音が遠くなったのと確認すると、妖士丸がそっと草むらから顔を出して、周りを確認する。
「大丈夫みたい」
「ほ、本当?」
平太も顔を出すと、安心したように息をつく。
「コラコラ……安心してないで、俺たちの仕事をするぞ」
別の場所から顔を出した八左ヱ門に、小さな声で返事をすると、三人は注意しながらい組の陣地のある方角へ足を向けた。
ろ組はどこの陣地の場所も把握していない。できるかぎり早急に場所については知っておきたかった。もし余裕があれば、木像を奪うことも考えているものの、さすがに一年二人と五年一人ではいくら、は組の陣地だとしても難しいだろう。
「少し走るぞ。この辺に他チームが集まってくる前に抜けて、待ち伏せするぞ」
先程の焙烙火矢で、この辺で戦闘が行われていることは全員思ったはずだ。ならば、誰が戦い、誰がやられたのか、それもまた情報として重要な部分だ。近づきはしないだろうが、遠巻きに確認はどのチームであってもするはずだ。
八左ヱ門たちはその確認に来たチームをつけて、陣地を見つけるつもり作戦だったのだが、
「うわぁぁ……!」
「平太!?」
突然、平太が姿を消した。先程までいた場所には人が一人だけ落ちそうな穴。
「これは……」
見事なタコツボだ。忍術学園に通っている生徒ならタコツボを見ただけで、ある人物が思い浮かんでしまうのは仕方がない。
平太を助け出しながら、八左ヱ門はもう一度辺りを確認するが、やはりない。
「……う、嘘だろ?」
嫌な予感に背筋に寒気が走った。
その頃、またひとつ縄を結び終え、罠を作り終わった喜八郎が立ち上がると、枝を抑えていた伝七がそっと手を離す。そして、すぐに別の場所に向かう喜八郎を青い顔で追いかけた。
「せ、先輩……! 本当にこれでいいんですか!?」
「あ、そこ気を付けてね」
「ひぃぃ~~!!」
ここについてからというもの、ずっと罠を作り続けていた。しかも、罠があるというサインを置かないで。
もはや味方にすら、少し離れたらわからなくなってしまう罠に、伝七も悲鳴を上げる以外なかった。先に進むにしても戻るにしても、周りは罠だらけ。喜八郎についていくのが一番安全というこの状況。
「ん?」
「ど、どうしたんですか?」
「おやまぁ……同じこと考えてる人がいる」
「え゛!?」
喜八郎が指を指す先をよく見れば、確かに細い縄が仕掛けられている。天才トラパーと呼ばれる綾部でなければ気付かなかっただろう。やはりそこにもサインはない。伝七がなおさら顔を青くしたのだった。
「ほら先輩! がんばってください!」
「こ、こんな予習してないよぉ~~!!」
兵太夫もまた藤内と共に、サインを置かずに次々と罠を仕掛けていた。
「僕とカラクリ作る予習はしたじゃないですか」
「それはしたけど、サイン置いてない罠を見つける予習なんてしてないよ!」
涙目になりながらも、嬉しそうに顔を輝かせている兵太夫を追いかける藤内だった。
***
その頃、その地点を抜けた青葉は何かに気がつくと、すぐさま木の影に隠れた。三郎次たちも慌てて向かいの木の影に隠れた直後、轟音と共に先程まで三郎次たちがいた場所に布に豆をつめた弾が地面にあたって弾けた。
「うひゃぁ!」
「ゆ、ゆり子!?」
確かに三人が向かう先には三木ヱ門とゆり子がいた。
「先輩の予想通りだ」
普通なら戦闘しているであろう場所は避けるのが当たり前だが、青葉であればあの音が嘘だと分かった上で最短距離を最も安全だと思って走り抜けてくる。そう断言したのは三郎だった。
本来、攻め手の方向大きくふたつに分けるための作戦だが、青葉に対してならひとつに絞れる。同じ学級委員長委員会だからこその読みだった。
「三郎のやつだな……」
青葉もすぐにはめられたことは理解した。
「付き合いが長いと、さすがに行動パターンとか思考パターンとかもある程度予想がつくかぁ……」
それに敵チームに誰がいるのかわかっているのだ。ある程度手も読める。
「ど、どうするんですか!?」
三郎次と久作が慌てる中、青葉はじっと三郎次を見つめると笑った。
「三郎次、焙烙火矢は持ってる?」
「え? あ、はい。委員会で作ったちょっと強めの光の物なら」
「うん。いいね。じゃあ、点火してギリギリまで待ってから三木ヱ門の前に投げよう。それと同時にろ組の陣地へ入る。あとは陽動だ。わかるね?」
二人の表情が強ばった。三木ヱ門がいるということは、もうろ組の陣地ということだ。つまり、三木ヱ門を抜けたらその時点で青葉は二人を置いていく。
陽動は確かに必要ではあるが、それは他の人に任せ、ここで三木ヱ門と青葉をにらみ合いさせておいた方がい組のためではないかと、二人は目を合わせる。
「……まぁ、俺も持ってるから、三郎次がやりたくないなら別にいいよ?」
そういって懐に手をやる青葉に、三郎次が慌ててやるといった。タイミングが重要なこの作戦で、こちらは二人、あちらは一人。しかも、もうすでに見捨てる気満々の青葉に焙烙火矢を投げられたら、三木ヱ門との睨み合いを任されることになってしまう。
それならいっそ、自分が投げたほうが幾分かマシだ。
「ん?」
三木ヱ門が転がってきた球を目にしたのは、本当に一瞬だった。
眩しい光に視界が真っ白に塗り固められ、耳には確かに誰かが走り去る音が聞こえるものの、見えなければ撃つこともできない。
「くっそー!!!」
しばらくは、視界も回復しそうになかった。