俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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Life.3

気による負荷の影響で部屋で休んでいると、突然の来客があった。

黒歌は念のため宅配であろうとなんであろうと家から出ないようにしているので、必然的に俺が対応することになる。

 

「で、俺に修行を付けろと?」

 

「頼む!」

 

俺の家の前で土下座をしながら頼み込んでくるイッセー。

 

「とりあえず顔をあげてくれ」

 

「OK貰うまで絶対に動かねぇからな!」

 

イッセーの話を聞き、こうなった経緯は把握した。

先ほどオカルト研究部にクレームを付けに行った際に攻撃してきた男、ライザー・フェニックスはグレモリー先輩の婚約者である。しかし先輩はその婚約に納得していない。

ならばということで先輩の両親は悪魔に伝わる神聖なゲーム、レーティングゲームにて今回の事態の収拾を付けようという提案をしてきたらしい。

それを双方ともに了承。

レーティングゲームの形式は様々ではあるが、戦闘が予想されるために戦闘能力の強化を図りたい、と……

ライザーとやらの眷属に手酷くやられ、焦りが出ているらしい。

そこで直近で見た強そうなやつに修行を付けてもらえれば、という発想に至ったらしい。

 

「イッセー、別に俺は修練に付き合わないと言っている訳ではない」

 

「本当か!?」

 

「だがグレモリー先輩も当然お前に修行を付けるつもりだろう。俺の独断で一から十まで教えては角が立つかもしれん。そもそも俺にその気はないが、一応堕天使寄りの立場にある俺に教えを乞うことがいい方向に回るとは限らん」

 

「うっ、そうか。そうだよな…… だけど、だけど悔しいんだ! あんな女の子に吹き飛ばされる自分が! そしてあの妬まs、羨m、チャラ付いたハーレム野郎に部長を取られるのが!」

 

「微妙に本音が隠せていないが…… 一応先輩には伺いを立てておく。今日の所は帰れ」

 

一応の納得は示しつつも、何かもやもやとした気持ちを抱えています、と顔に出ているイッセー。

 

「……ハァ、今すぐ何かしないと居ても立っても居られないと言ったところか」

 

その言葉にイッセーは、図星をつかれたように体をビクリと反応させ、頷く。

 

「お前はこの世界に飛び込んできてから日が浅い。焦る必要はない、といいたいが、十日か……」

 

十日、人が成長するにはあまりにも短い。

筋トレもその期間だけでは劇的な変化を生むことはない。

技術面で言えばイッセーの場合すべてがゼロからのスタート、伸びしろは大きいだろう。しかし、同時に今何もできないことに大きな不安も抱えているはずだ。

赤龍帝の籠手という強力な手札を持っているが、逆に言えばそれだけなのだ。

イッセーの中で敵の、それも一番弱いといわれる眷属に負けたことは相当に堪えているらしい。

 

「……その戦闘した相手にはどんなふうに負けたんだ?」

 

「え?」

 

「今すぐに体を鍛えようとしてもすぐにその成果は出ない。技術を教えるにしても時間と場所が必要だ。今すぐに始めるという訳にもいかない。ならできることはひとつ。戦った時にわかったことを振り返ることだ」

 

イッセーはその言葉を聞き、少し微妙な表情を浮かべる。

まあ、それはそうか。自分の負けたことなど喜んで話したいという方が変わっている。

 

「イッセー、負けたことを悔しがるのはいい。それは必要な感情だ。だがその事実から目を逸らすことはするな。勝利に偶然はあろうとも、負けには必ず理由がある。それを追求していくことも強さに必要なことだ」

 

「……前から思ってることだけどさ、なんかやっぱチャドが同じ年だと思えねーよ」

 

「よく言われる」

 

俺のその言葉に苦笑しつつ、イッセーはその勝負のことを語り始めた。

 

 

 

 

 

イラついていた。

目の前にいるライザーは、部長の婚約者だとか言っているし、俺の目標であるハーレムを作っているし、チャドに攻撃する奴だし、ハーレムメンバーに囲まれてるし、こいつが来てから一瞬たりとも部長は笑っていない。あとハーレムを見せつけてくる。

だから一発ぶっ飛ばしてやろうと思った。

この時点で、慢心していたんだろう。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)っていうすごい力を得て、悪魔の力も手に入って、レイナーレだって倒せた。

だから頑張ればきっと目の前の奴らだって倒せると思ってた。

 

「何がフェニックスだ! この焼き鳥野郎め!」

 

「誰が焼き鳥だ! リアス! 下僕の教育はキチンとしろ!」

 

その言葉に部長はそっぽを向くだけだ。

 

「ゲームなんて必要ねえ! 俺がこの場で全員倒してやる!」

 

『Boost!!』

 

その音声とともに、力が湧き上がる感覚がする。

堕天使もぶっ飛ばした俺の一撃、受けてみやがれ!

そんな気合の入った俺を、しかしライザーは嘆息するだけだった。

 

「ミラ。やれ」

 

「はい、ライザー様」

 

出てきたのは小猫ちゃんと同じくらいの小柄な女の子。

武闘家が使うような長い棍をくるくると回し構える。

ちょっと気は引けるけど、武器を叩き落せば戦意も喪失するだろ!

 

そんなことを考えていると、ものすごい速さの突きが俺の腹部に向かって繰り出された。

 

「うぇ!?」

 

慌てて籠手が付いている左腕を腹との間に滑り込ませるがそのままなすすべもなく吹っ飛ばされた。

大きな音を発しながら俺はデスクの方に吹き飛ばされた。

 

「痛ってぇ!」

 

「イッセーさん!」

 

「大丈夫だ、アーシア。まだ立てる」

 

そういって立とうとした俺の前には、いつの間にかライザーがいて、屈みこんで俺の耳元でこういった。

 

「弱いな、お前」

 

その一言は、俺の奥に何かが深く突き刺さったような感覚にさせた。

 

「ミラは俺の『兵士(ポーン)』だ。お前と同じ、な。恐らくうちの中では一番弱い。それでも実戦経験も悪魔としての質も比べようもない。ブーステッド・ギア? ハッ、ちゃんちゃら可笑しいね」

 

籠手をコンコンと叩きながら挑発するように鼻で笑い、こう続けた。

 

「神をも殺す神滅具の一つ、使い熟せりゃそりゃ強いだろう。俺なんて目じゃない。だが、今の今まで神も魔王も、この神滅具によって消滅が成されたことはない。この意味を理解できるか?」

 

ライザーは心底愉快そうに嗤う。

 

「これまでの所有者も、そしてお前も例外なく、この神器を使いこなせる日は来ないってことだ! こういうのは、なんというんだったかな? ……そう、『宝の持ち腐れ』、『豚に真珠』! ぴったりじゃないか! まさにお前の事だ、リアスの『兵士(ポーン)』!」

 

返す言葉もない。俺は、今まさに、こいつの眷属の中で一番弱いと言われた小さな女の子に吹き飛ばされている。

反応するのもあんなにギリギリだったのに、これ以上続けても勝ち目はなかっただろう。ちくしょうっ! どんだけふがいねえんだ俺は!

 

「だが、まあそうだな。今の状態でいじめても面白くない。そこで、だ。リアス」

 

ライザーは俺から視線を外し、部長の方を見てこう言い放った。

 

「なにかしら?」

 

「君たちに十日の猶予をくれてやろうじゃないか」

 

「ハンデを付けると言うの?」

 

「ハッ、いやかい? 屈辱だとでも? だが、そんな感情だけで不意にするにはもったいないぞ? 俺と君とではそれだけの差がある。それに、『レーティングゲーム』は才のみで勝てるほど甘いものじゃない」

 

部長は、唇を悔し気に噛みながらも、しかし言い返すことはしない。

その様子に満足したかのようにライザーが手を振るうと、魔法陣が光る。

 

「君なら十日あればそこそこ使えるように仕立てるくらいはできるだろう」

 

そういって、俺に視線を戻しこう言った。

 

「足掻けよ『兵士』。リアスに恥をかかせるな。お前の一撃が、リアスの一撃であると知れ」

 

それが、部長を想っての言葉だと、すぐに理解できた。

 

「では、また。次はゲームで会おう」

 

そして、ライザーたちは魔法陣の光の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

「……ふむ」

 

俺が語り終えると、チャドは顎に手を当てながらうなりながら何か考えている。

 

「イッセー」

 

「お? なんだよおおおおおおおおおおおお!?」

 

呼びかけに答え視線をチャドに向けると、そこには迫りくる拳があった。

俺は慌てて身を反らしてそれを避ける。

 

「い、いきなり何すんだ!?」

 

「目がいい、いやどちらかというと慣れか…… そうか、日々俺の拳を受けて耐久力と反射神経が鍛えられて…… それだけ喰らっているということに頭の痛くなる思いだが」

 

俺の抗議の声を無視して何やらぶつぶつと言っている。

一体何だって言うんだ!

 

「いや、すまない。疑っていた訳ではないのだが、一応武術の訓練を受けているだろう相手の攻撃を、ついこの間悪魔になって戦闘経験もほぼゼロのお前が一応反応でき、その後すぐに立てたということが少し疑問に思えてな。確認を」

 

「だからって殴る奴があるか!?」

 

「寸止めするつもりだったから大丈夫だ」

 

「俺の心臓が持たねぇから!」

 

チャドはそんな俺の叫びもどこ吹く風、自分の拳を見下ろしながらまた考えこんでいる。

そして目線を上げて俺を見据えた。

 

「イッセー、お前は自分が考えているより強い。そして、これから強くなる」

 

「なんだよ、慰めか?」

 

「まさか、俺が心から思っていることだ」

 

柔らかい表情を浮かべそういった後、真剣な顔をしてチャドは言った。

 

「……イッセー、お前も分かっているだろうが、十日という期間はあまりに短い。お前が戦えるようになるにはそれなりの苦行を経る必要があるだろう。戦い方を教えるにあたって、俺は容赦をする気は一切ない。中途半端な甘さが致命傷になるということをよく知っているからだ」

 

それでもやるか? 言葉にしなくとも、チャドの目はそういっていると感じさせた。

 

「やってやるさ! それで部長が笑えるならな!」

 

「そうか、なら俺もどうにかしてみよう。とりあえず風呂の後に柔軟でもしておけ。十日という短い期間。朝一からフルに時間を使うだろう。明日の朝すぐにでも動けるように念入りに体を解しておくといい」

 

俺も準備をする。といってチャドは家に入っていった。

 

「柔軟、か。いや、小さなことでも全部やってやる! 打倒ライザーだ!」




イッセー強化計画はもうすでに始まっていたのです。

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