俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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報告してくださった皆様、本当にありがとうございます!


表ときどき裏そしてまた表

『ぼくは、しんじゃったの?』

『さて、どうだろうな。オレがおまえに言えることはただ一つしかない。・・・このままでは、いずれおまえの魂は消え去るだろう』

『・・・?それは死ぬのと同じじゃないの?』

『何もかもが違う。肉体の生命活動の停止、つまり死は生を受けた以上避けられないものだ、それが聖女であろうと、また王であろうとも必ずそれは訪れる。・・・だが、魂は違う。それを失うときこそがお前という存在の終わりとなる』

『・・・よくわからないよ。ぼくはたましいなんて見たことないし、あなたが誰かもわからないんだもの』

『ならば――――』

『でも・・・ぼくは帰るよ。まだなりたいものにだってなってないし、友達だって助けてないんだ』

『・・・おまえの目指すモノとは一体何だ?』

『ヒーロー〈英雄〉!オールマイトはチョー強くて、いつも笑顔でみんなをたすけてくれるんだ』

『英雄とはそれほど単純な道では無いだろう。死は隣人であり、敵からは常に怨嗟の念を受け続ける。光だけで人は人を救えない』

『やっぱり、おじさんの言う事はむずかしいよ。でも、・・・おじさんが言うやなことだってぼくはきっと気にしないよ。だって、どんなにつらくても、なりたいから僕はヒーローになるんだ』

 

 

『――――クッ・・・ハハハハハハッ‼・・・ならば、お前には七つの試練に向き合ってもらうとしよう。掛け金は貴様の死。商品は貴様の夢の成就。・・・なに、難しく考える必要はない。これから始まる悪夢の夜は誰にでもありふれた―――――お前の未来を取り戻すための物語なのだから』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[入試]

 

『どうしたぁ‼?実戦じゃカウントなんざねえんだよ‼走れ走れ‼』

そう強く焚きつけながらプレゼント・マイクは困惑していた。

『賽は投げられてんぞ‼』

こうして声をかければ毎年のことだが、蜘蛛の子を散らすように受験生たちは駆け出していくものだ。

急なスタートはそれこそ瞬発力のテストの様にも見えるがそうではない。プロヒーローであろうとも急なアクシデントに不意を突かれペースを乱すことがある。

故に、問題はそこからどう立ち直るか、そこを判断するための不意打ち。

だが、プレゼント・マイクが発破をかけようとも駆け出す者はどこにもいない。

今年の受験生たちはまるで幽鬼の群れの如くふらふらと歩を進めながら、ただ自らの先を歩く者の背中を見つめている。

メガネをかけた少年は頬に一筋の汗を垂らしながら。

麗日な顔つきの少女は似合わない、悲壮な決意に満ちた表情を浮かべながら。

その視線の先で、少年が一人、ゆっくりと試験会場へ歩みを進めていた。何故か風もないのに荒れ狂う様にバサバサとマントをはためかせ、口元には三日月のような笑みを浮かべている。

「―――――クハハッ!俺を試すか!?・・・だが、それでいい。死というものは気心の知れた隣人であり、いつ俺たちの部屋のドアをノックするか分からない。そう、これから俺という存在は鋼の玩具に殺されるのやもしれん。斬殺か、刺殺か圧殺か、隣人はひどく気まぐれで今日訪ねてこないとは言い切れぬ」

 

 

 

「ああ・・・それは残酷なことだ」

 

 

 

バサリ、とマントを払い少年。

その後ろを受験生全員が顔をうつむかせ、死地におもむく様な顔つきで付いて行く。

会場入りして15分。

7会場中1会場のみ、復讐者の空気に当てられ今日死ぬ覚悟を決めた一団が葬式のような雰囲気で試験を開始した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

あれはたちの悪い洗脳かなにかだったんじゃないかなと、麗日お茶子は考えていた。

結局、落ちるところまで落ちたテンションはマントの少年が急に姿を消したあと徐々に回復。

いまではそこかしこで爆音や衝突音、そして

 

『クハハハハハハッ‼慈悲などいらぬ‼』

『お前は、地獄を見たことはあるか?』

『馬鹿なッ‼?貴様は・・・まさか・・・』

『なるほど・・・。だが情けはかけぬ、存分に朽ち果てよ‼』

 

無駄にけたたましい笑い声が響いている。

1Pの機械へ黒炎と高速移動を利用した攻撃を仕掛けるたびに、同じ言葉を繰り返している姿はもうただの壊れたラジカセのようだ。

しかし、実力は確かなようで、彼の近くではポイントは得られそうにない。

お茶子はループする台詞から自分の脳を守るためにも少しばかり距離を離した場所で戦いを再開する。

その後もゆっくりとだが確実に機械を浮かせ落下させるといった攻撃で少しずつポイントを確保していた。

 

 

おおよそ、70機の機械が彼から地獄について聞かれたところで

停滞していた空気が動き出す。

背後から聞こえた轟音にお茶子が振り向いた時にはすでに遅く、僅かに視界に入ったのは巨大な―――事前に説明されていた0点ギミック。

そして、彼女の体には崩れたビルのコンクリート片が襲い掛かった。

体を僅かにでも捻り、避けようともした。

だが無情にも欠片は体をかすめ、倒れた彼女の足を埋めるように積み重なる。

徐々に増える重みと共に、強い痛みが脳へと上ってくる。

個性を発動させるだけの集中は困難で――――背後からは駆動音が迫る。

顔を上げても、自分から遠のいていく背中しか見えず・・・しかし、それも当然かと思ってしまう。

この機械を倒しても0Pで、残り時間を考えれば最後の点数稼ぎに向かった方が合格の可能性は上がるのだ。

それでも―――――

「っ、・・・だれ、か」

借りにもヒーロー志望が助けを求めるなどあってはならないのは分かっている。だが

(ごめんなっ・・・・父ちゃん、母ちゃんっ)

もしも、自分が死んでしまった時の両親の顔が浮かんでしまい。

 

 

 

ズゴガガガガッッ‼と機械の巨大な顔面が銀の光に削り取られる。

「―――――――――ハ。ハハハ。クハハハハハハハハハハハッ‼俺をッ、呼んだな‼?」

横へ、後ろへ、斜めへ、上へ。

銀の光が衝突するたびに跳ねるように体を揺らすギミック。

「ならば俺は虎の如く時空を駆けよう‼」

大きくその巨体を揺らし、全身から煙を立て始めたその頭へ音もなく着地した影は、右手をそっと足元の亀裂へと添える。

その手から放たれたおぞましく、しかしどこか魅了されるような輝きを放つ黒炎が全身に刻まれた亀裂を走る。

「・・・死に行く手向けだ、おぼえて逝くがいい。我が名は緑谷エドモン。復讐者だ」

少年の姿が掻き消えたその刹那、内側から破裂するように機械の体が爆散する。

その光から目を背けたお茶子は、だがいつまでもやってこない衝撃に顔を上げ

自分が抱きかかえられていることに気付く。

「あなたは・・・みどりや、エドモン君」

確か、そう名乗っていた。そして、復讐者だとも。

暗く、冷たいその瞳と復讐者と言う言葉が意味するのはきっと、壮絶な過去が彼にはあるのだという事。

どうして、そんな瞳をしているのか。礼よりも先にそんな言葉が出かけて

 

「―――――少しは大人になったな、メルセデス」

慈しむ様に一瞬だけ浮かべた表情と台詞に、口の動きが止まる。

静かに、壊れモノを扱う様に地面へと下ろしてくれる彼に、ようやく追いついてきた思考がさらなる質問を投げかけようとして

 

試験終了の合図が鳴り響く。

その音に、視線が一瞬彼から離れ――――視線を戻した時にはその姿は消えてしまっていた。

ギュッと胸元を握りしめれば、思い返すのは自分を見つめる彼が浮かべた一瞬の表情。

あんなに成長を喜ぶような顔を浮かべてくれる彼の事が思い出せない事に、悔しさを感じて

(私は・・・記憶も薄れるくらい小さいころにあの人と会ってるの?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

もちろん会ってなどいない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[入学初日]

 

中学のころと同じように椅子に座りながら机を足置きに使っていれば、クソメガネが偉そうに文句を垂れてきやがった。

問題はそのあとだ。

あの暑苦しいスーツ姿が教室のドアから入ってきた姿を見れば、さすがに長年の腐れ縁でこれから起きることはなんとなく予想できていた。

こっちに寄ってきて、また背中を向けながら俺を『メルセデス』とか呼んでくるのだろう。

そうなれば、答える義理はない・・・がせめて聞くだけなら聞いてやろう。そう思っていれば

 

「あの、さ・・・ダンテス君って、私のことどれくらい知ってるのかな?あっ、言いにくい事とかあったらいいんだ!私もこれからエドモン君のこと知っていくから‼」

「お前が俺に気付く前から、俺はお前を知っていた。だが、そうだな・・・流れ行く時は残酷にもお前の中から俺を押し流してしまったのだろう」

寝ぼけたような面の女と楽し気(?)に話しながら入ってきやがった。

まあ、あんな奴でも話したがる変わった女の一人は居るのだろう。

『やっぱり、昔私たちは・・・』などと一人で俯いて話していることからも、ネジの外れた女だとすぐに分かる。

入り口付近で立ち止まり話すアイツは、こちらには気付かず談笑を続けているがわざわざ俺が気にしてやる道理もない。近付いて来たらその時は対応して

 

 

「・・・その時はいずれ来るだろう。故に今は待つと良い、『メルセデス』よ」

 

あ?

 

BOOOM‼と、勢いよく両手の平から小さな爆発が起きる。

反動で跳ねるように浮かんだ体は足をかけていた机を足場にし、アイツのもとへと飛んでいく。

ダンッと着地すると同時に睨み上げるようにその顔を見上げ

「オイ、デク。テメェ俺のことは何て呼んでんだ?」

「久しいな『メルセデス』。疑ってはいなかったがこうして姿を確認すると―――――」

「そこの女も『メルセデス』って今呼んでたじゃねぇか!呼び方ぐれえ統一しろッ。ぶち殺すぞ」

自分でもよくわからねえ怒りに駆られながら、黒い煙を上げる右手でデクの襟首を掴み上げれば

「ちょっ、エドモン君の首が締まっちゃってる!待って待って、そんなにあだ名が良いなら譲るから!落ち着こうっ、ねっ!」

「良いわけねえだろうが丸顔女‼このクソが名前を間違えたあげく、何人も同じように呼びやがるから矯正してやろうとしてるだけだろうが‼」

「・・・お前ら、早く席につけ」

「っ、なにか理由があるかも知れないよ‼・・・たとえば、過去になにかあったとか」

「ねえよ‼コイツの頭がおかしいだけに決まってんだろ‼」

そもそもエドモンって何だ。

「不和はいとも簡単に群れから力と言うものを削ぎ落としていく。『メルセデス』達よ、まずは――――」

まだ何か口にしようとするその顔面を押しのけ、丸顔女を見れば腹立たしい事に向こうもこちらを見返してくる。

「デクは頭がおかしいんだよ、見りゃわかるだろうが?」

「知らないよ。私は私を助けてくれたエドモン君のことを知りたいだけだけ‼」

「緑谷ちゃん、私の事は梅雨ちゃんて呼んで」

「ああ・・・お前が望むのならばそうしよう『メルセデス』」

「梅雨ちゃんって呼んで」

 

 

 

 

 

 

 

「―――――――」

再度爆音が鳴り響き、荒れる1-Aの前で

担任である相澤消太が出るタイミングを逃していた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[USJ]

USJで行われた救助訓練、それに乗じたヴィランによる襲撃。

死柄木弔の計画は順調に進んでいた。

先ほどまで暴れていたイレイザーヘッドも脳無の力の前では既に虫の息。

あとはオールマイトが来れば全てのミッションは完了となる――――筈だった。

しかし、急に開いたワープゲートから聞こえたのは生徒を一人逃がしたという黒霧の言葉。

つまり。

腹立たしく、苛立たしいが今回はこれでゲームオーバーとなってしまった。

不機嫌さを隠そうともせずに強くガリガリと頭部を掻き毟りながら、首ごとぐるりと横を向けばそこにいたのはカエルのような舌の少女と紫の頭をした小さな男。

(あいつらだけでも殺して帰るか・・・・)

その程度の思考であっさりと殺人を決め、跳ねるように駆け出す。

触れたものを粉々に砕く左の毒手が少女の眼前へと迫り――――

少女の傍らで、水から頭だけを出す黒い帽子の男に今更気付く。

(っ、読まれていた‼?こいつらは・・・エサかッ)

あのまま手を伸ばしていれば無事では済まなかったであろうことは、爛々と輝くあの瞳を見れば分かる。

「・・・気に入らない。おい脳無、その玩具は捨ててあの帽子を殺れ」

その言葉に、飽きた玩具を投げ捨てるようにイレイザーヘッドの体を投げ捨て、砲弾のような速度で三人の生徒へ迫る。

辿り着くまでは一瞬であり、その剛腕を上から叩きつけるように両腕を振り下ろし

(ガキ三人に少しやりすぎたかなぁ)

巨大な水飛沫があがる。

3人分の死体が完成したことを確信し、思わず身を乗り出せば

―――背後から聞こえた足音に、体が固まる。

思わず振り向けば、そこにいたのは先ほど潰したはずの帽子の男。

その遥か向こうに、どこか呆然とした様子で先ほどの二人も座っている。

「いつの間にッ。・・・まあいい、やれ脳無」

高速で動く個性か、それとも瞬間移動系のものかもしれない。

だがいずれにせよ脳無がやられることは無い。

あれはオールマイトの攻撃に耐えられるよう作られているのだから。

再び駆け出した脳無が、男へ迫り腕を振るえば個性の力か、その背後にいつの間にか男は立っている。

男の手から産まれた黒く、静かな炎が無防備な脳無の背中へ押しあてられれば、一瞬で一気にブワリと膨れ上がり――――

「――――ッ、再生か。なるほど、捻りもなければ遊びもない。奴を相手にするには妥当で平凡な手段だ」

嘲りにも聞こえるが、なぜか焦りにも聞こえる帽子の男の声も当然と言えるだろう。

背面の半分を吹き飛ばされた脳無だが、すでにその体はものの数秒で再生してしまっていたのだ。

再度姿を消し脳無の背後へまわり、鈍い銀を放ちながら拳を当てるが

(無駄だよ。衝撃はすべて吸収される。お前に勝ちは無い)

予想通り、なんの効果も無く―――足を止めたその体へと脳無の腕が横薙ぎに、今度こそ直撃した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷出久は焦っていた。

脳無と呼ばれた男から放たれた拳は速く、そして凄まじい圧を感じる。

恐らく一撃もらえば即死か、あるいは意識を失ってしまい殺されるだろう。

(黒炎の火力をさらに上げたら・・・だめだ、制御できてないんだ殺してしまうかも。さっきの炎も想定してたよりずっと火力が出てしまったじゃないか。ならやっぱり、)

直接、急所に近い個所を殴り、意識を奪うしかない。

そう考え、背後へ回り込み脳無の首筋へと拳を放ち

(えっ・・・)

まるで柔らかなスポンジを殴ったかのような感触に戸惑い、動きが一瞬止まり

重い一撃がわき腹から彼の体を宙へ捻り上げるように打ち上げた。

(ま・・・ずい。・・・あたまが)

意識が、途切れかける。

明滅を繰り返すような意識は、徐々に暗く塗りつぶされ、ドチャリと地面に自分の体が倒れ伏した音が響く。

その音に紛れ、

(『吹けば消えるような残滓に過ぎないこの身だが、見ていた夢をふいに消されるというのは存外腹立たしく思えるようだ。そして、このままお前の夢が終わるのも・・・それもまた腹立たしいな、我が共犯者よ』)

暗く、怨嗟にとりつかれた、しかしどこか温かく懐かしい声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れ伏した男へ脳無が拳を振り上げる姿を死柄木は既に興味を失い、ぼんやりとした表情で見つめていた。

後は脳無の拳が男を潰して終わり。

それは当然の結果で

 

 

 

「復讐心とは、自覚した瞬間に憤怒へと変わる。言葉では表せず、誰にも理解はされず、自分ですら自覚しないよう目を必死に逸らす」

 

 

自然に体を落とした男が、脳無の腕と入れ替わるように立ち上がる。

拳が着弾した衝撃も、脳無の体を盾にするようにいなしてしまえば、その巨体に背中を向けたまま言葉を続ける。

「心地好いほどの怨嗟の念だ。オレが出てきた要因の一つはこの念に誘き出されたからか・・・」

背後を振り返った脳無が先ほどと同じように腕を横薙ぎにするが、一歩地面を蹴り距離を空けてしまえば虚しく空振りしてしまう。

翻弄される脳無に苛立たしげに舌打ちをしながらも、死柄木は男の言葉に笑みを浮かべ

「これだけのヴィランを用意すれば流石に分かるか。そうだ、これは俺がトップヒーローオールマイトへ復讐するための――――――」

「貴様ではない」

は?と呆けたように死柄木が動きを止める。

この場には自分とこのマントの男しかいないではないか、彼はそう考える。そうとしか考えることができない。

「脳無とは、名付けた者の思考の貧困さがよくわかる名称だ。こいつの動きが単調であるからか、それとも意思の表出が出来ない様子からか・・・・いずれにせよみる目が無い」

マントをひるがえすように振り返り、視線を向けるのはこの場にいたもう一人である脳無。

そこでようやく死柄木は気付く。

命令を受ければ止まらない脳無が、ピタリとその動きを止めているのだ。

ただじっと、男の瞳のさらに奥底。暗がりのような場所で燃える黒い炎を見つめている。

「お前に何があったかなど興味はない。世に溢れかえるありふれた悲劇が起こっただけなのだろう。つまりその悲劇はお前で無くとも良かったことだ。故に、その理不尽、怨執、怨嗟を――――燃やせ」

静かに、脳無の体が震え始める。

もちろん言葉の意味など理解はしていない。壊れた魂に人の言葉など届かないのだから。

それでも

 

 

 

「燃やせ、燃やせ燃やせ燃やせ燃やせ!!お前の受けた屈辱、痛み、苦しみ全てを薪に怨嗟の炎を燃やせ!目を逸らすな、お前の感情は確かに熱を放ち始めている!」

 

 

 

悪鬼のように嗤う復讐鬼。

その眼前で前触れもなく脳無が―――吠えた。

その姿はやはり化け物でしかなく、遠く離れた場所で声を聞いたヴィラン達は怯えたように肩を震わせ

生徒達には・・・その声は何故か哀しげなものに聞こえた。

 

脳無の声に後ずさった死柄木には当然、その声に何も感じることは出来ない。

「なんだバグかよ脳無。いいから早くソイツを殺せ」

その、言葉に脳無は逆らうことは出来ない。既に彼の体は彼の魂のモノでは無いのだから。

ピタリと止まる脳無の声。

まるで先ほどまでの光景が無かったかのように、再度振りかぶられた腕が男へ振り下ろされ

「お前の怨嗟の声確かに聞き受けた。――――継ぎはぎの心の男」

近づいた拳を僅かな動きでかわし、懐へ潜り込む。

左の手のひらをそっと押し当てるように脳無の肘へ当てれば、放たれた黒炎が肉と骨を焼き切り腕が飛んでいく。

それを確認などせず、残された右の手のひらを脳無の頭部へ押し当て

同じように放たれた黒炎が、その頭部を包み込んだ。

 

 

 

 

死柄木は目の前の存在が何者か考える。

だが、対オールマイト用の脳無を簡単にあしらう以上、こいつもチートであることは間違いない。

であれば、脳無が通用しない以上理不尽なバランスのゲームに付き合う必要はない。

「帰るぞ脳無。・・・・おい、脳無」

二度、声をかけようやく振り向いた脳無。

その姿に僅かに違和感を感じる。

今までは、人とは見ていなかったがその反応から獣を扱うような感覚はあった。

だが、いまは違う。まるで声に反応する機械を相手にしているような、そんな―――

 

そこまで考えた瞬間、乾いた音と共に手と脇腹に強い熱が生まれる。

視線を上げれば遠く視界に入るのは雄英の教師と、そして

「オール・・・マイトぉ」

身の内に、憎悪が膨らむ。脳無をけしかけようと口を開いたその体を、しかし黒い靄が包み込む。

思わず舌打ちをして黒霧を睨むが、引き際なのは分かっていた。

最後にオールマイト、そして――――帽子の男の姿を脳に焼き付けるかのように強く見据え、彼は姿を消した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

頬を強く叩かれる感触に、緑谷出久の意識は浮上し始める。

「デク!テメェなに寝てんだ、ぶち殺すぞ!・・なぁ、起きろよ!」

「エドモン君!ねぇ、目を開けて!私のことまた忘れちゃってないよね!?」

視界に入るのはどこか目を赤くした幼馴染みと、同じように目を赤くして何故か焦りの表情を浮かべている同級生。

ここはどこかと視界を巡らせれば白で統一されたシーツやカーテン、そしてアルコールの匂いで保健室かと当たりをつける。

「・・・なぜ泣いている、メルセデス達。俺の記憶ではお前達は涙を簡単には見せぬ筈だ」

「ぁ?この丸顔は泣いてやがったが、この俺が泣くわけねぇだろうがクソデクッ!」

「ちょ、ちょっとなんで言うの、勝紀ちゃん!?」

「確かに爆豪ちゃんは泣いてないわよ。10分ぐらい目を擦って俯いてただけね」

「クソ両生類、どこに隠れてやがった!ぶち殺すぞ!」

どこからか出てきたカエル少女を追いかけ爆発音を鳴らしながら爆発少女はかけていく。その横顔は目と同じように、赤く染まっている気がして。

「ちょっと勝紀ちゃん!個性使ったらまた怒られるって!っ、ごめんエドモン君、また来るからね!」

最後に残っていた少女が部屋から出ていけば、シンと静まり返る室内。

ふと、胸に手を当てて思い出すのは意識を失う前に聞こえた懐かしい声。あれは確かに――――――




デク「お願い、もう一人の僕!」
エドモン「俺を呼んだな!!」






「―――――クハハッ!俺を試すか!?・・・だが、それでいい。死と言う者は気心の知れた隣人であり、いつ俺たちの部屋のドアをノックするか分からない。そう、これから俺と言う存在は鋼の玩具に殺されるのやもしれん。斬殺か、刺殺か圧殺か、隣人はひどく気まぐれで今日訪ねてこないとは言い切れぬ」
(っ、さすが雄英だ!さっそく試された。でも、適度な緊張感は大事だってオールマイトも昔テレビで言ってたし、死ぬ気で頑張らないと!)
「ああ・・・それは残酷なことだ」
(がんばるぞ!!)

「―――――――――ハ。ハハハ。クハハハハハハハハハハハッ‼俺をッ、呼んだな‼?」
(今、助けを呼ぶ声が聞こえた!)
「ならば俺は虎の如く時空を駆けよう‼」
(撹乱して、狙いがあの子に行かないようにしないと!)
「・・・死に行く手向けだ、おぼえて逝くがいい。我が名は緑谷エドモン。復讐者だ」
(こんな格好だけど不審者じゃないですよ!僕は受験生の緑谷出久です!)
「―――――少しは大人になったな、メルセデス」
(だいぶ顔に余裕が出てきたね!)


「お前が俺に気付く前から、俺はお前を知っていた。だが、そうだな・・・流れ行く時は残酷にもお前の中から俺を押し流してしまったのだろう」
(えっと、実は会場に入る前に君の姿は見てたんだ。ただ、僕って地味だから忘れてても仕方ないよ)
「・・・その時はいずれ来るだろう。故に今は待つと良い、『メルセデス』よ」
(そ、そんなに落ち込まなくてもすぐ思い出すよ麗日さん!)
「久しいな『メルセデス』。疑ってはいなかったがこうして姿を確認すると―――――」
(久しぶりかっちゃん!合格は信じてたけど、あったらやっと安心―――――)
「不和はいとも簡単に群れから力と言うものを削ぎ落としていく。『メルセデス』達よ、まずは――――」
(喧嘩はダメだよ、これからクラスメイトなんだから!まずは二人とも―――――)
「ああ・・・お前が望むのならばそうしよう『メルセデス』」
(わ、わかった・・・・つ、つつ、ツユちゃん!)



「――――ッ、再生か。なるほど、捻りもなければ遊びもない。奴を相手にするには妥当で平凡な手段だ」
(なるほど、オールマイトの攻撃力に対して再生で対抗か。でも、今までだって同じような敵はいたんだ、そんなつまらない手にオールマイトは負けない!)


「復讐心とは、自覚した瞬間に憤怒へと変わる。言葉では表せず、誰にも理解はされず、自分ですら自覚しないよう目を必死に逸らす」
(復讐心とは、自覚した瞬間に憤怒へと変わる。言葉では表せず、誰にも理解はされず、自分ですら自覚しないよう目を必死に逸らす)

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