1話 〝腐り目の少年〟
波狂う海、降り注ぐ雨、鳴り止まぬことのない雷、強烈な風。
ここは「新世界」
一握りの者しか踏み入れられない、危険で、常識が通用しない海。
この海で生き残ることで、“強者”ということになる。
運だけでは、この海では生き残れない。
だからこそ、この少年も、生き残ることが出来るかは定かではない。
『新世界』の海に浮かぶ1つの島、燃えている大地。
建っていた建物が1つ残さず燃やされていた。
目の腐った少年と、4歳程度の少女の前に、屈強な男が1人。その周りには、屈強な男の味方と思われる男たちが何10名も2人の子供を囲んでいた。
船長と思われる屈強な男が、腐った目の少年の首を掴む。
「…ぐっ、…あぁぁあ!」
苦しそうに、泣きわめき、足をバタバタさせる。
屈強な男は2メートルをゆうに超えており、身長の分、手も長いため、少年が足掻いても、屈強な男へは届かない。
「…お、お兄ちゃん‼︎」
足掻く少年のすぐ後ろで、妹である少女が泣きわめく。
「よく見れば、そこのガキ、可愛いじゃねぇか」
屈強な男が口を開く。
「船長、それは……」
「ロ、ロリコン…」
船員がドン引きしたように屈強な男を見る。
「ば、バカ! 違ぇ! 俺はガキには興味ねぇ! ただ成長したらいい女になるんじゃねぇかと思っただけだ!」
焦ったように屈強な男が弁明する。
「こ、小町には、手を……だ、すな…」
首を絞められながらも、少年は声を振り絞る。
「このガキ、まだ喋りやがる」
屈強な男は少年の首を絞める手に力を入れる。
「…ぐっ! あぁあぁぁぁぁあ゛あ゛ぁぁぁぁあぁ‼︎」
「お、お兄ちゃん‼︎」
「おい! お前ら、そこの女のガキ船につれてけ」
「了解ですー」
そう言い船員たちは小町と呼ばれた少女を連れて行く。
「ま、まってぐれぇぇ! ごまぢだげばー! ごまぢだげばー!」
「けっ! きったねえ! 鼻水垂らしてやがる!」
屈強な男はそういうと、少年を下に投げ捨て、何回も踏む。
何十回か、踏んだら屈強な男は満足したのか、唾を吐き捨てその場から去る。
少年は既に喉が枯れて声を出せなくなっていた。
少年の発する声は誰にも届かない。
妹を守れず、不甲斐なく泣いた少年は、泣きわめく声も出すことが出来ず泣いている。
海賊たちに折られた腕や足は、動かない。
意識も朦朧としている。体中は傷だらけで、抵抗したさいに海賊に切られた傷は何箇所もあり、腹のところからは大量出血している。
そして、3週間以上何も口にしていない。
もう、何もしなくても、少年は1日と経たずに死亡するだろう。
出ない声、折れた腕や足、腹からは大量出血、3週間以上何も口にできなかった。
少年は、朦朧とする意識もさの中、絶望していた。
こんな燃えている島に、危険を伴ってまで入る必要はないから助けも来ない。
途中まで、そう思っていた。
少年は生きてやる、と意志から眠らないようにしていた。
そして、希望が訪れた。
大きな船が、島に止まった。
「助けが来た」と少年は思った。だけど、船をちゃんと見ると海賊船だった。
少年はまたもや絶望した。本当に終わった、と思った。
だけど、その船から降りてきた男がこういった。麦わら帽子をかぶった赤髪の男に───────
「俺はシャンクス。無事か? 少年?」
シャンクスと名乗る男は少年に手を伸ばす。
その手を少年は折れた手で必死に掴む。
少年は、希望を見出した。漸く、生きられる、と。
。。。
少年にとって、3週間ほどぶりの飯だった。
少年は、1日で、死ぬと思われていた状況からどうにか抜け出していた。
自分の服を破り、出血していた部分を止血した。
後は、気合いだった。それだけだった。小町を助ける。ただ、それだけだった。
そして、少年の声はまだ出ない。妹を失ったショックからなのか、声帯を失ったからか。
ただ、周りの声は聞こえている。
少年を助けたのは、赤髪のシャンクス、と名のある海賊らしい。
そして、副船長はベン・ベックマンと言うクールな男、この海賊団のまとめ約、他にも、ラッキー・ルゥや、ヤソップなど、愉快な面々だった。
海賊だと言うのに、いつも笑って宴をしている。
というか、まったく航海をしていない。ある程度、航海したら、島に泊まり、毎日のように宴だった。
少年は、この時、この海賊団は強くないんじゃないか? と、思っていた。
だけど、すぐに少年の考えが変わった。
シャンクス率いる赤髪海賊団よりも、はるかに数を上回る海賊団が襲ってきた時、仲間一人死ぬことなく、相手の海賊団を撃退した。
少年は、この海賊団は強いんだと思い知った。
でも、楽しかった。少年は今まで、親に捨てられ、妹と一緒に新世界を駆け回っていた。
たった5歳にして海に捨てられ、妹を連れて、上手く立ち回ってきていたつもりだった。
けれども、新世界は力がない子供2人が生き残れるほどやわい世界ではない。
1年だけでも生きられている方が奇跡なのだ。頼れる大人もいない。
海の知識もない。世の中の渡り方も知らない。そして、戦いかたも知らない。
そして、3週間、漸く少年は口を開いた。
「あぁ……おぁ…」
少年は、声の出しかたを忘れていた。
けれども、これは大きな進歩だった。
近くにいたシャンクスが、喜んだように声を張り上げる。
「おーーーーーい‼︎ お前ら! 漸くこのガキが喋ったぞー‼︎」
とても嬉しそうに、にこやかに声をあげた。
それを聞いた船員たちも、
「まじかよ⁉︎」「漸くか!」
など、
驚きの混じった喜びの声をあげた。
でも、完全に喋れているわけじゃないのに……と、少年は思った。
けれども、少年にとっては、とても、嬉しく思えた。
。。。
とっくに骨折も直り、1つも知らない字の勉強を始めた。まだ喋べれるわけではなかったが、少年は何をいってるかはわかるため、「字の勉強をするか?」と、ベックマンに聞かれ、静かに頷いた。
その後も、船員たちにはお世話になった。
シャンクスは、「新世界にいる限りお荷物はゴメンだからなぁ! 剣術の練習をしてもらうぞ!」と、ヤソップは、「狙撃の仕方を教えてやるよ」と、少年は、赤髪海賊団の船員たちから、色々なことを教えてもらった。
航海士には、航海の仕方を。船大工には、船の直し方を。船医には、医療関係のことを、とにかく、たくさんの知識をもらった。赤髪海賊団の船の中にある本をかたっぱしから読んだ。まぁ、たいしてないのだが……。
どんどん少年の顔は、表情豊かになっていた。
船に入れた最初の頃は、笑いもせず、泣きもせず、表情は、動くことがなかった。
漸くのことだった。船に入れて1年、笑ったり、泣いたり、船員たちはその姿を見て、嬉しくなっていた。
。。。
それから2ヶ月。船は、新世界を抜けて、
否、実際平和だろう。海の知識が充分にあれば、生き残ることは、難しくはない。それも、海の警察的存在『海軍』や、自分たちより、強い海賊に遭遇しなければ、余裕で生き残れるだろう。
そして、新世界に比べて天候も余り荒くない。新世界にいたものからすれば、平和と言っても過言ではないだろう。
そんな海に到達してから、3日。
少年はついに、ついに、口を開けた。今度は不完全ではなく、完全な声で。
「声が……出た…」
少年はぽつりと呟いた。
その声をまたしても聞いていたシャンクスがとてもとても嬉しそうに声を張り上げた。
「おーーーーーーーーい‼︎ お前ら‼︎ ガキが漸く‼︎ 声を出したぞーーー‼︎」
その声を聞き、船員たちは喜ぶ。また、あの時と同じ光景。
でも、また、同じ嬉しさ、いや、あの時よりも、もっと嬉しさが溢れてきた。
そして、ベックマンが少年に聞く。
「半年以上お前の口から名前を聞いていなかったな。名前は?」
「ヒキガヤ………ハチマン」
ハチマンという名前の少年は、自分の名前を言う。
「ははは! 変な名前だ!」
シャンクスは高らかに笑った。そして、シャンクスは続けて、
「ハチマンが喋れることになったのと、俺たちの新たな航海を祝い!
乾杯‼︎‼︎‼︎」
この海賊団は、いつだって宴をしている。
その雰囲気がハチマンは好きで堪らなかった。
そして、少年は、強くなることを決意した。妹を救うために、また、新世界に戻るために。
でも、その話は何年も後の話。
少年は、シャンクスたちと海を突き進む。