ!!!

 

掘削機が地を削るような音が煙の中で響き渡る。

刺した傍から分裂させ、爆煙の中を隅から隅まで抉りつくす。

 

 

 

 

 

確実に、2人のうちどちらかを細切れにする。

そんな斬撃の雨が――――数十秒後にようやく止む。

 

「肉 見たい」

 

斬撃によって撒き散らされた砂塵と爆煙が、ゆっくりと晴れていく。

地面に飛び散った血の跡に、ムーンフィッシュの口元は弧を描いて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOOOOOOM!!

 

「―――――!?」

 

唐突に、爆発音が彼と同じ高さで鳴り響く。

驚愕により、反射的に顔を上げれば木よりも高い自分と視線を合わせる位置に浮かぶ二人の少女の姿。

 

血の流れ続ける両腕を背後へ向ける少女の背中へ抱き着くように、先ほど戻ってきた茶色髪の少女がしがみついている。

 

背後へ向けた少女の手。

それが、強い光を放った瞬間―――――まさしくロケットのように2人の体が飛び出す。

次いで、驚愕から覚めたムーンフィッシュの刃が2本、その柔らかい体を切り裂くために突き出される。

 

だが、少女が手を空へ向け爆破を行う事で容易くその刃は躱され、動きに合わせて刃の途中から枝分かれするがすでに刃が届くころには彼らの姿は通り過ぎている。

 

 

 

歯である以上、伸びる事しかできない刃は点の攻撃でしかない。

左右だけではなく、上下に避ける選択肢が出来た彼らに当てることは視覚情報を絞った彼には困難であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

故に――――――

彼もまた、移動を開始する。

下へ伸ばしていた歯を縮めれば、グンッと重力に引かれ沈み込む体。

その頭上を、少女の腕と舌打ちが通り過ぎていく。

 

下の歯を近くの木へ突き刺し、縮めることで木から木へその体を移しながら、獲物たちの能力を再度評価しなおす。

地を這う獲物から、宙を駆ける獲物へと。

 

 

狙う場所が変わっただけ。彼にとって何の問題にもなりはしない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いよいよ動きが変態染みてきやがった。クッソ気持ち悪い奴だぜ!」

「あの動き、追いつくのは難しいかも。やっぱり、アレをやるしかないけど・・・」

俺が注意を引きつけている間に、B組の生徒を遠くの茂みに隠して戻ってきた麗日がすぐに発見された時は肝を冷やしたが結果オーライだ。

 

自然な流れで空中戦に持ち込むことが出来た。

後は、奴に作戦を気付かれる事無く動くだけでいい。

 

 

「元からそのつもりだ。テメェには危ねぇ橋渡ってもらうんだ、ンな小せぇ傷気にしてんじゃねぇよ」

「・・・うん。助けてくれてありがとう、勝紀ちゃん・・・!」

 

煙幕で直撃は免れたが、麗日の個性で浮かぶ前に何本かの刃が降ってきやがった。

咄嗟に急速浮上するために爆破を起こした時に少し手を切ってから、ずっとコイツはジロジロ見てきやがる。

 

一人で勝つことが出来ねぇのは腹立たしいが、一人じゃ出来ねぇことがある事ぐらい俺にも分かる。

 

クソデクの背中に追いつくまで、こんなところで躓くわけにはいかねぇ。

 

 

「さっさと口閉じろッ、行くぞッ!!」

 

奴の動きを視線で追う。

先ほどの攻防とは逆、浮遊という状態を爆破の推進力で無理やり動かすこちらに対し、奴は複数の長い手足で自由に動き回っている。

こちらが捕らえるには奴が攻撃に回った瞬間を見極めなければならない。

 

 

 

 

 

跳ねるように、右から左へと影が動く。

その中へ、爆破を利用し突撃しながら暗闇の中をただじっと見つめる。

暗闇の中で刃を使って移動した瞬間は見えるが、刃を戻されてしまえばそれも見えない。

奴の黒い服が一瞬見えるが・・・再び闇に紛れる―――――

 

 

 

 

 

 

 

唐突に右から、木が揺れる音が響く。

 

 

「違うっ、左!」

その音に首を向けかけて――――麗日の声に、左を見る事無く下方へと爆破を行い、麗日を背負ったまま浮き上がる。

 

同時に、左から突き出した刃が足裏を僅かに掠めながら通り過ぎていく。

僅かでも対処が遅れていれば、確実に体を貫かれていた状況にあの爆豪ですら息を飲み。

それを飲み込んだうえで、注意を引くように声を張り上げる。

 

「ッ、ムシの癖に意外と頭回るじゃねぇかッ!」

 

浮かんだまま上空から見ればよく分かる。

右から聞こえた音は、右にあった木へと左から伸ばした刃を突き刺しただけの囮。

 

だがこれで、奴の居場所は分かった。

刃の根元へ、爆破によるターボで距離を詰める。

 

「避けるな 肉 見たい 見せろ    見せろォッ!」

 

至近距離を、白い刃が通り過ぎていく。

それらを避けられているのは、予測に基づいた爆豪の勘による物も大きい。

しかし、それを支えているのは麗日というもう一つの目がある事への安心感も確かにあった。

 

繰り返すこと三回、幾度か刃が掠めることはあったが直撃はせず。

眼前に迫ったヴィランへ牙を剥くように口の端を上げ爆豪は浮かべ腕を振りかぶる。

 

「来てやったぜクソムシッ!!大人しく死にやが―――――――」

 

爆豪の眼前に、刃が迫る。

その数、10本以上。

枝葉のように分かれながら迫る様は、巨大なミキサーの内部のようにも見えた。

 

「・・・・ッ!!」

 

迫ってくるのであれば、包む様に刃を作れば良い。

ムーンフィッシュの思考がそこへ辿り着いたか、爆豪に知るよしもないがいま確実に分かる事はその刃が避けられないという事と、刃の中に捕まればそのまま内側へ伸ばされた刃で串刺しになるという事。

 

「ッ、・・・・やるしかねぇッ」

 

両手を眼前に向ける。

折れて数本、それでは逃げ切る事は出来ない。

それでも、悪態をつきながら今できる最大の火力で吹き飛ばすしかない。

 

背中の麗日の手が、離れたのを感じる。

 

重みが消え、突撃するのは爆豪一人。

 

 

 

白い刃の中心で、森を照らしつくすような巨大な爆炎が膨れ上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼前で巻き起こった爆発に、ムーンフィッシュは前方へ伸ばしていた自らの歯を戻す。

肉を切り裂いた感触は感じなかったが、あの爆発はほぼ自爆に等しい威力だった。

爆破に耐性があったとしても、弾けた刃の嵐の中で確実に少女の体は切り刻まれた筈だろう。

 

 

先ほどまでよりも強烈に匂う血の香りに気を良くしながら、晴れていく視界に目を凝らす。

 

 

「っ、手を放さなきゃ・・・私も危なかったっ。だから・・・!」

 

 

視界の先。

離れた空中で顔を押さえ、体を震わせる少女が一人。

恐らくアレが浮かせる個性持ちであり、こちらの刃の盾として爆破少女を使ったのだろう。

なら、後は無防備なあの少女を切り刻むのは簡単。

 

 

そう結論付けたムーンフィッシュは顔を大きく逸らす。

 

 

グンッと振り下ろされた頭部。

大きく剥きだされたその歯茎から、白く輝く刃が伸びる。

少女を切り裂き、その断面をようやくみられる喜びにこぼれる涎など気にせず歓喜の感情を瞳に浮かべ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

BOOOOOOOM!!

遥か下方で、爆発音が一つ鳴り響いた。

先ほどの少女がまだ生きていたのかと思考が逸れた瞬間。

 

 

ズパンッ!!と湿った布袋を叩いたような音が自らの腹部で鳴った事に、遅れて気付く。

 

くの字に折れ曲がった体、遅れて駆け巡る痛み、吐き気。

鳩尾に突き刺さった何かにより意識が一瞬で白に染まる。

 

下方を見下ろしたムーンフィッシュが見たのは、自らへ中指を立てて笑う少女の姿だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

全力でブン投げて、爆破で加速までした石は狙い通り奴の体に刺さったようだ。

今までのストレス分、中指を立てて笑ってやろうと口元を開いて―――――

 

 

「勝紀ちゃんっ、怪我は・・・!」

「地面に激突していくらか腕にヒビが入ったぐらいだ。あそこまで広く逃げ道を潰してくると思ってなかった分、爆破の威力が必要だったからな」

 

上から落ちてきた麗日が、こっちの体に怪我がないか触ってきやがった。

確かに傷は多いが、深かったのは右腕だけだ。

 

「後はツバ付けときゃ直る」

 

既にほとんど服として成り立っていない体操着の上を引きちぎって右腕の付け根に巻き付ける。

これでそのうち血も止まるだろう。

 

「っ、・・・危ない役押し付けてばったかりだった、私」

 

「・・・あぁッ?作戦立てた俺に文句でもあんのか丸顔!?」

 

自分自身を浮かせたせいで真っ青な顔をしてる奴が何を言ってやがる。

演技だろうと、俺を見捨てたような事を口にしたこともどうせ気にしているんだろうが、そうでもしなきゃ勝てねぇ相手だったのは事実だ。

最後の一撃、失敗してたら串刺しにされていたなんて、自分の事を棚に上げてコイツみたいな奴は自分を責めちまう。

 

 

こっちが退かねぇ事を、言葉からかそれとも表情からか理解したらしい麗日はしばらくこちらを困ったように見てやがったが・・・あきらめた様に笑って。

 

 

「・・・おかしいよ!さっきまで名前呼んでくれてたのに!」

「知るか。仲良しごっこは終わりだ、さっさと施設目指すぞクソ丸顔ッ!」

「待ってよ勝紀ちゃん!というか服っ、それじゃほんとに危ないよ!」

 

動き出す。

今、止まって口論する時間など無い。

 

明かりを目指して、一歩を踏み出し――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・肉 にくめん 肉を 見せろぉぉぉぉぉぉ!!!」

 

 

「クソッ――――!」

 

 

まだ、意識がありやがった。

刃を足のように地面に突き立て起き上がった奴が再び空中へ浮かび上がろうとする。

白い刃は一瞬で周囲の樹木を越える高さまで伸びきり――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・はぁッ!?」

 

上から振り下ろされた巨大な黒い何かによって押しつぶされる。

見上げれば、そこに居るのは巨大な・・・見覚えのある生き物の姿。

黒い影によって形作られたソレは、クラスメイトの常闇の野郎の個性に似ているが。

 

 

「まともじゃねぇだろ、ありゃ・・・」

 

白く光る瞳が、こちらを見下ろす。

さっきヴィランを潰したのはコイツの手で、反対の手は既に振り上げられている。

確実に、こちらを潰そうと狙うその怪物の中で、何かが動く。

 

「・・・っ、逃げろ!俺では・・・ッ、もう、黒影を押さえられない・・・!」

 

微かに見えた、常闇の口がそんな言葉をこぼしたと同時に巨大な左腕が振り下ろされる。

膨大な質量と、想像以上の速さをもって迫るその黒い塊は既に避けられない位置まで迫っていた。

 

 

 

(速すぎるッ、避けきれ――――――)

 

 

片手をなんとか突き出し、爆破により勢いを僅かにでも殺そうと構え

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

黒影の胴体に、黒い何かが激突する。

視線を下げた黒影の目に映ったのは、六本腕で脳が剥きだしという奇妙な生物と――――その胴体に突き刺さる、先端が膨らんだ奇妙な形をした矢のような何か。

 

「・・・・何ダ、コレ・・・・ハ!?」

 

唐突に、矢の膨らみが弾け飛ぶ。

その中から溢れ出すのは、黄金色に輝く雷。

 

謎の生き物―――――脳無の体を焦がしながら、放たれた眩いばかりの閃光。

その光から逃げるように、振り下ろされていた筈の腕がシュルリと引き戻されていく。

 

その閃光に、爆豪は憶えがあった。

以前、ヒーロー殺しを吹き飛ばした幼馴染の拳から放たれた光。

 

つまり、アイツが近くに居るという事。

 

 

 

 

 

「―――――メルセデスッ、メルセデスさん!!」

 

 

 

 

空から降りてくる大きな影が一つ。

聞きなれた声に、なぜだか漏れ出る安堵の息に。

 

それを誤魔化すように、大きく舌打ちしながら着地したその影を睨みつけ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイ、クソデク・・・テメェ、俺達が戦ってる間ナニしてやがった・・・?」

 

思わず、低い声が漏れる。

 

いつもの帽子に、黒いスーツ。その上に何故か赤い外套みたいなモンを羽織っているのはどうでも良い。

右手が紅くなって、白い文様が這うように描かれて別の生き物みたいになってるのもまぁ良い。

 

 

 

 

 

 

 

腕の中に青い髪の女を抱えて、ついでに背中にもう一人を抱き着かせて居るのはどういう了見だろうか。

 

 

 

声に反応したわけではないだろうが、弾けるように飛び散る青い光。

いつの間にかボロボロの体操着に姿を変えた幼馴染は、何故か視線をさ迷わせながら

 

「え・・・っと、怪我したラグドールさんを助けようとしたら近くにいた脳無が襲い掛かってきたんだ。たぶん、コイツがラグドールさんを襲ったんだと思う。・・・だから、ここまで矢で吹き飛ばしてきて、そしたら常闇君と黒影の姿が見えたから」

 

――――マサカリを矢にしてもう一度射抜いて、黒影を鎮めるために雷を解放した。

 

 

 

 

 

 

説明されたがまるで意味が分からない。

 

 

 

 

が、よく見れば確かにラグドールと呼ばれた女性は腹部に血の滲んだ布を当てており、暗闇とはいえ近くで見れば重傷なのは爆豪にもすぐに分かる。

 

もやもやした気持ちが引っ込むのを感じながら、それでも少し複雑な感情がのこる爆豪の顔をデクの背中から顔を覗かせていたマンダレイが見つめて。

 

 

「確かに出血は派手だったけど、すぐに命に関わる物じゃないわ。その木に寝かせてもらっていい?比較的安全なうちに応急処置の続きをしておくわ。  『その子も十分重症よ。今は止血後みたいだけど唇の色も悪いし、かなり出血してるはず』」

 

付け加えるようにテレパスで最後に緑谷だけに声を届け、背中から降りたマンダレイが、言われるままに木にもたれかかるように預けられたラグドールから血を吸った布と服を脱がしていく。

 

「俺が手伝う。テメェはあっち向いて――――」「――――私がやるよ!デク君は・・・・ね!」

 

先回りするように声を張り上げた麗日が処置に回れば、残されるのは二人。

 

「常闇を回収に行くからテメェは――――」「――――すでに救助した。常闇を止めてくれたこと、本当に感謝する」

 

動き出そうとした先、茂みの中から意識を失った常闇を背負った障子が姿を現す。

肩に付いた口のような器官からそんな言葉を口にしながら頭を下げる障子に、慌てて手を振りむしろ怪我は無いかと聞き返す緑谷の姿を爆豪はチラリと見つめる。

 

「・・・緑谷、うまくやれ」

 

最後にそう言い残し、何故か全く爆豪へ視線を向けないまま近くの木に常闇を下ろし身体状況を確認し始めた障子の姿。

彼の言い残した言葉に、どういう意味だと眉を寄せて。

 

 

 

ふわり、と肩にかけるように黒い布がかぶせられた。

どこか古い匂いと一緒に、嗅ぎ慣れた落ち着く匂いが鼻をくすぐって――――それが、幼馴染のいつも付けていたマントだと少し遅れて気付く。

 

どういうつもりだ、と少し高い位置にあるその顔を睨み付ければ、いつもの少し困ったような笑顔が見えた。

 

「無事で、ほんとうに良かった。かっちゃんが無事か心配で、ずっと落ち着けなかったんだ」

 

「・・・うるせぇ、口閉じろ」

 

死ね、は怪我人がいるから自重したのか顔を逸らしながら悪態をつく。

血の気が薄い頬に、僅かに朱を差しながら横目で睨み付ければ

 

「で、この古くせぇマントはなんのつもりだ、クソデク。俺は欲しいなんて言ってねぇだろうが」

 

良く燃えそうだし、わざわざどこかから取り出してまでのプレゼントというなら貰ってやらないでもない。

マントの端を指先でいじりながらそんな事を口にして、確認するように視線を合わせようとするとススッ、と幼馴染に逸らされる瞳。

 

「なんで目ぇ逸らしてんだテメェ!俺の目見て話せよ、オイ!」

 

どういうつもりだと、その頬を両手で挟んで無理やり正面を向かせながら叫ぶ少女に対し、少年はあまりに強い視覚情報に顔が一瞬でのぼせ上がる。

 

「か・・・かっちゃん。放してもらわないと、・・・だって」

 

その視線が、空と・・・そして自分の胸元で往復している事に少女は今さらながら気付く。

 

 

 

 

 

 

「あ・・・ああ・・・ぅあ!!?」

 

マントの下、ほぼ破けた体操着と下に着ていたインナーは切り裂かれ、服の役割をほぼ全く果たしていない。

当然見える肌色と、奇跡的に被害をまぬがれた下着がマントの間から見え隠れして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

滅多に聞くことなど無いだろう、少女らしい悲鳴が森へとこだました。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[十数分前]

 

 

「奇襲。ヴィランらしいが、致命傷になる場所はわざとさけたのか?」

「焦子ちゃん、冷静なのは心強いわ。とりあえず、怪我は無いわよね?」

 

マンダレイからのテレパスを受けてコースを引き返そうと体の向きを変えた瞬間、背後からナイフを持った手が突き出された。

間一髪で避けられたが、気を張り始めた今じゃなければ確実に斬られていた筈だ。

それだけの速さと、躊躇の無さがあのナイフには込められていた。

 

「ん?んー、切れてないっ、血付いてない!」

 

その犯人は月明かりに照らすように、ナイフの刃を見て肩を落としている。

奇襲という手段をとったにもかかわらず、急所ではなく斬る事を優先していたような刃の動き。

血、なんて言葉からどうしてもヒーロー殺しの個性が頭に浮かぶ。

 

「急に切りかかってくるなんてひどいじゃない。何なのあなた」

 

視線を、一度地面に向けてから微かに頷いてヴィラン―――――黒いマスクをつけた同い年ほどの少女へと体を向けなおしたツユちゃん。

その意図を読み、こちらも準備を始める。

 

「トガです!2人ともカァイイねぇ。・・・轟さんに、蛙吹さん」

 

「・・・メディア露出したばかりだ、それくらい少し調べれば分かるか」

「ええ。でも、情報が割れてるのは不利ね」

 

だが、すこし妙な感じがする。

情報を知っている、と牽制するのは分かるがどうにもこの女子からそんな空気は感じない。

むしろ、ただ名前を知っていたから呼んだ、ただそれだけのような・・・そんな違和感。

 

不意に、少女がその左手を背中へ回す。

聞こえてきたのは、金具から何かを取り外したかのような金属音。

 

「・・・血が取れないとね、ダメです。普段は切り口からチウチウと・・・その・・・吸い出しちゃうのですが」

 

 

 

取り出されたのは巨大な注射器のようなナニか。

 

「この機械は刺すだけでチウチウするそうで、お仕事が大変はかどるとのことでした」

 

右手に持ったナイフと、左手の注射器を突き出し狙いを定めるかのようにこちらへと向けてくる。

明るい口調とは裏腹に、ゆっくりと沈む体と曲がる膝は今にも飛び掛かろうとする肉食獣を思い出させて――――

 

 

 

 

 

 

 

 

「刺すね」

 

 

あっさりと、ただ一言口にして駆け出すその速さは、想像通りかなり速い。

すぐに詰められる距離、前方にいたツユちゃんが

 

「・・・・ケロ」

 

大きく上へと跳ね、背の高い木の枝へと登る。

標的が消えたことに怯む様子もないヴィラン――――トガに構わず、右足から一気に冷気を放出する。

 

一気に凍り付き始める地面は、足元を伝いこちらへ駆けるトガの足を貼りつけ・・・その直前で、小柄なその影が勢いよく跳ねた。

真横にあった木へと片足を当て、蹴り飛ばす事で軌道修正しながら再びこちらへと飛び掛かる。

 

「っ、なに・・・!?」

 

とっさに、壁上に氷壁を作り出せばガガガッ!!と氷が削られるような音が壁越しに響く。

それが、ワタシに振り下ろされるものだったと、そう思うと背筋がゾッとして。

 

ガガガガガガガガッ!!

ナイフの音は鳴りやまない。

 

徐々に壁の端へと近付く音と、半透明な壁越しに見えるニタリとした笑み。

 

「焦子ちゃん!焦子ちゃん!チウチウするよっ、まっててね!」

 

「ダメよ。私の友達に手は出させないわ」

 

壁から姿を現した瞬間、木の上から伸びた舌がトガの体を巻き取る。

グルリと巻き上げられた体のまま、ナイフでその舌を切りつけようと腕を振るうが、その余裕すら与えられずうつ伏せに地面に叩き落とされる。

 

 

 

腹部と顔面への衝撃に、トガの動きが止まった瞬間、その背中へと伸し掛かる。

右手をひねり上げ、背中に付いた妙な機械とトガの体へと冷気を浴びせ―――――

 

「それで、襲撃の目的はなんだ?早く答えないと凍傷になるが・・・」

 

応える気などないだろう。

なら

 

「仲間は何人――――」「――――焦子ちゃん、カァイイねぇ。恋してる顔だね」

 

腕をひねり上げる力を強くするが、苦痛がまるで表情に浮かばない。

むしろ頬を赤くし、恍惚に表情を歪ませる少女にこちらの声は届いていない。

 

目の前にいる相手を、見ているようで見ていない。

その顔を見た瞬間、何故か苛立たしさが溢れてくる。

 

「焦子ちゃん、あなたとっても素敵。私と同じ匂いがする・・・」

 

焦がれる誰かだけを見つめて

 

「ツユちゃんなにか縛るものってある?」

 

他の人間に興味を向けない

 

「好きな人が居ますよね」

 

たとえその人が自分を見ていなくても

 

「居るよ」

 

自己の中で完結する

 

「そしてその人みたくなりたいって思ってますよね。分かるんです、乙女だもん」

 

理想の姿である彼になりたくて、

 

「そう」

 

彼を手元に――――自分の中に置きたくて

 

「好きな人と同じになりたいよね、当然だよね 同じ物みにつけちゃったりしちゃうよね でもだんだん満足できなくなっちゃうよね その人そのものになりたくなっちゃうよね しょうがないよね」

 

彼を氷漬けにしたくて

 

「かもな」

 

彼を誰にも渡したくなくて

 

「あなたの好みはどんな人? 私はボロボロで血の香りがする人大好きです だから最後はいつも切り刻むの ねぇ焦子ちゃん 楽しいねぇ」

 

でもそれは

 

「ッ、轟ちゃん!その子の手、なにか持ってるわ!」

「恋バナ・・・楽しいねぇ!!」

 

 

 

 

 

 

地へ押さえつけられていた少女。

その手が、注射器のような何かを背中へ乗っていた少女の左足・・・雪のような白い肌へと突き刺して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――針先が、ドロリと溶け出す。

 

「っ、熱いよ。焦子ちゃん、ねぇ!」

 

初めて、表情を歪ませるトガ。

熱さもあるが、彼女が取り乱す原因は自分を見下ろす空虚な瞳にあった。

 

無表情。

仮面のようなその顔で、ゆっくりと轟は口を開く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なぁ、その相手と付き合いたいと思うか?一緒に映画見に行って、ポップコーン一緒にたべて手が触れあって恥ずかしくなって。服も見たい、なんてわがままをきっと笑って許してくれる彼に甘えて、本当はもうほとんど決めてるんだけどこっちはどうかなんて、少しでも一緒に居たいから選んでもらったりして。そんなデートして、ついには同棲なんかしてさ、下手な料理を食べてもらうのが申し訳なくて練習したり、いっしょに作ったり。一緒の布団で寝たりするんだけど、ワタシはきっと恥ずかしいからすぐに逃げちゃうんだと思う。それで、何年かして最初のデートコースに行って、プロポーズとか・・・してくれたら嬉しいけど、とにかくそれからお互いの両親に挨拶して。結婚して子どもなんかも出来ちゃってときどき喧嘩して、でもそんなに長くは喧嘩は続けられなくてすぐ仲直りするんだ。出子と、焦久が大きくなって独り立ちしたらまた二人にもどって、静かに暮らして静かに一緒に老いていく。そんなこと、考えたことあるか?」

 

 

 

白炎が轟の体を包み込む。

制御されているのか、トガの体へ燃え移る事はないがその熱は体を炙り熱傷を与えていく。

暴れるように腕を振り回すトガの左手が轟の体を叩くが、拘束が解ける気配はない。

自身を見下ろすその瞳に、彼女は生まれて初めて理解できない何かを感じ取る。

 

 

「ないよ!そんなの、いっしょじゃないもん!」

 

 

グッ、と体を捻り今度こそ左の肘が轟を押しのけるように直撃する。

赤くなった左手足を押さえながら、立ち上がるトガに対し冷静に立ち上がる轟の表情は驚くほど静かで。

 

「・・・なら、良かった」

 

小さく呟き、距離を詰めようとする彼女にトガは既に役に立たなくなったマスクと注射器を投げつける。

「っ逃がさないわ!」

 

いつの間に拾ったのか、舌を伸ばす蛙吹の舌を振り向きざまに右手のナイフで切り裂く。

痛みに反射的に舌を引き戻す彼女から逃げるように、森の中へと姿をくらませようとして―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――轟さん!」

 

目を見開く。

血の匂いを漂わせる、ボロボロの体操服を着た緑髪の少年の姿。

傷は無い、だが人一倍血に敏感な彼女だからこそ分かる、この場の誰よりも血を流した彼の匂い。

 

「あぁ、やっぱり・・・いい匂いだね、出久クン」

 

小さく呟いた声は誰にも届かず闇に消える。

だが

 

―――――彼に、先ほど自分の肌を焼いた少女が抱き着くその姿を、闇の中で金色の瞳はジッと見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

きっと、あのトガという女の子とワタシは似ているのだろう。

好きな人、求めるものに対して盲目になってしまう。

世間のしがらみなんて関係なく、ただ欲望のままに動く。

ワタシは好きな人をどんな形で有ろうと自分のモノにしたくて・・・。

好きな人そのものに彼女はなりたくて・・・。

 

 

でも、いまはイズクを氷漬けにしたいなんて思わない。

あの日、確かに彼女と彼のおかげで変われた筈なのだ。

 

ワタシは踏み止まることができて、彼女はそれが出来なかった。

 

だけどそれは、ワタシの考えはヴィランに近いということに繋がるんじゃないか・・・そう思ってしまった。

 

今もこうして、彼の腕の中で泣いているワタシはヒーローである彼の傍に居てはいけないのではないか。

彼のようなヒーローになってはいけない存在だと、そう言われているような気がして

 

 

「・・・イズクは、ワタシが恐いか?・・・傍にいたら、迷惑だろうか?」

 

急にこんなこと言われても、彼だって困る筈なのにそんな質問をしてしまう。

それが分かっているから、彼の胸に顔を埋めながら卑怯なワタシは問いかける。

 

どこか困ったような、そんな無言の間があって・・・温かな指先が髪の毛を撫でる感触がした。

 

「ごめんね。轟さんが何に悩んでるのか、僕は分からない」

 

ワタシが何も言っていないんだから、彼が分からないのは当たり前だ。

髪をなでる感触に、いつの間にか涙の止まった目を細めながら、それでも真剣に考えてくれてありがとう、と伝えようと口を開いて。

 

「でも、僕は君のヒーローになるって誓ったんだ。そばで見ててもらわなくちゃ困る、だから僕はずっと・・・轟さんに傍に居てほしい」

 

憶えていてくれた。

あの時のワタシは自分の事だけを彼に押し付けていただけなのに彼は、そんなワタシの言葉を憶えていて。

 

 

「・・・ずっと、か」

 

ずっと

 

 

 

ずっと

 

 

 

ずっと

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

押し付けた口元が歪むのを抑えられない。

だって、永遠に彼はワタシの傍に居てくれると言ってくれたんだから。




ざ・かくりべや



????「ああ、優しい人。あの人が優しさを与えているのが私ではなくて良かった。・・・あのような言葉をかけられたら私はあの人を殺さなきゃいけなくなってしまいます・・・!」
????「はい。あの言葉が嘘でしたら、腑の内側から火を吹きかけて燃やし尽くさなければいけませんでした」
????「ああ!ああ!でも、彼はきっとどんな相手にでもああして優しい言葉をかけるのでは・・・?それが、私であったとしても?・・・ああ、困ります。だめ、だめです、あの方がシグルドの生まれ変わりであるなら、愛さなきゃ・・・殺さなきゃ!」
????「クスッ・・・そうですね。永遠にそばに居るという約束が果たされるか・・・嘘をついてはいないか見届ける必要がありますわ。永遠に、永遠に・・・果たされることを祈りましょう」

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