ヤタガラス様の素晴らしさを語ろうとしたけど語彙力とか文章力が足りなくて打ちひしがれるハシブトガラスの話だったかも知れない 作:xelt
清々しい程に青い空、眩く輝く太陽と、僅かにかかる淀んだ雲。
窓から見える自然がこれ見よがしに夏を示している中、私ことハシブトガラスは幾つかの原稿用紙と相対し、苦悶と歓喜を混ぜこぜにした声を上げていた。
「これはなかなかに……」
私はそう呟いて一応の仕上がりを見せたそれを掲げる。紙に書かれた内容に問題は無い。しかし暫くした後、再び不安に襲われる。
「……これはヤタガラス様に見せられる出来なのでしょうか?本当に?」
僅かな疑念。生まれた不安を振り払うことは出来ず静かに首を振る。結局書き上げたそれは没になり、振り出しに戻ることとなった。
「少々甘く見ていましたね。まさかこれほど手間取るとは」
何故私が悩んでいるのか。何に対して悩んでいるのか。その原因は数日前に聞いたある出来事のせい(もしくはおかげ?)だった。
「フレンズ人気投票?」
柱と屋根と、まばらな机。壁は無く、全て木製である。そんな屋外の簡素な休憩所で私達は向き合っていた。眼前には器に盛られたカキ氷モドキが二人分。
「そう。前にもあったでしょ?」
「噂には聞いていましたが、その時は忙しかったもので」
手に持ったスプーンをクルクルと回しながら、彼女------オオタカは私に訪ねてきた。蒸れた風が微かにこちらに吹いてくる。
「まあ、あの時は参加者も少なかったしね」
「そうなのですか?」
「事前の告知に手間取ったみたいでねえ」
私も詳しくは知らないけど、と付け足すタカ。手元の器に手を当てる。ひんやりとした冷気が心地よい。
「しかし、どういったイベントなのか詳細を知らないのですよね。何となく想像はつきますが」
「まあ、大体想像通りだと思うけど。誰が1番人気のフレンズか決めようっていうイベントね。1人3人まで投票出来て、得票数の最も多かったフレンズが1位になる」
「ほう」
彼女は手に持ったそれをカキ氷に突き刺す。ゴリゴリという音が響き、彼女は眉を顰めた。果たしてこれはカキ氷と呼んで差し支えない代物なのか。
「これ只の氷塊じゃないの?……まあいいわ。それで、1位になったフレンズには『ベストオブフレンズ』の称号が与えられる」
「字面は凄いですね」
「あとおまけにじゃぱりまんじゅう1年分」
「むしろそちら目当ての方が多いのでは無いでしょうか。サーバル様当たりが特に」
彼女なら必ず参加するだろう。揺るがない信頼がここにあった。
しかし資金は大丈夫なのだろうか。じゃぱりまんじゅうだけでなく、人を動かすには相応の対価が必要だ。前回のイベントには管理センターも関わっていたとなると尚更だ。そんな私の考えを知ってか知らずか、彼女はそれについて話してくれた。
「イベントの運営については管理センターがまた関わってくるらしいわね。人の集まらないイベント程つまらないものは無いって言うことで、誰かが費用を支払ってくれたらしいけど。噂では研究所の所長だとか。」
「豪勢な事です」
「ありがたく思っておきましょう。管理センターが来てくれるのなら、それに越した事はないのだし」
フレンズの皆様は個性的故に、組織的行動が苦手な事も多い。管理センターが来てくれるのならそれが良い。
「ところで、このイベントは誰にでも投票出来るのですか?ケツァール様などはこの手のイベントを余り好ましく思わない気がしますが」
「そこら辺は問題ないわ。推薦されたフレンズのみに投票可能で、尚且つ辞退も可能だから」
びしりと効果音付きでこちらにスプーンを向けてくる。スプーンは未だに湿り気一つ帯びていない。
「辞退出来るのは結構ですが、推薦されないと出場も出来ないとは……」
「なお自薦も可」
「途端に難易度が下がりましたね」
「要はイベントの認知度を上げる為だからねえ。まあ、誰かに自分のお気に入りの子の良さを知ってもらいたいっていう人にはいいんじゃない」
「でしょうね」
「それと推薦には推薦文が必要になるわ」
「また難易度が上がりましたね」
「文字数は最低100文字以上」
「先程からハードルが上下しすぎて混乱してきました。最低百文字とは。SNSにでも投稿するのですか」
「その代わり上限はないから愛を語りたければ好きなだけ語れるわ」
「良いことです」
「ふーむ」
私の反応に、何処かつまらなさそうな表情を見せるタカ。……何か期待でもされていたのだろうか。
「どうかしましたか?そんな顔をして」
「いや、ねえ。あなたの事だから」
「だから?」
そこで彼女は1拍置いて目の前の器を見て考え込んだ後、
「『なんとそんなイベントが有るのでしたらヤタガラス様の素晴らしさをもっと世に知らしめる絶好の機会ではないですかいてもたってもいられません今から推薦文を書かねば!』みたいなこと言うんじゃないかと思ったんだけどね」
と、若干早口に捲し立てた。大袈裟な身振り手振りのおまけ付きだ。彼女のモノマネは致命的に似ていなかった。私は手元の小さな雪山に匙を突き刺した。ガキリと鈍い音が鳴った。
「しかし実際の反応は鈍かったので、面白みがないと」
「そゆこと。まあある程度予想通りだったけど」
おもむろに懐からペットボトルを取り出し、中身を氷山へとぶちまける。かかった部分から僅かに溶けていく。ちなみに天然水である。
「……うわあ」
渋柿を口に詰め込んだような表情を見せる彼女。梅干でも似たような表情になるだろうか。
「何か問題でも?」
私は憮然とした表情で訪ねた。
「無いけど……無いけど」
彼女は何か言いたげな表情をしながら言葉を切った。
今しがた水をぶちまけたそれへ匙を差し込む。サクサクと小気味いい音が鳴り響く。一掬いした後口へと運ぶ。美味しい。
「それで、わざわざそれを伝えに来た理由は?まさか反応を見に来ただけではありませんよね」
「え、ええ」
若干戸惑い気味に答えるタカ。水味のかき氷って美味しのかしらと呟いたのが聞こえた。私は何も答えずにニッコリと微笑んだ。
困惑気味の表情をしていた彼女だが、やがて表情を引き締めて話を切り出してきた。
「今日は頼み事があって来たの」
『 前にもあったでしょ』アプリ版開始前の投票。1位はキタキツネ。他に公式人気投票あったら教えて下さい。
『 管理センター』そのまんま。管理する施設。ジャパリパークの中枢施設。年がら年中人手不足。
『 ケツァール様などは』ケツァールさんは美しい美しいと言われ続けた結果、嫌悪感を示すようになったフレンズ。
『 天然水』ジャパリパークの美味しい水。700ml百二十円也。サンドスターたっぷり。
鳥フレンズ総選挙、9月12日まで。