そもそも曜日感覚を間違って今週とか書いてたやーつ。
それはいつもと変わらぬ、いまだに明けぬ春休みのある日の事。
アザゼルがあらゆる手を尽くして広げに広げた地下のトレーニングルームはもういっそ上に載ってるの飾りじゃね? と言わんばかりの広さに広がり、その中でいつも通り修行に励んでいるとアザゼルが声をかけてきた。
「泰虎。今日予定空いてるか」
「ム? ああ、特に予定はないが」
「そうか、じゃあ行くぞ。冥界」
「……は?」
つい素がはみ出てしまったのも束の間あれよあれよと拘束され、魔法陣に放り込まれ、紆余曲折を経て見知らぬ大地に立っていた。
「……は?」
「おーう、呆けてる暇はねーぞ。スケジュールつめっつめのお忍び超弾丸ツアーだ」
「冥界は悪魔の土地じゃないのか? 堕天使が来ていい場所なのか」
「だから言ってんだろお忍びって。あと堕天使も拠点は冥界だから居て悪い訳じゃねぇさ。……まあ今から行くのは悪魔領だから国境侵犯行為だけどな」
「おい」
「だーーーいじょうぶだって! ほれほれ、行くぞ!」
そういうと翼を広げて飛んでいくので、その後ろを響転を使いながら追いかけていく。
「ふっつーについてくるなお前…… いやわかってたけどよ」
「解っているなら言うな。それよりこんな移動方法でばれないのか。お忍びなんだろう?」
「おっと、そうだった。これ付けとけ」
投げられたものをキャッチする。それは金属製のブレスレットだった。
「まあ簡単な認識阻害だ。意識して見なけりゃわからん程度には意識をそらせる。悪魔の町を横切ることになるが空を飛べる奴なんてそこら中にいるからな。そうそうバレねぇだろ」
「アバウトだな……」
「まあ一番ばれそうな奴に今から会いに行く訳だしあんま気ぃ張ってても仕方ねえって話だ」
「ここまで来てしまったからどうこう言う気はないが、なぜ連れてきたんだ」
「名目上護衛だな。本来ならシェムハザを連れてくる所だが、あいつがいるとなんとなくかたっ苦しくなるからなぁ。今日は別に公式の訪問って訳でもねえし。あとは、まあ顔合わせだな。する必要がある訳でもねえが、いざって時に前もって知ってんのと知らねえのじゃ話は違うからな」
「……?」
「まあ会えばわかる…… いやわかんねぇかもしれねぇけどとりあえず会っておいて損はないって話だ」
「そうか」
「……いつも思うがお前のそのよくわからないけどとりあえず納得するところよくないと思うぞ」
「ム、俺だって色々と考えている。だが考えて解らないことでいつまでも悩んでいても仕方ないと思うだけだ」
「お前の思考回路は究極の単純型過ぎて逆に読めないところあるよな」
「そうか?」
「……はぁ、ったく。とにかく行くぞ。時間が無いってのは本当だからな」
呆れた顔をしながら速度を上げるアザゼルの背中を解せない気持ちで追いかけていった。
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「よう、久しぶりだな」
「ああ、久しぶりだ。しかし一体どういう風の吹きまわしなのかな? アザゼル」
いかにもお偉いさん方が密会するためにあると言わんばかりの隠れ家的レストランの様な場所に着くと、そこには燃える様な赤い、いや紅い長髪の男とその後ろに控えるように立つメイドが俺たちを出迎えた。
その目はなんとなく敵意とまでは行かないが警戒しているように見えた。
「そうピリピリするなよ。たまには顔でも見とこうってトップとしての判断だよ」
「君にそんな殊勝な目的で動くような真面目さがあるとは思えないけどね」
「全くだ」
「おい!」
「余りにももっともなことを言うので思わず同意してしまった」
「そういうのは心の中でこっそり思うことだ」
「ム、そうか。今度からは気を付ける」
「今度がないように心がけろ!」
「無理を言わないで欲しい」
「喧嘩売ってんだな? 喧嘩売ってるんだよな?」
そんないつも通りのやり取りをしているとクハッと噴き出す様な笑いが聞こえてくる。
「ハッハッハッハ! いや、すまない。立場上どうしてもね。警戒しない訳にはいかないからな」
「ハッ、吹きやがるぜ。思ってもねぇことを並べるのは悪魔の十八番ってか?」
「そういうのは君の得意分野だろう?」
黒い笑いで腹を探っている。そういう疲れそうなのはぜひとも他でやってほしい所だ。
「さて、お遊びはこの辺にしてだ。この愉快な彼は何者なのかな」
「今日の目的の半分くらいはこいつだ。泰虎、軽く自己紹介しとけ」
「ム、茶渡泰虎だ」
「サーゼクス・ルシファーだ」
よろしく、と言いながら握手をする。するとサーゼクスと名乗った男は違和感を感じたように眉を少し上げた。
「アザゼル、今更だが彼は……」
「おう、根っからの人間…… だと思うぞ。うん」
「何故そこで言いよどむ。しかし、よく鍛えているね。それに、これは解りづらいが神器の気配か。やれやれ、アザゼル。堕天使陣営が警戒されている理由がわからない訳でもあるまい?」
「ハッ、てんで検討が付かねぇな。教えて欲しいもんだぜ。この清廉潔白な身の上の俺が戦争を望むなんてあるわきゃねーだろうに」
「「寝言は寝て言え」」
「なんでお前ら息ぴったりなんだよ……」
「日頃の行いを鑑みるんだな。おっとグレイフィア、そんな目で見ないでくれ。さて、こうして話しているのもなんだ。料理を持ってきてもらおうじゃないか」
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食事をしながら俺についてのことを一通り話し終えた。
合間合間に政治的なことが挟まるので俺はちっとも話についていけなくなったのでただ黙々と食事に舌鼓を打っていた。
さすがは堕天使総督(笑)と魔王(話を聞くところによるとそうらしい)の密会場所に使われる場所だけあってうまい。
うまいが、これは人間が食べても大丈夫なものなのだろうか。……これだけ食べておいて今更か。
「なるほど、駒王町に」
「おう。後追いでバレてもめんどくせえから一応な」
「なるほど、確かに無用な警戒をするよりはいい。しかし」
にやにやとした表情で
「……なんだよ」
「いや、ずいぶんと目をかけているようだなとね。アステカとの話もこちらでは随分と警戒したものだったが杞憂だったことが分かっただけでも収穫さ」
情報の出所的に言いふらす訳にもいかないがね、と言いながらこちらを見てきた。
「君の通うことになっている駒王学園とその周辺は今僕の妹が管理している。こちらから干渉無用と口出ししてもいいが、兄妹とはいえ魔王の私から一人の人間に対して積極的に言及することは避けたい。なので何かしらの接触、問題などが起こった時にのみ私から口添えしよう。だから君は普通に生活してくれればいい」
「ありがとうございます」
アザゼルの紹介とはいえ随分と丁寧な対応だ。これまで見てきた悪魔は人間と見た瞬間こちらを見下していたが…… 随分と気のいい悪魔の様だ。どことなくアザゼルと似たオーラを感じる。組織のトップともなるとこういう柔軟性が必要なのだろうか。
俺についての話題は終わり、本格的にアザゼルとサーゼクスさんの雑談になり、食事会は大した波乱もなく終わっていった。
この後堕天使の拠点に行ってコカトリスと遭遇しひと悶着あったり、アザゼルの発明品の暴走によって堕天使の勢力全体を巻き込む事件が起こり、そのあおりを受けた怒りによって覚醒したシェムハザさんの天誅がアザゼルを貫き組織としての機能が4割ほど停止したが特に語るべきことでもないだろう。
こうして俺の初の超弾丸0泊3日(問題が起こりすぎて睡眠時間はなかった)冥界探訪の旅は終わった。
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「よかったのですか」
アザゼル、茶渡泰虎両名が帰っていくのを見送った後、自宅へと帰ってくると、グレイフィアがそう問いを投げた。
「なにがだい?」
「先ほどの少年は、かなりの使い手です。それも堕天使側の存在。それをリアスに伏せておくなど……」
「……」
その問いにすぐに答えずに椅子に腰を下ろした。
「私は、彼と握手をするまで、彼が人間だと確信が持てなかった」
そう、あの異質と言っていいまでの存在感。
人ではあるのだ。だが、その他に、何か得体のしれない感覚を感じた。
神器の気配も、人間としての気配も押しのけて感じる何かの気配。
「あれは、無暗に触れてはならない」
「……」
「リーアには黙っていることは悪いとは思うが、あれは前もって忠告して遠ざけるよりも、何も知らずに触れない方がいいものだ」
それも、時間の問題なのかもしれないが。
「彼の周りにはいやでも問題が付いて回っていくだろう。その様子を見てから色々な判断を下しても遅くはないさ」
そういうと一応納得したのかグレイフィアは下がっていった。
「さて、君は何を見せてくれるのかな」
今はまだ気に掛ける程度の存在だ。食事を共にしてわかる程度の事だが、悪い人間というわけではないのだろう。
ただ
そう、ただ、もし仮に本当に危険なものを内に飼い。それを制御できずにリーアや悪魔に被害が及ぶようならば……
「まあそれはその時に考えよう」
今はただ、新しい出会いを喜ぶとしよう。
そうして、冥界の夜は更けていった。
魔王夫妻の口調が難しい(