俺の幼馴染が壊れた   作:狸舌

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いつも誤字報告ありがとうございます!


伝えたいこと

[雄英体育祭-トーナメントガチバトル-]

長かった。

アイツはああ見えて知り合いに力を振るえるような奴じゃねえ。

授業であろうと拘束するためにまずは無力化をはかるような手段をとってきやがる。

だが、俺が望むのはそんなモノじゃねぇ。

全てをもって奴をねじ伏せて、理解させてやる。

 

 

俺はテメェに―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「オイオイどうしたオーディエンスたち‼?反応がシビィだぜ!?」

プレゼント・マイクのセリフももっともなほど静まり返った場内だが、それも当然と言えば当然。

現在フィールドに立つ片方は先ほどプロも真っ青な戦いを見せ、片方は得体のしれない雰囲気を出すスーツの少年である。

2人に対する期待感、そして不安感が妙な緊張感となり場全体を包み込んでいた。

だが、肝心の2人はそのことを気にしている様子は微塵もない。

 

爆豪 勝紀は普段の姿からは想像もつかない程静かに対面の彼を見つめ

 

緑谷 出久は〈緑谷エドモン20%〉スタイルで合図を待っていた。

 

もうじき、スタートの合図が鳴る。そんな空気の中で、口の端を吊り上げた爆豪が小さく鼻を鳴らす。

「勝利の女神にキスをもらったってか? 鼻の下伸びてんだよクソデク」

未だに先ほどの件が脳裏に残っていたらしい。

「普通の少女に貰った贈り物だ。当然ご利益があるとは思えんが、俺にとっては女神などに貰うより格別にありがたい」

「ッ、・・・そうかよ、足元すくわれねぇように鼻の下縮めておけ」

 

舌打ちした爆豪が、つまらなそうにコンクリートの地面に視線を落とす。

一瞬、無言の間があり、ふいに顔を上げた彼女が

「なぁ。俺が勝ったら、来週俺と――――――」

 

 

「じゃあ行くぜぇ‼爆豪VS緑谷ァ‼――――――START‼」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

かっちゃんの出方なら、必ず速攻を仕掛けてくる。

そう思っていたのだが、何故か顔をしかめたかっちゃんは距離をとるように後方へ跳んだ。

少し予想とは外れたが、汗が出るほど威力を増すスロースターターのかっちゃんに時間を与えるつもりはない。

 

背中から出るジェット機の噴射のような謎の力で一気に体を射出すれば、前の試合と同じように右手から黒炎を放つことで視界を奪う。

同時に、右側面へ回り込む様にステップを踏み狙うはかっちゃんの真横。

黒炎の壁を突き破るように腕をねじ込み、至近距離から炎を放とうとして

 

 

 

 

 

グッ、と手の平が胸元に押し付けられる。

「――――読めてんだ・・・出直して来やがれ‼」

 

BOOOOM‼

ゼロ距離で起きた爆破に、体が揺れる。

次いで、後方へと吹き飛ばされる感覚が続きようやく自分の体が弾き飛ばされた事に気付いた。

何とか宙で力を放出し姿勢を立て直せば、胸元に出来た焼け焦げた跡と全身に走る痺れるような痛みがダメージの大きさを伝えてくる。

 

完全に無防備な状態で喰らったカウンターだけど、冷静になれば前の試合をかっちゃんだって見ていたはずだ。

つまり、避けられるのも当然。

それなら―――――

 

出力を変える。手袋と、黒いネクタイを着け〈50%スタイル〉へ移行する。

ギリギリ制御可能な高出力の炎と、柔軟さは少し下がるけど速度の上がった移動。

そして何より

 

「増えるんだろ。やってみろよ」

 

やはり、さっきの試合で見られたからか読まれてる。

でも、

 

さっきは1人。でも、今回は違う。

目では確実に追いきれない動きでかっちゃんの懐へ入り込もうとするが、少しでも移動以外の動きをとると確実に見切られてしまう。

僅かにしゃがみこむ動きをしただけでかっちゃんの手は既にこちらの頭を捉えている。

 

思考を加速する。加速した思考が肉体を凌駕する。そして、凌駕した思考に肉体が再び追いつく。

 

結果、何故か増える。

 

 

かっちゃんの背後に2人、本来なら存在しないはずの分身が現れその背中に攻撃を仕掛けようとする。

 

 

同時に―――――こちらの頭部を狙っていたはずのかっちゃんの手が、反対の手と組み合いゆっくりと持ち上げられる。

聞こえるのはどこか苛立ったような、かっちゃんの声。

 

「だからッ・・・読んでるって言ってんだよクソデクがぁ‼‼」

 

勢いよく叩きつけられた両手から、地を割るような爆発が全方位へと放たれる。

分身は掻き消え、残った僕の体は爆破の衝撃とコンクリート片に叩かれ再び吹き飛ぶ。

場外へ跳び出そうになる直前、コンクリートへ足を突き刺すようにして止まり、空になった肺に空気を入れるため荒い息を吐く。

50%状態のため耐えてはいるが、さきほどの状態で受けていたら確実に瀕死の状態に追い込まれていた。

 

試合開始前の予想通り、かっちゃんの反応速度は速い。だけどそれを差し引いてもあまりに早すぎる。まるで―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イズク君の動きを見て反応してるわけじゃないな。確実に、読み切っているからこそ超反応が活きている」

「あら轟さん、体はもうよろしいのですか?」

観客席に戻りながら、思わずつぶやくと隣に座っていた黒髪の女子が話しかけてきた。

「ああ、もう大丈夫。や・・・やおやさん」

「惜しい! 八百万ですわ、轟さん。少し憶えにくい苗字ですが、これから憶えていっていただけると嬉しいです」

「・・・悪いな。大丈夫、もう忘れない」

今まで見てこなかったつけがこれだ。クラスメイトの苗字すらうろ覚えなんて、今まで本当にどうかしていた。

「それより轟ちゃん、読み切ってるってどういうこと? 爆豪ちゃんってそこまで相手の動きを予想して動くタイプなのかしら」

「読みはするが、最終的にはセンスと反応速度で戦うタイプだが今のカツキの動きは違うと思う。何通りも頭の中で考えているからこそ、超反応がさらに早くなっている。あー・・・・うすい、さん」

 

「ツユちゃんと呼んで。・・・それで、緑谷ちゃんにキスしたのはやっぱりそういうことなのかしら?」

「えっ・・・」

「えー!!? 轟ちゃん緑谷とそんなことしてたの‼」

ツユちゃんが耳元で聞いて来た言葉に、また頬が熱くなってくる。

後ろから身を乗り出していた丸顔の女子が低い声を上げて、触覚のある女子がぐいぐいと距離を詰めてくる。

 

「へー、意外。あんた奥手そうだけど、すごいね。・・・・それで、緑谷のどこら辺が良いの? やっぱり強いトコロとか?」

 

自分と同じようにやや頬を赤らめながら、平静を装いつつ聞いてくるイヤホン耳の女子に言われ、口をつぐむ。

もちろん、良い所なんて短い付き合いだけど結構出てくる。

でも、そのなかで選ぶとするなら・・・。

 

爆音が響くステージへと顔を向ける。

先ほどと展開は変わらない。明らかに動きを読んでいる爆豪が一撃を浴びせ、その予想の域を出られない緑谷が吹き飛ぶ。

変わらない流れに、〈弱い者いじめ〉なんて馬鹿なことを言い始めるヒーローも出始めている。

 

でも・・・・彼の瞳はまだしっかりとカツキの方を見ているのだ。

負けそうでも、しっかりと前を向いて。

 

ワタシが勝手に過去を話した時もそうだった。

あの時も、こんなほとんど話したことも無い相手にも向き合ってくれた。

 

 

 

「大切な時に逃げないで、ちゃんと目を見てくれるところがワタシは大好きだ」

 

 

そう自分に確認するように呟いて顔を上げる。

そうしたら、何故か八百万もツユちゃんも、周囲の女子が顔を赤くしていたのが不思議だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

予想以上のタフネスに、爆撃を食らわせ続けていた右手がビリビリと震えやがる。

それでも、ようやくアイツの体がグラついてきやがった。

「オラ、かかって来いよデク‼もう終わりか!!?」

煽るように口にしながら、次の手を予想する。

何百回も、何千回も脳内でシミュレーションしてきた。

 

これだけは断言できる。俺以上に、アイツを知っている奴はいねぇ。

 

「・・・どうやら、俺の動きは全て予測されているらしい。この戦いの為、体育祭の中でのデータから考察したのか・・・。いずれにせよ、そこまでお前に評価してもらえていた事は――――――――」

 

「・・・・あぁ!!?」

 

コイツは、いま何を言った。

体育祭? それだけなわけが無ぇだろうが‼

 

「大昔からだクソデクッ‼俺はずっとテメェだけを見てきたッ‼テメェがどう考えるかも、動きの癖も、好きな物も嫌いな物もッ、テメェの事ならテメェ以上に分かるんだよ‼」

 

強く、拳を握る。

コイツが、実は自分自身の自己評価が低い奴だってことも知っている。

こうして言われて、そこまで俺が見ていた事にだって驚いているはずだ。

 

「怖気づくなら今の内だ。逃げんならその背中、爆破してやるよ‼」

 

言っている自分が良くわかっている。

緑谷 出久は逃げない。力があろうが無かろうが変わらない。

逃げちゃいけない場面では、アイツは

 

 

 

 

 

 

 

「――――――ありがとう、かっちゃん」

それこそ大昔。物心ついてすぐ、初めてあった頃の呼び方で呼ばれて思わず固まる。

目に入るのは、先ほどまでの焦った姿ではなく薄く微笑んだ、でも何かを決めたような姿。

 

 

ブワリ、這い出すようにとアイツの体から黒い炎が溢れ出す。

体に纏わりついたそれはマントへと変わり、次いで紫電が全身から放出されていく。

 

強い気配。先ほどまでの比ではないそれに、観客が騒ぎだしているが俺からすればまだ予想の範囲内。

むしろ

 

「100%ってヤツだろうが、んなモン昔から見てんだよッ‼」

 

火力は跳ね上がるが、単調になる動きはむしろ読みやすい。

 

爆破の勢いで飛び出し、フェイントをかけながら奴の斜め後方から拳を突き入れる。

力に振り回されたアイツではこの程度も防げず―――――

 

 

 

 

 

 

 

トンっ、と肘が俺の拳の上を叩いた。それだけで、姿勢が下方へ崩れる。

(ありえねぇ‼精密な動きは出来ねぇ筈だッ、だがこれはッ‼)

 

腰を下ろしたアイツの手の平が静かにこちらの胸に当てられる。

ギュンッ、と音が聞こえそうなほどに捻られていく奴の足が見えて、次に腰、体幹、それが腕へと伝わり

 

 

「ッ――――――カ、ハッ・・・!!?」

気付けば、仰向けに倒れていた。

頭からつま先まで痺れるような衝撃が駆け抜けて、起きようと体を動かせば強い痛みが襲いかかってくる。

だが、痛みよりも今は

(アイツの動きじゃねぇ。まるで映画で見た中国拳法だとか、そんな動きだったッ。力任せじゃあり得ない、そんな・・・)

 

 

 

 

 

 

 

「闇の復讐鬼ここに参上ッ‼クハハハハッ、・・・・主よ、しばし目を瞑ってもらおう‼」

普段とは違う口調のアイツの言葉から情報を得ようと体を起こし耳をすました瞬間、先ほどの流水のような気配から岩を砕く様な激流へと気配が変わる。

反射的に飛び退き

 

 

 

先ほどまで自分が座り込んでいた場所へアイツの拳が突き刺さっていた。

拳の周囲はクレーターの様に窪み、ヒビが飛び退いたこちらの足元まで迫り

 

 

「鋭く行こうかッ‼」

何とか、顔を下げ姿勢を深くする。

先ほどまで頭部があった場所を、轟音を立てながら拳が通過していくのを感じ、全身から嫌な汗が噴き出す。

 

「重く行かせてもらおうッ‼」

声に何とか反応したころには、次の拳が下から突きあがるように振るわれる。

BOOOM‼とカウンターとして爆破をその拳に叩き付けるが、勢いを全く失わないその拳が鼻先をかすめる。

 

「激しく行くぞッ‼」

ふらりと、拳圧によろめいた体がバランスを崩した瞬間、すでに拳が顔の横へ迫っていた。

何とか左腕を盾にするが、アイツのパワーはそもそも受け止めきれるモノじゃねぇ。

軋む音を立てる腕ごと体が弾き飛ばされ、宙を舞う。

落下し、体が叩きつけられる寸前に爆破により体を浮かせ踏み止まるがダメージの大きさに変わりは無い。

灼熱感のある痛みを伝えてくる腕。それを確かめながら、見つめるのは奴の動き。

 

(・・・ッ、根本的な、攻撃に移るタイミングは変わっちゃいない。ギリギリ動きについて行けてるのもそのおかげだ。なら・・・何が変わった)

 

アイツはクソデクだが、なにかイレギュラーが―――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

緑谷 出久の脳内は圧倒的な情報量に処理の限界を迎え始めていた。

きっかけは、先日の個性に対する考察と、最近の座から来る声の増加だった。

 

日々増えていく声、自らの繋いだ座へのパイプは絞っているはずだ。それでも、聞こえる声は増えていく。

つまり、少しずつだが自分の上限(キャパシティ)が増えてきているのではないかという事。

 

ならば、余ったスペースへ他の何か・・・例えば座の人たちの思考や力の一端を入れることが出来るのではないか。

 

(『不可能だ。英霊の域に達したスキルや、ましてや宝具など入る余地は無い・・・・筈だったが』)

 

彼の中で、同様に荒れ狂う奔流の中に流れる木の葉をすくい上げるように情報を選び取りながら巌窟王は笑みを浮かべる。

予想を裏切る彼の、あの日から変わらない不思議な力にはいつも驚かされると。

 

(『まさか、スキルに至る前の英雄の技術のみを得る、とはな。これなら確かに力自体は少ないが・・・英雄の技術とは数々の経験によって裏打ちされたものだ。その情報量だけで脳が機能停止する可能性もある』)

 

それでも、彼は選んだ。ならばオレがやることは一つだと彼の共犯者は静かに笑う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

(ッ、読み切れねぇ‼確かに動き始めはクソデクの癖に、そこからコロコロ動きが変わりやがる‼)

顔面を狙うように下方から持ち上がってくる膝に、何とか手の平の動きを合わせ爆破。

かろうじて距離をとる。疲労からか、それとも先ほどからの一撃のどれかで脳を揺らされたか。

震える体を意思のみで立たせ、相手を見据える。

勝ちたい。そして、それよりも

 

「――――俺は強ぇ。・・・強くなったッ。テメェに食らいつくぐらい強くなったんだよ・・・出久」

 

あの日、川に落ちた自分に差し伸ばされた手が今さらになって頭にこびりついていることに気付く。

 

「もう、テメェに助けられるような爆豪勝紀は存在しねぇッ‼後ろじゃねぇんだ、俺は、テメェの隣を歩くためにヒーローになるんだよ‼」

 

ヘドロヴィランの時に実感した。コイツにとって俺はまだ守る相手でしかない。

なら、やはりヒーローになるしかない。

(それが俺の――――――ッ‼)

 

 

 

強い爆音を響かせ、爆速ターボで一気に詰め寄る。

残る体力は少ない。決めるなら一撃。

 

 

身を屈め、彼前で瞬時に起き上がる。

フェイントも混ぜた右拳は、真っ直ぐにデクの顔面へと進んでいく。

同時に、個性を発動させる。

僅かに拳の形を変え、一点突破の指向性を持たせた爆破を放とうとして

 

 

彼の右腕が、振り払うようにその拳を受け流す。

大した技術も無いそれと、顔を逸らして何とか避けたその姿を見た瞬間、なぜだかいつものアイツが戻ってきた気がして

 

 

強く、拳を握りしめる。自爆を覚悟した一撃を放つ。

ひと際頑丈な手は無事だろうが、余波にさらされる自分の体はダメージをまぬがれることは無いだろう。

だがそれでも、最後までぶつかりたいと考えて

 

 

 

 

 

自分の体が、大きな何かに包まれているのを感じた。

それが、いつの間にか自分の背を追い越した生意気な幼なじみの腕と体だと気付いて

(・・・また、守られるのかよ。・・・ふざけるな、俺はッ‼)

 

先ほどのデクの拳により軋む左腕を動かす。激痛が脳へ一直線に伝わるが知った事かと力を込める。

爆破直前の右手の向きを前方へ向けなおし、左手は下から添える。

同時に、右手から放たれた爆発は膨れ上がり―――――左手からの爆破により指向性を与えられる。

 

上空へ広がるような爆発を見つめながら、力を使い果たした左腕が重力に従い落ちていくのを感じる。

(くそっ・・・あたまが、もう)

溶け落ちていくような思考。その中で、考えるのはただ一つ。

負けたくない。

 

しかし、誰に。何をして。とろけた頭は、一番脳裏に焼き付いている悔しい記憶を提示してくる。

それにぼんやりと従いながら、まだ僅かに力の残っていた右手で目の前にある顔を掴み上を向かせ

 

 

 

 

 

その唇の端に、ほんの僅かに自分の唇を触れさせて

 

「・・・へへッ・・・どうだ、これでおれの勝ちぃ・・・・」

 

プツリと、完全に意識が途絶えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺せえぇぇぇぇぇぇッ‼あのクソ野郎だけは絶対に殺してやるッ‼」

「あー・・・爆豪君。表彰式だからすこし静かにね」

表彰台の前で、肌に優しい拘束用のテープで縛られたまま暴れる爆豪に対してオールマイトが苦笑する。

だが、彼女が怒っているのも無理はない。

先ほどから

 

「『・・・へへッ・・・どうだ、これでおれの勝ちぃ』・・・ブハッ‼なにあれ、あのヴィラン顔でヒロインのつもり!!?」

「―――――――殺す、粉々に砕いて・・・・むぐッ!?」

物間 寧人が彼女の真似をしているのだ。

再度暴れはじめた爆豪の口へ、謝罪しながらカエル少女が猿ぐつわを噛ませ、元凶の物間はB組の拳藤の手刀により意識を奪われる。

 

 

 

「こほんっ。では表彰に移るんだけど・・・三位の飯田少年は家庭の事情により早退のため・・・。二位の常闇少年っ‼」

 

「いやぁ、常闇の黒影凄かったなぁ‼まさか緑谷の炎を飲み込んであんな姿になるなんて思わなかったぜ‼」

「緑谷の技も凄かったな。こう、手のひらをぶつけたらあの黒影の巨体がぐわーって吹き飛んでコンクリートの柱にぶつかってさ!」

切島と上鳴が興奮した様子で話す中、オールマイトは常闇の首にメダルをかけその体を優しくグッと一度抱きしめる。

 

「おめでとう!冷静な判断力と黒影とのコンビネーションは見事だった。ただ!今回学んだだろうけど、個性による力は状況や相手によって良くも悪くも変化する。自力を鍛えて択を増やすことで君はもっと成長できる」

「・・・御意」

 

「そして・・・」

表彰台の一番上。

そこに立つ彼に改めてオールマイトは向き直る。

思えば、あのヘドロヴィラン事件から不思議な縁が続いていた。

どれが本当の彼なのか悩んだ時もあったが

 

「一位おめでとう!緑谷少年。強い個性だけじゃない。君は目の前の相手と常に真摯に向き合い、考え勝利を掴んだ。それだけ強力な個性に溺れない強さが、まさに君の個性だろう。・・・で! 君の個性。複雑だけど少しだけ分かってきた気がするよ。なので的外れかもしれないが一つだけアドバイス。人の歴史は力を受け継いできた大きな流れだと捉えられる。決して奪ってきたわけじゃない。脈々と受け継がれる知恵や、この命は先人からつながるバトンってわけさ。だから緑谷少年、君の個性は人が誰でも持つ力がほんの少し大きくなっただけなんだ。・・・難しく考えすぎちゃいけないよ」

「っ・・・ファオール、マイト神父」

 

 

予想が正しければ彼は、この自らの身に宿る先代達の想いの何十倍、いやそれ以上の数の意思に今後翻弄されるだろう。

それでも、彼ならば潰れる事無くきっと立派なヒーローになってくれるだろう。

 

「さて‼では最後に一言!皆さんご唱和ください!せーの―――――」

 

「プルス『お疲れさまでした―――――‼』〈ローマッ‼〉ウルトラじゃねぇのかよ‼」

「ああ、いや・・・疲れたかと思って・・・ゴメンネ‼」

 

輝く彼らの未来に、大いに期待して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・失礼します」

ノックした手が震えている。

あれだけ彼らから勇気をもらったのに、ワタシの臆病さは変わらないらしい。

それでも、踏み出す力の強さと・・・諦めの悪さをあの日確かに知ったんだ。

返事のない扉を、ゆっくりと開ける。

まるで牢獄の扉の様に重く感じるそれをあけ、それでも俯いた顔を上げることは出来なくて

 

ふわりと、懐かしい母の香りが鼻をくすぐった。

頭を撫でてもらったり、膝の上で髪を梳かしてもらった時にかいだ匂い。

 

重かった頭が不思議と、軽く上がる。

上げた視線が、同じくこちらを見つめていた母の視線とぶつかる。

あの時のような怯えた目では無くて、映っているのは悲しみと強い後悔の色。

 

 

「っ・・・ごめ、んなさい。焦子、私・・・ずっとあなたに――――」

「お母さん」

 

ちがうんだ。ワタシも謝りたいけど、今日したいのは別の話。

 

 

 

「・・・お母さんワタシ、好きな人と大切な友達が出来たんだ」

再会の日ぐらい、楽しい話がいい。彼のように、彼女のようにしっかりと母と向き合ってワタシは笑うことができていた。




ざ・とくべつるーむ-男部屋-
????「カァーッ‼おい、誰かあの坊主に槍でも棒でもわたして来ようぜ。拳もありっちゃありだがケルト流の槍術のほうがやっぱり見ごたえがあるだろうよ‼」
????「オジサンとしてはあれぐらいが適切な気もするがね。技術の受け渡しが出来たとしても、英霊の力レベルに昇華したものは渡せないみたいだし持て余す確率が高い気がするねぇ」
????「ならば、ケルト式スクワットによりまずは全身を鍛えることから始めようではないか。なに、すぐに立派な体つきになること間違いない!」
????「だが、クー・フーリンの考え自体は悪くない。お主らは少し難しく考えすぎておる。要は技術として流す体の動かし方に細工をし、槍を使う骨格と筋肉にその場で作り変えてしまえば――――――」
????「ッ、なんでここに居やがる‼?」
????「ああ、私達の世界で人理が焼却されかかったために一時的に登録されたらしい」
????「・・・・はぁ!?」





「普通の少女に貰った贈り物だ。当然ご利益があるとは思えんが、俺にとっては女神などに貰うより格別にありがたい」
(そんな特別扱いしたら変だよ。轟さんは僕達のクラスメイトで・・・たしかに、ちょ・・けっこう嬉しかったけど)

「・・・どうやら、俺の動きは全て予測されているらしい。この戦いの為、体育祭の中でのデータから考察したのか・・・。いずれにせよ、そこまでお前に評価してもらえていた事は――――――――」
(かっちゃんには全て読まれてるッ。ここで勝つために体育祭の中でデータを集めたんだ、きっと。・・・でも、そこまでの敵として認めてもらえてるってことでも―――――)

「――――――ありがとう、かっちゃん」
(――――――ありがとう、かっちゃん)

「闇の復讐鬼ここに参上ッ‼クハハハハッ、・・・・主よ、しばし目を瞑ってもらおう‼」
(闇の・・・ッ、頭が割れるように、痛む・・・。しゅよ・・・目を・・・)

「鋭く行こうかッ‼」
(勝つんだ・・・)

「重く行かせてもらおうッ‼」
(期待に応えるために・・・)

「激しく行くぞッ‼」
(その先に行くために・・・ッ)

「っ・・・ファオール、マイト神父」
(オールマイトがこんなに親身になってくれるなんて、なんて幸福なんだっ。はやくノートに今の言葉を書き残して、しっかりと読み返さないとっ)

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