僕は砂肝が好きです。
「俺は、キミの眷属を全員燃やし尽くしてでも冥界にキミを連れ帰るぞ」
部長がライザーの婚約話を拒否する構えを示していると、ライザーは俺たちに敵意と殺意を向けてくる。
それだけで、全身を突き刺すような寒気が走った。
これが、上級悪魔ッ!
アーシアがその感覚に耐えられなくなった様に俺の腕に抱き着いてくる。
堕天使と会った時以上の重圧だ。
多分、部長と同じくらいの力を持っている。
俺がやっとの思いで倒した堕天使の、さらに強い部長と同じくらいって、こいつ、ひょっとしてめちゃくちゃ強いんじゃあ……
木場と小猫ちゃんは目を細め、いつでも動けるように心構えをしているように見える。
部長も、ライザーを睨みつけ、紅い魔力のオーラを滲みださせている。
それに答える様に、ライザーも炎を纏った。
直接触れていないのに焼ける様な熱さを肌に感じる。
一触即発
この言葉が今の状況以上にマッチすることもそうないだろうと思いながらその様子を皆黙ってみているしかなかった。
そんな時である。場違いなノックの音がしてきた。
そのノックの主は返事を待たずに扉を開ける。
「先ほどからチラチラチラチラ魔力を出すな。鬱陶しい……」
そこには頭痛でもするのか、こめかみの部分を抑え、苛立った様子でライザーと部長を睨みつけるチャドが立っていた。
「……リアス、その人間は君が飼っているのかな?」
「違うわ。そんな趣味の悪いことはしない」
「ふんっ、どちらにせよ。俺たちの様な存在を知っている人間の教育くらいしたらどうだ。これくらいのなッ!」
ライザーが腕を振るうと、空気が膨張し、熱波が目に見える様な勢いでチャドに向かっていった。
こいつっ! チャドが人間ってわかってるのに攻撃を!
だが、俺たちは動けなかった。距離も無かったし、その攻撃は早すぎた。
アーシアは最悪の想像をしたのか俺の腕にしがみつく力を強くして、目を固く瞑る。
全てがスローモーションになる様な感覚がした。
触れずとも火傷しそうな熱波が、チャドに当たる寸前。
チャドの左腕が一瞬ぶれた。
すると、熱波は存在しなかったかの様に四散して、代わりにチャドから放たれた青い衝撃波がライザーへと向かった。
ライザーは驚愕を浮かべるが、避ける余裕はない。
当たる! そう思った。
だがまたもや衝撃波はバヂィィィン! と大きな音を立てて四散した。
そこにはいつの間に移動したのか、グレイフィアさんが右手を振り切った体勢で立っていた。
両者の視線が交差すると時間が止まったかのような錯覚に陥る。
指先一つ、呼吸もままならない程の圧を感じる。
え、ちょっと待ってくれ…… もしかして、チャドって部長たちより、強い?
「……」
「……」
両者共にらみ合った姿勢で停止している。周りの俺たちはそれを見守るしかない。
「……拳を、納めていただけませんか?」
数時間にも感じる様な数秒が経ち、先に言葉を発したのはグレイフィアさんだった。
「先に手を出したのはそちらだ。気絶させる程度の攻撃ではあったが、警戒を解けと言われるのは無理な話だ」
「ええ、もっともです。七十二柱に連なる貴族に有るまじき行動、こちらから謝罪いたします」
そう言って頭を下げる。
それを見て、チャドは吊りあげた目を閉じて一つ溜め息を吐く。
「いや、こちらも少し体調不良で気が立っていた。加減も誤ったようだしな。謝罪する」
そう言って踵を返すチャド。
「とりあえず無駄に魔力を発するのをやめてくれ。頭に響く」
「留意いたします」
ガチャリとチャドが扉を閉めると、アーシアが崩れ落ちた。
息を荒くしながらへたり込んでいる。
アーシアの背を撫でてやりながら周りを見ると、全員が冷や汗をかいて肩をなでおろしていた。
「丁度よかったですね。お二人とも落ち着かれたでしょう。一度腰を据えて話し合いを成されてください」
いや、落ち着くとかそういう次元じゃなかったんですけど……
この場にいる誰もが、恐らくライザーも思ったことであろうが、その言葉は誰も口には出さなかった。
・
・
・
・
・
・
攻撃を弾いた手を見る。
ほんの少しばかりだが、痺れている。
「……」
先ほどの少年。
堕天使総督、アザゼルがサーゼクスに紹介していた少年。
強くなっている。確実に、あの時顔を合わせた時よりも……
仮に、敵対的な行動をとられたらリアスたちでは話にもならない。
止められる人材はここにはいない。
サーゼクスは何を考えているのだろうか。
誰にも気づかれない程度の溜め息を漏らす。
気にしていても仕方がない。報告によれば明確な敵意は示していない。
ならばあとはサーゼクスの責任だ。
そう思考に区切りをつけて目の前の光景に意識を移す。
先ほど収束したと思えた険悪な空気も、また発生しつつある。
サーゼクスはいつも勝手だ。この婚約すらも……
頭の痛む思いを抑えつつ、私は口を開く。
「レーティングゲームにて、この騒動の決着をつけるのはいかがでしょうか?」
・
・
・
・
・
・
・
痛む頭を押さえつつ、俺は先ほどの出来事について自己嫌悪に陥っていた。
いくら体調不良の中の不意を突いた一撃だからと言って相手をケガさせる可能性のある攻撃を撃ってしまうとは……
言い訳をさせてもらうのであれば、昨日の一件のせいで相変わらず魔力などの力を感知する能力が暴走している。
無駄に広く情報を無防備に拾ってしまうため、学校内でああも魔力を出されると頭に響いて仕方なかった。それで判断力が鈍っていたのが一つ。
その痛みによってイラついていたことが一つ。
もう一つは、今の俺は先ほどにも言ったように、無防備になんでもかんでも力の波動を受け取ってしまう。
俺を吹き飛ばして気絶させる程度の一撃でも、それが非常に脅威的なものであると錯覚し、体が勝手に動いてしまった。
溜め息をつく、今日は少しやることがあったので学校に残っていたが、体調不良である話をして帰るか。どうも調子が戻らない。
カバンを取りに、教室へ歩を向ける。
……それにしても、そこそこ本気で放たれた拳撃は露を払うように容易く、周りに衝撃が逃げないように完璧に相殺された。
「サーゼクスさんの女王、か……」
最強の女王の名を冠する魔王の眷属。
強いのだろうな。恐らく未だに手の届かない領域だろう。
魔王にも匹敵するという悪魔の力はどれほどなのか。
そもそも魔王の力はどれほどのものなのか。
……いや、やめておこう。気にしても仕方のないことだ。サーゼクスさんたちと戦うことなんてそうないだろう。
頭を軽く振り、そんな考えを振り払い、俺は帰るための準備を始めるのだった
人はそれをフラグというが、それを知る人間など今の時点では誰もいない。
ライザーを特別悪い奴にしたいわけじゃないんです。
ただめっちゃ強面の、身長2m近くの男が不機嫌そうに睨んできたりしたらあの世界の悪魔なら、まあちょっと気絶させて外に弾き飛ばすくらいの事はするだろうなって思っただけなんです。
悪いのはライザーじゃないんです! 悪魔全体が悪いんです!(オイ)
そういえばこの間自分の小説読み直してて気が付いたけどいつの間にか最後の『To be continued……』の表記しなくなってんですよねぇ。唯一といってもいいBLEACH要素だったのに←