俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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先週投稿できなかったことを謝罪いたします。
ちょっと忙しかったので……



でもその前の週に何話か投稿したし実質週一ペースは守れてると思います←


二巻までの断片集
Case.1『それは、魔法少女というにはあまりにも』


俺は夜中の町をチャリを漕いで走っていた。

 

「ちくしょー、今日も今日とて自転車かぁ……」

 

チラシ配りという下積みも終わり、俺はようやく契約を取り始めたのだがとある問題が生じた。

本当であったら悪魔のチラシに刻まれた魔法陣を使い、転移して契約者の元へと赴く。

が、そこで予想外の事が起こったのだ。

 

 

「朱乃、準備はいいかしら?」

 

「はい、大丈夫ですわ」

 

「さあイッセー。この転移の魔法陣の上に立って契約者の元に行くのよ」

 

「はい!」

 

初の悪魔的な魔術に触れられると思って、俺はちょっとワクワクとした気持ちで魔法陣の中心に立った。

すると魔法陣が青白く光り始める。それに呼応するように力が流れ込んでくるような感覚がした。でも、なんだ? なんか違和感が……

 

「魔法陣が依頼者に反応しているわね。これから依頼者の元へ直接ジャンプするわ。マニュアルは頭に入れているかしら?」

 

「あ、はい! バッチリ10周以上読み返しました!」

 

「そう。じゃあ、行ってきなさい!」

 

その言葉に反応するように魔法陣が先ほどより強く光を発する。

よっしゃ! 俺の初仕事、完璧に為し遂げてっ!?

 

「ぐぼはっ!?」

 

意気込んでいると、急にバチンと音がしたと思ったら俺は弾かれたような感覚と共に壁にぶつかって地面にべしゃりと落ちた。

 

「イッセー!?」

 

「あ、あらあら……」

 

な、なにが起きたんだ……

部長は驚きを隠せないように声をあげ、朱乃さんは普段見せない様な動揺が隠せていない。

木場も小猫ちゃんもぽかーんと何が起きたのかわからない様子だ。

 

「朱乃、何が起きたかわかるかしら?」

 

「……魔法陣の方に異常はありませんわね。失礼、イッセー君。ちょっと手を貸してもらえますか?」

 

「へ? はい」

 

言葉のままに手を出すと、朱乃さんはその手を取り両手で握りしめてきた!

ひゃっほぅ! もうこの時点で体の痛みが取れちまったぜ! ていうかこれならチャドの拳の方がいてーや!

そんな風に興奮していると朱乃さんは少し難しい顔をしながら何かを呟いていた。

 

「魔力が無い? いえ、これは魔力じゃない別の力が魔力を隠してる? ……魔法陣の力が魔力に届く前にこの力に阻害されている…… のかしら? それが反発して弾かれた?」

 

「朱乃?」

 

「詳しくは解りませんが、魔力以外の力が魔力の動きを遮っているようですわ」

 

「そう、今すぐにどうにかできるかしら?」

 

「恐らく魔力の方が強くなれば魔力と魔法陣が結びつく力で自然にその力をどかせると思うんですけど。イッセー君の魔力が、言っては何ですがちょっと低すぎまして……」

 

「どれくらい?」

 

「謎の力によってわかりにくいですが、多分…… 標準の悪魔の子供よりも低いかと」

 

「へ?」

 

ちょ、ちょっと待て、今すごいショッキングな言葉が聞こえた気がしたんだけど!?

 

「……仕方ないわ。イッセー!」

 

「は、はい!」

 

「依頼者がいる以上待たせる訳にはいかないわ! 前代未聞だけど直接依頼者の元へ行くのよ!」

 

「直接ですか!?」

 

「イッセー、よく言うでしょ? 営業は、足で稼ぐものと」

 

「それ人間が言うことですよねぇ! チャリで乗り込む悪魔って、そんなのどこにいるって言うんですか!?」

 

無言で俺の事を指さす小猫ちゃん。

やめて! 俺の精神が死ぬ!

 

「とにかく行くのよイッセー! 契約を取るのが悪魔のお仕事、人間を待たせてはダメよ!」

 

真剣な顔をして言う部長に、俺は何かを諦めた。

 

「うわぁああああん! 行ってきますぅううう!」

 

そして泣きながら駐輪場へ走ったのだった。

 

 

 

 

 

そんなこんなで爆誕したのがチャリで来る悪魔、兵藤一誠である。

夢も希望もねーよ……

 

「ハァ、ハーレムの夢は遠いぜ…… っと、ここか」

 

昨日はドラグソボール談義で終わっちまったから、今日こそは契約取るぞ!

意を決してインターホンを押す。

 

『開いてますにょ。どうぞにょ』

 

「あ、お邪魔しまーす…… にょ?」

 

あれ、なんか脳が認識を拒否したい感じの音声が聞こえた気がしたんだけど……

いや、俺の気のせいだな。だってあんな成人男性特有の低い感じの渋い声でにょとかな。

玄関から入り、廊下の奥の扉に手をかけ、開く。

 

「いらっしゃいにょ、悪魔さん」

 

そこには、巌の様な男がいた。

足の様に太く、岩を削り取ったかのような硬質な筋肉をもった腕。

肩パッドでも入っているかのような膨張した肩、大根でもおろすのかという程にくっきりと割れた腹筋。

脚に至ってはそこに根を下ろしているかの如く、逞しい。

そんな見上げるほどの巨躯が、こちらを射殺さんばかりの双眸でこちらを見ている。

 

そんな男が、ひらひらとした少女向けのアニメに見られるような、いわゆる魔法少女の様な服を纏い、猫耳をつけた顔をこちらに向け、言った。

 

「ミルたんを、魔法少女にして欲しいにょ!」

 

脳が圧倒的情報量を処理しきれずに死を知覚した気すらした瞬間だった。

なんだこれ、なんだこれぇ……

なんでこんなチャドに負けず劣らずの巨体&鍛えた体の男。否、漢が魔法少女とか言ってんだよぉ……

 

「異世界にでも転移してください!」

 

「それはもう試したにょ!」

 

「どうやって!? もうそれ魔法使えてんじゃねーの!?」

 

「違うにょ! もっともっとキラキラしたファンタジーな魔法パワーが欲しいんだにょ!」

 

そう叫びながら俺の肩を万力で締め付けるかのような力でつかんできて、鬼気迫る表情で泣きながら迫ってくる。

 

「こうなったら宿敵の悪魔さんに頼んでも魔法少女になって見せるにょッ!」

 

その叫びに魂まで揺らされるような錯覚を覚える。

もうこれが魔法ってことでいいんじゃねーのか!

途切れそうな意識を必死につなぎとめる。

くそぅ! なんで俺が担当するのは一癖二癖ある奴なんだ! もっと美少女が出てきて禁断の恋に落ちるとかそういう展開があるべきだろうが!

 

「と、とにかく落ち着いて! 肩が砕けるから! 相談には乗りますからぁあああ!」

 

その言葉に涙をぬぐい、満面の笑みを浮かべた。

 

「じゃあ、一緒に『魔法少女ミルキースパイラル7オルタナティブ』を見るにょ! そこから始まる魔法も、きっとあるんだにょ」

 

こうして俺の長すぎる夜が始まった。

 

 

「……割と面白いな」

 

何故か突然始まった、魔法少女を理解するためのアニメ鑑賞会。

この魔法少女ミルキーというアニメが、なかなかどうして見れる内容だったのだ。

 

「悪魔さんもわかるかにょ! このミルキーの魅力が! 悪魔さんはいい悪魔さんだにょ。そうだ、新しい同志としてあれをあげるにょ!」

 

あまり大きな声で言ったのでもないのにそれをしっかりと聞かれていたことにちょっとびっくりしながら、立ち上がって棚をごそごそと漁るミルたんの方に視線を投げかける。

すると、そこに飾ってある写真立てに見逃せないものが映りこんでいた。

 

「え、ちゃ、チャド!?」

 

そこには数人の人間が映って、ぬいぐるみを手に写っている写真だった。

どこで撮ったのか知らないが、その中には今着ているのとは別の魔法少女服を着たミルたんと、これまたいつも見かけるアロハシャツの巨体が並んでいた。

おい、挟まれて立ってる女の人の笑顔が引きつってるぞ……

 

「悪魔さんはチャド先生を知っているのかにょ?」

 

「へ? 先生?」

 

「手芸教室で出会ったとってもいい人にょ! ミルたんの悩みを真剣に聞いてくれていっしょにミルキーの人形を作って親睦を深めたんだにょ!」

 

「……そういやあいつ可愛いものとか好きだったな。確か色々と作っては配ってた気がする」

 

「悪い敵に負けないための体の鍛え方も教わったにょ!」

 

よく見ると写真の中のミルたんと目の前にいるミルたんを見比べると、今の方が威圧感を感じるというか。

いや、写真の中のミルたんも十分筋骨隆々でヤバイんだけど、なんていうんだ。今の方が動かすための筋肉って感じだ。

きっとこの写真の時より機敏に、破壊力マシマシな魔法少女()パワーを出せるようになっているんだろう。

 

「チャド先生のおかげでミルキーのぬいぐるみも作れるようになって、魔法にたどり着くための体も手に入れることができたんだにょ! ミルたんの恩師なんだにょ!」

 

……ってチャドおおおおおおおおおおおおお!? なにこんなモンスターを形作る手助けしてんだあああああああああああああ!

 

「これがあの時から作ってるミルキーの人形にょ! 今はあの頃よりとってもうまくなったにょ」

 

そう言って手渡された手のひらサイズの人形は、キーホルダーになっていた。

むう、確かにうまい。うまいんだけどなんでこれこんなにふわふわしてるのに重いんだ!?

見た目と質量が完全に食い違ってるぞ!? 本格的に魔法使えんじゃないのかこの人!?

 

「さあ、ミルキーの物語はまだまだ続くんだにょ!」

 

チャドの交友関係をその内問いただしてやる。

あと小猫ちゃんの事も含めいつか絶対一発殴る。

 

そんな決意を固めながらミルキー鑑賞の夜は更けていった。

 

 

 

 

……結局契約はとれなくて部長に呆れられて立ち直れなくなったのはまた別の話だ。

 




強くなってるのはライバルキャラだけじゃないんだぜ!(白目)

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