『リアス・グレモリー様の「
とても飲み込みがたいアナウンス。
木場と俺はそろって絶句する。
だって、俺たちの中で一番強い、最強の
現実が受け止めきれなくて、立ち尽くしていると、隣から爆音が聞こえてきた。聞き覚えのあるその音に慌てて振り返ると、木場が全身から煙を出し倒れ込むのが見えた。
「き、木場ぁああああああああああああ!!!」
「来ちゃダメだ! イッセー君!」
血だまりに沈む木場に慌てて駆け寄ろうとするが、重傷を負っているとは思えない大きな声で木場は俺を止めた。
「完全に不意を突いたと思ったのに、反応して私の爆炎を切ったのね。レイヴェル様から聞いていたとは言え、
声がする上空に目を向ければそこには小猫ちゃんを襲ったライザーの女王、朱乃さんと戦っていたはずのそいつは、無傷で悠々と空に立っていた。
無傷!? 朱乃さんと戦闘してたはずなのに、なんで!
「イッセー君、行くんだ」
剣を杖の様にしてフラフラと立ち上がり、翼を出し剣を構えると木場はそう言った。
「な、何言ってんだ! その怪我じゃ持たねぇだろ!」
「……イッセー君。解っていると思うが、僕たちは今どうしようもなく不利な状況だ。道があるとするなら、
肩で息をしながら、絞り出すように言う木場は、喋るのだってつらいだろうに続ける。
「僕が行っても役に立てそうにない。だから少しでも女王を足止めする。役割分担ってことさ」
言い終わるや否や、こちらに目もむけずに木場は空中にいる女王に突っ込んでいく。
「……くそっ!」
俺は力の入らない足を無理やり動かし、部長の元へ駆け出した。
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足に力が入らない、心臓がバクバクと煩いし、全身の痛みは増すばかりだ。
ついには足がもつれて転んでしまう。くそっ、こんなことしてる場合じゃねえのに!
立ち上がろうとしているところに、上から声が掛かった。
「まだ戦うんですの?」
顔だけ上げると、炎の翼を纏って降りてくるライザーの妹がいた。
さっきの魔剣攻撃で倒されてなかったのか。
無理やり立ち上がって拳を構える。
しかしライザーの妹は戦おうとする素振りは見せない。
「今回私は戦うつもりはないんですの。それに、端的に言ってあなた達詰んでますもの。戦う意味がないですわ」
「うるせぇ、まだ部長がいる、アーシアがいる。木場だって必死に戦ってる。俺だけ倒れてらんねぇんだよ」
「……き、気概は買いますけど?」
顔を赤くしてそっぽを向く、なんだ? 怒る要素とかあったか?
「それでも、貴方が行くだけ無駄ですわ。確かに先ほどの譲渡の力はすさまじいものでした。リアス様の滅びの魔力や、もしユーベルーナに敗れていなかったら雷の巫女を強化するのもいいでしょう。これから先のゲームではさぞや躍進することでしょう。でも、このゲームはあなた方の負け」
「フェニックスが不死身だからか?」
「もちろんそれもあります。けどそれだけじゃありません。薄々わかっているんじゃないんですか? 自分の状態、相手の状態、比較すれば簡単に答えが出ますわ。それに」
そう言いながら懐から小さな小瓶を取り出す。
「ご存知かしら? いかなる傷をも癒すフェニックスの涙」
フェニックスの涙!? 修行中に先輩に聞いたあれか!
「強力過ぎるのでレーティングゲームでは一つのチーム中二人までしか所持できないという決まりもありますが、私たちの場合は女王と私が持っていました。私たち側の女王もこれで雷の巫女に勝てたのですわ。仮にあの死に体の騎士が手傷を負わそうと、これを渡せば即全回復。無傷の女王と王を相手に、消耗しきったあなたたちができることはありませんわ」
得意げに話すライザーの妹。
そうか、それで朱乃さんは……
歯を音が鳴るまで食いしばる。だけどここで止まってたんじゃ意味がない。
「あ、ちょ、ちょっと! 無視ですか!? こんな話を聞いてもまだ行くなんて…… ここで私とお喋りしていた方がずっと有意義で安全ですわよ!?」
「うっせー、お喋りなら一人でしてろ鳥娘。最後の最後まで諦めないなんてことは、いやって程に体に叩きこまれてんだよ」
また顔を赤くして固まるライザー妹、なんなんださっきから……
いや、動く気がないなら好都合だ。早く部長の所に行かねえと!
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屋上に来た時、そこにはボロボロの部長とアーシアがライザーと向かい合っていた。
「部長ォォオオオオオオ! 兵藤一誠! ただいま参上いたしました!」
たどり着くころには、もう足はがくがくで、動くのもつらくなっていたが、そんなものを吹き飛ばしてやろうと大声を張り上げて部長たちの隣に躍り出た。
「イッセー!」
「イッセーさん!」
「……ドラゴンの小僧か。レイヴェルめ、見逃したのか? 来る前に終わらせる気だったが、良く持ったじゃないかリアス。いや、俺の下僕相手にここまで早く来れたのを褒めてやるべきか?」
舌打ちしつつ校庭の方に目をやるライザー。
「ユーベルーナも戦闘中か。俺の予想ではもうお前とあの騎士は倒れて、ここまでたどり着かないだろうと踏んでいたんだがな」
少しだけ不機嫌な様子を見せた後鼻で笑い、憎たらしい余裕そうな笑みを浮かべた。
「だがまあ誤差の範囲だ。どっちにしろここにたどり着いたリアスとその下僕は正面から相手をするつもりだったからな。その方が、諦めもつくというものだろう?」
最後だから好きにさせてやるってことか?
余裕ぶりやがって……
「一応言っておこうか。リアス、このゲーム、徹頭徹尾俺のゲームメイクから大きく外れることなくここまで来た。もう詰んでいるんだよ。引き際を弁えるのも良い王への一歩だぜ? 下僕に無駄な負傷を負わせたくないならここらで
「ふざけないで!」
部長はそういうと魔力をライザーへと飛ばした。
頭から上が吹き飛んだ!
やったか!? と一瞬喜びが胸の内に浮かぶが、ライザーの傷は炎が上がるとともに完全に治っていた。
これが、フェニックスの不死身の力……
「これが答えってことでいいんだな? リアス」
「王である私が健在なのよ? それに、私の為に立ち上がる下僕がいる限り、私が諦める訳にはいかないわ!」
部長がそう言って不敵な笑みを浮かべる。
そうだ、その通りだ! 俺たちはまだやれる! 戦える!
戦意を高揚させていると、体の痛みが消えていくのを感じた。
後ろを振り返るとアーシアが俺と部長の傷を癒してくれていた。
だが、疲れはそのままだ。傷は治っても、疲労まで回復することはない。
ライザーの野郎は回復している様子を黙ってみている。
「そう睨むな。人間界のゲームにあるだろう? ボス戦前の最後の回復って奴さ。あいにくと、セーブポイントはないがね。負けが前提の、最後の特攻をするんだ。怪我の回復位は待ってやるさ」
「……嘗めやがって」
「見返してやりましょう、イッセー。私たちの力で!」
「はい!」
回復が終わった俺は、ブーステッド・ギアを前に掲げる。
ここからだぜ、ぶっ飛ばしてやる!
「行くぜ!」
『Burst』
しかし、ブーステッド・ギアから響く言葉は、そんな無慈悲なものだった。
一瞬光を発した宝玉は急速にその光を失い、傷が治ってマシになった体の重さが、先ほどまで以上に伸し掛かる。
糸が切れた様に膝をつくと、鼻や口、目からもぼたぼたと血が流れてきた。
「あ゛?」
「イッセー!?」
「イッセーさん!」
部長は構えを解かずに、ライザーと俺の間に割って入る様に立ち、アーシアが俺に駆け寄って神器の光を当てる。
しかし、体は一向に動いてくれない。
「リバウンドだな。リアスの
ライザーは、俺に完全に興味を失ったように、つまらないものに対して言葉を投げかけてくる。
「ブーステッド・ギア、自身の力を倍々に強化していく神滅具。聞こえはいいが、そんなとんでもないことをするのに負担が軽い訳がない。途中、随分でかい攻撃を撃ってたな。あれには少しだけ肝を冷やしたぜ。あれをポンポン撃たれてたら流石にまずいかもしれないと思ったくらいにはな。だが、思うにあれはお前にとっても想定外の出力だったんじゃあないのか?」
確かに、そうだ。
あの力は、あの霊力は、多分悪魔の駒の影響で急激に霊力が増えたから思ったより出力が出ちまった。
「少し考えればわかることだ。蛇口からプール一杯の水を一気に放出しようとすれば壊れるに決まっている。知らず知らずのうちに想像以上の負担がお前には溜まっていたんだよ。そこから俺の下僕との戦闘。お前の体はもう限界だったのさ」
げん、かい? 俺の体が?
「どうするリアス? 援軍は使い物にならない木偶と来た。それでもここまで傷一つ残せなかった俺との戦いを続けるか?」
「っ!」
部長の息をのむ声が聞こえる。
限界? んなこたぁここに来る前から解ってたんだよ。
意地と気合いだけで体を起こす。
「イッセーさん……」
「アー、シア、下がってろ。部長、行けます。俺は、戦えっ、ます。だから……」
だから、そんなに悲しそうな顔を、しないでください。
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「……」
「終わりだね」
モニターには、ライザーと戦いに入る前に意識を失ったイッセーが映っていた。
同時に、グレモリー先輩が投了した旨も報告された。
「実にいい試合だった。特に、赤龍帝とリアスの騎士は良い活躍をした」
確かにそうだ。
イッセーはゲームの中で新しい力に覚醒し、仲間の協力はあれど、半数以上を倒した。
同じく木場も運動場での戦いは彼無くして達成できなかった戦果であり、同時に、重傷を抱えながらも、最後の最後まで女王を押しとどめた。
見事だ、見事だった。だからこそ、悔いが残る。
せめてあと1週間あれば。
もっと効率のいい修行方法があったのではないか。
敵の力を把握して対策を講じられていれば。
もっとできたことはあったのではないかと攻め立てる様な声が聞こえてくるようだ。
「君のそんな表情を見る日が来るとは思わなかったよ」
「……俺も人間ですし、若輩の身です。後悔することもあれば、悲嘆にくれることもあります」
「フッ、そうだね。そうだった」
それだけ言うと、サーゼクスさんは立ち上がり出口へと足を運ぶ。
「年長者から助言することがあるとすれば、気に病むことはない。君の修行は確実に彼らの身になっていたはずだ。それでも悔いが残るのであれば、今後に生かせばいい」
「……あいつらにとって、今この時こそが、勝たなきゃいけない勝負でした」
「ああ、その通りだ。だけど、機会が失われた訳ではない」
その言葉に、サーゼクスさんの方を振り返ると、幾度か見た悪戯っ子の様な笑みを浮かべていた。
「赤龍帝君と同じく、僕もリーアが悲しむ顔は見たくないのだよ」
何を言っているんだ、と怪訝な顔をしているとサーゼクスさんは何かをこちらに投げてきた。
「君が後悔すべきか否か。それはまだ、わからないということさ」
じゃあまた、と軽い感じで出ていく背中を見送った後に、手元の紙を見下ろす。
婚約パーティ招待状、とそこには書いてあった。
Q.なんでレイヴェルの反応が乙女チックなの?
A.レイヴェルの前でドレスブレイクを使ってないのでレイヴェルの目に映ってるのがただの志が熱く、諦めない男になっているからです。
あと木場の成長が著しいですね。多分その内月牙天衝とか撃ちだす(出しません)
さてイッセーさん。急に成長した霊力に体が付いていかずライザーと戦う前にダウン。
アレ? これチャドが鍛えない方が良かったんj(ry