俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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Life.3

『突如起こった巨大な爆発によってできたクレーター。しかし、この周囲には一切爆発するようなものはなく、テロなどの実験等様々な可能性を……』

 

 

「最近物騒だにゃあ」

 

リビングのソファで寛ぎながらテレビを見てそう呟く黒歌。

もうすっかりこの家を自分の家と認識しているらしい。

 

「それにしても泰虎帰ってこないにゃあ…… まあちょこちょこあるから心配はしてないけど。学校の成績とか大丈夫なのかな」

 

現在この家にはほぼ黒歌とチャドしか暮らしていない。

ヴァーリ、美猴両名は段々この家を空けることが多くなっていた。

それでもたまに顔を見せる辺りこの家を帰るべき場所と捉えているようではあるが、裏で何をしているのやらわからない。

アザゼルは未だにちょこちょこと来てはいるが偶の休暇を過ごす別荘程度に考えているようで、泊まることはほぼない。

アザゼルとしては黒歌に気を遣って二人にしておこうとしている結果なのだが二人の関係は全く毛ほども進展はなかった。

悲しい話である。

そしてチャドも結構な頻度で、家に帰らないことがある。

ヴァーリ達に連れられて、アザゼルの頼み事で、個人的に騒動に巻き込まれたりなど、その理由は様々だ。

ヴァーリ達が理由なら家に直接迎えに来ているはずだし、アザゼルはここ数か月は顔を見せていない。

そうなってくるとまた何かしらに巻き込まれたのだろうな、と黒歌は予想を立てていた。

チャドの強さを知っているため、そこまで心配はしていなかった。

またふらっと帰ってきて無事な姿を見せてくれるだろう。そう信じて疑っていないのだ。

 

「ただいま」

 

「あ、泰虎。おかえりー…… 何その怪我!?」

 

そこには血だらけで傷を押さえ、どくどくと未だに血を流しながら立っている泰虎がいた。

全く声に出ていなかったので油断しきっていたところにその光景が飛び込んだことで飛び上がる程に驚いた黒歌は慌ててチャドに駆け寄る。

 

「通りすがりのテロリストを名乗る男にやられた」

 

「何がどうしたらそんなことになるの!」

 

「そう声を荒げるな、大したことはない」

 

「そのお腹からあふれてる血を止めてから言うにゃ! あー、もう! 止血しなきゃ! 早くそこに横になって!」

 

 

 

一々過度に心配してると身が持たないというのも大きな理由であったりする。

 

 

 

 

 

「つくづく人間離れしてるにゃあ。もう傷がふさがり始めてる。これ出血量から見ても結構ごっそり脇腹持ってかれたでしょ?」

 

「ああ、防御したが抜かれた」

 

その言葉に黒歌は目を見開いて驚きをあらわにする。

 

「不意打ちとかじゃなくて、真正面から泰虎の防御を破ってそのダメージ!?」

 

「ああ」

 

「相手はどんな奴だったのそれ。どっかの神とか魔王でも来たのかにゃ?」

 

「神器使いだったな。人間だった。転生悪魔でもない普通の人間だ」

 

「……」

 

「あのまま続いていれば負けていたかもしれん。相手側が張っていた結界とやらが最後の一撃で弾けて爆発したからお互いに引くことになったが」

 

「今朝のニュース、あれ泰虎かにゃ……」

 

「俺も虚化はしてなかったとはいえ、完全に押されていた。終始相手の技量に感服するばかりだった」

 

「虚化って泰虎の禁手化みたいな奴だっけ? なんで使わなかったの?」

 

「相手も使っていなかったからな」

 

「変な対抗意識もって怪我してちゃ世話ないにゃぁ……」

 

「ム…… 言い返す言葉もない」

 

呆れたように溜め息を一つ吐き、チャドに向き直り、先を促した。

 

「三大勢力に対して敵対意識を持つ、か、カオスなんとかという組織の一派を率いている曹操という男だった」

 

禍の団(カオス・ブリゲード)?」

 

「それだ。知っていたのか?」

 

「風の噂には聞いてたけど……」

 

「それに勧誘された。何でも英雄の魂を引き継ぎ、人間の身で人外とどこまで戦えるかを試すとか言っていたな。そのために人間の神器使いを集めていたらしい」

 

「なに、その危ない集団……」

 

「興味は無いと断ったんだがな。力尽くでもと言って戦闘になった」

 

「……なんにせよ無事でよかった」

 

「心配をかけてすまない、それと……」

 

「なに?」

 

「やはり、無理をし過ぎた様だ。少し眠る。学校の方に適当に連絡を入れておいて貰えるか」

 

「……わかったにゃ。おやすみ」

 

そういうと黒歌は部屋を出て行った。

その様を見届けると、チャドは自分の手を見ながら舌打ちをする。

 

「まだまだ、弱いな。俺は」

 

そう呟いた後、気絶するように眠りについた。

 

 

 

 

 

「君がそこまで傷を負ったところなど初めて見たよ」

 

「そうか? 俺も怪我をする時はするさ」

 

右腕にギプスを嵌め、体のあちこちに包帯を巻きながら、しかしどことなく上機嫌に受け答えをする。どこか中華風の格好をした黒髪の男、曹操はそう言った。

 

「そこまで強かったか。茶渡泰虎は」

 

「ああ、ともすれば負けていたかもしれん」

 

「冗談を、禁手は使わなかったんだろう?」

 

「それはあちらも同じだ。あの力量で禁手に至っていないこともあるまい。それに、使わなかったというのは適切ではない」

 

「どういうことだ?」

 

「禁手する暇さえ無かったということさ。彼を相手にするのにその数秒にも満たない時間でもロスがあるのは厳しい」

 

「それは……」

 

「日本では剣で長物を相手に闘うには3倍の技量が必要などというが。さて、槍と無手。神器同士とはいえその技量はどれ程で拮抗するのだろうね」

 

曹操は怪我した右腕を見ながら言葉を続ける。

 

「見る者が見ればわかる。破壊力に目が行きがちになるが、彼の強さは確かな技術に裏打ちされた強さだ。実に、人間らしい強さだよ」

 

会話していたゲオルグが一歩後ずさる程の闘気、そして獰猛な笑顔を曹操は浮かべていた。

 

「是が非でも彼には仲間になってもらいたいな。彼を見ていると人間も捨てた物じゃ無いと思うよ。あの戦闘スタイルといい、実に強い者(・・・)の戦い方だ。自分が人間であることなどどうでもいい。ただ自分の拳に絶対の自信をもってどんな敵であろうと打ち崩さんとする様。フッ、実にいい。そうか、そうだな。そういう在り方(・・・・・・・・)も悪くはない」

 

「そ、曹操?」

 

「出直そう。一から鍛え直そう。この右腕は戒めだ。このまま神器などは使わずに自分で治そう。フフフッ、ああいいな。そうだ。悪くないじゃないか。こういう気持ちも」

 

「曹操? おい、大丈夫か? 茶渡泰虎はどうするんだ?」

 

「保留だ。彼は複数人でかかって連れてくることは許さない。俺が、真正面から、負かして、仲間になってもらうさ」

 

そう力強く言うと、笑いながら去っていく。

 

「……曹操が壊れた」

 

その背中を見てゲオルグは少し胃が痛くなる様な感覚を感じながら後を追いかけていった。

 

 




曹操が壊れた……

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