確かに俺はチャド、ひいては茶渡泰虎の能力を望んだ。
ああ望んだよ。
「でも名前から外見、境遇まで全部そのまま寄越せと言った覚えはないんだがな……」
茶渡家の泰虎として生まれ、両親と死に別れ、メキシコの祖父に引き取られ、両親の死に少々荒んでいた俺に力のあり様を諭された。
ここまでの年月と共に前世ともいうべき記憶は薄らぎ、茶渡泰虎という名前ももはや自分の物となっている。
そして、この腕に宿る能力も……
「うまそうな人間の臭 「
なんかよくわからない化け物じみた変な生物を的として順調に育ってきていた。
え? 暴力を諭されたんじゃなかったのかって? いやだって死ぬし。
自分の為に振るうなって言われてもこいつらに遠慮してたら死ぬし。
というか一度死にかけたのでそれ以降は遠慮せずにぶっ放すことにしている。
必要悪というものである。
俺がここで倒すことによってこの後こいつによって傷つけられる者たちの為に拳を振るっているのだということで決着を(自分の中で)つけた。よってノットギルティ。悪くナーイ。
話は戻るが、この奇妙な生物ははぐれ悪魔なるものらしい。
数年前からちょこちょこ襲いかかってくる奴らであり、ある日いつも通りにしばき倒していたらなんか雰囲気がチャラ付いたおっさんが引き気味に話しかけてきたのだ。
そのおっさん曰く世界には人間以外に堕天使と天使と悪魔がおり、その中の悪魔が悪魔社会の秩序を離れた者をはぐれ悪魔と呼び欲望の限りを尽くしているらしい。
悪魔にそんな秩序だった社会があるというのが驚きだったが、まあ正体を知っていようがいまいが殴る理由はあるし殴らない理由はないので特に大した話じゃなかった。
その話をしていたおっさんは得意げに自分を堕天使であるとかグリコだか何だかのトップであるとか、お前のせいくりっどぎあを見せてほしいだとかしきりに言ってきたがなんか態度がむかついたし控えめに言って不審者だったので拳撃を地面に叩きつけて煙幕代わりにして逃げた。
家に帰ったら普通にアブウェロと酒盛りしてて諦めたが。
その後にチョコチョコと家に来ては俺の能力を見たり助言をしたりアブウェロと酒盛りしてはなんか部下の人に通信機越しに怒鳴られ帰っていくような日々が続いている。
・
・
・
・
・
・
・
俺がそいつにあったのはもちろん偶然ってわけじゃなかった。
はぐれ悪魔がある場所の近辺で突然姿を消すって噂が流れていたからだ。
しかしそこら辺の教会にはエクソシストは居ないことはすぐに分かったし堕天使も勿論いないことは解っていた。
そもそも神話体系が違う。それこそはぐれ悪魔の様なはみだし者でもなければそうそう立ち寄らない。あそこら辺はアステカの連中の縄張りだしな。誰が好き好んで手を出すんだって話だ。
それでも、そんな場所ではぐれ悪魔が消えていくっていう噂は流れ続けた。
ピンと来たね。こいつは在野の
そいで仕事と銘打ちつつシェムハザの奴に交渉という名のアステカの奴らを抑える役割を押し付け、俺は
仮にもはぐれを何匹も倒しているような奴だから相当な使い手だと思っていたが。
なんと出てきたのはガキ…… ガキ? まあギリギリでガキだった。でかいし老けてたが。
そんな人間のガキがはぐれ悪魔からマウントを取って執拗に殴りつけていたのだから驚き、というか若干引いた。
しかしせっかく見つけた神器使い、見たところ腕に鎧の様なものをまとわせるタイプのようだったが、似たようなものは見たことはあったがその形状、力、どちらも覚えのないものだった。
若干の興奮を抑えつつ話しかけたらなんとこいつは悪魔も天使も堕天使も、この土地にいる神話体系の連中の事も知らなかった。
よくこれまで見つからないで来たもんだなと思いつつ軽く話してやったんだが、これが何というかずいぶん聞き上手というか話しやすい奴で、ついつい詳しく色んなことを話しちまった。
一通りしゃべり終わってからなんでこんなに話し込んでたんだって思ったくらいだ。
そんな不思議な感覚に陥りつつ、心なしか落ち着いた感情でにこやかに
いや驚いたね。俺ともあろうものが初動を見逃すどころかその後まんまと逃げられちまった。
まあ家に先回りしてやったら大人しくなったがな。
しっかし、面白い見つけもんをしたもんだ。
あいつの神器、あの形態のものが右手だけとは思えねぇ。
それになんかもうちょっと深いもんが隠されてる。いや、本人はもう知っていて隠しているのかもしれねぇ。
ああ、いいねぇ。謎に満ちた神器。心が躍る。
それに、個人的にも気に入っちまったしな。ちょうどいい休暇場所ができたと思っておくか。
力を使いこなそうと修行してる奴を横目に酒を煽るってのも、まあ悪くない時間だ。
to be continued…
アザゼル先生いい大人化計画始動。
あとチャドの中身は基本バカです。
何か考えているようでバカです。
何かを考えるより先に拳が出ます。
むしろ拳しか出ません。