俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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昨日投稿すると言ってこの体たらく、申し訳ないです・・・。
今回、かなり独自解釈が入っていますが、なにとぞお許しを!


そして皆さま、いつも温かい感想ありがとうございます!
感想を読み返して、執筆の励みにしていますこれからも本作をよろしくお願いいたします!


追記
誤字修正しました!
皆さん、いつもありがとうございます!


待て、しかして・・・

[ヴィラン襲撃7]

 

青山優雅は口元を両手で覆い、近付く足音に体を震わせていた。

 

 

いっしょに肝試しをしていた八百万は周囲にガスがただよい始めてすぐに、Bクラスの生徒を助けに行くと言い残して森の中へ消えていった。

 

足元に倒れているのは、耳郎と葉隠の2人。

ガスを吸い、倒れた彼女たちを任されここまで何とか運んできたが―――

 

 

「予定通りにはいかねぇもんだな・・・・」

「そりゃそうさ!予定通りだぜ」

 

漂っていたガスが霧散していく。

声の主である全身タイツのようなマスク男と、黒髪の男が言っているように奴らにとって何か予定外の事が起きた。

 

(誰かが、ガスを出してたヴィランを倒したんだ・・・!)

 

誰かが、今も戦っている。

なら

 

 

体を乗り出し、青山は茂みの影からヴィランの姿を確かめようと体を乗り出す。

戦う訳ではない、少しでも自分にも情報を集めるぐらいの役割は果たしたい、そんな気持ちで。

 

(――――ッ、目が合った!?)

 

黒髪の男。

その瞳と、確かに目が合ってしまった。

急ぎ茂みに体を戻すが、すでに遅い。

 

男たちの足が止まり、痛いほどの視線を感じる。

 

体が震え、恐怖を誤魔化すように全力で目を閉じ―――ヒーロー科であるなんて、そんな事は考えられなかった。

傍に迫る死が、ただ恐ろしくて。

 

 

 

 

 

 

唐突に

グッ、と肩を掴まれた。

 

 

(――――――!!!!)

 

干上がる喉。

その喉から、絶叫が飛び出しかけて。

 

「(しっ、落ち着いてくださいまし青山さん。私ですわ)」

 

その口を、女性らしい柔らかな手の平が押さえていた。

張り付くほどに閉じていた目蓋を開けば、別れたはずの八百万の姿。

 

少しの切り傷はあるが、無事なその姿を確認し青山の体からようやく力が抜けて。

 

「(っ・・・B組の方はどうなったんだい?)」

「(無事合流して、ガスの発生源を倒すことに成功しましたわ。負傷者は固まって施設に向かってもらって、私は青山さんの援護に戻ってきましたの)」

 

ガスの発生源であったガスマスクの少年は、B組の鉄哲によって殴り飛ばされ、同じくB組の泡瀬によって木に溶接されている。

 

 

「おい荼毘!そういやどうでもいいことだがよ!脳無って奴、呼ばなくていいのか!?お前の声にのみ反応するとか言ってただろ!?」

 

「ああいけねぇ。何のために戦闘に加わんなかったって話だな」

 

「感謝しな 土下座しろ!」

 

荼毘と呼ばれた黒髪の男が、その首に手を当てる。

青山の口元から手を放し、茂みの影から目を凝らしていた八百万はその動きに目を凝らす。

 

「(脳無。緑谷さんがUSJで交戦したというヴィラン・・・他の個体も発見されたとは聞いていましたが、こんな時にそんなものが来たら)」

 

戦況は大きく傾くかもしれない。

その事実に、八百万は苦し気に口元を引き結び――――。

 

 

 

「死柄木からもらった俺仕様の・・・・ん?こっちも予定外か・・・?」

 

「どうした、教えろよ!? しばらく黙ってろ!」

 

「ああ・・・脳無の反応が無い。やられたか、それとも暴走したか」

 

「マジかよ!ツイてねぇなッ、ラッキー野郎!」

 

再び歩き出した男たちの姿は森の中へと消えていく。

その姿を見失わないようにしながら八百万は考える。

 

「(誰かが倒していた?・・いえ、希望的観測は思考のはばを狭めますわ)」

 

考えるべきは、今の状況で自分たちにできる事。

 

「(行きますわよ、青山さん。耳郎さんは私が背負います)」

「(っ、行くのかい?でも、ヴィランに付いて行くなんて・・・)」

「(彼らは既に活動を行っているようには見えません。このまま集合して、撤収するかもしれませんわ)」

 

なら、何かの目的を果たしたと考えるのが自然。

それは―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――いやぁ、ギャラリーが多いってのは良いもんだね」

 

轟さんから体を離すのと同時に、背後からそんな声が響いた。

そしてようやく気付く。

 

さっきまで聞こえていたかっちゃんの声が聞こえない。

雨吹さんも、麗日さんの声だって―――――。

 

「何者だ!?」

 

膨れ上がる嫌な予感に振り向くのと、障子君が怒鳴る様に叫ぶのはほとんど一緒で。

 

「そんなことより、こっちの方が大事だろう?ホラ、よーく見て見な!」

 

木の上・・・見上げるような高さに立つのは、妙な仮面にシルクハットの男。

その手、指に挟めるように見せつけられているのは小さなビー玉のようなナニか。

 

暗闇の中、優れた視力でも完全には見えないけど・・・うっすらと、人影のような何かがそこには見えた。

 

「まさか、爆豪や麗日、蛙吹をその中へ封じ込めたとでも言うのか!」

 

常闇君が口にする内容と、全く同じ想像が浮かぶ。

そうと分かれば、視線は急に像を結びはじめる。

 

ぼんやりと見えていた影が、見知った姿に変わって

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――返せッ」

 

 

緑谷の体から、紫電が弾ける。

 

〈接続開始 巌窟王80%スタイル〉

 

背中から吹き出す力を推進力に、仮面の男との距離を一瞬で詰める。

抉る様に、振るった手――――指先が、男の腕をかすめてそのコートの一部を千切り取る。

 

「おおッ。こいつぁ失敗したなぁ。ついつい癖で一言かけちまったけど、サッサと退散すりゃ良かった!」

 

手放しそうになった玉を掴みなおしながら、男――――ヴィラン〈コンプレス〉は想像以上の速さに内心で冷や汗を流す。

しかし、エンターテイナーである彼がそれを表に出すことは無いが。

 

「・・・勝紀を、返せ!!」

 

そんなコンプレスの足元から、白い光が襲い掛かる。

 

闇を照らすように迫るそれは白色に輝く炎。

容易く木々を消し炭に変えるそれに――――勢いよく足元の枝を蹴る。

 

 

くるくると宙を舞いながら、耳元へ手を当て

 

「開闢行動隊!目標回収達成だ!短い間だったがこれにて幕引き!予定通りこの通信後、5分以内に〈回収地点〉へ向かえ!」

 

 

「させッ、るか!!」

 

再び迫る銀の閃光に、コンプレスは宙へ浮いたまま体をひねる。

手の中の玉を弄ぶように転がし、次いで強くその拳を握って見せる。

 

 

 

 

 

 

「―――――止まらなきゃ潰す・・・とかどうだい?」

 

「・・・・ッ!?」

 

読み通り、緑谷の体から銀の輝きが失われる。

 

 

(賢いじゃないか。でもバカだよ)

 

その体を、勢いよく地面へ蹴り落とす。

体の回転と、落下速度、体重も込めた蹴りは確実に緑谷の胸を打ち抜いて

 

 

「―――――ッ硬っ!?どんな体してんのよ?」

 

予想外の衝撃に、逆にコンプレスの口からそんな声が漏れる。

だが、

 

「まぁ、・・・とにかく!さらばだヒーロー科諸君!」

 

飛行能力を持った者は潰した。

なら、あとはおさらばするだけ。

 

 

足元から巨大な氷の槍がせり上がってくるが――――それすら足場にしながらコンプレスは闇に体を溶かす。

 

木々を足場に遠のいていく姿を追えるものはおらず。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ?まだこんだけですか」

セーラー服を着た金髪の少女―――トガが茂みをかき分け顔を出せば、集合場所に居たのは黒髪の男〈荼毘〉とパッツンスーツの男〈トゥワイス〉の2人が彼女へと顔を向ける。

 

「イカレ野郎、血は採れたのか?何人分だ?」

「一人です」

「一人ィ!?最低三人はって言われてなかった!?」

「仕方がないのです。頭のおかしい子に殺されるかと思った」

 

トゥワイスの言葉に、トガの瞳が一瞬暗く光る。

だが、すぐにその表情は先ほどまでと同じように明るい物へと変わる。

殺されかけたと話すには、あまりに無邪気な喜びの表情を浮かべて。

 

「トガちゃんテンション高くねぇか!?何か落ち込む事でもあったのか!?」

「あだ名で呼べる友達が出来たのと、気になる男の子がいたのです」

「それ俺!?ごめんムリ! 俺も好きだよ!」

 

 

思い出すように、赤く染めた頬に両手を当てるトガに、迫るトゥワイス。

騒がしいその姿に

 

「うるせぇな、黙って―――――」

 

呆れた様に荼毘が口を開き、黙らせるための言葉を口にしようとした瞬間

 

 

何かが空を切り、迫る音を耳が拾う。

首を捻り、その方角へ体の向きを変えて―――――

 

 

 

 

 

「――――――かっ・・・はッ」

 

 

 

 

 

眼前の地面に、音を立ててスーツ姿の男が叩き付けられる。

 

 

その背に乗る影が二つ。

一つは、黒い帽子とスーツの少年と、赤白の髪をした少女。

 

 

「知ってるぜこのガキ共!! 誰だ!?」

 

 

 

叫ぶトゥワイスとは対照的に、少女の姿を捉えた荼毘の表情が、一瞬固まる――――。

 

が、それも一瞬。

 

「・・・Mr.避けろ」「ッ・・・了解(ラジャ)!」

 

 

突き出された左腕。

その手から

 

 

 

 

赤黒い炎が吐き出される。

肌を焦がすような熱量にトゥワイスは身を引くが、それよりも驚愕すべきはその密度。

火炎を放った本人の腕が大きく跳ね上がるほどの反動を与えたその炎は、一瞬でコンプレスごと二人の姿を飲み込む。

 

 

 

 

 

「おい荼毘ッ、気合い入れすぎだろ! ヤル気出せ雑魚!」

 

「適切な火力だ。話に聞く通りならこんなんじゃ死なないだろ」

 

 

 

 

目を細める荼毘の視線が、彼らの居た場所を気だるげに見据える。

 

 

その予想を裏付けるように、火炎に飲み込まれた一部が内から膨らみ――――食い破る様に黒と白の炎が飛び出す。

大きく開いたその穴から飛び出す二つの影に、荼毘は小さく舌打ちする。

 

 

 

「玉になってた。もうここには用は無い」

「ああ。奴らにその気があろうが無かろうが関係無い、速やかに撤退するとしよう」

 

 

轟の片手に握られているのは、火炎から身を隠すために自身を〈圧縮〉し玉へと変えたコンプレス。

目的を果たした二人は既に逃走のために身をひるがえしており。

 

 

「させるか! さっさと逃げろ!」

 

 

その姿を、ヴィラン側も逃がすつもりは無い。

進路を断つように回り込んだトゥワイスが、その行く手を阻む。

 

 

 

 

そして

並ぶ二人を分断するかのように、荼毘の火炎が再び放たれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そう簡単には帰してもらえないのは分かってたけどッ。

 

「――――トガです!出久くん!」

 

炎を避けるために跳んだ先で、金色の髪の女の子の姿が一瞬見えて。

次の瞬間には僕の首を射抜くために大きな注射器が飛んできていた。

 

なんとか首を傾けて、首筋をかすめながら通り過ぎたソレを追うように―――ナイフを振り下ろしながら女の子が飛び掛かってくる。

 

 

「さっき思ったんですけど、もっと血出たほうがもっとカッコイイよ出久くん!!」

「・・・理解出来んな」

 

ナイフを持った右手を跳ね除けて、手首を捻る。

激痛に跳ねた手からナイフが落ち、少女の顔が一瞬歪む。

だが動きは止まらない。

 

グイッ、と手首の痛みなど無視するように近づくその顔に浮かぶのは恍惚とした笑み。

 

 

「でも、血どばどば出てましたよね!匂いで分かるよ、ほら!」

 

ギリギリと軋みを上げる腕を代償に、鼻先を出久の胸元に押し付けて肺に染み渡らせるように深呼吸する。

この場で、最も濃密な血液の匂いに熱くなる体を、トガは震わせて―――――

 

 

 

その表情が、ストンと無に変わる。

 

 

「嫌な臭い。さいあくな気分になりました。あの子、やっぱりお友達にはなれないです」

 

 

 

 

 

 

 

 

「ワタシもそう思う。早く離れろ、やぶ蚊女」

 

 

 

トガの体が、緑谷の体から横へ大きく跳ね飛ばされる。

それを成したのは、薙刀のように成形された氷塊であり当然握るのは赤白髪の少女。

 

「あのピチピチスーツは追い払ったけど、黒髪は動いてない。すこし気味が悪いな」

 

焦りが、見えない。

まるで何かを待つかのような、その姿が不気味であり。

 

 

 

「策があるのは確かだろう。だが俺達にとれる道が一つしかないのもまた事実だ」

 

なら、押し通るしか無い。

そう口にした緑谷が、荼毘を睨み――――

 

 

 

 

対する荼毘は、大きく息を吐く。

呆れた様に、待ちわびたとばかりに眉を寄せて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

闇が広がる。

荼毘の背後で、広がる黒い霧のようなそれに緑谷達はおぼえがあった。

USJで遭遇したヴィラン、その能力は――――。

 

 

「遅いんじゃないか黒霧」

「申し訳ありません。脳無の回収に手間取りまして」

 

ワープ。

唐突に、荼毘が片手を上げ・・・その手を黒い霧が包み込む。

その動作に、次の動きを予測した緑谷の頬が引きつる。

 

(ま・・・ず、いッ!?)

 

「遅ぇ」

 

 

轟の眼前に、焼けただれた皮膚を繋ぎ合わせたような手が現れる。

黒い霧から突き出た、手首から先だけのソレが――――火炎を吹く。

 

人体など簡単に炭に変えるだろう熱量に、体を傾け回避しようとする彼女とその体を押しのけるように跳ぶ緑谷。

 

 

僅かに服の一部を焼かれた緑谷が轟ごと地面に転がる事で、最悪の事態は回避された、が。

 

 

 

 

 

パッ!!

と轟の手から光が弾ける。

跳び出すように姿を現したのは、仮面をつけたコートの男。

 

 

その手に玉を転がしたコンプレスは忌々し気に2人を見下ろし・・・素早く荼毘の方へ駆ける。

 

 

「油断しすぎだ。あんたが捕まってどうする」

「ホホホ、想像以上に手癖の悪い子たちだったようで一本取られましたよ。でも、ほらターゲットとおまけはこの通り」

「よくやったぜコンプレス! しっかり働けッこのごく潰し!」

 

 

倒れた二人に見せつけるようにかざす3つの玉。

状況は負へと転がっていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「撤収だ。さっさと送れ、黒霧」

「はい。皆さま、どうぞお入りください」

 

荼毘は、唯一この戦況を俯瞰的に見ていた。

戦力差を考えればコンプレスを奪還するのは容易い事であり、もはや任務はほぼ達成されたと考えて良い。

 

唯一残った、任務を除いては。

 

「とおぅ!」

「ごめんね、出久くんまたね!とど・・・焦子ちゃんは知らないですけど」

 

黒霧のワープゲートへ消えていくその他。

2人とも相性が良くない以上、足手まといでしかない。

撤収までの時間は彼一人で十分稼げる。

 

 

 

 

 

「あああああぁぁぁぁ!!!」

 

銀色の光が、迫る。

表情を焦りに歪めた少年の、しかし暴風を纏ったその怪力を秘めた右腕を荼毘は体を反らし避けて見せる。

その腹部へ、打ち抜くように右足で鋭い蹴りを返してやれば――――

 

(意外に冷静だな。焦って見えるのは演技か?)

 

体を捻り、避けた少年に残った軸の左足を蹴り払われ、横向きに体は倒れていく。

横向きに傾いた視界をかすめるように、こちらなど無視して駆け出そうとするその背中。

 

地面に片手を着き、着地しながら姿勢を整えそれを追おうとして。

 

その足元を氷が覆う。

 

「行かせない。イズク君の邪魔はさせない」

「・・・遅ぇ。コンプレスを逃した時点で、こっちの勝ちは決まった。お前を庇わなかったら変わったかもしれないが」

 

 

荼毘の視線の先で、コンプレスの姿がワープゲートの中へと消えていく。

迫る緑谷の手は僅かに届かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ショウが短くて見せ場も足りないと来たもんだが致し方なし。少し不満はありますが」

 

「返せッ!!!」

 

「これにてショウはお開きだ」

 

「返せよッ!!!」

 

「ああ!お代は3つ、ちゃんと受け取らせていただいたので心配しないでくれ」

 

仮面の男が、手のひらに乗せた玉を緑谷へ見せつける。

その体は既に黒霧のワープゲートの中にあり、転移しないのは彼が緑谷へ戦利品であるそれを見せたいがためでしかない。

 

彼の手が間に合わず、撤退可能なタイミング。

それを理解した上でコンプレスは最後の一瞬までショーを行う。

 

「そんじゃー・・・」

 

一歩、退がる。

残るは、玉を持ったコンプレスの腕が宙に浮かぶのみ。

 

「ッ、返せぇぇぇぇ!!」

 

「―――お後がよろしいようで」

 

銀の光をまとった腕が、伸ばされるが決して届かない。

あと一秒あれば届いたはずの距離。

血を吐く様な声に、無情にもコンプレスの手は闇へと消えていき―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――ッ!?」

 

 

 

THOOOOOOM!!

煌びやかな一条の閃光が、その手を叩く。

 

開いたその手から、3つの玉が飛び出し―――――それを、視界の端の茂みから飛び出した影が目の細かい大きな虫取り網のような何かですくい取る。

 

「緑谷さん!これで全員ですか!?」

「メルセデスッ!ああ、捕らわれたのは三人。覗くが良い、その姿が見えるはずだ!」

 

影――――網を創造しすくい取った八百万が、玉を確認しその背後から青山がその姿を追ってかけてくる。

先ほどの光は青山のネビルレーザーであったのかと、安堵共に心の底から感謝して

 

 

「っ、見えます!麗日さんとっ、蛙吹さん―――――」

 

「っだよ今のレーザー・・・。俺のショウが台無しだ」

 

苛立ったような声を出したコンプレスが、霧の中から身を乗り出し撃たれて未だ痺れる手を動かし指を鳴らす。

パッと弾けるように八百万の手の中で光るのは、残り一つ・・・爆豪だと思われていた玉。

 

「そんなっ、どうして・・・!」

「本命はすぐにしまって見えない様に隠しておく。忘れたころに出すとみんな驚くだろ?エンターテイメントだ」

 

霧の中から飛び出す左腕。

その手がゆっくりと開かれれば―――乗っているのは一つの玉。

パッと弾ける音と共に

 

 

「ッ、んだよクソがぁ!!」

 

首を背後から掴まれた爆豪の姿が現れ、すぐに霧の中へ沈み込む。

その顔が、沈む間際。

視界は彼女へと走り寄る幼馴染みの姿を捉える。

 

間に合わないという焦り、安堵に一瞬でも足を止めてしまった後悔。

普段の彼であれば絶対に見せないソレが隠せていない。

 

今の彼では、きっと――――――

 

「手を伸ばしてッ、勝紀!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――来んな 出久」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

真っ暗だ。

視界は黒い霧みたいな何かに遮られてやがるし、首を掴まれているせいで下手に動きもとれねぇ。

だが、だからといって大人しくするつもりもない。

 

「さて、君に会わせなきゃいけない人が居る。大人しく――――」

 

するかボケ。

 

 

 

手を後ろに回して、男の腹を爆破してやろうと力を込め――――その右手を、ギリッと握りつぶさんとばかりに強く掴まれる。

 

悲鳴が漏れそうな口を閉じて、奥歯を噛み締めてなんとか耐える。

耳に、奴の顔が近付いてくるのを感じて背中に這う嫌な気配に小さな悲鳴が漏れかかって。

 

 

「ショウを台無しにされて少しイラついているんだ。変な動きをしたら・・・」

 

言葉には出さず、右手を掴む力がさらに強まりやがった。

意地でも、悲鳴なんぞあげてやるか。

 

死ね、クソ野郎とでも言い放とうと口を開け―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

眼前の空間から、闇を掻き分け生身の腕が現れた。

次いで、肩、胸と・・・アイツの体が現れていく。

 

 

 

 

「――――勝紀を、返せ」

 

「っ、嘘だろ!黒霧ッ、早く閉じ―――――」

 

恐らく、殆ど閉じかけのゲートに体をねじ込んだその体を追い出すように、周囲の闇が動くのが分かる。

 

 

「――――っ、ダメだ!逃げろよッ、死んじまう・・・頼むから・・」

 

ブチ、とその腹部が切れていく音が聞こえる。

空間が遮断され、物理的な防御など意味を成さずその体は両断される。

黒霧のワープゲートとはそういう能力であり。

 

 

 

 

 

「・・・・断る。お、まえを助けず逃げるなど・・・俺がすると思うか」

 

するわけがない。

だからこそ、目を背けたいと爆豪は思う。

容易く両断されるその体など、けっして見たくはないと。

 

 

 

 

 

 

 

 

「まて・・・なんでまだ切れてないんだ?おい黒霧、この期に及んで体内を血で汚したくないなんて思ってんじゃ――――」

 

未だに両断されないその体に、コンプレスが抗議するように天を仰ぎ見る。

爆豪から視線が逸れ、すでに死に体の緑谷など気にするには値しないとあげた声は。

 

 

「・・・・投影(トレース)開始(オン)

 

 

彼にとって致命的な隙となる。

爆豪の首を掴んだ右腕、その付け根となる肩口へ一本の白い中華剣が突き刺さる。

 

「ッ、ああああ!このクソ餓鬼ッふざけんなよ!」

 

深々と突き刺さった剣とその衝撃にのけ反るコンプレス。

爆豪の首が解放され、しかしとっさに服を掴まれよろけるように倒れたその姿へ緑谷は剣を投擲した手を伸ばす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お腹も、上にある肋骨も切られていく感触が分かる。

冷たい刃が通って―――――すぐにその断面が再生していく。

見えはしないけど、きっと映像を巻き戻すように傷は癒えてすぐにまた切断されているんだろう。

 

気が遠くなりそうな激痛が、痛みなんて殆ど感じないはずの体に襲い掛かってくる。

それだけの傷、損傷。

 

でも、それが止まる理由になんてならない。

 

(『牢獄の裁定に従い、その手を伸ばす事を諦めさえすればそのような苦痛からは逃れられるだろうに』)

 

 

それが彼女を救わない理由になんてならない。

 

(『鉄格子は降り、お前は永遠にあの娘と邂逅することなどないだろう』)

 

そんな未来、僕は認めるわけにはいかない。

 

(『ならば燃やせッ。お前の中で燃える憤怒をッ!!人ではないッ、お前達を裂く運命を呪い力とするがいい!!』)

 

切り落とされかけた胴体が、再び再生していく。

淡く、青い光を放ちながら―――悪逆な、絶望的な、悲劇的な現状に抗い続けるように。

 

 

 

待て、しかして希望せよ(アトンドリ・エスペリエ)

その肉体は、精神が屈するまで再生を続ける。

 

 

(『お前が抗う事を止めぬ限り、その体が千切れることは無い。一筋の光とは、運命とはそういうものだ』)

 

 

閉じかけた霧が、青い光に浸食されていく。

巌窟王の宝具は肉体を再生させ、その能力を引き上げるもの。

物理法則を無視する切断は防ぎきることは出来ない。

 

 

 

故に、もう一つ。

黒霧のワープゲート。

彼の物ともいえるその世界を、緑谷の体から出た青い光がゆっくりと作り変えようとしていた。

 

 

 

 

 

肩に突き刺さっていた白い中華剣を抜き、投げ捨てたコンプレスは爆豪の左腕をひねり上げるように拘束する。

諦めの悪いガキをどうしようかと、緑谷へ目を向け・・・・緑谷の体から数メートル、円形に浸食された黒霧の空間に―――――ギラギラと輝く無数の光を見た。

 

 

 

 

 

 

 

「――――ッぁ・・・・!?」

 

その正体を確認しようと目を凝らして、彼の喉は声を出すことすら出来なくなる。

 

 

 

それが、自分を見つめる数え切れないほどの人間の目だと気付いた瞬間、彼の精神は一瞬で崩れた。

 

 

品定めするような目、観察するような目、つまらない物を見るような目、獲物を見るような目―――――。

 

 

 

そして、憤怒に染まり切った目。

 

その瞳が、徐々に大きくなっていく。

近付いて来ているのだと、そう理解した彼だが未だ僅かに余裕はあった。

空間に投射された様なその影は、映像の向かい側に過ぎない。

 

映画を見て本気で死の恐怖を感じる人間が居ない様に、彼の心は一定のラインをなんとか保ち。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

憤怒の瞳、近付いて分かる長髪の女性の影が手に持った何か――――刀のようなものを振り下ろす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ガンッ!ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!ガンッガンッガンッガンッガンッガンッガンッ!ガンッガンッガンッガンッガンッ!

 

 

 

狂ったように打ち付けられるその音に、狂気にコンプレスの脳は冷静な思考を奪い去られていく。

 

掴み上げたはずの爆豪の手からは力が抜け、既に拘束の意味は成していない。

 

拘束から逃れた少女は―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃんに、手を伸ばす。

理由は分からないけど、体を切られる感触もいまは無い。

ヴィランも、何かに怯えるみたいに動きを止めている。

 

「早くッ、かっちゃん!今ならッ」

「うるせぇ、分かってるから無理に喋んな!」

 

そして、今度こそ――――かっちゃんの手を掴んだ。

強く引き寄せて、空間から体を引いて。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「―――――はぁ、予定外ばかりだ。嫌になる」

 

体が、横へ吹き飛ばされる。

それが、脇腹を蹴られたのだと理解した時にはもう掴んでいた筈の彼女の手の感触は無くて――――。

 

 

「でもまぁ、これでおさらばだ。じゃあな、お互い二度と会わない事を祈って」

 

 

地面に転がりながら何とか視界が捉えたのは黒髪の男の姿。

僕が離れたから制御が戻ったのか、かっちゃんを包んでいた黒い靄が炎使いの黒髪の男ごと消えていく。

 

 

「ッ、行くなよ!かっちゃんッ・・・・勝紀ッ!!」

 

地面を叩いて、走る。

体から青い光が霧散して、生身の体になった事すら頭には無くて、ただ必死だった。

 

 

 

それでも伸ばした手は、届くことは無くて。

最後に見えたかっちゃんの顔に浮かんだのは―――――二度とさせたくない表情だった。




ざ・おおひろま






????「ちょぉっと食べごたえは無さそうなお人やわぁ。そりゃぁ、骨だって噛み砕いてしまうんがうちやけど筋ばってるのはちょっと・・・堪忍なぁ」
????「つまみならここに用意しただろうが。人を食うよりも沢庵食った方がうめぇに決まってる。・・・ところでよ、その酒少し分けてもらっても良いか?」
????「土方さん土方さんっ、お酒の味見するふりして女の子の間接キス狙っちゃダメですってば!そういうところ、昔から悪い癖ですよ!」
????「間接的な体液の交換であっても感染の危険性はあります。直ちに滅菌処理を開始します」



????「個性というのは魔術よりも随分と融通が利くようね。神代であったとしても、ここまで超常の力を思い思いに振るった時代は私たちの世界では存在しなかった筈よ。発狂した人間の一人か二人、魔術的に解体すれば少しは何かわかりそうな気もするけれど」
????「それは表の彼が捕まるので止めるべきだろう。しかし、生きた魔術がひしめいていた時代の魔女がそう言うのであれば、この世界は神代よりもより神秘を秘めていると言えるのかもしれない。秘匿されていない以上、神秘とは到底言えないが」
????「先生!僕はどっちかって言うとマンガみたいって言った方が分かりやすいと思うよ!アメコミっぽい人も居るしさ!」



????「あの小僧はなぜあそこまで怯えている。槍を向けられた訳でも無かろうに」
????「ハッハッハッ!俺だって師匠に睨まれりゃぁ動きくらい止まるだろうぜ。まぁ、怯えるなんてことにはならねぇがな!」
????「人を捕まえてまるで化け物のように言うではないか。いつからお前は私を前にそんな口をきけるようになった?」
????「待てッ、いま良い所だから手合わせはまたにしてくれ!なっ、話を―――――」
















????「許さんよ。地に這いつくばり、許しを乞おうとも決して罪を減らすことは無いと誓おうではないか。・・・私の愛娘を苦しめた罪、全てをもって償わせてもらおう」

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