「やあ、二か月ぶりかな?」
イッセーたちの決戦当日。まさに今から決戦が始まろうとしている。
俺は一応は悪魔の催しであるし、観戦は遠慮しようと思っていたのだがとある人物に呼び出された。
まあ予想はつくだろうが、サーゼクスさんだ。
「リアスたちに修行を付けてくれたんだろう?」
「ええ、まあ微力は尽くしました」
「妹に態々修行を付けてくれた君がその試合を見られないというのも変な話だしね。お礼としてこの場を用意した訳さ」
「……まあ試合の行方は気になっていたんで助かりますが」
絶対にお礼じゃなくてグレモリー先輩の事が気になって話を聞きに呼び出したに違いない。
この人、口を開けば二言目にはリーアリーア言うからな。シスコンここに極まれりと言ったところか。
「ハッハッハ、微妙な視線をありがとう。私を前にしてそんな表情を浮かべる者もそうはいないよ。それにしても、君は出なくてよかったのかい?」
「出来ないと解って言ってるでしょう」
「君がリアスの眷属になる、というのも面白いと思うんだがね。まあ、リアスでは君を眷属にするのは荷が重いか」
「どっちにしろ、俺は今のところ人間をやめるつもりはありませんよ」
「ふむ、今のところは、か」
その反応に、少し引っ掛かりを感じるが、イッセーとの模擬戦を思い返し左拳を見る。
すでにアルジェントの神器や俺自身の回復力で完治した拳。
悪魔の左腕を使っていなかったとはいえ、まさか拳を砕かれるとは思っていなかった。
侮っていたつもりではなかったのだが、予想を超える力の伸び方だった。
赤龍帝の力を感じるとともに、少し、ほんの少しだけ人間としての限界を感じる一幕でもあった。
「まあ君が出てしまったら結果が決まってしまうし、それではリアスたちの成長にもつながらないだろう」
「……フェニックスの不死身の回復力がどの程度か知りませんから何とも言えませんが」
「回復力以前の問題さ。彼では君に有効打は与えられない。それに」
サーゼクスさんはそう言いながら此方を鋭い目で見ながらにやりと笑う。
「君なら、正面切っての力押しでもフェニックスの不死身を打ち破れるのではないかね?」
「……」
少しの静寂が訪れる。しかし、それはすぐにサーゼクスさんの小さな笑いの後打ち破られた。
「フッ、やめようか。今更君と腹の探り合いをしようとしても仕方がない。君の予想通り、リアスの事を君に聞きたいんだ」
「この話題にたどり着くまでにだいぶ遠回りしましたね。もう試合始まりそうじゃないですか。……グレモリー先輩に関してはほぼノータッチですよ。あと姫島先輩もですね。彼女たちとは戦闘スタイルが違いますので」
「遠距離高火力と考えるのなら君も十分当てはまるとは思うけどね」
「数回模擬戦はしたので少しの立ち回りくらいは口を出しましたが、どれ程参考になったかは解りません」
「ふむ、他のメンバーは?」
「木場と塔城は技術面よりとにかく対人戦闘を重視しました。技術面はほぼ完成されていましたから。場数を踏んでより戦闘を安定させる戦いができるようにというのを優先しました。あのレベルで戦えるなら、新しいことを覚えるより今できることを伸ばすよう心掛けました」
「ああ、彼らは有望株だからね。実に的確な指導だ。リアスもいい出会いをしたものだ。では……」
少し意味深な笑みを浮かべ、サーゼクスさんは言った。
「赤龍帝は、どうかね?」
「……」
やはり赤龍帝とは悪魔にとっても特別な物らしい。個人的には友人をそういった訳の分からないもので括るのはあまりいい気はしないが……
「……スタートがどうしても一般人ですからね。色々と荒い所はありますよ。爆発力が凄まじいとはいえ、未だグレモリー眷属の中で一番弱いのはイッセーだとは思います」
「ほう、では今回の戦いでの活躍は期待できないと?」
「いえ」
その言葉を否定し、どういう技術が使われているのかは知らないが、空中に映る画面の中で走るイッセーを見る。
「アイツはやる時はやる男です」
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試合が始まって少し経ち、俺は頭を抱えていた。
「ハッハッハ、愉快じゃないか。赤龍帝、魔力で衣服を弾き飛ばすとは」
「……夜にこそこそと練習していたのはこれか」
らしすぎて泣けてくる……
確かに武装解除をするという点では効果的なのかもしれんが…… 下心が透けて見える。
「ふむ、しかし中々いい動きをするじゃないか」
「そうですね」
実際、その技を抜かせばキチンと戦えていた。
というより、明らかに修行時よりも全体的な能力が高くなっている気もする。
悪魔に関してはあまり詳しく知らないので何かしらの手段があったのか……
ただ……
(あのペースで、持つかどうか)
10日、実質8日程度ではあったができるだけの技術、霊力の扱い、トレーニングをオーバーワークギリギリで詰め込んだ。
その前までのグレモリー先輩がしてきた訓練も合わさりイッセーの体力は飛躍的に伸びているだろう。
だが、合宿を通してわかったこともある。ブーステッド・ギアはかなり負担の大きいものだ。
倍化するだけでも体力を使うだろうが、倍化した能力で体を動かす、霊力魔力を使う、これも体にかかる負担は計り知れない。
悪魔になったことで比較的丈夫になっているとはいえその配分は神経を割いてやらねばならないことだ。
せめてあと一人か二人、まともに戦える仲間がいたのならイッセーの能力を温存することも出来ただろう。
戦いにおいて、数というのは重要だ。
裏の世界は、良くも悪くも個の力が絶大になりやすく、軽視されがちであるが、その大原則は揺るがない。
イッセーのブーステッドギアの負担、その他の人員の体力はどうしてもネックになる。
この程度の事はグレモリー先輩も解っているだろう。
画面に光が溢れる。姫島先輩の雷でイッセーたちがさっきまで戦闘していた体育館が消し飛んだ、それと同時に兵士3名、戦車1名が脱落した。
相手の戦力を集めさせ、重要拠点を放棄してでも敵の数を減らすことを選んだらしい。
悪くない手だが……
「四名か、欲を言うならあと一人、もしくは戦車か騎士がもう一人いれば大収穫だったろうが、ライザー君も流石に数回ゲームをこなしてるだけあって重要拠点だからと言って下手に戦力は集中させないか」
「……フェニックス側の戦力はどの様なものなんですか」
「個々人を見るなら五分といったところかな。木場君や塔城さんに単騎で確実に勝てるのはライザー君の女王くらいだろう。他の実力は拮抗しているはずだ。女王同士で言えば、小細工なしなら朱乃くんに軍配が上がるかな、おっと、噂をすれば、か」
画面では爆発の魔法に巻き込まれた塔城が退場するところだった。
ここでの退場は痛いな……
イッセーが怒りに任せて挑発しているが、今やることではないだろう、というのは無粋か。
護れない痛みは良くわかる。
それを見かねてか、当初の予定通りなのかは解らないが姫島先輩がやってきて女王と対面する。
「ふむ、朱乃くんは先ほどの雷撃魔法を撃った分の魔力はまだ回復していない、厳しいかな」
「それほどまでにあの女王は強いですか」
「強い、強いが、まだギリギリ朱乃くんが競り勝つだろう。しかし、私なら彼女に持たせる」
「……? 持たせる?」
「ああ、そうか。君は悪魔事情には詳しくはなかったね」
そう言ってサーゼクスさんは懐から一本の小瓶を取り出す。
「フェニックスの涙。これ一つでどんな傷であろうが完全回復するアイテムだ。フェニックス家がレーティングゲームが始まって以来急激に力を付けた要因の一つでもある。ゲームでは少し強すぎるので本数は制限されているがね」
「なる程」
要するにアザゼルがやっているゲームでいう完全復調アイテム。
本数が限定されているとはいえ脅威だ。
効果からして恐ろしく値が張るのだろうが、相手はフェニックス本人。持ってきていて然るべき。
対しておそらくグレモリー先輩は用意できなかったと考える方が自然だろう。
後手に回っている。
戦場を俯瞰しているからこそわかる。
ジワジワと、しかし確実に天秤は傾きつつある。
木場が兵士を三人倒し、イッセーと合流する。
これで九対五、未だ倍近い戦力差。
現状、姫島先輩に勝ち目が薄いことを考えるとあまりにも手が足りない。
イッセーは空中戦はできない。木場は出来なくもないだろうが、あの女王には届かないだろう。
ならばグレモリー先輩が姫島先輩の援護に出るべきだ、アルジェントという回復手段があるなら多少無理をしてでも短期決戦で敵の女王を沈めるべきなのだ。
しかし、グレモリー先輩はアルジェントを連れ、恐らくフェニックスの元へと向かっている。
恐らく、姫島先輩への信頼から任せているのかもしれないが、そういう問題ではない。確実に相手の戦力を潰していく。それが戦力が無い状態での打つべき最善手。
フェニックスの涙の効果を聞けば想像できる。フェニックス自身の不死身を打ち破るのはそう簡単にできるものではないだろう。
ならば、相対す時には少しでも戦力を揃えておいた方がいい。少なくとも、王自ら乗り込む意味はない。
「……勝敗は、見えてきたかな」
「……」
画面を見れば、木場とイッセーが運動場の辺りで戦闘を始めていた。
全体を見れば、恐らくそう遠くないうちに決着はつくだろうことが予想できた。
勝負は、終盤戦へと移っていく。
前半戦バッサリカット。
前半戦で変わってることはほぼないです。
気持ちイッセーの動きが良いなくらいです。
十日で防御が劇的に上がることはないと思うので、小猫ちゃんは退場です。
小猫ちゃんを爆撃するとかギルティだと思います←