俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

25 / 29
(牛歩の歩みでも)止まるんじゃねぇぞ・・・


目を逸らさず

[神野編2]

 

(コンプレス・・・あれはもう意識ねぇな。トゥワイスもダメージはデカそうだが、上手く右の肩で受けてたから大丈夫だろうな)

 

 

「ッ、何故止めるッ荼毘!!」

 

なら、庇われていたトガも無事だろう。

先ほどまで人質であったはずの少女と言葉を交わす少年。

その姿を見て、愚かにも隙と捉えて動き出そうとするスピナーの眼前に抑えるように腕を突き出す荼毘。

 

その目は恐らく、この場において実質指令役である死柄木よりも冷静に現状を見つめていた。

だからこそ、見過ごせない事が二つある。

 

(・・・戦力差が分からねぇ奴には見えなかったが)

 

なぜ一人で来たのか。

焦りか、それともこちらの戦力が減っていることに賭けたのか。

どちらも、しっくりと来ない。

 

そして、もう一つ―――――

 

 

 

「・・・建物潰して埋まる訳にはいかないな。スピナー、マグネ・・やれ」

 

 

死柄木も気付いている。

現状の違和感を払しょくするために、場を動かすために指示を出す。

 

 

 

 

 

「――――当然ッ!!少年ッ、まさにこの場に飛び込むその姿こそステインの理想ッ!」

「もうっ、この前先にやられたの忘れたの!?」

 

 

スピナーに殺意はない。

マグネは死柄木の意思を上辺だけだが汲み、先に飛び出したスピナーの後を追うように駆け出す。

 

 

 

 

スピナーが自らの腰へ一瞬腕を回したと思えば、その両手に握られているのは二振りのサバイバルナイフ。

 

持ち前の継ぎはぎ巨大刃物鈍器は砕かれ今は無いが、その怪力をもってすれば人体を損壊させることなど容易いだろう。

 

そして肉体が変化するタイプの個性にもれずスピナーの動きはまさに野生の獣のような瞬発力を持っている。

 

それも、爬虫類のように滑らかで、それでいて鳥類のように跳ねるような速さ。

グンと曲がった右膝が、バネのように一度縮み――――床板を踏み砕きながら突き進む。

 

その歪な思考回路をのぞき、まぎれもなく油断すれば命を一瞬で切り潰す(ヴィラン)であり――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その懐に黒い影が滑り込む。

揺れる黒い外套、その姿を追うように銀の軌跡がスピナーの視界に映る。

 

「――――・・・ッガァ!!?」

 

 

 

「クハッ・・・クハハハハハハハッ!!ぬるい、思想が、思考が、思念がッ!自らの芯を他者と照らし合わせる為に動きが遅れる!!」

 

だがその外套すら、すでに視界には無い。

腹部に強い衝撃が伝わり――――鈍い音を立てて腹部に当てていたプロテクターが砕け散るのを感じる。

浮き上がる体、見下ろす視界の中で自らの腹部を恐らく蹴り上げたのだろう少年が足を地に下ろすのが見えた。

 

黄金に強く、目映く輝く瞳。

口が裂けるほどに吊り上がったその口元が――――フッと緩めば、バヂッ!!と弾ける紫電が、黄金色に移り変わる。

 

「スピナーっ!だから言ったじゃないのよっ!!!」

 

下方で、マグネが木製のテーブルを少年へ投げつけているのが見える、が。

 

「生ぬりィ!!ヴィランだろうがッ!?もっと殺意入れろや、ぶっ殺すぞッ!!」

 

BOOOOOM!!

マグネの眼前に滑り込んだ少女がテーブルを爆破し、その破片に紛れながら距離を詰めていく。

 

 

 

 

 

少年の右手から奔る黄金の雷が何かを形作る。

 

強い力で天井近くまで蹴り上げられていた体が落下するのに合わせ、その何かが見えてくる。

 

(・・・・・・な、ぜ・・・サングラス・・?)

 

「・・・ゴールデンだからよ」

 

 

サングラスだった。

濃い紫のゴールデンなソレを目元にかけながら見上げる少年が、腰を据える。

 

 

「――――要はッ、俺は俺でッ!!」

 

 

 

溶岩のように赤く変わるその右腕、ボコボコと湧き上がる様に浮かび上がった白線が明滅するそれを大きく振りかぶりながら―――――

 

ニヤリと、先ほどとは正反対の笑みを浮かべる少年の黄金色の瞳とスピナーの視線が交差する。

 

 

 

 

 

 

「――――テメェはテメェって事だ。憶えとけ」

 

 

 

その腹部に、かち上げるように赤い拳が突き刺さる。

室内を照らす黄金の瞬きに目元を覆い隠した数名を除き視界が真っ白に焼ける。

 

 

 

 

 

鳴り響く轟音に、追うように聞こえる断続的な爆発音。

 

「ちょっ、なんで!?見えてるのよっ!!?」

 

 

叫ぶようなマグネの声。

腕をかざし、閃光から目元を覆い隠していた荼毘が腕を下ろせば―――天井に空いた大穴。

そして視界の端で壁に叩き付けられたマグネが、全身を焦がした姿のままゆっくりと地面に倒れ伏していく。

 

 

 

 

 

「テメェッ、ピカッてやんならもっと早く言えやクソデクッ!!ブチ殺すぞッ!?」

「っ、・・・待てって!顔が近ぇよ、ちっと離れてくれ!」

 

 

 

 

(・・・・アイツ、二重人格か?いや・・・そんなことより)

 

胸倉を掴み寄せてガンをつける少女に対し、顔を赤くして離れようとする少年。

まるで付き合いたてのカップルのような、この場にそぐわない隙だらけの行動だが先ほどスピナーはそれを隙と捉えた故に空の星となった。

 

あれは、敵を誘うための高度な演技。

 

 

(・・・やるな)

 

 

荼毘は数日前に相対した少年の印象を一度リセットする。

速さも、力も・・・誘う技術も先日の比では無い。

 

ならば最初に抱いた疑念、その答えは――――

 

 

 

(・・・・慢心か。全力なら一人で俺たち全員を潰し切れると考えたワケか)

 

 

荼毘の中で、イズクへの警戒度が忙しく上下していた。

 

そして、(ヴィラン)だからこそ気付けない。

あれだけの勢いで吹き飛ばしたスピナーの生死を彼が気にしないという異常事態。

 

拳撃は殺さず調節できるだろうが落下死までは防げない――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、おいッ、ホントに降ってきやがった!いくぞ、瀬呂!!」

 

数秒前、天井が爆散した建物から少し離れた大通り。

細身だが長身の少年を、大柄な少年が上空へ浮かぶ月へ向かい放り投げる。

 

「っ、高ぇ!!馬鹿か緑谷ぁ!?」

 

砂糖の個性[シュガードープ]により強化された筋力で投げ飛ばされたその体は、あっという間に近くのビルの天辺に近付き――――すぐに落下していく。

 

想定していたより上空に跳ね飛んだ人影へはとてもではないが届かない。

 

「お、落ちるっ・・・・けどっ・・・・!!」

 

受け身を取らなければ、すでに大怪我、あるいは死を迎えるだろう状況で、漏れそうになる泣き言をごくりと飲み込む。

彼の能力であれば、この市街地なら容易く宙を跳び回れるのだ。

それが分かっていても怯んでしまうのは、これが授業ではなくまぎれもない実戦であるためだろう。

 

 

 

 

少年―――瀬呂の右肘から伸びるのは彼の個性[テープ]、平たいまさに厚いセロハンテープのようなものがビルの屋上、その上に乗った貯水タンクにぐるりと絡みつく。

 

「うっし!!」

 

そのまま一気に巻き取れば、勢いに乗って彼の体は上空へと再度射出される。

右腕のテープを切り離し、近付いてきた人影――――スピナーへ左腕を突き出せば、射出されたテープはその体を絡め取り。

 

 

「後はっ!掴むトコ・・・掴むトコ!?」

 

 

跳び回る訓練はしたが、右腕のテープのみでこれほどの高さから落下しなおかつ地面に救助者を叩きつけない様に着地するなどしたことがあっただろうか。

 

 

25m・・・20m落下していく体。

焦れば焦るほど、テープを貼りつける場所が目に映らなくなる。

それでも、先ほどテープを貼りつけた貯水タンク、それを固定する柱にテープを巻き付け

 

 

 

 

 

 

メギッ!と聞いたことが無いような音と共に支柱が簡単に折れ曲がる。

よくよく見れば錆び錆びの支柱ごと宙を舞うテープを見て、

 

「・・・・ま、じ・・」

 

加速する落下速度。

迫る地面に、せめてもの足掻きと適当な方向へテープを射出しようとして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

視界の右、ビルの壁に何かが張り付いたかと思えばその影が一気に瀬呂へと迫る。

 

「――――痛ぁ!?」

「ご、ごめんね瀬呂君!」

 

 

べちんっ

頬を叩かれた感覚と共に、一気に落下速度が落ちる。

むしろふわふわと浮かぶような感覚に、用意していた保険が成功したのだと涙目になりながら声の方向を見る。

 

「た・・・助かった・・・」

 

壁に四肢をくっつけて張り付く少女と、その背中にしがみつくもう一人の少女。

ヒーロースーツではなく自分たち同様普段着の彼女たちが用意していた保険であり。

 

 

「ケロ。私たちが()()通りがかってよかったわ」

「うんうん!瀬呂君たちも()()空に放り出された人を見つけるなんてびっくりしたよね」

 

 

 

偶然、たまたま、奇跡的ここに居合わせたクラスメイトであった。

 

 

未だ爆音が鳴り響く建物へ目を向け、ここへ来る選択肢を選んだ事を少女の一人は安堵する。

 

(・・・ヒーローは間に合わなかった。結果として動いたのは正解だけど、緑谷ちゃん私たちは時間稼ぎだけよ)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

記者会見会場に居た記者の、さらにその部下は引き続き先ほどまで意識不明だった雄英生徒の部屋を見張っていた。

 

先ほどまでは医者が診察のために部屋に入っており、『ぁー・・・緑谷君、その姿は・・・?』『メルスぃ、ドクター・・みんな僕が心配だったみたいでね☆』と声が聞こえていた。

その医者が出て行ってからは、外に出されていた彼のクラスメイト達が再度部屋に集まっている。

 

気付かれない様に、部屋をのぞけば

 

「緑谷!リンゴ、リンゴ食べるでしょ!・・・もー・・・葉隠ちゃんが途中で止めなかったら危なかったんだよ・・・!」

「むぐッ!?むごごごご☆!!」

「ウイッグとカラーコンタクト、簡単なメイクで誤魔化したとしても、口を塞いでおかなければやはりボロが・・・いえ、話し過ぎてエネルギーを消耗していますからリンゴをどうぞ!」

「む・・・・む・・・☆」

 

 

いっそ落としてしまえとばかりに、ピンク色の肌の女子と上品そうな女子に物理的に口を塞がれている緑色の髪の少年。

 

彼の口元には半分ほど包帯が巻かれており、顔には色々な色のマジックで「心配させたバツ」「青緑谷」「クハハハハハハハ」などなど書かれており恐ろしく表情が分かりにくくなっている。

 

 

近くであわあわと口を両手でおおっている大柄な、それも個性的な姿の男子生徒も居るが彼では止められないのだろう。

 

 

「・・・少年、いい青春をおくっているじゃないか」

 

友情にほろりと涙しかける記者は、今のところは元気そうだと上司へ定期連絡を入れるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っらぁ!!!」

 

まるで覆いかぶさってくるように迫る赤黒い炎へ、照準を合わせるように右腕を向ける。

BOOOOOM!!

 

なるべく低い出力で炎を散らすように爆破すれば、作り出した一瞬の余裕で左手から真横へ爆破を放つ。

スライドするように右へ跳ぶ体、そのまま地面を後ろへ蹴り出せば眼前に居るのは炎を放った黒髪のピアス男。

 

(このまま距離を詰めりゃ・・・ッ!?)

 

 

 

後方から、もう一つの足音が微かに聞こえた。

相方の足音ではないと、反射的に地面へ体を伏せれば――――髪の毛の一部を切り裂きながら、ナイフが通り過ぎていく。

 

「――――刺す。刺すよカツキちゃん!血出た方がもっとかわいいです」

 

ギラギラと、その刃のように目を輝かせた少女がそのままナイフを下方へ振り下ろすのに対し

 

「知るか。可愛さなんてはなから気にしてねぇし、これからもするつもりは無ぇ!」

 

うつ伏せから、体を全力で横へ転がす。

一拍遅れて、着いた腕を軸に床へ突き立ったナイフを払うように蹴れば、甲高い音を立てて根元からナイフは折れる。

 

「でもでも、かわいい方があの人は好きだと思う。もっとあかぁくて、もっとズタズタで・・・」

 

武器が折られた事など気にも留めずに、折れたナイフを体勢を立て直している爆豪の顔面に放るトガ。

紅潮していく表情、迷いのないその動きと狂気にしかし爆豪は動きを止めることは無い。

 

 

(勝手に喋って酸素使ってろサイコ女ッ。テメェには似ても似つかねぇが頭のぶっ飛び方だけは似てる女が居て慣れてんだよ!)

 

 

体を傾け、最小限の動きでナイフを避けながら今度こそ立ち上がり

 

 

「クソデクがんなフェチ野郎だったら俺が頭ふっ飛ばして――――」

「あぁ・・・やっぱりカツキちゃんもイズク君が好きなんだ。デクってさっき呼んでたもんねぇ」

 

あの人ってしか私言ってないのに。

続く言葉に――――

 

 

 

(ぅぐぅ・・・誘導だ、文脈から想像しただけだ・・・!!)

 

 

初めて動揺が爆豪の表情に表れる。

のんびりとした口調のまま繰り出されるトガの蹴りを右腕で受け流しながら、思考を収めようとする。

 

「わぁ、顔まっかだよ勝紀ちゃん!大変だよねぇ、恋するオンナノコって。甘酸っぱいねぇ、ちゅーとかしたらもっとまっかになるのかな?ぁ、もしかしてもう・・?」

 

トガの精神攻撃は続く。

 

(う、ぉぉぉぉぉ・・・・・)

 

 

 

 

「うんうん。さっきからイズク君こっち見てるから、きっとそうなのです。ほら!」

 

 

 

 

 

(ぉぉぉ・・・・ん・・・?)

 

 

 

 

ひらひら、ひらひらとトガは自分のスカートをつまみ上げ揺らして見せる。

先ほど吹き飛ばされた衝撃のためかところどころ破けた部分から、どこかで切ったのか血は流れているが――――

 

 

それよりも、当然見えているのはあからさまに覗く白い下着だろう。

 

 

 

(・・・・・・)

 

 

 

急激に冷静になった思考、脇腹を狙うように迫るトガの右のつま先を掴み取り、捻るように受け流せば―――視線を右へ向ける。

 

ピアス野郎と牽制しあっている緑髪の少年、その顔がしかしこちら・・・トガの方を向いている。

そのまま、コクリと頷く所まで見てしまえば

 

 

「ぁぁ・・・・早く出て、話し合わねぇとなァ・・・」

 

「・・・勝紀ちゃん?」

 

 

 

 

 

唐突に、爆破少女は自らの雄英体操服・・・その左そでをめくる。

 

そこにあったのは、やや複雑に太い縄のようなものを編み込んだ・・・ミサンガのような飾り。

 

「アイツをぶっ殺すために発目に頼んだ特注品だったんだが仕方ねェ・・・」

 

 

ざわり、と爆豪の空気ではなく戦闘の流れが変わる気配にトガは体を僅かに震わせる。

 

(この感じが続くと、あんまりいい思い出が無いです・・・)

 

 

勘。

彼女の戦闘スタイルは個性を軸としていない。

本来なら戦闘向きの個性に押し負けかねない彼女の戦闘力を底上げしているのは、直感。

 

その勘が警鐘を鳴らしている。

 

 

 

 

 

故に、だからこそ先手を打つ。

 

(流れが変わったらまたスパスパって切るのが一番だって、トガは思います)

 

警戒すべきは、あのミサンガ。

目を細め、駆け出したトガは右へステップし――――さらに左へ大きくステップする。

フェイントを重ね繰り出したしなやかな右の蹴りは、交差した両腕に弾かれる。

 

肉を叩いた鈍い音はしかし、上手く腕の腹で受けられたのか骨を折った感触は無い。

 

蹴るために伸ばした足を下ろすその時間は、拳を受けるには十分な時間―――迫る爆豪の右拳を、わざと後方へ倒れるように避ける。

 

両腕を地面に突き、バク転しながら距離をとる。

およそ1.5m。

 

爆豪の弱点があるとすれば、そのリーチだろう。

爆破は至近距離でなければダメージが拡散してしまう。

もちろん出力を上げればまとめて吹き飛ばせるだろうが・・・

 

 

 

 

(この建物内じゃぁむりだよねぇ。勝紀ちゃ――――)

 

 

 

 

 

 

 

 

BOOOOOM!!

 

両足を地面に着け、顔を上げたトガ――――その右脇腹から、唐突に爆炎が上がる。

 

「か・・・っぁ・・・!?」

 

(なん・・で・・、どこ、から?)

 

爆豪ではない。距離が遠い、だからこそ緑谷が何かをしたと思考は跳ぶ。

だからこそ、眼前の少女の左手に巻かれていたミサンガが消えている事に気付けなかった。

 

そして、だからこそ少女の左手が右のそでの中に潜り込み――――そこから細長い何かが飛びだした事に気付くのが遅れた。

 

 

 

 

細長いナニか・・・それを右手でシュッと擦る様に握りながら滑らせれば。

左手を振るう。

それだけで、まるで蛇のようにトガへと迫ったソレは――――強く、その胸を打ち付ける。

 

 

「・・・使いきりってのが難点だが」

 

(っ、これ・・・・・!?)

 

爆豪の手から、まるで導火線に付いた火のように小規模の爆発がトガの胸元へ迫る。

その正体に気付いたトガだが、すでに一度目の爆発で体はバランスを失っている。

 

 

 

 

BOOOOOOOM!!

 

膨れ上がる爆発は小規模だが、0距離でその爆破を受けた小柄な体は容易く宙へ跳ぶ。

地面に落ちる衝撃を感じる前に、ブツリと少女の意識は断ち切れていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

急に動きの鈍くなった爆豪へ狙いをつけるように右腕を向けなおす荼毘、その肩へ矢のような速度で何かが飛ぶ。

それが短刀のようなもの――――だと判断をつける前に僅かに左肩を切り裂かれながらも紙一重で避け切る。

 

「・・・目を離す暇もねぇな。嫌になる」

 

短刀に次いで、銀の軌跡を残しながら迫る少年の姿に荼毘は表情をほんのわずかに面倒くさげな物に変える。

先ほどまでかけていたサングラスはどこへ行ったのか、緑の髪を逆立たせた少年に完全に視線を固定する。

 

対して

 

 

(あと何分稼げばいいッ・・・いや、いま考える事じゃない!死柄木が考えを変えるまで注意を引き続ける、それだけを考えろ・・・!)

 

荼毘へ放った短刀と同様に、牽制のように隙あらば黒霧と死柄木へ短刀を撃ち込み続けている。

コンプレスとマグネの回収を行う黒霧は苛立たし気にしているが、死柄木は目を細め状況を見ている。

 

 

 

「死柄木弔!撤退すべきですッ、これ以上の戦力の消耗は―――――」

 

 

 

黒霧の言葉に死柄木は言葉を返さない。

なぜ

 

 

 

(・・・もう撤退の命令を出してもおかしくないんだ。死柄木が加わればワープの人を牽制する暇は無くなって、撤退は少しずつだけど出来るはず)

 

 

緑谷は荼毘の拳を躱し――――爆豪へと目を向ける。

 

(かっちゃん・・・!)

 

トガと呼ばれていた少女と交戦している少女へ、小さく頷く。

 

(・・・そっちは任せた。僕は、僕にできる事を―――)

 

交わした視線から、意思が伝わった事を確信する。

強い想いを込めた少女の視線に安堵して――――

 

 

 

 

「よそ見なんてされると、それはそれで嫌な気分だ」

 

頬へ迫るのは赤黒い炎の塊。

風通しの良くなった室内だからこそ、先ほどまでの遠慮などすでに無く人一人を消し去る出力で襲い掛かるそれに対し

 

 

 

 

 

紫電が奔る。

黒炎が一瞬で形作った黒いポークパイハット、それを頭の上で押さえながら右手をかざす。

 

 

荼毘の目測では、緑谷がとれる選択肢は得意の速度で避けるしか無かった。

そんなタイミング、それだけの熱量。

 

 

 

 

 

 

 

炎が確実に少年を飲み込む。

避ける暇もなかったかと、単純な方向に思考が向いたのは自身の個性への信頼か。

改めたはずの評価すら甘かったか。

 

 

 

 

 

どす黒い血液のような炎の塊、その中心を黒い炎が食い破る。

 

 

「ッ、誤算ばかりだ。死柄木、良いのかこれで・・・」

 

 

 

その後ろを銀の光が走る。

押されている。冷静であるからこそ荼毘は、自分が押され始めている事を認める。

未だ、押されているだけ、逆に傾く可能性はまだ高い。

 

だが、それだけのリスクを負う必要があるのか。

紫電をまき散らす少年の拳を、紙一重で避けるがそれだけで冗談のような音が耳元で鳴る。

 

 

 

 

死柄木は――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ああ・・・撤退だ。付き合ってもらって悪かったよ、荼毘。・・・黒霧。気失ってる奴から飛ばせ」

 

ただ、見つめていた。

握りしめた拳、そこからは焦りや緊張がうかがい知れる。

 

 

 

だがその瞳は何かの答えを探すようにただ緑の髪の少年を見つめていた。




ざ・ほごしゃるーむ


????「・・・ああ・・・失敗だわ。こんな事になるなんて」
????「ん?エレナ女史か。いったいどうしたというんだ、肩を落として君らしくもない」
????「ああ、力の調整は以前より安定している。現状を見る限り、素早く対処し対応できた事はアレにとって僥倖だろう」
????「・・・・以前から起こっていた現象も考慮して対応すべきだったわ」
????「以前から・・・?それは」
????「・・・・急ぐぞ。貴様にも働いてもらうッ」
????「以前対処していた貴男ならとうぜん分かるわよね。パイプを繋ぐためにこちらの穴も増やしたの・・・つまり」












????「こんなところにも穴が開くんやねぇ。金髪の小僧も気にかけてるんやし、うちもすこぉし味見してもええやろか・・・。中身カジリ過ぎてしもたら・・・堪忍な?」





????「ハッハァー!!おいおいコイツぁ俺の信念の賜物だろう!!そうに違いねぇ!新天地だ、いざ乗り込めやぁ!」





????「ご主人は猫の手も借りたい状況とみるが、あいにく肉球は三つほど貸し出し中。あるいは八重歯であれば代わりになると和歌にもあるがしかしそれはサービスし過ぎでは?とボブは怪しんだ。ともかく、ありったけをぶち込むワン!」




????「またお尻が挟まったぁぁぁー!!なんで、勇者よ私!旅の扉で上半身だけ埋まる勇者なんて聞いたことないわよ!誰かぁぁぁぁぁあぁぁ!!」






????「ああっ、なんという事でしょう・・・これほど誘われては、我慢する方が失礼にあたるというものです・・・ふぅ・・・くふっ」

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。