外でネコが鳴いた。
「あら……ネコ」
「あぁ、すみません。昔から何故かネコに好かれるみたいで」
忍術学園では、すっかりお馴染みの『昼寝すると猫山ができる』という、青葉の謎の特技? だ。
「おとなしい子ね。この時間の警護は青葉さんですか?」
波奈もネコの頭を撫でながら聞けば、首を横に振られた。
「私は外の警備です。間借さんに、明後日のことを伝えに来たのですが」
「間借なら自室じゃないかしら」
「そうですか。では、波奈さんにだけ先に伝えておきますね」
青葉は護衛の詳細を伝えると、ネコを抱えて間借の部屋へ向かった。
部屋の前につくと、妙に毛を逆立てる腕の中のネコ。
「……間借さん。青葉です。明後日の件でお話があります」
部屋の前で、しっかりとネコを抱きながら、声をかければ、数秒で出てくる間借。
「!」
「おや、ネコはお嫌いですが? しっかり抱いていますが――」
「――クションっ!!」
「……先に外へ逃がしてきます」
ネコを外に連れ出してから戻れば、こちらを睨むような視線。
「申し訳ありません。ネコが迷い込んでしまっていたようで」
「あぁ、いい。だが、離れていてくれ。また鼻が痒くなる」
「では、ここからお話します」
部屋には入らず、一度人がいないことを確認すると、護衛について語り始めた。
「まず三手に別れます。予定されていた道を、お二人に扮した我々。そして、波奈さんと間借さんも二手に分かれていただきます」
「……どういう配置になっている?」
護衛である自分が波奈と分かれるなど、気が気ではないだろう。少し鋭くなった視線に、青葉は頷くと続けた。
「間借さんは、私と共に。波奈さんには、三人付けます」
例え襲われたとしても、ふたりが足止め、ひとりが波奈を連れて逃げられる。
残りのふたりは、先ほど言ったとおり、二人に扮して予定通りに歩く係りだ。
「ルートに関しては、各班に我々がいますので、一任させていただきたい」
「……随分と用心深いように感じるが、なにか出たか?」
「何者かが屋敷の様子を伺いに来ていた。ということは、確認しています」
「!」
「ただ狙いはわかりません。当主様か、波奈さんか、それとも間借さんか」
「私なわけがないだろう」
「可能性が一番低いので、私のみの護衛となりますが」
「君が一番強いわけではないのか?」
「まさか。私は、成績ドべ組ですよ。安心してください。波奈さんには、1年年下でも優秀な組をふたり、お付けします」
「そうか。ならいい」
疑い深くこちらを見る間借に、青葉も笑みを崩さず、外に出た。
「さて……どうしたものか」
翌日、腕を組んで唸っていると、襖が開く。
「先輩。そろそろ起きて――ましたか」
「あぁ。三郎。おはよう。お茶の一杯でもいただけると嬉しいですね」
「残念ながら本日は閉店です」
「そりゃ残念」
「ところで、あのからくり箱開けるみたいですよ」
勘右衛門は結局開けられなかったらしく、悔しいから開ける様子を見るそうだ。
「先輩も見るなら早めに行った方がいいですよ」
「……いや、調べることあるからいいや。勘右衛門は答え合わせするんだろ? 悔しがるのを、すぐに見れないのだけが心残りだ……」
不貞腐れるように口を尖らせる青葉に、三郎も苦笑を零すが、すぐに表情を戻す。
「様子を伺ってた奴らですか?」
「ん。そう。兵助にも頼むから、護衛は4人で頼むよ」
「はい」
「まぁ、今日は何も起こらないだろうから……ひとつだけ頼むよ」
「なんです?」
「猫の世話」
「…………はい?」
伝え終えると、青葉は立ち上がり、外に出た。
「兵助」
見張りをしている兵助に声をかければ、すぐに降りてきた。
「どうしました?」
「ちょっと鳥野家で行ってきてくれないか。行きも帰りも偽物の道で」
「わかりました。例の件ですね」
「そ。俺は覗き見犯探ってくるから」
ふたりが屋敷を出てから数時間。縁側には八左ヱ門と雷蔵、波奈が座っていた。
三人の前には、一匹の猫。昨日、迷い込んだという猫だ。
「住み着いているのでしょうか?」
「どうでしょう……猫ですから」
「でも、猫だってお気に入りの場所はあるぜ? 案外、ここが好きなのかも」
「だったら間借も喜ぶかも」
「間借さん、猫好きなんですか?」
「はい。他の者に示しがつかないとかで、あまり堂々と愛でてはいませんが」
「あー……ありますよね。そういうの」
小さい頃から一緒にいる波奈は、何度か猫と戯れる間借を見たことがあるが、他に見られたところで問題あるはとは思えなかったが、本人が強く拒否していた。
「お嬢様」
「あ、はい。失礼します」
今日は、出立のため、波奈は忙しなく準備を行なっていた。
雷蔵たちも護衛の為について行こうとしたが、服に関することということで、その場で待つことになった。
「あちらはあちらで忙しそうだな」
「まぁ、戻ってこれるとはいえ、嫁ぐんだし。準備も必要だよ。そっちは? また来た?」
「あぁ。何度か、物売りに化けて来たよ。特に何もしていかなかったが」
向こうも監視に気がついていたのだろう。
しかし、狙いが波奈なら明日までに何か仕掛けてくるはず。
「ふたりは、このまま波奈さんのことを頼む。私は、兵助と先輩が戻ってくるまで監視を続ける」
「了解」
こちらを除いていた忍者が、変装して入り込まないように、三郎は屋敷の監視に専念することにしたのだった。