俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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再び誤字修正。
皆さま、ありがとうございます!


雑味

[雄英体育祭前-ホームルーム—]

「雄英体育祭が迫ってる!」

グルグルと全身いたる所に包帯を巻いた担任の言葉に一気に盛り上がる教室内の空気。

それに対し、爆豪勝紀は一人不敵な笑みを浮かべていた。

中学時代であれば出来なかった個性を全力で使用した戦いが、この雄英では出来る。

もちろん、競う相手はただ一人しかいない。

自分の後ろの席に座る暑苦しい帽子とマントの彼が爆豪にとっての追いこすべき敵であり、そのほかはただの有象無象でしかない。

強くたぎる様な感覚に強く手を握りしめ、威嚇するように牙をむきつつ後ろを振り向き

「どうしたメルセデス」

ぶつかり合った視線に思わず固まる。

「・・・なんでもねぇ。ただ、手は抜くんじゃねぇぞ。テメェは俺がぶっ殺すんだからな」

顔が暗いと、影があると。

小学校のころは大人たちにも悪霊に憑りつかれた少年、などど呼ばれていたがこうして近くで見るとよくわかる。

妙な恰好や話し方になってしまったが、瞳の輝きだけは昔と変わっていない。

ヒーローが絡むだけで腹が立つほど他が見えなくなるところは何も、やはり変わっていないと爆豪は思う。

「クク・・・悪くない。お前が強く望むのであれば身を焦がすような怨嗟によって生み出されたこの力、存分に振るうのも、そう・・・悪くはない」

高らかに笑い始めた彼の姿に、騒いでいた他のクラスメイトの注目も自然と集まる。

その中でも、特に一人妙な視線を向けている奴が居ることに爆豪は以前から気が付いていた。

体力測定、授業、USJいずれもヤツ・・・轟は緑谷の事を見ていた。

その視線は複雑な憎しみのようなものであり・・・そして別の何か、それこそ自分に近い感情を抱いているような気がしていた。

越えるべき何かを見るようなその視線。

だが、違う。アイツを超すのは俺だと、轟へ強い視線を向けて

「だが・・・それは叶わない願いかも知れない」

(あ?コイツ今更なに――――――)

 

 

 

 

 

 

「クハハハハハハハハハハハッ‼―――――――――・・・昨夜から我の個性が上手く発動しない」

 

 

一瞬の静寂のあと、教室が大きな怒号と爆発に包まれたのは当然と言えば当然であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ホームルーム後、相澤先生による簡単な質問を受け終えた緑谷の周りにはクラスメイト達が自然と集まり始めていた。

一番最初にその胸倉をつかみ上げ、額を擦りつけるようにメンチをきったのは当然彼女で

「おいクソデク‼テメエどういう事だオラァ‼?」

「爆豪ちゃん、落ち着いて。緑谷ちゃんが喋れないわ」

カエル少女がマイペースながらも止めた先でようやく解放された緑谷は、距離をとるように大きく後ろへ退がるように跳び

 

「だぁ‼?なにしてんだみどり―――――‼?」

勢いよく背後にあった机と、ついでに切島も巻き込みながら教室後ろの壁へと激突する。

緑谷にダメージがいかないよう何とか背部だけ硬化させ、受け止めた切島が慌てて彼の顔を確認すれば

「すまない・・・。我の体は鋼鉄の意思により固定された一つの概念であり今の衝撃程度であれば傷つくことはあり得ないのだ。それよりランサー、貴様は無事か?」

「お、おう、大丈夫だけどよ。なんかいつもより回りくどいっつーか・・・・らんさーって何だよ?」

「硬質化し尖らせた腕を振るい武器とする・・・まぎれもなくランサーだ」

散らかった机を直し、一部を自分のセロハンテープ状の何かで補強していた瀬呂がそんな会話から興味津々な様子で寄ってきて

「おー、なら俺はどうなんだ緑谷?」

「粘着状の物質を飛ばす以上、間違いなくアーチャーだ‼」

「いや待て緑谷君!アーチャーとは射手のことだろう?どう考えても弓を使う――――――」

「弓を使うアーチャーはアーチャーではない‼」

 

明らかに、今の彼はおかしいとここまできてようやくクラス全員が考えはじめていた。

「もともと回りくどい言葉を話されてはいましたが、ここまで理解しにくかったかというと・・・」

「ちょっと違う気がする。つか、見た目もなんか前と違うんじゃない?」

創造系女子とイヤホン系女子が首を傾げながらその姿を観察するが、なかなか答えは出ない。

となると、普段から彼の姿を見ている彼女にしかわからないだろうと視線は集まる。

勘の良さから皆がどういう意図でこちらを見ているのか察してしまった彼女は、周囲を威嚇しながらもやや頬を染めあたり前の様に答えようと

「ッ、何見てんだテメェら‼?だいたいコイツの普段と違う点なんてどう見ても―――――」

 

「手袋だ。緑谷は今までその黒い手袋を着けていなかった」

 

氷の様に静かな声が響いた。

今まで遠巻きに見ていた『彼女』が、ゆっくりと歩みを進め彼のそばへ歩いてくる。

肩まで伸びた赤と白の髪に、中性的な顔立ち。轟焦子は緑谷と顔を突き合わせるような距離でその顔を見つめ

「ネクタイもだ。その、たまに光るネクタイは昨日まで着けていなかったし、今朝家を出た際にはもうつけていた事は確認している。それにお前は自分の事を強く俺と呼んでいたが、今日は妙に偉そうな雰囲気で我と呼んでいる。今日までの分はボイスレコーダーに録音してあるから後で確認してもいい。それに、普段のお前であれば爆豪から距離は取らないはず。あいつが距離をとられた際に悲しむ顔を見ないよう最近は距離をむしろ詰めている。跳んだあの時の動きも普段お前は身構えるように体を丸めて後ろへ下がるが、今日は体を起こしたまま滑るように後ろへ跳んで――――――――――」

 

 

クラスメイト全員、唖然としていた。

約一名は気付かなかった幼なじみの気づかい、気恥ずかしさに悶え動きが取れなくなっていたが。

 

 

「そして・・・何よりお前の中の炎が今までで一番強く燃えているのを感じる。強く、熱く、憎たらしく、熱く、熱く熱く熱く熱く‼」

正気を失ったように惚けた顔のまま、冷気を放つ右手で緑谷の腕を掴む。

一瞬で凍り付いた彼の腕は、しかし黒い炎を放ちながら逆再生するかのように氷を溶かしていく。

「炎・・・憎い。お前の炎が全て――――――」

立ち昇り始めた炎が轟へ移る前にその体を麗日、芦戸、耳郎といった面々が羽交い絞めにして引っ張って行き・・・なぜか残されたのは緑谷と爆豪の二人のみ。

轟に気おされたのか男性陣はいつの間にか姿を消しており。

「・・・・てた、」

ぽつりと、俯きながら何かを口にした少女に緑谷は首を傾げる。

この幼なじみが人に聞こえないような声量で何かを口にするのは珍しい、なにかあったのではないかと近付き顔を寄せて

「俺も気付いて――――――無ぇ‼死ねデクッ‼‼」

ゴンッ、と顎へ掌底が入ると同時に爆発がその頭をかち上げる。

思ったよりも近くにあった顔に驚いて思わず爆破してしまった少女は赤面しながら、しかし知るものかと顔を背けようとして

「・・・・・は?」

吹き飛ぶ彼の頭から帽子が離れ、空中で溶けるように青い光の粒子となって消えていく姿に大きく口を開いたまま固まった。

「お・・・おいデク?お前、ぼ・・帽子」

ふわり、と吹き飛ばされる事に慣れたように空中で体を一回転させ着地すると、彼はいぶかし気に帽子よりも自らの体を見下ろす。

「・・・妙だな。先ほどよりも体の動きの制御が楽なようだ」

「んな事よりも帽子だ‼い、痛みはねぇのかよ・・・」

この前、激痛に悶えていた姿を見ていただけにおろおろと様子を窺い

「問題ない。この身に痛みは襲い掛かりはしなかったが・・・これは」

先ほど指摘されるまで気付かなかった手袋を脱ぎ捨ててみれば、先ほどと同じように淡い光となって消え去る手袋。

次いでマント、ネクタイと外してしまえば素肌となった手のひらに黒炎を浮かべる。

時折揺れるが、想像通りの形で保たれるその炎に自分の考えが正しかったことに頷き。

「僅かだが、分かった気がする。先日の抗いのせいであの人との接続に何かが起きたのかもしれない」

だが、これならば今まで出来なかった力の制御が

「ガガガガガガッ‼?」

装備を外した部位から黒炎が立ち昇り、焼けつくような痛みを与えると同時に捨てたはずの装備を形作る。

「じゃ・・・弱体化するだけでここまで苦悩する必要があるとは」

帽子を再構築するために頭部を巻き込む様に起きた炎により与えられた焦熱感にふらつきながら、彼は大きくため息をついた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

[雄英体育祭前-放課後—]

教室の前でザワザワと騒ぐモブ共と、それに驚いた丸顔が騒いでやがる。

ヴィラン襲撃に耐えたクラスを偵察に来たつもりだろうが、話しかけもせず遠巻きに見ているだけの時点で程度がわかる。

どいつもこいつも気にする必要もない、ただのモブだ。

「失せろモブ共‼帰れねえだろうが!」

今日は一日、ややこしい事が起きすぎて頭が痛い。モブに構う時間はねぇ。

「どんなもんかと見に来たがずいぶん偉そうだなぁ」

「あぁ‼?」

目つきの悪いモブが何やら因縁をつけてきやがった。

普通科がどうの、リザルトがどうのと口にしちゃいるが、知るか

「それこそテメェ等の都合だ。俺はただ優勝するだけだ、ほかの残念賞はモブ共にくれてやるよ」

天辺をとる。

強く拳を握り、目つきの悪いそいつの隣を通り過ぎようとした瞬間

 

 

 

 

 

 

 

「クハ・・・・クハハハハハハハハハハハッ‼!降りた、来た、そして弾けたぞ雑種共‼」

背後からアイツの声が響いた。

暑苦しい装備を全て着込んだまま、目を黄金色に輝かせ狂気に満ちた笑いを浮かべる姿にモブ共は再び騒ぎ始めるが、1-Aの奴らはもう気にしてねぇ。

今日一日、10分に1回はあのテンションで騒ぎやがった以上、当然だ。

周囲を気にせず歩きはじめるアイツに、人だかりは分かれていくがあの嫌な目つきの奴だけは退くつもりはないらしい。

「っ、・・・雑種?ヒーロー科がこんな奴らばかりだと思うと嫌になるな。これなら、慢心してるその足元をごっそりすくって――――――」

 

「慢心・・・慢心と言ったか‼?そうだ、それでいい、慢心せずして何が復讐鬼か‼」

 

まるで意味が分からねぇ物を見るような目で周囲のモブが見ているが、それも当然だ。

以前にも増して言語機能が狂ってやがる。

堂々と、避けていく人だかりの中心を歩きながら、高らかに奴は叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――ああ、すまない‼空気が読めない復讐鬼で本当にすまない‼」

 

 

 

 

俺の幼馴染が今日も壊れていく




エドモン(『混戦中に妙な言語がまぎれ込んだようだ。だが、性能は変わらん。気にする必要はないか』)




「クク・・・悪くない。お前が強く望むのであれば身を焦がすような怨嗟によって生み出されたこの力、存分に振るうのも、そう・・・悪くはない」
(うん。かっちゃんがそう言ってくれるなら、僕も頑張るよ!)

「だが・・・それは叶わない願いかも知れない」
(でもちょっとだけ問題があってさ)


「クハハハハハハハハハハハッ‼―――――――――・・・昨夜から我の個性が上手く発動しない」
(あはは・・・なんだか個性の制御が前よりできなくなってるんだ)

「すまない・・・。俺の体は鋼鉄の意思により固定された一つの概念であり今の衝撃程度であれば傷つくことはあり得ないのだ。それよりランサー、貴様は無事か?」
(だ、大丈夫。けっこう丈夫なんだ、この体。それよりも切島君は大丈夫?)

「高質化し尖らせた腕を振るい武器とする・・・まぎれもなくランサーだ」
(高質化して背中を守ったんだ・・・さすが切島君)

「粘着状の物質を飛ばす以上、間違いなくアーチャーだ‼」
(え。瀬呂君はたしか粘着性のテープを使う個性だったよね)

「弓を使うアーチャーはアーチャーではない‼」
(アーチャー?射手?)

「・・・妙だな。先ほどよりも体の動きの制御が楽なようだ」
(あれ?さっきより体が動かしやすい)

「問題ない。この身に痛みは襲い掛かりはしなかったが・・・これは」
(いや、全然痛くなかったよ。それよりも・・・)

「僅かだが、分かった気がする。先日の抗いのせいであの人との接続に何かが起きたのかもしれない」
(ちょっとだけ、分かった気がする。昨日、無理に抵抗したせいであの人との接続に何か起きたのかも)

「ガガガガガガッ‼?」
(あっつ!?)

「じゃ・・・弱体化するだけでここまで苦悩する必要があるとは」
(加減するだけで、こんなに大変なんて・・・)

「クハ・・・・クハハハハハハハハハハハッ‼!降りた、来た、そして弾けたぞ雑種共‼」
(わかった、わかったよ皆!これなら上手く個性を使えるかも!)

「慢心・・・慢心と言ったか‼?そうだ、それでいい、慢心せずして何が復讐鬼か‼」
(慢心・・・?慢心はした覚えはないけど・・・でも、僕はやらなきゃいけないことに気付いたんだ)


「――――ああ、すまない‼空気が読めない復讐鬼で本当にすまない‼」
(ごめんね!集まってるのに申し訳ないんだけど通してもらうよ!)

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