俺の霊圧は消えん!   作:粉犬

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Life.5 戦闘、終わりました。

目を覚ますと知らない天井、ということもなく見知った家の天井だった。

外から明かりを感じない所を見ると夜の様だ。

 

「おう、起きたか」

 

「アザゼル…… 男に寝顔を見られる趣味はないぞ」

 

「俺だって男の寝顔を見る趣味なんてねえよ! ったく、珍しく俺が心配してやってるのにこれだ。まあ元気そうで何よりだ。1週間も目を覚まさないで無事かといえば首を傾げざるを得んがな」

 

体を起こし少し動いてみる。

手を握ったり開いたりして見たり、肩を回してみたり屈伸してみたり。

凄まじい空腹と若干反応が鈍い以外は超健康体だ。

 

「思ったより動くんで驚いてるんだろ」

 

「ああ、傷もすっかり治っている。あのコカビエルと言う男にやられた傷も元通りだ。胸の中央をいかれたからてっきり死んだと思ったのだが……」

 

「感謝して欲しいもんだ。俺がいろいろ用意して看病してやったおかげだぜ? ま、それだけじゃねえだろうがな。 ……しかし、胸、ねぇ」

 

「アザゼル」

 

「ああ、わかってる」

 

「そうか、俺は男色の気は無いときちんと理解してくれているならいい」

 

「あ、悪ぃ。全く分かってなかったわ。ていうかんな趣味俺にもないわ! 気色悪いこと言ってるんじゃねーぞ!」

 

「お前が神妙な顔で『胸、ねぇ』とか言いながら俺の胸部を見るからてっきりそういうことかと」

 

「そういうことかとじゃねえだろ! 明らかにシリアスな場面なのになんでそんなこと考えなきゃならねえんだよ! もっとあるだろうが! お前が覚えてない間に何があったかとか! コカビエルの事についてとか!」

 

「コカビエルとやらについてはよくわからないが、飛んでいる記憶についてはなんとなく察しがついている」

 

「っ! あれは、一体何だったんだ」

 

虚化(ほろうか)、仮面を出してる間飛躍的に能力が上昇する。その様子だと見たんだろうが、本当は仮面だけだが一歩間違うと完全に(ホロウ)になる」

 

「その(ホロウ)ってのはなんだ。俺は長いこと生きてきてあんなもん見たことも聞いたこともなかった。俺だったからよかったものの下級中級の堕天使じゃ話にならねぇ。上級でも無傷で倒すって訳にはいかないかもしれないレベルの強さだった。そんな奴がいるなら一度くらいは耳に入るはずだ」

 

「……」

 

アレ、どうやって説明すればいいんだ?

異世界の漫画の化け物なんだよー! とか言えばいいのか?

いやいや、この空気の中でそれを言ったらだめな気がする。

流石に雰囲気ブレイカーと呼ばれる俺でも空気位読むさ。たまには。

というか信じないだろ。

なんかオブラートに包んでおくか。

 

「俺も詳しく知っている訳じゃない。ただ時々夢に出てくるんだ。(ホロウ)と呼ばれる存在と、それと戦うやつらの夢を」

 

アザゼルが怪訝な顔をしているがもうこれで押し通そう。

 

「その夢には俺みたいに仮面をかぶって戦うやつもいたりして、なんとなくその使い方とかもわかっていた。そしてそいつが暴走する姿もその夢で見た」

 

「……」

 

(ホロウ)はある程度上位種になると桁外れの自己回復力を持つようになる。俺の傷が少ないのもその影響だろう」

 

「ああ、まさにその通りだ。巻き戻しみたいに一気に傷が消えていったな。しかし、(ホロウ)か……」

 

……めっちゃ考えてる。

どうしよう、いや証拠はない訳だし大丈夫だろ。

嘘もまあついてない訳じゃないが事実ではあるしな。

 

「いや、考えててもしかたねぇ。これは持ち帰って考えるとする」

 

そういうとアザゼルは居住まいを正し、頭を下げてきた。

 

「今回お前を襲撃した奴は俺の組織の幹部だった。俺の管理不行き届きが招いた結果だ。すまなかった」

 

「あんたのせいじゃないだろう」

 

「管理者としては謝らなけりゃならん。それに、もう一つ謝らなくちゃいかんこともある」

 

「一体なんだ?」

 

「コカビエルは特に重い罰を受けずに解放されることになった」

 

「ム」

 

「未だ堕天使という組織全体から見て人間という存在は軽んじられがちだ。コカビエルのやつは伊達に長いこと生きてる訳じゃねぇ。あいつの側に着く堕天使も少なからずいる。言い方は悪いが俺が多少目にかけてるだけのお前が殺されかけたからと言って、重い罰を与えることはできない。せいぜい単独行動をしたことについてのペナルティを科すだけになる」

 

「そうか」

 

「……」

 

アザゼルの真剣な顔が崩れ、口を開け変なものを見る様な目でこちらを見てくる。

 

「どうした、そんな呆けた顔をして」

 

「お、お前な。仮にも殺されかけた相手が何の罰も受けないでのうのうとしてるって言われたら、もっと、こう…… なんかあるだろうが!」

 

「アザゼル」

 

「なんだよ」

 

「気持ち悪いな」

 

「喧嘩売ってんなら買ってやるぞてめぇ」

 

「俺のミスを許すことを許してやるぜくらいの厚かましさを持ってる奴だ。それがいくらでも怒鳴られる覚悟位ある、という顔をしている。ギャップ萌えを狙っているならもっと他の場所でやれ」

 

その言葉を聞きまた声を詰まらせるアザゼルに続けて言う。

 

「切っ掛けはあんたに有ったのかもしれんが喧嘩を売ってきたのはコカビエルという男だし、買ったのは俺だ。一応の決着がついて今ここに生きているのだから悪気のなかった人間に、いや堕天使に何を言っても仕方ないだろう」

 

「それで納得できないのが知能ある者の反応って奴だろうが」

 

「すまない、知能まですべて腕力に回している。大男総身に知恵が回りかねというやつだ」

 

「自分で言うかよ普通」

 

「それに、コカビエルとやらは本当に無事だったのか? 我ながら最後の一撃は中々いい威力だと思ったんだが」

 

「……被害の具合で言えばお前とどっこい。いやお前はすぐに傷が治ったからな。あいつの方がそこそこ重症だ。まあ数か月は大人しくなるだろ」

 

「ならいい。心残りは奴に一矢報いられたかどうかだ」

 

「はぁ、お前はどっかで螺子何本か落としてきてるだろ。バトルジャンキーめ」

 

「ム、それは心外だ。俺は別に戦いを積極的にしたいとは思っていない。ただ拳を振るう理由があれば駆けつけるだけだ」

 

「それがバトルジャンキーって言ってるんだがな。……今度あいつに会わせてみるか?」

 

「何か言ったか?」

 

「いいや、何も。ともかく腹が減ってるならあっちに爺さんが作った粥があるから食え。それと爺さんが心配してたからな声をかけてやれよ」

 

「ああ」

 

「じゃあ俺は帰る。しばらくは無茶すんじゃねーぞ」

 

そういって扉の方に向かうアザゼルの背中に声をかける。

 

「アザゼル」

 

「何だよ」

 

何を言うか薄々気がついてるのか少し顔をにやけさせながらこちらを振り返るアザゼルに俺は口を開いた。

 

「正拳くん4号を頼む」

 

「そこは礼をいって俺が気にすんなとか言って出ていくところだろうが! ていうかさっき無茶するなって言っただろうが! 修行もしばらく禁止に決まってんだろ!」

 

帰ると言っていたアザゼルはその後1時間ほど俺に説教をして帰っていくのであった。

 

 

 

グリゴリの本部に帰ってきた俺は、泰虎の話を思い浮かべていた。

 

虚化(ほろうか)、仮面を出してる間飛躍的に能力が上昇する。その様子だと見たんだろうが、本当は仮面だけだが一歩間違うと(ホロウ)に引っ張られて暴走する』

 

『俺も詳しく知っている訳じゃない。ただ時々夢に出てくるんだ。(ホロウ)と呼ばれる存在と、それと戦うやつらの夢を』

 

『その夢には俺みたいに仮面をかぶって戦うやつもいたりして、なんとなくその使い方とかもわかっていた。そしてそいつが暴走する姿もその夢で見た』

 

(ホロウ)はある程度上位種になると桁外れの自己回復力を持つようになる。俺の傷が少ないのもその影響だろう』

 

奴の言う夢、それはつまり神器(セイクリッド・ギア)に封じられている(ホロウ)とか言う化け物の記憶や歴代の所有者たちの記憶を夢という形で見ているのか?

しかし、(ホロウ)とは一体何だ? 少なくとも集団で戦うほどの存在?

別の神話体系での出来事ってことか? しかし神が干渉するほどのものであれば聞き覚えがあってもおかしくない筈……

いよいよもってきな臭ぇ。あいつの神器(セイクリッド・ギア)は、本当に神由来の物なのか?

そもそもあいつの神器(セイクリッド・ギア)はそこそこ強力なものだ。それが表に出てこないことがあるのか? 神が死んで以後、結構な時間がたった。それなのに、今になって世に出てくる神器(セイクリッド・ギア)があるのか?

冗談。だったら、どういうことだ?

……神が死んだことによって出てきた神器(セイクリッド・ギア)?

いや、だが他の所有者はいたとするなら……

 

「あー! クソッ、わからねぇ!」

 

見覚えのない神器(セイクリッド・ギア)だとは思っていた。

だがあまりにも謎が多すぎる。

それにあの(ホロウ)化という現象、あれは危険だ。

決着自体はすぐについたし、あの場で言っていた通り戦闘に関してはかなり御粗末なできであった。

しかし、あれは不完全な状態だと考察している。

恐らくあの現象は能力の暴走という側面もあるが、一番大きいのは宿主が死に瀕したからこその防衛機構。

ならば宿主が死ぬようなことはしない。

あれはまだ泰虎の体が神器(セイクリッド・ギア)の能力に追いつかなかったからこそあの程度で済んだのだ。

恐らくあのビームの様な攻撃もまだ上がある。

戦闘の技術もあの時戦いながらほんの少しずつ的確になっていた。

もし、泰虎の体が能力に耐えられるようになり、あの暴走状態が長く続く様なことがあったら……

 

「これからはちょっと口を出す程度じゃなく、本格的に神器(セイクリッド・ギア)の扱いについて学ばせなきゃならんか…… そう考えるならあいつに会わすってのもあながち悪いことじゃないかもな」

 

「感傷に浸っているところ申し訳ないが目の前の仕事を片付けてもらおうか。アザゼル」

 

「あー、泰虎のやつが心配だぜぇ」

 

「棒読みで何を言っている。1週間もいなくなって。事情は分かっているからとやかくは言わないがしばらくは缶詰だぞ」

 

「はっー! ったく、これからちっと本腰入れて調べようってところなのによ! 出鼻挫きやがって!」

 

そんな不満を叫びながら夜は過ぎていった。

 

 

 

 

 

 

to be continued…




アザゼルがただのいい師匠になってて笑ってしまう。
けどアザゼルがはっちゃける余裕はプロローグにはない!
バンバン行くよ!

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