燃える様な赤さに包まれて、俺は夢を見ていた。
『情けない』
そんな唸り声にも似た響きの言葉が俺にのしかかってくる。
これは、いつか同じような感覚を感じたことがある……
そう、あれは合宿の時……
『俺の魂に触れたかと思い少しは見直してやっていたら、今度は自分の力に押しつぶされて倒れ込む。あまり無様を晒してくれるなよ。『白い奴』に笑われる』
そうか、俺の、神器の……
『『白い奴』の気配は近い。だからこそお前の神器もパワーアップし、次の段階へと入った。それなのにお前が弱いままじゃあどうしようもない』
……言いたい放題言いやがって。
『悔しいのなら強くなれ。負けたなら負けを喰らいつくして次の糧とし勝ち続けろ。それが、『白い奴』との決戦に生きることになる』
お前は一体何を言ってるんだ。さっきから白い奴白い奴連呼しやがって……
そもそも。一体全体、お前はなんなんだ?
『
ウェルシュ・ドラゴン……
『現状に満足ができないなら力をくれてやる。お前はやっとその資格を得た。だが努忘れるな。その力は龍の力。一個人が飲み下すには過ぎた力であるという事を、何かを得るためには、何かを犠牲にするしかないという事を。なに、見合った物は与えてやるさ。見せてやればいい。お前を侮っている連中に、本当の龍の力って奴をな』
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目を覚ますと、そこは俺の部屋だった。
そのことを認識したとたん急激に意識が覚醒し、飛び起きる。
勝負は、ゲームはどうなったんだ!? 部長はっ!?
「目が覚めたようですね」
混乱している横から声が掛かる。
そこにはグレイフィアさんが佇んでいた。
「ぐ、グレイフィアさん! 勝負は、部長はっ!!!」
「勝負はライザー様の勝利です。お嬢様が
――――ッ!
その言葉を聞いて、頭に冷水をかけられたような感覚が襲ってきた。
そして、俺はゲームの時の記憶を思い出した。
そうだ、俺は、俺はライザーと戦えもせずに、倒れたんだ……ッッッッ!!!!
「くっそぉおおおお!!!」
隣にグレイフィアさんがいるにもかかわらず、俺は拳にベッドに叩きつけ涙を流す。
情けねぇ、情けねぇっっっ!!!
あれだけ大見得切って、皆に託されて、最後の最後で、俺は、戦えもしなかった!
なんで、なんで俺はこんなに弱いんだ!
アーシアの時だってそうだ。俺が弱いせいで、アーシアは悪魔として生きることになった!
返しきれない恩のある部長を助けようとしてもこの様かよ!!!
皆に、合わせる顔がねえ……!
「現在、リアスお嬢様は冥界にて開かれている婚約パーティにご出席しています。眷属の皆様もそれについて行かれています。会場に居ない関係者は一誠様とアーシア様だけです」
アーシア? アーシアも行ってないのか。
「リアス様の願いで、アーシア様と私で一誠様を見ているようにと仰せつかりました。アーシア様は今タオルの替えを取りに行かれています」
そうか、部長はアーシアを残してくれたのか。
心配かけちまったよな。
婚約パーティか。俺は、結局何ができたってんだ……
「納得できませんか?」
「……勝負に負けといて、女々しいとは思います。けど、俺は、どうしても納得できない」
「リアスお嬢様は御家の決定に従ったのですよ?」
「解っているんです。自分勝手な感情だって、俺みたいな新米悪魔が、どうこう言える立場じゃないなんて…… でも、それでもッ!」
部長の納得は、そこにはない。きっといつもみたいな笑顔を浮かべてくれない。
部長が嫌がっていることを、肯定できるはずがない!
いや、この言い方は、少し違う。
俺は、嫉妬してるんだ。ライザーの野郎に、部長を取られたくない!
「ふふふ」
突然、小さい笑い声が聞こえてきた。
見るとグレイフィアさんがあの冷淡な顔を綻ばせ笑みを作っていたのだ。
「あなたの様に、自分の感情に正直に動ける悪魔を、私は見たことがありません。私の主、サーゼクス様が貴方の活躍を見て『面白い』と言うのも頷けます」
マジか、なんていうか、そんな偉い人に「面白い」なんて言われると反応に困るな……
少し戸惑っていると、グレイフィアさんは一枚の紙を俺に差し出してきた。
「この魔法陣は先ほど言った婚約パーティの会場へと転移できます」
「え?」
何を言われたのか一瞬よくわからなかった。パーティ会場への召喚陣?
「『妹を助けたいなら、会場に殴りこんできなさい』だそうです。紙の裏側には帰還用の魔法陣も書いてあります。お役立てください」
そう言って俺の手元に紙を置くと立ち上がって部屋を後にしようとする。
「一誠様が寝ておられる間、一誠様の体から大きな力を感じました。ドラゴンは三大勢力のどこにも属さなかった唯一の存在であり、またそれを自分たちの強さで生き抜いた者達です。その力を使えば、あるいは……」
そう言い残しグレイフィアさんは出ていった。
俺は紙をつかみ取り着るものを探す。
迷う必要なんてない。この機会に立ち上がらなかったら、俺は死んだも同然だ。
何故か机に置いてあった新品の制服に袖を通す。誰が用意してくれたのかわからないけど、感謝します。
「イッセーさん」
「アーシア」
制服を着たところで、後ろからアーシアの声がしたので振り返る。
すると胸の中にアーシアが飛び込んできた。
「……行っちゃうんですよね?」
「……おう」
グレイフィアさんに聞いたのか? アーシアは全てわかっているといった風にそう言った。
「本当は、止めたいです。私もいっしょに行きたいです。でも、――って言われちゃいましたから……」
「アーシア?」
最後の方に何かつぶやいたのが、俺にはそれが聞こえなかった。
「部長さんと、無事に帰ってくるって。それだけ約束してください」
「ああ、絶対に、約束する」
アーシアを安心させるように笑顔で言うと、アーシアも笑顔を返してくれた。
そうだ、アーシアに頼みたいことがあったんだ。
「アーシア、実は……」
アーシアは頼みごとを快諾してくれ、部屋にあるものを探しに行った。
さて、後は……
(
俺は心の中で神器に語り掛けた。
するとすぐに、あの夢で聞いた声が俺の頭の中に響いた。
『聞こえている。さあ、お前の話を聞こうじゃないか』
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部室の魔法陣を使った時の様に、イッセーさんは音を立てて消えてしまいました。
その消えてしまった背中に少し胸が痛い思いがします。
けど、きっとイッセーさんなら部長を取り戻して、きっと明日からはいつも通り、皆さんが笑って過ごせる日常が戻ってくると私は信じます……
「……でも、ちょっとだけ、ホンのちょっとだけ部長を羨ましいと思っちゃうのは、いけないことですよね」
「そーんなことないと思うけどにゃあ」
「ひぃぁっ!?」
後ろから聞こえてきた声に変な声を出してしまいました。
「あ、え、えと、あの、まだいらっしゃったんですね」
「一応泰虎に頼まれたことだし、最後まで様子位見ておこうと思ってね。あとタイミング悪く赤龍帝が目を覚ましたし出る機会を伺ってたのよ」
この和服のお姉さんは、数時間前にチャドさんが連れてきた女の人でした。
チャドさんは部長のお兄様、サーゼクス・ルシファー様と個人的なお知り合いらしく、イッセーさんが部長さんを取り返しに行くことも、その時に教えていただきました。
なので、できるだけイッセーさんの体調を整えるために、治癒の術を使える人を連れてきたと言う事でした。
私の神器では外傷しか治せませんが、このお姉さんは体内のエネルギーを正常に戻せるんだそうです。
何か事情があるらしく、名前も教えてもらっていませんし、ここにお姉さんが来たことは秘密にしてくれと言われました。
その時に言われたんです。
『イッセーの事を想うなら、どうか、止めることなく送り出してやって欲しい。それが、あいつにとっての一番の薬になる』
……その目は真剣で、多分、今誰よりもイッセーさんの事が解るのはチャドさんなんだろうなって、どこかで納得してしまいました。
「それはそれとして、男の事で妬くのは別に普通のこと。赤龍帝の事が好きなんでしょ?」
先ほどまでの事を思い出していると、お姉さんはそう言ってきました。
あ、改めて人に確認されると恥ずかしいです……
「えっと、はぃ……」
「じゃあもっとガツガツ行かなきゃ。いかにもスケベそうな顔してたし捕まえておかないとすーぐフラフラ他の女の尻を追ってくタイプよあれ。ただでさえ妹感覚な感じがするしー」
「……やっぱり、そうなんでしょうか」
「あなたもいかにも押しが弱そうだしねぇ。他に遠慮しちゃうタイプは損にしかならないにゃん。押してもなびかない男も世の中に入るんだから御しやすそうな赤龍帝なんてガンガン押すべきだにゃあ。ほんと、自信無くすわよね。そろそろ2年よ。出会ってから2年、つまり一緒に暮らし始めてから2年……」
「あ、あの、元気出してください! お姉さんは綺麗ですし! きっとチャドさんだって振り向いて、振り、向かれちゃうと、ちょっと困っちゃいます……」
話している内にどんどん暗くなっていくお姉さんを励まそうと、フォローをしようとしますが、途中で小猫ちゃんの事を思い出してしまいました。
少し前から皆さんに聞いていたし、いつも気が付けばチャドさんの事を見ているし、えっと、その、実は合宿の夜の事ものぞき見してしまいました……
ああ、アーシアは悪い子です! 主よ、どうかお許しを!
「痛っ!」
「どうかした?」
「い、いえ、大丈夫です」
「ところで、さっき困っちゃうって言ってたのは…… もしかしてお友達の中にヤストラのことが気になってる子とかがいるの?」
「えっと、同じ、部活の、一緒の眷属の子で…… 塔城小猫ちゃんって言うんですけど……」
その名前を聞いたとき、お姉さんは目を大きく見開いて、そして少し、嬉しそうな、でもなんとなく悲しそうな、そんな表情を浮かべました。
「……そっか。まあ、うん。そっか」
そう言って、立ち上がりました。
「今日は帰るにゃん。私の事はくれぐれも秘密ってことでお願いね?」
「はい! えっと、ありがとうございました!」
少し笑いながら手を振って、お姉さんは帰っていってしまいました。
小猫ちゃんの名前を聞いてからのあの表情…… もしかして……
「チャドさんを取られるかもと思ったんでしょうか?」
そうだったら、少し仲良くなれそうな気がします!
今日はお名前を聞けませんでしたが、また会えるでしょうか。
また会えたら、お友達になれるでしょうか。
私は、イッセーさんの事がとても心配なのと共に、どこか寂しさを漂わせるあのお姉さんの事がどうしても気になったのです。
まさかの黒歌がグレモリー眷属で初めて顔を合わせるのがアーシアという(
どういうことなんだぜ(
まあこれで完全な健康体で殴りこめますね。やったぜ!