この話は神矢レイラ様の幻想五光輝の三次創作です。ご了承ください

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勝手に最後のγ=Ⅰ戦(幻想五光輝)

霊夜の目の前に現れたのはγ=Ⅰ。彼の登場に警戒を強める霊夜だったが、それは無理もないことだ…なにせ霊夜は一度、γ=Ⅰに殺されかけたのだ。その時は紫から貰ったマインド・Xキャンがあったからその場をどうにかしのぐことができたが、今はそれも古明地さとりに盗まれている。

 

「よぉ、ガキンチョ。今回はマジの中のマジだぜ」

 

「確かに、雰囲気が違うな……だけど前回とは違う」

 

「人数差かぁ!?関係ないねー!何たって今回はスペシャルバトル……スーパーなスペルカードを拵えてきたんだからなぁ!SPELLCARD”閉鎖「スペースコロシアム」”!」

 

 

突然のスペルカードの発動に、魔理沙にディアに鈴神、椛に早苗が咄嗟に霊夜の周りに集まろうとするが、何かの力によって弾かれてしまう。

 

 

「な、なんだぜこれ!?」

 

「くっ!これでは霊夜様に近づけない……!」

 

「外道なスペルカードか!」

 

「霊夜様……!」

 

「師匠……っ!まずい!スペルカードに反応して魔物どもが……!」

 

突如、地面から白い幕がドーム状に霊夜とγ=Ⅰを囲むように展開される。咄嗟に振り返って皆の元に戻ろうとする霊夜だったが、その白い幕が邪魔をしてあちら側へは辿り着くことはできない。その光景をケラケラと笑いながらγ=Ⅰは何もない所からいつものスラッシュアックスを取り出す。

 

 

「ハハハハハ!このスペルカードはお前の”友達との絆”ってやつを切り裂く……俺様からの特上品(プレゼント)だ!このスペルカードに時間制限はなく、発動中は俺様はスペルカードを発動できない。だが、てめぇも犬ッコロから奥義抹消(スペルデリート)を受けていてスペルカードは少ない……ハッ、いいハンデだよなぁ」

 

「だが、結局不利なのはお前の方だ」

 

「それはどうかな?このコロシアムはスペルカード……弾幕が撃てねぇ訳ねぇだろ」

 

「……これは!」

 

 

霊夜の後ろ……もっと具体的に言うと白い幕から次々と弾幕が射出される。慌てて、弾幕から離れて距離を取ると、いきなり弾幕が停止する……何が起きたと考えるよりすぐに霊夜の脳裏にはすぐ結論が浮かび上がった。

 

 

「確かγ=Ⅰ、お前のスペルカードは宇宙関連……つまり。この弾幕たちは無重力状態か!」

 

「ご名答。そうさ、こいつらはコロシアムから一定の速度で射出され、一定の距離を移動すると無重力状態でその場に居座る。俺たち自身が放つ弾幕には無重力状態(それ)は作用しねぇ」

 

「……だけど、この通り!」

 

 

霊夜は剣をフワフワとその場に浮かんでいる弾幕に向かって振るう。すると、弾幕はぴゅーんと飛んでいき、白い幕にぶつかって消えてしまった。もう分かったのかと相変わらずの頭の回転の良さに呆れた様子でγ=Ⅰは「そういうことさ」と頷く。

 

 

「そう、まるで……あー……ガキンチョ?お前、ビリヤードをやったことはあるか?あれみたいになる。だからよぉ……3番ボール。37°…くらいか」

 

 

γ=Ⅰは突如、近くにあった弾幕を持っていた得物で弾いた。だがそれは、霊夜へは向かわず他の弾幕と衝突する。何をと言う暇もなく、さっきの弾幕とぶつかった弾幕が、急に霊夜へと襲い掛かって来た。

 

 

「何っ!?」

 

 

すんでのところで回避したが、近くにはまだ白い幕から射出された弾幕があり、これ以上の後退はできないとγ=Ⅰの方を向く。そして、理解した。

 

 

「そうか、お前は不規則に弾幕同士を当てることで俺に弾幕が向かったっていうことか……」

 

「不規則……かどうかは5番ボールと1番ボールをそれぞれ42°で受けてみな!」

 

(この言い方……まさか)

 

 

霊夜は嫌な方が思い浮かんだ。何しろ相手がγ=Ⅰだったからその嫌な方という考え方は普通だったらあまり出てこなかっただろう……γ=Ⅰは宇宙関連のスペルカードを多く使用する。故に派手であり、かつ強力なものであった。だが、今回のスペルカードはかなり歪だ。γ=Ⅰの特製と言いつつも弾幕が白い幕から一定距離まで飛んでくるだけ……そして途中で止まる。それだけだ。地味と言えばγ=Ⅰのこれまでのスペルカードと比べればそうなるだろう。だからこそ、嫌な予感が霊夜を襲っていた。

 

 

「また弾幕が不規則に!」

 

「不規則、不規則ってよぉ……風の力を持ちながらこの程度かよ?」

 

「何?」

 

 

風の力……確かに霊夜は風属性の力を元々持っている。だが、それとこれがどう繋がるのか。こればっかりは超人染みた理解力を持つ霊夜にさえ、分からなかった。

 

 

「てめーは自分の力を過小評価しすぎだ。だから他人に頼る。そこにつけ込まれて奥義抹消なんて喰らっちまう」

 

「何が言いたい!?なっ……!」

 

 

話をしているうちに弾幕が急な角度で飛んでくる。それに驚きながらも霊夜は辛うじて回避する。いくら何でもこんな奇跡があるのだろうか?いや、奇跡なんてものではない。ただの物理的現象。

 

 

(γ=Ⅰは性格上、すぐ調子に乗る癖があった。こちらの手を確認しないで自分の力にのみ固執する……だからこそこちらも手が打てた。その強力故に繊細さが欠けている弾幕は特徴的でスペルカードは対策の仕様があって……所謂、頭が悪そうというマリムの言葉に何故か共感が出来たぐらいだが……)

 

 

すぐ後ろに弾幕が落ちてきた。霊夜は確信した。

 

 

(γ=Ⅰは狙ってこちらを攻撃している。しかも弾幕のスピード、方向が全て予測できない……少なくとも俺にはこの弾幕たちは読めない。来たやつから対処するので精一杯だ。だが、奴は確実性を持っている……あいつは頭がいい。必ず、最低三方向から弾幕が来るようになっている!)

 

「よく、避けんなぁ……言い忘れていたが、この戦い。いや、スペルカード”閉鎖「スペースコロシアム」”の完全破壊の条件だが、俺が死ぬ時のみだ」

 

「何だと!?」

 

「つまり、この戦いに勝利したくば俺を殺せ!」

 

 

あまりに唐突に生死を賭けた戦いの幕開けだと言うγ=Ⅰに対し、驚きが隠し切れない霊夜。弾幕ごっこで人を殺すことはできないはず……つまり、γ=Ⅰに敗北はないということになる。

 

 

「しかし、もう一つ条件がある……このスペルカード内での弾幕ごっこでは被弾=ゲームオーバーにはならない。このスペルカード内での全ての弾幕には殺傷能力が上昇していて、どっちかが死ねば終わりだ」

 

「死を勝敗の条件にするスペルカードだと!?」

 

「俺様は破滅の三刺客(カタストロフ・トリニティー)。ふん、てめぇが死ねばミッションクリアだ」

 

「何のつもりだ!?」

 

 

霊夜が怒鳴ったのは決して死への恐怖心からではない。何故、命を賭けてまで自分と戦う必要があるのかということを問うつもりで怒鳴ったようだ。だが、その怒号もγ=Ⅰにとっては頭に血が上るためのガソリンに過ぎない。

 

 

「温いんだよぉ!全員生きてこの大異変がクリアできると思ってんのかよ!」

 

「皆生きてなきゃ、意味がない!」

 

「死ぬことが無意味みたく言うんじゃねぇよ!」

 

 

γ=Ⅰのスラッシュアックスに風属性の力が溜められていることに気がついた霊夜は咄嗟に回避行動をとるが、死角からの弾幕の接近に気づき、体勢を崩してしまう。

 

 

「あー、5発ヒットだ」

 

「(こいつ、一体どこまで計算しているんだ!)嘗めるな!「連続ハリケーン拡散」!」

 

 

通常の連続ハリケーン射撃とは異なり、自分の死角となる部分にもハリケーンを放つ。だが、コントロールはできずに、100%防御用の技だ。γ=Ⅰは更にイライラしたように腕を震えさせる。瞬間にγ=Ⅰは消え、霊夜は飛ぶ。幾ら新たなスペルカードを携えたγ=Ⅰ相手と言えど、γ=Ⅰ自身の能力が変わったわけではない。いつも通りに「空間を捻じ曲げる程度の能力」を使って、霊夜のすぐ近くにテレポーテーションしようとしたのだが、それは最高の理解力を持つ霊夜にとっては既に分かっていたこと。予知にも近い、天然肌で感じとって避けたのだ。

 

 

「逃がすか!45°!102°!」

 

「一の型!旋風(サイクロン)!」

 

「吹き飛ばしたか……ごほっ!?」

 

 

γ=Ⅰの腹部に弾幕ドストレートでヒットする。これは霊夜の攻撃の際に風に煽られて来た弾幕だろう。自分の攻撃で自分がダメージを喰らうとは本来愚の骨頂ではあるが、零夜はこれに油断した。明らかに通常の弾幕ごっこでは見るはずもない血。γ=Ⅰが苦痛の表情をしながら吐血した瞬間、零夜は地面に着地した。

 

 

「γ=Ⅰ!」

 

「ゲホッ、ゲホッ!あ~~~~~効くねぇ!!これが死への歩み!ドクドクドクドクと心の臓が高まっていくゥゥ!だが、まだだァ!俺様のスペルカードの真骨頂(お楽しみ)はこれからだ!被弾した弾幕ごっこプレイヤーは使用可能なスペルカード1枚を永遠に封印する!」

 

「永遠に!?まさか、俺が勝っても次の戦いにスペルカードを使用させないつもりか!?」

 

「……ハァ……俺様は空間「アストロフォール」を封印する。そしてぇ!」

 

「何、しまっ―――っ~~!」

 

 

後頭部に弾幕が急降下爆撃(クリーンヒット)する。頭が反射するよりもその場に倒れかけてしまうほどの激痛。歯を食いしばって何とかその場に立ち止まるが、脳の近くに衝撃が走ったので上手く正面が向けなくなってしまっている。それを見たディアたちは慌てて、白い幕を叩く。

 

 

「レイ!どうなっているんだこの壁は!」

 

「今、分析しました……これは――――」

 

 

γ=Ⅰが零夜に説明したように今度は鈴神が他の四人にスペルカード「スペースコロシアム」についての説明をしている。それを聞いた四人はこれが決して外側から壊すことはできないということを知る。

 

 

「γ=Ⅰの死が解除条件だって!?そんなのどうすることもできないじゃないかぜ!」

 

「まさに外道なスペルカードだ。レイの優しさにつけ込んだ外道な罠か!」

 

「だが、さっき見たようにγ=Ⅰ(あのバカ)にも自分の弾幕が当たっていた。ということは師匠が取るべき勝利の道はただ一つ……γ=Ⅰを自爆させることだ」

 

「ですが、」

 

 

鈴神が椛の一言に対し、付け加えたのは被弾時にスペルカードが永遠に封印されるという能力のことだ。先程、γ=Ⅰだけでなく零夜も被弾してしまった。ただでさえ、奥義抹消による大量のスペルカードの損失に加えて、マインド・Xキャンのスペルカードの威力・性能を上昇させる能力も魔剣そのものがないために発揮されない。

 

 

「さぁ、お前もスペルカードを一枚封印しなァ!役立たずのスペルカードなんて、てめぇが持っているとは思ってないけどな!」

 

「くっ……模倣符「物真似スケッチ」を封印。だが、今度はこっちの番だ!風槍「ウィンド・ザ・グングニル」!!」

 

 

霊夜が新たに身に着けたγ=Ⅰが見たことのないスペルカードである「ウィンド・ザ・グングニル」はレミリアの「スピア・ザ・グングニル」のそれに劣ることのない威力で危険を察知したγ=Ⅰは能力を駆使し、上空に瞬間移動する。だが、霊夜が投げた槍が生み出すの風の力はコロシアム内の弾幕を全て巻き上げて消し飛ばした。

 

 

「これで大分隙が出来た!」

 

「直接勝負か!上等!」

 

 

剣と剣斧がぶつかり合う。互いにライフを削り取っていくまさに命の駆け引きに、胸が熱くなるのを止めることはできなかった。

 

 

「はぁぁぁぁ!」

 

「でぇりやああ!」

 

 

お互いに重い一振り。魂の対話。金属音が発される度にそれが旋律となって不協和音ではない音楽を奏でる。互いに風の力の持ち主ということもあってか、何所か二人は似ているようだ。

 

 

「はぁ……はぁ……た、のしいなァ、ガキンチョ!」

 

「はぁ、はぁ……俺はお前との戦いに割く時間はないっての!」

 

「何だその言い方!デ……紅白巫女のパクリかよ!あー、そうそう……今更言っておくが、このコロシアム内は防音だ」

 

「防音?なんで、そんな機能が」

 

「それは俺様がてめぇに言いたいことを全部言うからさ!いいかガキンチョ!!てめぇは弱い!友に支えられていようといまいと関係なくな!それを今から証明してやる!」

 

 

スペースコロシアムの弾幕が再び白い幕から射出されるようになった。γ=Ⅰは霊夜に背を向けて、壁際まで迫る。そして、弾幕を一つ正面に飛ばした。正面というのは当然壁のことだ。すぐにバウンドしてγ=Ⅰの方に戻ってくる。それを再び正面に撃ち返す。そして、それを繰り返していく。霊夜はすぐにγ=Ⅰの行動の意味を察し、急いで横にずれてγ=Ⅰと直線上に重ならないようにする。

 

 

「さて、俺様のプレゼント、ありがたく受け取れぇ!」

 

 

γ=Ⅰがフルスイングしてずっと跳ね返し続けてきた弾幕が異常なスピードで霊夜の真横を通り過ぎていった。γ=Ⅰはこれを狙っていたのだ……弾幕がまるでスーパーボールのように弾んでいき、より多くの回数叩くことで弾幕のスピードを上げていたのだ。

 

 

「でも、お前は隙だらけだ!斬打「疾風のハルバード」!!」

 

 

剣は風の力を纏ったハルバードに変わり、いくつかの小さな弾幕とハルバードの刃の動きに連動し衝撃破が放たれる。だが、γ=Ⅰにとってこれはサービス問題に近い。というのもこのスペルカードに合わせてマインド・Xキャンの『SP・Boost』により、スペルカードの性能を上げた「疾風のハルバード」と相対していたために、それよりワンランクダウンしているこのスペルカードはγ=Ⅰの障害にはならないのだ。勿論、それが分からない霊夜ではないはず……何らかの形で作戦を練っているのだろう、γ=Ⅰはそれにあえて踏み込もうとしていた。

 

 

「それが、お前の弱いところだ。てめぇは浅い……酷く浅い……っ!」

 

 

ハルバードから放たれた一撃にわざと当たる。その際にγ=Ⅰのスペルカード、異空「ライラットスター」が消滅していく。だが、怯まずにまた前に出る。

 

 

「ガキンチョ、お前のその浅さが俺様とは違う。つまり、俺様には絶対勝てない。その理由は……!」

 

 

また一撃がγ=Ⅰの首にヒット、軽く擦り切れているが、今のは下手すると比喩でも何でもなく、首が飛ぶことになっていたのだろう。そして天蓋「ダイソンフラッシュ」が消える。

 

 

「友、一人一人に対する想いの強さだ!」

 

「!?」

 

「ガキンチョ、てめぇが白黒をフッたのは知っている」

 

 

それは約二年も前の話……幻想郷に来て、初めて女性に告白された時に…霊夜は霧雨魔理沙を……彼女をフッたのだ。それは事実だが、何故γ=Ⅰが知っているのか分からない。

 

 

「何でそれを……」

 

「本人から聞いた。てめぇは友人をそれ以上でもそれ以下にも(友人としか)見ていない!そんな薄っぺらな友情を無数に増やしたところで結局は薄い器にしかなりゃしねぇ!」

 

「そんなことはない!」

 

「ある!てめぇは両親を失ってからというものの孤独を嫌うがあまり、正しい判断が出来なくなっている!」

 

「正しい判断!?友達を増やしたい、多くの友達に囲まれたいという思いの何が間違っているっていうんだ!」

 

「気を使わせてまでそう思うか!」

 

「それは……っ!」

 

 

咲夜には自分の心の不安を見透かされ、その中で居場所として彼女の隣を提案された時、彼女はその場では何も言わず、待ってくれた。気を使わせてしまったのだ……魔理沙もそうだ。一回フラれただけではその恋心が消えることはそんな早くそうなることはないだろう……早苗だって、椛だってそうだった。

 

 

「違うとは言い切れないだろう。てめぇは自分の私利私欲のために友を増やしてんだ。それは自分のトラウマである『孤独』から逃げるために!前ばっか向いているようで、本質を見ることを止めちまっている……!」

 

「……俺は、父さんと母さんを失って、姉さんの未来を奪って、それでも生きなきゃって!生きている実感を得なきゃって!俺は……そうだ。俺は、自分がこの世界に存在することを証明したくて誰かに認めてもらいたくて友達が欲しかった」

 

「……」

 

「友達を作るのは簡単だった。それにディアは俺をライバルって言ってくれて俺を認めてくれている。信じてくれる。仲間だ……でも、俺はいつからか……友達と接していない時間が怖くなってきたんだ。一人でいる時間が長く永く思えて……怖くなって、もっと友達が欲しいと、この怖さを取り除いてくれるぐらいの量の友達が!」

 

「それがガキンチョ、てめぇの『心の病み()』だ」

 

「……夜が怖かった!恐ろしかった!早く終わってほしかった!明日になれば皆に会える……だが、夜は父さんに母さんのことを思い出して、寂しい感情ばかりだった」

 

(てめぇと俺様には明らかに似ているようで異なる……いや、寧ろ正反対だった)

 

 

γ=Ⅰには両親がいた。だが、親が居らず自由だった霊夜とは異なり、昔から不自由な生活ばかりを送ってきた。霊夜は両親を失ったが、γ=Ⅰは己を失った。両親の温かさを欲した霊夜と両親の消失を望んだγ=Ⅰ……確かに全くの正反対だろう。

 

 

「幻想郷に来てもてめぇは変わらなかった。いや、変われなかったみたいだなぁ!」

 

「……ッ!」

 

 

γ=Ⅰのスラッシュアックスが巻き起こした旋風が空間内の弾幕を巻き上げ、無造作に撒き散らす。霊夜は落ちてくる箇所を予測して回避を行おうとするが瞬間移動を駆使してスラッシュアックスで斬り込んできたγ=Ⅰの対応に追われ、追い詰められていた。だが、こんな不利な状況だからこそ、不思議に思うことがあった。

それはγ=Ⅰのスペルカード、閉鎖「スペースコロシアム」についてだ。アレが射出する弾幕は一旦動きを止める。動き始めるためには誰かからの後押しが必要となる。今までのγ=Ⅰだったらこんなスペルカード作らなかっただろう。それでもこのスペルカードを作り、この戦いで使用したのは恐らくは自分のためではないのだろう。

 

 

「まさか、γ=Ⅰ。お前は……」

 

「そろそろ本気の死合いをしようぜぇ!?どっちが最強の風属性の力を持っているか!」

 

「……(勝つためにはγ=Ⅰを殺すしか……でも、どれだけ強力なスペルカードも弱点があるはずだ。例えばγ=Ⅰの能力なら封鎖空間であるこのスペルカードの中から外に出ることも出来るはずなのにそれをしないのは、能力の干渉も防いでいるから。待てよ?そう言えばあの時……)」

 

「おいおいさっさと力を使いな!ちっぽけなてめぇの風なんて、俺様の嵐にも等しい力が消しとばしてやるからよ!」

 

 

γ=Ⅰの挑発の一言に霊夜の中から何かが沸き上がって来た。剣を持つ手が震える。怖いわけでも、武者震いでもない……別の理由で……

 

 

「例え、小さく弱かったとしても……」

 

「あん?」

 

「そうだ。最初から強いものなんてないんだ……最初は小さいし、弱い……俺は風みたいなものだ。最初はそよ風のような弱いものだけど!皆から力を貰って何時かは台風にだってなってみせる!」

 

「はっ!じゃあ、てめぇはもう台風だって言いてえのかよ」

 

「いいや、そよ風(神凪霊夜)はまだまだ成長中でございます!でも、周りから力を貰って一時的な台風に!今日は晴れのち大嵐!弾幕の皆様はご注意を!SPELLCARD!接続「勝利の風」!」

 

「な、新しいスペルカードだと!?」

 

 

スペルカードの宣言と共に霊夜の周りに微弱ながら目で見えるほどの緑色の風がふよふよと浮かんでいる。それがどうしたとγ=Ⅰが風属性を付与させたスラッシュアックスの一撃で浮いていた弾幕を全て霊夜の方へ仕向けるが、霊夜の風が全て取り込む。

 

 

「な、弾幕を吸収したってのかよ!」

 

「ただ吸収しただけじゃない!」

 

「……そうか!弾幕を巻き込み、大きくなっているのか!」

 

「そういうこと!そして、台風はいつか消えてまたそよ風に戻ってしまうけど、その際に通った道に残るものはございません!」

 

「しまっ━━━」

 

 

霊夜のスピードは風に乗っていたためにアップしていてγ=Ⅰは対応できずに弾き飛ばされる。

 

 

「がはっ!く、速符「十字のマテリアル」を封印……」

 

 

さっきのハルバードの攻撃をものともしてなかったγ=Ⅰだったが、今の一撃は相当堪えたようで足はちゃんと地面についているものの、どこか覚束ない。破滅の三刺客の中で一番スペルカードを多く持つγ=Ⅰだったが、既に4枚ものスペルカードが封印されている。なのにも関わらず、γ=Ⅰの余裕の表情は崩れていない。

 

 

「……ハハハ!この程度かァ!20番ボール!」

 

「ぐっ!?風が纏っていない部分を狙ったのか……でも、負けるわけにはいかない!君のスペルカードの弱点は見つけた!今発動中の接続「勝利の風」を封印!」

 

「使用可能ならば発動中のスペルカードでも封印可能だと気付いたか。だがそれがどうしたァ!50から120番ボールがてめぇに照準を定めた。チェックメイトだガキンチョ」

 

「いいや、まだ王手にもなってない!」

 

 

γ=Ⅰが降り下ろしたスラッシュアックスの勢いと風属性が融合して、全ての弾幕がバラバラに動き始める。一見不規則そのものにしか見えないが態々γ=Ⅰが嘘をつくとも思えない。霊夜はいざ前へ踏み出した……が

 

 

「っ!?」

 

 

照準に定められたはずの弾幕が何故か直撃する。予想外の被弾と激痛によって思考がぐちゃぐちゃにかき混ぜられる。

 

 

「てめぇの手は読んでた……未来予測込みでのチェックメイトだ」

 

「ぐ、俺は……」

 

「封印するカードを悩んでる場合じゃねぇだろうよ!」

 

「……あ」

 

 

降り注ぐ弾幕の雨。嵐が過ぎ去ってからは降るはずのない雨……だが、それは確実に霊夜の頭上から落ちてきた。

 

 

「レイ!」

 

 

ディアの叫びも虚しく弾幕の雨が霊夜に直撃する。大量のスペルカードが光となって消えていく。それはつまり、逆転の目が無くなったということだ。最も霊夜が生きていればの話だが……

 

 

「……ガキンチョ、てめぇじゃ世界は救えねぇ……」

 

「……………だ」

 

「まだ生きてるよなぁ、なんってたって俺様のスペルカードが消えねぇからな」

 

「まだ……だ」

 

「いや、もう口を開くのですら限界じゃねーか。まぁいい。そろそろフィナーレだ」

 

 

γ=Ⅰはその場で体を起き上がらせれるのが精一杯の霊夜に止めを刺そうと近づく。危険を察知したディアと魔理沙がそれぞれダークフェザーレイド、マスタースパークを放つが、スペースコロシアムはびくともしない。

 

 

「あばよ、英雄サマ!てめぇの死がキッカケとなっててめぇの友は全員死ぬのさ!」

 

「……させ」

 

「遅ぇよ、死ね!」

 

「させるか!」

 

 

ザンッッ!!霊夜は剣を前に突き刺した。その軌道はγ=Ⅰの心臓を狙っていた。あの心優しい霊夜が……だ。しかし、よく見れば霊夜の髪は伸び、更に白くなっている。謎の力……神輝が無意識に発動し、暴走したのだ。だが、剣は虚しく空を斬った。

 

 

「甘いんだよ!」

 

「ぐっ!」

 

 

γ=Ⅰの能力を失念していたのだ。咄嗟に剣でガードをしたものの回避はできず、ダメージを喰らっている状態での追撃はかなり痛手だろう。

 

 

「これで終わりだ!」

 

 

後ろに下がった霊夜に止めと言わんばかりにスペースコロシアム内の弾幕を動かす。

 

 

「はぁ…はぁ……スペル、カード」

 

「気づけよガキンチョ!てめぇのスペルカードはもうないってことをさァ!」

 

「まだだ!俺は……」

 

 

霊夜の諦めていない目にγ=Ⅰは口角を少し上げ、再びスペースコロシアムから射出された弾幕を霊夜に向ける。

 

 

「さぁ、避けてみろ!」

 

「……!!」

 

 

キーーン

 

頭痛の時の耳鳴り近い音が響いたかと思うと、γ=Ⅰが風属性の力で動かしていた弾幕が空中で停止する。勿論、γ=Ⅰが自ら行ったものではない。

 

 

「ガキンチョ……てめぇ」

 

「SPELL CARD魔境「オッドグラビティ」!俺が弾幕を支配した……力を振るえ!」

 

「弾幕どもが不規則に!?」

 

「不規則?ブーメランだぜγ=Ⅰ!」

 

「くっ!」

 

 

自分以上の出鱈目な動きを弾幕にさせながらそれを計算通りと不敵に笑う霊夜にγ=Ⅰは防戦に回った。γ=Ⅰはスペースコロシアム以外のスペルカードが使用できないために接近戦かコロシアムから射出される弾幕でしか攻撃手段がないのだ。だからこそ、その弾幕を支配された場合、γ=Ⅰに攻撃手段の大半が削られたということだ。スペルカードを逆手に取った形勢逆転の一手だ。

 

 

「はっ!都合いいスペルカードだなぁ!だが、俺のスペルカードで俺が殺せるものか!」

 

「いいや、お前は言った!『スペースコロシアムの完全破壊の条件は俺が死ぬこと』だと!」

 

「……まさかてめぇ!?」

 

「そう、完全には破壊できなくても一部は破壊できる!俺もやっとこさ、コロシアムが弾幕を射出する一定間隔を掴めたよ!これでこの空間の殆どは壊せる!」

 

 

霊夜の周りで停止していた弾幕たちは霊夜の言葉に反応したのか、四方八方に散らばっていき、コロシアムの壁に付着するとコロシアムからも弾幕が放たれ……

 

 

「がぁ!!」

 

 

異重力により、動く方向が分からずγ=Ⅰはダメージを喰らう。更にはスペースコロシアムの白い幕にもヒビが入り、幾つかは綻びが生じるが、やはり完全に破壊することはできていない。

 

 

「これでどうだγ=Ⅰ……って泣いてるーー!?」

 

 

いきなりにγ=Ⅰが泣いている姿を見て、困惑する霊夜。まぁ、いきなりそうなっていたら霊夜のリアクションも当然だろう。

 

 

「く……ごめん天子」

 

 

そう言いながらγ=Ⅰは一枚のスペルカードを封印する。霊夜はすぐに悟った。γ=Ⅰは今のスペルカードに深い思い入れがあるのだろう。それも一人のものではなく……

 

 

「γ=Ⅰ……」

 

「……お前の攻撃で俺のスペルカードの使用制限とコロシアムの弾幕の射出に、そしてそれを無重力化する機能がなくなった。最後の一撃と行こう……」

 

「ああ」

 

 

γ=Ⅰが取り出した最後のスペルカードは通常のものよりも一層輝いていて、一目見て今まで見たことのないスペルカードだと判断できる。スペースコロシアムが対処された場合の最後の手段としか見えないそのカードを天に掲げる。

 

 

「宇宙創造の孤独な輝きよ、我が命と引き換えに生まれた堅牢なる信念と共に、異色漂う希望となれ!ラストワード『終の冀望要塞(ファイナル・ホープ・フォートレス)』!」

 

「……城塞!」

 

 

聳え立つ鋼鐵の要塞に宇宙関連だったγ=Ⅰのスペルカードとの関連性はない。だが、これまでのものより全力であることは間違いない。

 

 

「このラストワードは俺の命を削ることで発動する……ぐぅぅ!」

 

「お、おいγ=Ⅰ!?」

 

「気にするな……これは、必要経費だ。そしてスペルカードを強制発動させる……!」

 

「それは……」

 

 

γ=Ⅰが取り出した正真正銘最後のスペルカード……それは、異次元「ヘリオスフィアゾーン"Э(カタストロフ)"」だった。アレは破滅の三刺客であるγ=Ⅰそのものといっても過言ではない存在のカード……だが、それの威力は重々承知の上だ。

 

 

「勿論、魔改造さ……俺様の命を削ることで破滅奥義(カタストロフスペル)の……威、力を……上昇させる!」

 

「自らの命を……止めろ!何で自分を傷つけてまで……!」

 

「てめぇが俺と正反対の道にいるからだ!」

 

「!」

 

 

正反対の道……言われれば最初から最後まで彼とは正反対だったのかもしれないと霊夜は思い返した。破滅なる存在"Э"の一員とそれに対抗するための存在。

 

 

「俺には両親がいた……!だが、てめぇが憧れるようなモンじゃなくて、全く別のゴミのような存在さ……!そして俺はそこから逃げられなかった!でも、てめぇは大空を羽ばたいている!鳥のように自由で、群れを成している……!俺は鳥かごの中の孤独な小鳥だった……俺は見果てぬ夢を見ながら死んでいった!てめぇは生きながらこの世界に来た!全くの光と闇のような正反対さ……腹立つんだよぉ!てめぇが生きるためにそのスペルカードを使うのなら!俺は死の間際までこのスペルカードに力を与えるのさ!」

 

「……そんなに正反対か?」

 

「何?」

 

「お前のその見果てぬ夢は、友達が欲しかったんじゃないのか!」

 

「!」

 

「完全に正反対じゃない……似すぎていたのかもしれない。だからこそ、お前は否定して闇の中へ突っ走っていく。そんなのは勝つためじゃない!逃げているだけだ!」

 

「はっ!ぐうの音も出ない正論だなァ!だがよぉ、ここで今の自分を肯定しても!『今までの自分を肯定』なんて馬鹿なことはもう出来ねぇのさ!」

 

「本当にそれがお前の選んだ道なのか、γ=Ⅰ!?」

 

「違う!」

 

「!?」

 

 

首を振り、完全に否定するγ=Ⅰに霊夜は驚く。γ=Ⅰは手に握りしめている破滅奥義を更に強くさせながら、目を開く。その眼はいつもの金色に輝くものはなく、黒い瞳になっていた。

 

 

「俺はγ=Ⅰじゃない……!その名は今限りを持って破滅の三刺客の名誉と共に捨てる!俺の……いや、僕の名前は『晴朝魁徒』だ!」

 

「晴朝……魁徒……」

 

「『神凪霊夜』……男と男の一対一(サシ)の勝負だ」

 

「……分かった。手加減はしない。行くぞ、魁徒!」

 

「ふっ、来い!霊夜!」

 

「七色の光集うとき、解放の願いが輝き出す。虹を纏いし光よ、この手で道を斬り拓け!!SPELL CARD“虹符「“神”ラグナロクRD」”!!!」

 

「神秘なる力は天上の歌声!煉獄よ、冥府よ、浄土よ導け!この憐れな魂の誇りに救済を!SPELL CARD”破滅奥義「ヘリオスフィアゾーン"Э³(カタストロフトリニティー)"」”!」

 

 

両者、お互いに最大の一撃をぶつけ合う。

 

 

破壊され、崩れていく……

 

 

「レイ!」

 

「「霊夜様!」」

 

「師匠…」

 

 

ディア、鈴神、椛に早苗が外から崩れ落ちていくスペースコロシアムをの残骸をどかしながら霊夜を探す。だが、魔理沙だけは別行動をしていた……

 

 

「あの馬鹿!」

 

 

あの馬鹿というのは恐らくは晴朝魁徒のことを言っているのだろう。二年前の彼からの借りを魔理沙は忘れていなかった。スペースコロシアムとは別にファイナル・ホープ・フォートレスの残骸も散らばっている。恐らくはそこら辺に彼がいるのだと躍起になって探す。

 

 

「おーい!馬鹿魁徒ー!」

 

「……誰が、馬鹿……だっつーの」

 

 

どこからかツッコミが入る。それに嬉々としてしまうのは不謹慎ではあるが、魔理沙は声の方に向かった。そこには流石に体力の限界なのか、座り込んでいる霊夜と倒れ伏せている晴朝魁徒の姿があった。

 

 

「……二人とも生きていたのかぜ!」

 

「いや、僕の負けだ……破滅奥義は、Эの力を持たない者が、使えば……命を更に削る……」

 

「……魁徒、お前なんでこんなこと……」

 

「敵だったから、だ」

 

「!」

 

「お前の心の、闇は誰かが気づかせないと……いけない。純粋な心で、なければ……神輝は完全には輝かない」

 

「魁徒……っ!」

 

「お前が……立ち止まったら、お前と手を繋いでいる皆も、立ち止まってしまう。それでは、駄目だろう?僕とは正反対だからこそ……友を……裏切るな」

 

 

魔理沙の目には涙が浮かぶ。恐らくは今までの腹立たしい程の元気なγ=Ⅰだった頃の魁徒のことを思い出しているのだろう。

 

 

「……ふざけんなよ!私は、まだお前に相談しきってないんだぜ!」

 

「白、黒……」

 

「お前言ったじゃないか!『また相談に来い』って……私、まだ……」

 

「ふ、ふふ……じゃあこの貸しは……『死ぬまで貸しとくだけだぜ』」

 

「お前……!」

 

「なぁに、お前みたいなのは……長生きするから。長い貸しになりそうだがなぁ……」

 

 

晴朝魁徒は「ふっ」と笑うと、魔理沙の後を追ってきたのか他の四人も集まってくる。霊夜と魔理沙の涙はほぼ同時に落っこちた。ああ、と力なく呟くと晴朝魁徒はスラッシュアックスを握っていた手を放した。

 

 

「見果てぬ夢は……叶った」

 

 

何時か、両親以外に名前で呼ばれる……名前で呼んでくれる友が出来ることを、ずっと夢見ていた。

晴朝魁徒の姿はすぅっと薄くなっていき、遂には消えてしまった。

 

 

「魁徒……敵ながらに天晴だった」

 

「それより、スペルカードはどうなった」

 

「スペルカード……?ああ、ある!封印したはずのが全部戻ってる!」

 

「やはり……」

 

 

鈴神はスペースコロシアムの分析を続けていた。その際に知ったのだ。スペースコロシアムが壊れれば封印されていたスペルカードは元に戻るシステムがあることを……全て計算済みだったのだ。霊夜の心の病みを暴き、もう一度向き合わせることで新たなスペルカードを作り出させた。魔境「オッドグラビティ」は霊夜と魁徒の敵同士の友情から作られた。

 

 

「あの馬鹿……」

 

「進もう。それが、魁徒との約束だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

最終話辺りで↓みたいな話が欲しい。

 

 

天界の外側をぐるっと一周した不快感は突如として消える。永江衣玖はそれを探知したのか、隣にいたマギミ・アリクーガーに目をやる。

 

 

「嫌な空気は去りましたよ」

 

「これで安心して魁徒探しを続けられますね……天子ちゃんは」

 

「まだ寝ています」

 

 

比那名居天子は年に似合わない体格と同等の精神を兼ね備えているためか、一向に探している相手、晴朝魁徒の情報が出てこないので拗ねて寝ているのだ。

 

 

「全く困ったものですねあの総領娘様は……ねぇ、っていいい、衣玖さん!?なんで泣いてるんですか!?」

 

 

おどおどするマギミの声にどう対応していいのか分からなくなってしまっている衣玖はしどろもどろにしか喋ることはできず、ただ泣くしかできなかった。

 

 

「わか、りません……何故か涙が……」

 

「それって能力のせいですか?でもそれでなんで……あああ!」

 

 

マギミが遠くから歩いてくる一人の影を見た。長く……酷く長く見れなかった懐かしい姿にマギミも涙を流した。

 

 

 

比那名居家の自室に閉じ籠ってベッドに横になって泣いているのが、総領娘の比那名居天子である。彼女は性格故に友人が全くというほど居なかった。その時偶然にも見つけた晴朝魁徒に、運命にも近いものを感じ彼と友人となったのにも関わらず、彼は行方不明になってしまった。原因は分かっている。謎のローブの男……あれが誰なのかは分からない。だが、晴朝魁徒が失踪する原因なのには間違いなかった。なのに、さっきまでは何故か天界から地上へ移動することができなくなっていた。今はその柵が無いのだが、拗ねて部屋に閉じこもっていたのでそれを知る由もないのだ。

 

 

コンコン……部屋の扉をノックする音に天子は我に還る。どうせ、衣玖だろうと、ふんと鼻を鳴らすと枕をぎゅっと抱きしめた。

 

 

「構わないで。私、今日は行かないから」

 

「……やれやれ。また衣玖さんに反抗しているのかい?」

 

「……え?」

 

 

天子は衣玖とは別の声にまだ頭が十分に回転しきっていないというのに無我夢中で扉を開けた。そこにいたのは、ボロボロの青年……懐かしい目の色……

 

 

「……嘘」

 

「ふ、ただいま天子……今日、君の誕生日だったよね?」

 

「……ボロボロじゃない……風呂入ってきなさいよ……馬鹿!バカバカー!どれだけ心配してたと思ってんのよ……お帰りなさい魁徒……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

鐘を鳴らして(BONNIE PINK)

 


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