俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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誤字修正しました!
報告いただいていたのに遅くなり申し訳ない・・・。
皆様、報告本当にありがとうございます!


混沌接続

[神野編3]

 

 

撤退。

死柄木が口にしたその言葉にいち早く対応したのは緑谷だった。

顔を狙い突き出された荼毘の右腕を跳ねのけ、その胴体に爪先を突き刺すように蹴りを滑り込ませる。

 

「・・・やっとか。後で訳を話せよ、死柄木」

 

だが、同様に死柄木の言葉を聞いていた荼毘も同様に緑谷から距離を空けようとしていたのだろう。

 

「っ・・・少し、想定が甘かったか」

 

空を切る足に歯噛みしながら、右手に生み出すのは鈍く光を照らし返す黒い短弓。

 

(轟さんとあの人が来るまで、せめて時間をかせぎたかったけど・・・!)

 

それは望み過ぎだったかと眉を寄せる。

なら、甘かった方の想定通り動く必要がある。

 

投影開始(トレース・オン)

 

心臓から左腕へ、血潮が流れるような感覚が伝う。

脳裏に浮かぶのは無数の剣の姿。

見たことも無い、聞いたことも無いその構造それが分かってしまう。

 

ズッ、と重い感触が左手に触れた。

それが今、脳内で確認した短刀だと理解する前に弓へとつがえ、狙うのは死柄木の言葉を聞きすでに実行に移そうとしている黒霧。

 

「死柄木弔!あなたが最優先ですッ、早く中へ!」

 

(死柄木の指示と噛み合ってないッ。今なら――――)

 

撤退する前に、黒霧を止められる。

 

左手を短刀から放す。銀の刃から捻じれるように伸びた黒い柄、歪な矢が空を切り裂きながら弓なりの矢から飛び出し――――。

 

 

 

 

横から伸びた青白い手がその柄を掴み取る。

 

 

「聞こえなかったのか、黒霧。意識のない奴をとばせ・・・早くしろッ!」

 

瞬きする間に、矢は乾いた音を立てひび割れ、砕けていく。

脆く散るそれを払うように振られた右腕。

 

瞬時に物体を崩壊させる左右の手が、緑谷の腕を狙い伸ばされる。

 

(ッ、死柄木が残るなんて・・・!)

 

まるでゲームのようにテロを起こす、幼い精神構造の人物だと思っていた。

手駒が減る事を恐れ、気絶している敵を優先して転送させているのだと。

 

この、自分の喉元に危険が迫った状況であればチャンスがあれば何を優先してでも自分を撤退させようとすると。

 

振るわれる腕は、目で追いきれる速度でしかない。

鋭く鋭敏になった今の動体視力では、体を屈めることで簡単に避けきる。

 

「意外そうな顔だな。銃で撃たれてもほとんど顔を変えなかったくせに」

「・・・ああ。少し意外でね。君なら僅かでも撤退の機会があればそちらを選ぶと思っていたが」

 

再度、彼の言葉を口にして左手に生み出すのは黒の中華剣。

刃を潰したそれを無防備な死柄木の腹部へ横薙ぎに振るう。

 

「ッ!・・・ぁぁ、そっちはダメだ。そんな方法じゃ負ける気がした」

 

肉を叩く鈍い音、

後方へ退くように跳んだ死柄木だが、その腹部へ叩き付けられた黒剣によりその体は大きく揺れる。

 

追撃をかけるため前へ跳ぶ緑谷の眼前を、しかし遮る様に赤黒い炎が駆け、空間を焼く。

 

「死柄木、トガがやられた。お前も早く撤退しろ」

「なら早くトガも飛ばせ。それで、次にとぶのはお前だ荼毘」

 

死柄木らしくもないその姿に、荼毘は疑うようにその目を細める。

荼毘の死柄木に対するイメージは緑谷と大差ない。

むしろその下に立ち、そして動いた結果より評価は落ちていた。

 

だからこそ。

荼毘の横を通り過ぎ、緑谷へ向かうその姿に強い違和感を抱く。

 

 

「・・・最後がオレだ。荼毘、お前は先に飛ばした奴らを確認しろ」

 

炎の壁が陽炎のように揺れ、その中心を黒炎が貫く。

弾け散った荼毘の炎の中、紫電をまき散らしながら黒い影が迫る。

 

「ッ・・・!」

 

反射的に荼毘は強く右手を握りしめ――――勢いよく開いたその手の平から、赤炎を放つ。

突き進む黒炎へ衝突したその炎は僅かに拮抗し、しかし次の瞬間にはその中心を貫かれる。

 

さきほど同様、辺りへ散る自らの炎に強く舌打ちし勢いを僅かに殺した黒炎を大きく横へ跳ぶことで避け切る。

背後から、黒炎が衝突したのだろう何かが弾け、爆散する音が響く。

 

(出力が上がっている・・・いや、安定しすぎている)

 

焦りに思考を削られてしまえば、精密な操作を要する荼毘のような個性は制御できるレベルまで出力を絞らざるをえない。

当然、戦力を確実に削ってきているあちらと、撤退に追い込まれているこちらでは焦りに差はでる。

 

だが、そこまで思考し荼毘は僅かな違和感に気付く。

 

(既にコンプレスとマグネは回収されている。その事に、ヒーローでもない学生が焦りを感じない・・・そんなことがあるか?)

 

荼毘の眼前に、黒い霧――――ワープゲートが現れる。

視線を横へ向ければ、恐らくその他を転移し終えたのであろう黒霧が頷き。

 

 

その霧へ体を滑り込ませる直前、荼毘は死柄木へ今一度視線を向ける。

緑谷へ接近し、紙一重でその攻撃を避けている。

 

黄金色に輝く右腕が振るわれ、空気が弾けるような音が辺りに響き渡っている。

その背後には、黒霧へ迫ろうとしたが間一髪で姿を隠され、地団太を踏んでいた少女も迫っている。

 

「・・・お前の言うところのゲームオーバーじゃないのか、死柄木?」

 

逃げる事の出来た自分にとってこの状況は終わってしまえば最善に近い。

だが、死柄木はこの状況で荼毘まで逃がしてしまえば打つ手は無い。

 

だが

 

(・・・先に飛ばした奴らを確認しろ、か。それがお前にとっての最善か死柄木?)

 

 

その真意が最後まで読めず、しかし最後の言葉くらいは聞いてやろう、そんなことを考えながらワープゲートへ踏み込んだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、終わりだクソ野郎!!」

 

かっちゃんが、黒炎の衝撃でひるんだ死柄木の後ろから殴りかかる。

BOOOOOM!!

 

確実に頭に当たる筈だったその拳は、だけど間に生まれた黒い空間に飲み込まれる。

反射的に腕を引きぬいたかっちゃんの前で、霧が掻き消えて。

 

「チッ、ワープ野郎がまだ居やがったかッ!!他の奴らも逃がされちまったみてぇだし」

 

先にあの敵から先に倒しておくべきだったんじゃないか。

きっとそう考えているかっちゃんが、悔しそうに舌打ちしながら空中で右手から爆破を起こして黒霧と呼ばれていた敵に向かっていく。

 

「ああッ!だからこそ奴を逃す事は許されない。あのアヴェンジャーを捕縛することで、行先は見えるはずだ」

 

この状況は一番じゃないけど、予想通りに進んでいる。

でも、だからこそ予想していなかったことが一つ、気になる。

 

対峙する死柄木、彼の目が僕の目を真っ直ぐに見ている。

もう死柄木の戦力は無いはずなのに、あの目は―――――

 

「死柄木弔、次はあなたです!今度こそ撤退を!」

 

「ッ、させるかよ!」

 

かっちゃんが視界を遮る様に、黒霧の目の前で大きな爆発を起こす。

響く金属音は、きっとあの体に蹴りを当てたんだろう。

 

それでも、死柄木は

 

 

「いいや。次は黒霧、お前だ」

 

 

最後の味方である黒霧も撤退させようとしている。

そんな状況に、僕の中で嫌な予感が膨らむ。

 

その気持ちを抑え込む様に、一気に死柄木との距離を詰める。

 

「コイツは勝つつもりでここに来た。なら、いつ撤退してもオレの負けになる、そうなるように想定してここに来た筈だ」

 

赤い瞳。

それが、僕の目を見透かす。

僕もその目を見つめ返す。

 

「なら・・・」

 

そこに写っているのは

 

 

 

 

「なぁ、緑谷(ヒーロー)オレが今もここに居るのは予想通りか?」

 

 

 

 

僕の姿。

僕の考えを死柄木が読み取ろうとしている。

その事実にザワリと、背中が粟立つ。

 

 

死柄木弔という存在が、今目の前で変わっていく、そんな予感が―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

過ぎった予感を振り払うように、緑谷は拳を握る。

 

 

 

 

雷を纏った拳が、死柄木を捉える。

あと一息、踏み込むだけですべてが決まる。

 

その刹那に――――

 

 

 

 

 

 

「・・・やれッ」

 

 

 

 

 

死柄木が、全力で後方へ跳ぶ。

その行為に、言葉に緑谷の動きが僅かに鈍る――――その体へ、赤黒い爆炎が襲い掛かる。

 

 

緑谷が驚愕に視線を向ければ、そこに立っていたのは先ほどワープゲートへ入ったはずの荼毘の姿。

困惑しながらも、力の噴出により後方へ飛び退こうと力を込め。

 

 

 

 

 

 

 

体の動きが止まる。

体の内から、次々と奇妙な感覚が突き上げてくる。

 

見下ろした先にある自らの手。

その形が次々に変わる。

真っ白な少女の手、次の瞬間には高齢の男性の手、しなやかで艶やかな女性の手。

 

深紅の、まるで西洋の騎士のような手甲に、肉球の付いた手袋。

 

 

 

 

 

 

 

そして今度こそ確実に、その体が火炎へと飲み込まれる。

鋼鉄の意思により耐久性を増した体は炎による致命的な熱傷は防ぐが、一気に失われた視界、酸素は思考を削る。

 

彼の体から、青い光が散った。

集中力が失われ、個性の制御が失われている。

 

その体へ、再度赤黒い爆炎が叩き付けられ、その体は大きく吹き飛ばされ――――

 

「出久!?待てッ、いま・・・!!」

 

その光景に、たった今押さえつけることに成功した黒霧から飛び退き、少女は駆け出す。

 

焦るその体を、しかし今度は真横から飛び出した足が蹴り飛ばす。

 

 

「完全に俺のこと忘れてたんじゃないか!?憶えていてくれてありがとうよ!!」

 

 

瓦礫から姿を現したトゥワイスが、蹴り飛ばしたその体へと追撃をかける。

 

 

状況が、ヴィラン連合へ傾く。

 

 

トゥワイスが跳躍した体勢から、転がったその体を踏みつぶすために両足を真っ直ぐに伸ばし――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おうッ!?またかよ!?」

 

トゥワイスの真横の壁が砕け散る。

散弾のように飛び散ったその破片から体を守る様に体を丸めれば、次いで衝突した破片により体が吹き飛ばされる。

 

砕け散った壁から、大小二つの影が踊り込む。

 

もう一つの影に比べれば小さな影は、自らに生えた白い尾を地面に叩きつけ、その反動を使い一気に駆け出す。

その手は、地面に転がった爆豪を一瞬で抱え込み一気に距離を離す。

 

対して、巨大な影は吹き飛んだトゥワイスへの追撃に移る。

破片による衝撃を何とか殺し切り、姿勢を立て直したトゥワイスの眼前に拳が迫る。

その拳を、躱すために体を傾け――――その先にもう一本・・・三本の腕が迫っていることに気付く。

 

 

「ッ、んなバカな!当然だろ!?」

 

 

トゥワイスの頬、腹部に拳が埋まる。

くぐもった声と共に、その体が再び宙へと舞い。

 

 

 

 

 

 

 

「尾白とッ、障子か!?・・・ッ、俺よりも出久を助けてくれッ!」

 

驚きにより一瞬動きを止めた爆豪だが、先ほどの光景を思い出し尾白の腕の中でもがく様に叫び。

 

 

 

 

 

「・・・大丈夫だカツキ。来るのが遅くなってごめん」

 

 

 

 

いつの間にか、部屋の中が強い冷気に包まれていることに気付く。

 

ゴトンッ、と音を立てて倒れる音に目を向ければ、まず視界に入るのは部屋の中心に立つ赤白の髪の少女。

その足元に倒れているのは、首から下が氷に包まれた幼馴染の姿。

その体を撫でるように白い炎が這えば、氷はまるで幻であったかのように溶けていく。

 

 

だが、意識を失っているのかその目は閉じられており―――――

 

 

 

少女の背後へ、先ほど緑谷を襲った赤炎が襲い掛かる。

その体を燃やし尽くそうと、のたうつ蛇のように身をくねらせ襲い掛かった炎は―――しかし、少女を避けるように別の方向から吹き出した赤い炎により食い潰される。

 

だが、それだけには止まらない。

生き物のように動きを変えた炎は、赤黒い炎を生み出した荼毘の姿を捉える。

 

 

再度炎を放とうとしたその体は一瞬で赤い炎に飲み込まれ、ボロボロとその形を崩す。

 

「勝手に先走るなと言った筈だ!!お前はどうしてそう考えなしに行動するッ・・・一体誰に似たんだ」

 

「トゥワイスの作った模造品とはいえ一撃かよ。この場面で、No.2ヒーロー・・・エンデヴァー」

 

 

忌々し気に口にする死柄木の眼前で、一度彼に傾きかけた状況が再び覆る。

 

動けるのは死柄木と、黒霧。

対してヒーローの卵が地面に倒れているのを除き5人、プロヒーローが一人。

 

致命的なその状況。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

差し込む光の中に立つオールマイトの足が何かに掴まれる。

それはひどく弱々しい力だ。

 

僅かにでも足を振るえばオールマイトなら一瞬で振りほどける程度の、そんな力。

だが

 

 

 

 

 

「・・・憎悪は・・苦しみは・・・喉元を過ぎてしまえば常人は必ず目を逸らし、蓋をする。・・・才能だよオールマイト、憎悪を抱き続けるのにも才能が必要なんだ」

 

 

 

 

オールマイトは足元から響くその声に足を止めざるを得ない。

掴まれた足から、彼の妄執が這いあがってくるような、そんな錯覚すら抱かされる。

 

 

 

 

「・・・個性の強さだけじゃあ世界は変わらない、そんなことはすぐに分かった」

 

「ッ、貴様がそれを口にするか!!」

 

数多の個性を食い潰し、数多の人生を狂わせた悪の王がそれを口にするのか。

あまりに身勝手なその言葉に、オールマイトは足元に倒れ伏していたその体、胸倉を掴み上げる。

 

しかし、オール・フォー・ワンの言葉は止まらない。

ただ、見つけた答えを目の前の宿敵だったものへと口にする。

 

 

 

 

「・・・ああ。僕だからこそ口にする権利がある。そして・・・だからこそ次の世代に託そうじゃないか、僕も・・・君も」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

乾いた破裂音が響く。

 

オール・フォー・ワンの体が、ゆっくりと地面に落ちる。

 

その体へ、降りかかる赤い液体。

地面に倒れた彼の目は既に遥か昔に光を失っているが、目の前で何が起こっているのかは手に取る様に分かる。

 

彼が、右手に持つ未だ煙をあげ続ける小さな武器を使い、自らの()()()行ったことなのだから。

本来なら、こんな武器では彼を傷つける事などできない。

いや、この武器だからこそ彼に傷をつけられたのだろうか。

 

 

いずれにせよ、

満身創痍の彼が、彼が自らの言葉にあそこまで激高し、そしてこんな武器を使う筈が無いと考えなければこの状況は生まれなかった。

 

 

状況を今さら把握したのだろう、オール・フォー・ワンの耳に耳障りな悲鳴とヒーロー達の足音が聞こえてくる。

もがき苦しむオールマイトの真実の姿(トゥルーフォーム)に今さら驚き、叫ぶ声も聞こえる。

 

 

 

「・・・僕と君ではこの世界は動くだけだった。さて、彼らならどうだろうか・・・」

 

 

 

オール・フォー・ワンの意識もまた、ゆっくりと途切れていく。

この生温い世界、次に目が覚めるのは刑務所だろうが生きている限り彼の今後を見守ることは出来る。

 

 

だが、最後に――――

 

 

 

ズルズルと、頼りなく右手が地面を這う。

途切れかけの意識で、彼もまた個性を一つ発動する。

 

 

 

 

水音がはじける。

断続的に彼の伏した地面の下、隠された地下室から音が響いていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

バシャッ。バシャッ。

水音が、死柄木の眼前で唐突に鳴る。

 

「っ、なんだよ、これ」

「分からんが・・・良いものには見えないな」

 

尾白と障子の眼前、エンデヴァーと轟の眼前。

皆の視線の先、そして周囲で、空間から滲みだすように黒い液体が溢れ出していく。

 

「これは・・・先生のッ」

 

彼は知っている。

これが。オール・フォー・ワンの個性の一つ、転移であること。

そして彼が自分に授けてくれた一手であること。

 

 

弾ける音は止まらない。

その液体から、ズルリと黒い影が姿を表す。

 

黒い肌、巨体の者も居れば小柄な物もいる。

自身よりも巨大な翼を生やした者に、鉤爪を生やした者。

 

それらの共通点はただ一つ、

脳が大きく露出しているその異形。

 

 

 

 

 

 

 

 

――――室内を埋め尽くすほどの数が、死柄木を言葉を待つように動きを止め。

 

誰もが、エンデヴァーですら不用意にうごけない状況で――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

倒れた少年のまぶたがゆっくりと開かれる。

 

 

赤、金、紫、青、白、次々とその瞳の色が変わっていく。

まるで何かが彼の体を奪い合うように、あるいは止めようとしているように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ッ、囲んでいる奴らはソイツを優先して潰せ。余った奴らは他の奴らを狙えばいいッ」

死柄木が指さすのは、エンデヴァーだ。

 

(物量で押しつぶして鎮火すればいいッ。学生を守るために意識を裂けば、奴の力はさらに削げるッ!)

 

エンデヴァーの周囲に出現した数体が彼を抑え込むために動く。

残りの脳無達も指示に従い動き始める。

 

状況は変わっていく。

 

「黒霧ッ、撤退だ!トゥワイスを拾え!」

 

彼の視線の先で、倒れたままの少年の背中が見える。

彼を守る赤白髪の少女も、数体の脳無を相手取り応戦してはいるが次第に押され始めていた。

 

そして、ついに一体の脳無がその隙間を抜ける。

 

肥大化した右腕が特徴の脳無。

その腕が大きく振り上げられる。

 

狙うのは少年の頭部であり――――脳無に僅かなためらいなど有る筈もない。

 

少女の息を飲むような声と同時に拳が振り下ろされ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その拳へ、ゾブリと奇妙な音と共に白い腕が突き刺さる。

 

 

「―――くははっ」

 

 

痛みに殆ど反応を示さないはずの脳無の体がビクリと跳ね、その白い腕から自らの腕を引き抜き距離をとる。

それは、命あるものとして当たり前の本能。

眼前の相手が、自分にとって、人に対しての捕食者であると本能が察していた。

 

 

 

 

対して、腕の持ち主はゆっくりとその上半身を起こす。

まるで写真のコマ送りのように、その姿が形を変えていく。

 

 

筋肉質だった体は細く、しなやかに。

少し日に焼けていた肌は、白く陶器のように。

 

体を這うように現れるのは赤い文様、その終着点である四肢もまた赤く塗りつぶされ先ほど脳無の腕を貫いたであろう爪がさらに鋭く伸びていく。

 

 

 

「勝った・・・っ、勝ったぞ酒呑!!何の争いかは知らぬが吾と手を組んだ酒呑に勝てるわけがあらへんよ・・・・・ん?」

 

 

 

 

 

緑のおかっぱ髪、その額にから黒い角が2本。

さらにその下から赤い角が2本ゆっくりと伸びていく。

 

 

 

 

 

「しゅ、酒呑?吾ひとりか?そもそもここは何処なん?・・・一人は嫌やわぁ」

 

 

 

その体へ、纏うように薄紅色の煙のようなものが集まっていく。

形作るのは紫の着物、しかし気崩すように着たそれにあまり意味など無いのかもしれないが。

 

 

 

 

 

肩を落とす、先ほどよりも小さくなったその姿に、脳無は首を傾ける。

その脳内でどのような思考があったのかは知れない、だが彼は最終的に右腕を振り上げ――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――おい。先ほどから何をじゃれついている?」

 

 

振り下ろされる前に、その腕は宙を舞っていた。

鈴が鳴るような声。だが、誰もが・・・脳無ですらその声に動きを止める。

 

ズンッ、と地面に突き刺さったのは彼が今しがた振るった巨大な刀。

巨大な骨を無理やり刀に打ち直したかのようなそれに手をかけながら、その赤い瞳で周囲を見据える。

 

 

 

「無粋やわぁ。次に動いた人からすこぉしずつ喰い殺してやりませい!!・・・・んん?」

 

 

 

ふわり、と唐突に頭上に表れた白い布が彼の体へと覆いかぶさった。




ざ・せつぞくさき


????「囲え!セタンタ、フェルグス。後方から回り込み制圧するぞ」
????「ヤ―!今はまだ見守る時デス!・・・それ以上暴れるならこちらにも考えがありマース」
????「どうして皆さま私を追って来られるのでしょうか?ふっ、ふふ、ええ。ええ。こういったこういった事も悪くない。いずれくる悦びを思えば・・・」
????「ねぇー!?だれか引っ張ってー!なんだか後ろから凄い音が聞こえるから急いでー!?」
????「どうだ酒呑!やはり吾の勘に違いは無かった。こちらからであれば確実にたどり着けるぞ!・・・む、なんだこの挟まっている奴は」
????「ふーん、ちょいと押してあげたらええんやないの茨木。うちの引っ張ってきた入り口と合わせたらきっとおもろい事になるわぁ」
????「おおっさすがは酒呑だ!では――――」
????「ここに居ましたか、虫がこそこそと姿を隠すときはろくなことをしません。今こそ切り刻み―――」
????「ファラオたるもの如何なる戦いにも背を向けては・・・」
????「ッよそ見を、しまっ。・・・な、なぜ汝はそんなところにおるのだ!?」
????「え?きゃあ!?お、お助けをメジェド様ぁ!」
????「あれ?誰か押してくれてる?あ、ありがとぉ―――――ぉぉぉ落ちるぅぅぅ!?」
????「ほな、さよなら。しわが増えるさかい、年増はさっさと寝たほうがよろしおす」

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