本当に、とんだ茶番に付き合わされたものだ。
虚化の仮面のみを出現させて普段着ない様な窮屈な燕尾服を着ながら俺は心の中で思った。
サーゼクスさんという人のシスコンぶりを侮っていた。
最初からこうするつもりだったのだ。
ただ魔王である自分の発言は色々と問題を起こしかねないのでできるだけ遠回りした婚約の壊し方を画策していたらしい。
悩んでいる内に赤龍帝を下僕にしたという報告が上がってきた。その時から、サーゼクスさんはこの計画を立てていたらしい。
イッセーがライザーとやらに競り勝てるか、見込みがあるようならその可能性にかけるつもりだった、と……
おかしいと思っていたんだ。シスコンのこの人が、全く関係のない話題から二言目にはリアスリーアたん私の妹とつなげるこの人が、妹の嫌がる婚約をみすみす見逃すのかと。
ちなみに見込みがなかった場合俺を婚約前の試練としてぶつけるつもりだったらしい。
ふざけるな、俺はやらんぞ…… とも否定できない立場なので何とも言えない。
まあ、結果としてイッセーはサーゼクスさんのお眼鏡にかなったらしい。
なので、俺の役目はイッセーが乱入した時に混乱が起きない様に立ち回ることと周りの悪魔への牽制の二つにシフトチェンジしたのだった。
「あの、お兄様?」
「なんだい?」
「その横の方は、誰ですか?」
決闘場の準備をしているのを見下ろしているとそんな声が横合いから聞こえてきた。
グレモリー先輩はかなり訝しんでいる様だ。
「お兄様の眷属にはそんな方は居なかったはずです」
「そうだね。彼は、まあ期間限定の付き人の様なものだ。友人、と言ってもいいかもしれないね。正体の方は秘させてもらうよ。ほら、戦いが始まる。そちらに集中した方がいいのでは?」
そんな会話が成されている時、服の端を引かれる感覚があったので視線だけそちらを向く。
「……茶渡先輩ですよね?」
「……」
即バレた。何故だ。
仮面をかぶっている間は俺の気配も大分変質している。
この状態で俺が俺だと解る人間はそうそう居ないというのがアザゼルの見解だ。
だからこそこの状態になってきたのだが……
ちらりとサーゼクスさんと会話しているグレモリー先輩たちを盗み見る。
どうやら塔城一人が気づき、そして話しかけたらしい。今の話は聞こえていないようだ。
「……」
「……」
沈黙のまま目を合わせて固まっているが、塔城は確信を持っているらしく黙っていても引く気配がない。
小さく溜め息をつきながら、人差し指を立てて顔の前にもってきて、秘密にしてくれとジェスチャーを送る。他の奴にもバレてしまっては堪らない。
塔城はしばらくじっと見てきた後、それで納得したのか元の位置に戻っていった。
言わないでくれると助かるんだがな…… 立場上あまりここにいるのはよろしくない。
知っている者は限られた人数だと望ましい。
だったらもっと大人しくしてろと思われるかもしれないがそれも少し難しい。
人間がこんなところに堂々と来れはしない。
だからと言って隠れて見るのにも限度がある。何だかんだで悪魔の貴族たちの宴、そこそこの使い手は居る。
気配関係は苦手な俺は、気配を消すこともあまり得意ではない。だから気づかれるかもしれない。
『ならいっそ違和感を塗りつぶして堂々と観戦すればいい』
そう悪魔らしく笑顔で言い放った魔王の言葉によりこうしてここに居ることになった。
いつか殴り飛ばそうと思った。
色々と思考を飛ばしている間に用意が整った様だ。
イッセーとライザーが向き合うように立つ。
イッセー、これは俺のエゴだ。我儘だ。
だけど、勝利を願わせてくれ。
俺は、あの修行の日々が、お前にとって無駄であったなどと思いたくはないのだ……
・
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急遽作られた即席の戦場。
まるで格闘技のリングの様に整えられた中央で、俺はライザーと向かい合っていた。
周りには先ほどまでパーティに参加していた人たちが囲うように俺たちを見下ろしている。
その中には部長や部員メンバー、魔王様と骨仮面の執事さんの姿も見える。
これ以上、無様は晒せねぇ。
気合いを入れてライザーを睨みつけるも、ライザーは余裕の表情を浮かべていた。
「開始してください!」
バトルを取り仕切る人の声が響く。
もう、引けねえ。最初から引くつもりなんてないけどな。
俺は、勝つためにここに来たんだ!
俺は部長の方を向いて、叫ぶ。
「部長! 十秒でケリを付けます!」
「……イッセー?」
戸惑いを浮かべる部長。大丈夫です、証明して見せます。
「ハッ、ゲームで俺と戦えもせず倒れた奴の言葉とは思えんなぁ! なら俺は五秒で片付けてやる」
炎の羽を広げ、今にも飛び掛かってきそうなライザー。
その口、ぶっ飛ばして閉じさせてやるよ!
「部長! 『プロモーション』する許可を!」
俺の叫びに部長は頷く。
ドクン
俺の中で何かが変わる感覚がする。プロモーションの許可が出た証拠だ。
「『プロモーション』! 『
最強の駒に昇格し、体に力が漲る。
そして、出し惜しみする理由はない! 行くぜ、俺の
「部長! 俺は、木場みたいに剣の才能は有りませんッ! 朱乃さんみたいに自由自在に魔力を操る才能もないッ! 小猫ちゃんみたいな怪力も、アーシアみたいに癒しの力もないッ! それでも……」
ここで誓う。部長に、そして、俺自身に!
「それでも俺は! 貴女の為なら神様だってぶっ飛ばして見せる! このブーステッド・ギアで! 俺の唯一の武器で、貴女を悲しませる全てのものから守る、最強の『
もう、あんな惨めな思いをしないように、させない様に!!!
仲間達と、強くなる!!
「輝けッ! オーバーブーストォォォォッッ!!」
『Welsh Dragon over booster!!!』
赤い光が宝玉からあふれ出し、会場中を埋め尽くす。
そのオーラは俺の体を包む。
力が漲ってくる。これが、お前の力か!
『ああ、そうだ。だがお前の今の力では十秒が限界だ』
解ってる、だけど十秒あれば!
『そうだ、十秒あればお前は――』
ああ、十秒あれば俺は――。
「俺たちは奴を殴り飛ばせるッ!」
赤いオーラを放ちながら、ライザーに向かって突っ込む。
俺の体にはいつの間にか赤い鎧が装着されている。ドラゴンの姿を模した
宝玉が増え、両手の甲、両腕、両肩、両膝、胴体中央にも出現している。
まさに全身ブーステッド・ギア!
「鎧だと!?」
驚愕しているライザーに向かって叫ぶ。
「これが赤龍帝の力!
スケイルメイルの能力は十秒間の爆発的な力の解放。
一度開放すればその十秒間は無敵ともいえる力を得られる。
勿論リスクはデカイ。これを解放した十秒後、三日間神器が使えなくなる。
十秒に、全てを込めたラストチャンス。
絶対に勝って見せる!
『
カウントが始まる。
時間はない! 最初から全力で行くぜ!
両手から霊力を集中させて一気に解き放つ。
その霊力は巨大な柱の様に真っすぐに放たれた。
何て出力! この広い広間を埋め尽くすような魔力の波がライザーに向かって殺到する。
「デカい!」
受け止められないと判断したのか避けようとするが、デカ過ぎて避け切れていない。
堪らずよろけ、姿勢が崩れたところに一気に背中のブースターを噴かせて踏み込む。
『
無慈悲にカウントは刻まれる。あと九秒!!
ライザーに向かって一直線に突っ込んで、ライザーの腹に拳を抉りこむ。
「がはッ!?」
「オラァッ!!!」
血を吐き出しながら顔が下がったところにアッパーを喰らわせる。
成すすべなくライザーは吹き飛んで後ろの壁に突っ込んだ。
『
カウントが刻まれたと同時に瓦礫から巨大な炎が上がる。
そこには虹色の魔力を纏ったライザーが無傷で立っていた。
くそっ、あの攻撃でも回復しちまうのか!
「正真正銘、龍の力を解放したって訳か! 悪いが、手を抜けなくなったぞ。認めたくないが、今のお前はバケモノだ! 死んでも恨むなよ!」
咆哮をあげるライザー、その背中には巨大な炎の翼が広がり、奴そのものが炎であるかのように、全身に炎が渦巻き、会場中を熱で埋め尽くす。
会場に居た悪魔たちも自身を守る防壁を作り出している。
まともに喰らったらきっと骨だって残らない。
「火の鳥と鳳凰! そして不死鳥フェニックスと称えられた我が一族の業火! その身で受けて燃え尽きろォッ!!!」
火炎に包まれたライザーが弾丸の様にこちらに迫る。
見たこともない様なありえない質量の炎が、まさに火の鳥となって俺に迫る。
これは流石に喰らったらヤバイ!
『フェニックスの炎は龍の鱗にも傷を残す。察している通り、食らい続ければいくら今のお前でも堪えるだろう』
そうかよ。
だけどな、ドライグ。
俺はもう負ける訳にはいかない! 引く訳にはいかない!
あの人が、部長が見ている前で、逃げる姿なんて晒せるかよ!
「てめぇのチンケな炎で、俺が燃やせるかぁぁぁッ!!!」
背中のジェットを全開で噴出する!
ドゴンッ!
お互いの拳が両者の顔面に突き刺さる。その瞬間に周囲をお互いの力がぶつかり合って生まれた波動が会場を振動させた。
そこからは殴り合いだ。会場のど真ん中で力比べが始まる。
一撃貰うたび、重い衝撃が全身に響き、ライザーから絶えず発せられる熱波も鎧を通して俺を焼く!
くそ、いやでも感じる。ライザーの本来の実力を、それが如何に俺とかけ離れているかを!
この鎧が無ければ、きっと戦いにすらならない。すぐに塵すら残らずに焼き尽くされるかもしれない。
怖い、逃げたい。そんな気持ちが幽かに脳裏を過る。
このまま戦い続けたらどうなる? 十秒以内に倒せなかったら?
そんな感情を感じ取ったのか、ライザーはにやける。
「怖いか! 当然だ! 本来お前と俺とでは並び立てない絶対的な差がある! ブーステッド・ギアが無ければそこらの下級悪魔にも劣る! お前に籠手以外の価値なんざないんだよ!」
好き放題言いやがって!
だが、ぶっちゃけ図星だ。俺から神器を取ったら残るものは……
俺はライザーの拳を弾き、その鼻っ柱を殴り、再びライザーを吹き飛ばす。
「確かに怖いさ。ブーステッド・ギアが無かったらお前と勝負にすらならないってのもそうだ。だけどな。そんな俺に価値をくれた奴は確かにいる!」
そうだ、俺をここまで戦えるようにしてくれた奴がいる。
ちっぽけな物かもしれない…… けど! 確かな形をくれた奴がいる!!!
そうだ、思い出せ。あの修行の日々。皆にいろんなことを教わって過ごしたあの日々を……
『
気が付けば、恐怖は消えていた。
「ふざけやがって!」
瓦礫の中からライザーがこちらに拳を振るってくる。
俺は籠手の一部に仕込んでいたあるものを取り出し、掌にセットする。
そしてその拳に合わせてカウンターを顔面に叩き込む。
「何度やったって同じだ! 俺にお前の攻撃は―――」
その言葉は突如口から流れ出てきた大量の血によって止められた。
俺の攻撃が、初めてまともに通ったのだ。
それもそのはず、俺は手を開き、持っているものをライザーに見せつけた。
「じ、十字架! 十字架だと!?」
そうだ、アーシアから受け取った十字架。
いくらフェニックスが不死身であろうと、悪魔であるなら逃れられない弱点。
『
「十字架の効果を神器で増幅させて殴った。高まった聖なる攻撃は、悪魔である限りフェニックスにだって無視できないダメージになる!」
「バカな! それは貴様にとっても同じこと! ドラゴンの鎧を身に纏っているからと言って手に持つだけでお前自身も――」
ライザーはそこまで言って漸く気が付く。
俺の左腕の変化に。
「赤龍帝に、自分の腕を捧げたというのか。それが、急激に成長した力の理由か……ッ!」
「そうだ、この力を得るために左腕をくれてやった。この腕は今本物のドラゴンの腕だ。だから十字架を持っても平気なのさ」
「そんなことをすれば二度と腕は戻らない! お前はそれを解ってやっているのか!?」
「それが、どうしたッ!!!」
再び十字架を握りしめた拳で殴りかかる。
ライザーは舌打ちをしながらそれを避けながら距離を取った。
「俺の腕一本で部長が戻ってくる! そう考えれば安すぎる買い物だぜ!」
『
刻一刻と時間は迫る。早く決着を付けねえと!
「……イカレている。いや、だからこそこうまで迷いのない一撃を放てるのか。怖いな。俺は今、お前に畏怖の念を抱いているよ。だから!」
ライザーの纏う炎がよりいっそう勢いを増して燃え上がる。
「手が付けられなくなる前に、ここで燃やし尽くしてやるッ!!!!」
熱い! さっきまでとは段違いだ!
火の鳥、不死鳥フェニックス! その名に恥じぬ様を俺に見せつけながら俺へと突っ込んでくる!
負けるか、負けて堪るか!
『
手に握る十字架に力を籠める!
今できる、最高の一撃をあいつに正面から叩き込む!
背中のブースターに火を入れ、ライザーへと突撃する。
ライザーの拳と、俺の拳がぶつかり合う!
激しく、純粋な力と力のぶつかり合い。
閃光が走り、俺の視界を埋め尽くしていく。
「負 け る かぁぁぁぁぁッッッ!!!」
「ぐっ、づぁぁぁああっ!!!」
バチンッ!
と弾ける様な音がして、俺とライザーはそれぞれ吹っ飛んだ。
『
あと、三秒ッ!
軋みをあげる体に鞭を打ち立ち上がる。
見ればライザーも立ち上がっている。
ライザーは明らかに先ほどより弱っている。
これまでは体と一緒に回復していた服も、そして体もボロボロになっている。
炎の勢いも明らかに先ほどよりも弱まっていた。
不死身の、限界。
それが、初めて現実味を帯びた。
だけど、まだ足りない!
「
身に纏う炎が膨れる。
しかし先ほどまでの威圧感はもうない。あえていうのなら、最後に激しく燃え上がる蝋燭の火の様に見えた。
それでも、決して弱いものではない。
『
あんた、強いぜ。
認めたくねえけどな、俺なんかよりずっとずっと強い。
だから、使える手はなんでも使ってやる!
向かってくるライザーに向かって瓶を投げた。
それはちゃぷんと音を立てながら軽い放物線を描き、ライザーの目の前に飛んでいく。
「――――ッ!?」
それに気が付き立ち止まろうとするが、勢いの付いた体はすぐには止まらない。
俺は小さなドラゴンショットをその瓶に向かって打つ。
瓶は割れ、中に入った水が広がる。
その様子にライザーの顔が青ざめる。
「ッああああああああああああああああああああ!!!!」
ライザーはその水を浴びた瞬間に苦しみだす。身に纏う炎は形を崩し、炎の翼はぐにゃぐにゃと萎み始める。
そう、この水は聖水。上級悪魔には効果が薄いとされているが、ブーステッド・ギアがあれば話は別だ! 先ほどの十字架の様に聖なる力を高めた、悪魔にとってはすさまじい毒薬となっている。
『
ラスト一秒!
俺は十字架をさらに強く握りしめ、隠し持っていたもう一本の聖水をかけ、ブーステッド・ギアで聖なる力を倍増させる!
「ぐっ、お前、分かっているのか! この婚約は悪魔の未来の為に必要な婚約なんだ! 昨日今日飛び込んできた、何も知らない小僧悪魔が口を挟んで良い問題じゃあない!」
「悪魔の未来とか、難しいことは解んねぇよ。でもな、お前が来てから部長は一度もいつも通り笑ってくれなかった。あの戦いの最後には泣きそうな顔をしてた! 俺が、てめぇを殴り飛ばす理由なんざ、それでッ――」
拳を振りかぶり、体内の全てのエネルギーをまとめる。
ここで、全部を出しきれ!
修行合宿で皆に教わってきたこと全部!
全部を使って、皆の力で! 部長を、取り戻すッ!
「十分ッ、だぁぁぁぁッッッ!!!!!」
無防備な腹に、俺の今できうる最高の攻撃を放つ!!!!
ドッゴォォォォォォン!
凄まじい音が響き渡り、全てを吹き飛ばすような風が吹き荒れる。
土煙が上がり、視界が奪われる。
『Finish』
左腕の籠手からそんな声が響き、鎧が消失する。
顔を守るものがなくなったので、少しせき込みながら目を開けると、未だ土煙が周りにもうもうと立ち上る中、執事さんが俺の拳とライザーの間に割り込み、拳の軌道を逸らしていた。
執事さんの隣には魔王様が立っている。
「……予想以上だ。感服したよ」
「魔王、さま?」
「割り込んで済まないね。でも、前途有望な若者をここで死なせる訳にもいかないんだ」
その言葉が終わらないうちに、ライザーは倒れ伏した。
見れば気絶している様だ。
「最後の攻撃の直前に気を失っていたんだ。あのまま先ほどの一撃を受けていれば、どうなっていたかわからなかったのでね。乱入させてもらった。しかし、勝負にケチをつけることはない」
魔王様は笑いながら俺をしっかりと見据え、言った。
「君の勝ちだ。兵藤一誠君」
そう言いながら執事さんに合図を出し、執事さんが腕を大きく振るうとすごい風圧が起こり、また目を閉じてしまう。
目を開けると、先ほど起こった風圧で土煙が晴れ、魔王様も執事さんもいなくなっていた。
少しの間呆然としたが、先ほどの魔王様の言葉を噛みしめ、倒れているライザーを見下ろす。
勝った…… 勝ったんだ!
俺は部長の方に視線を向け、歩き出した。
そして、部長の所までたどり着くと、俺は笑顔を浮かべ、言う。
「部長、帰りましょう」
「イッセー」
次に俺は視線を横に移す。
そこには部長のお父様が座っていた。
俺は深く頭を下げながら言う。
「勝手な振る舞いをしてしまい、大変申し訳ございませんでした。ですが、部長は、俺の主、リアス・グレモリー様は返していただきます」
部長のお父さんは何も告げず、ただ静かに目を瞑った。
少し辺りを見回し、魔王様と執事さんの姿を探すが見当たらない。
一言だけでも、お礼を言いたかった……
今度、あった時には、必ずお礼を言おう。
部長の手を取り、グレイフィアさんに貰った紙を取り出した。
帰るのに必要になるって言ってたけど……
紙を裏返す。
するとまばゆい光を放ち、魔法陣から鷹の頭を持つ、体がライオンの様な巨大な魔物が出てきた。
キュィィイイ!
その声に会場の誰かが呟く。
「グリフォン……」
よくわからないけど、有名なのかな? 翼とかあるし、これに乗って帰るってことだよな……
俺はちょっと不安になりながらも、グリフォンと呼ばれた生物の背にまたがり、部長に手を差し出した。
「さあ、部長」
部長はそれを見て、少し目を見開き、顔を伏せた。
えっと、え? もしかしてまさかの拒否とかそういう……
心配していたのも束の間、部長は顔をあげて笑顔で俺の手を取り、俺の前に乗った。
キュィィィイイイ!
乗ったのを確認したかのように、グリフォンは鳴き声を上げて、先ほどの戦いでできた穴から飛びたとうとする。
「部室で待ってるからな!」
俺は、皆にそう言って、魔界の夜空へと飛び立った。
小猫ちゃん、普段の