Life.0
そう、これはまだ何も変わっていない日常の一幕。
青々とどこまでも澄んだ青空が広がる、そんな清々しい日にどたばたと騒がしい集団がいた。
逃げる三人と、それを追う女性陣、そして進行方向の先に待ち構える一人の男が仁王立ちで待ち構えている。
「あ、茶渡くん! そいつら捕まえて!」
「うげぇ!? チャド! み、見逃してくれぇ!」
その声を聴いた男は、返事を返すでもなく静かに戦闘態勢に移った。
「ちょ、ば、バラけろぉ! 松田っ、元浜ぁ!」
「この一本道でどうしろと言うんだ!」
「三人でこの勢いのまま突っ込むしかないだろう! 我らがエロは不滅なりぃぃいいい!」
そうして叫びながら突っ込んでくる松田の側頭部がチャドによって軽く叩かれると、途端に崩れ落ちる松田。それを見て減速した元浜の顎の先をこする様に裏拳が繰り出され、これまた電池が切れたように地に伏した。そして最後に崩れ落ちた二人に躓き、チャドへ勢いよく飛び込んできた一誠をボールの様に巨大な手がしっかりキャッチした。
「ぐべふっ!?」
「言い残すことはあるか?」
ギリギリと頭に力が入る感覚に絶望しつつ一誠は消え入るような声で言葉を発した。
「じ、慈悲を……」
「NO」
「うぎゃあああああああああああああああああああああ!」
断末魔が天へと木霊し、一誠は力なく地面に沈んだ。
それを溜め息をつきながら確認したあと、倒れている三人を追っていた集団に向き直る。
「すまない、また覗きか何かなんだろうがこれで手打ちにしてくれないか」
そう言って頭を下げるチャドに怒り狂っていた女子たちはその怒気を少しばかり抑える。
「茶渡くんが悪い訳じゃないし頭なんて下げないでよ」
「友人がしでかしたことだ」
「はあ、なんで茶渡くんこんなのと友達やってるんだか…… 充分痛い思いしたみたいだし、今日のところは茶渡くんに免じて許してあげる」
そう言って女性陣はバラバラと解散していった。
それを確認し、後方に倒れている一誠に声をかけようと振り返ると……
「はあ、イッセー少しは反省を……」
そこには誰もいなかった。
「ム…… 全く気が付かなかった。やるな」
怒るどころか感心してしまう辺り、ずれているということに、まったく気が付かないチャドであった。
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「ぐぅ、まだふらふらする。あのリアル格ゲーキャラめぇ」
「マジで生まれる世界間違ってるぜあいつ。百歩譲っても世紀末が頭に付く世界から飛び出してきてるよ」
「頭痛がとれねぇ……」
駒王学園稀代の問題児、エロに生きてはエロに死ぬと言わんばかりの性春にすべてをかける馬鹿三人組は、もはや慣れたと言わんばかりの驚異の回復力で脳震盪や物理的ダメージから復帰し、チャドに気取られることなくその場を離脱するという地味にすごいことをやってのけた後、三人で駄弁っていた。
「ったく。俺はまだ覗いてなかったってのに一番痛い思いしてるじゃねーか! 竹刀でどつきまわされるよりは良いかもしれないけどさぁ!」
「まあまあ、そう嘆くな」
「お前らはいいよな、きっちりかっちり見るもん見てんだからよ! はー、彼女ができりゃこんな痛い目見ずともおっぱいの一つや二つ……」
「言ってくれるな。虚しくなる」
「ことあるごとにチャドに制裁を受けてるからなぁ。エロも命がけってもんだぜ……」
「しかも地味に人気があるのが許せん!」
「よく見れば整った顔立ちで困った人間がいれば即助けるくらいで人気出しやがって…… いい気になるなよぉ!」
「……やめよう。傷を抉るだけだ」
「そだな…… ていうか今日は解散しようぜ。チャドにやられた所痛むし」
「そうだな」
「おう。じゃ、また明日」
いつも通りの日常風景、
「はーっ、たく、チャドのやつも少しは手加減っつーか。そもそもあいつに性欲ってもんはないのか…… いっしょに覗けばいいのに」
「あ、あの!」
「ん?」
焼けつくような夕日が照らす帰り道。
黒髪の少女は口を開く。
「駒王学園の兵藤君、ですよね?」
「そ、そうだけど……」
それが、非日常への誘いとも知らずに。
「あの、わ、私と付き合ってもらえませんか!」
「うぇ!?」
これが日常の終わりを告げる告白とも知らずに。
「よ、よろこんでお受けいたしまーす!!」
彼は知らずに飛び込んでしまったのだ。超常の世界へと……
物語序盤はさらっと流したいところだけど微妙に書きたいところが多くて困る(
でも基本的にはダイジェストですね。
原作小説とアニメの場面をいい感じに混ぜ混ぜして構成しているつもりです←