ヒーロー・アドベンチャー・コブラ・ザ・サイコガン 作:ガラガラガララ
ひとりの女が命を落とした。
どこにでもいるような平凡な女だった。
女は四人の男に弄ばれた挙句、無残にも絞め殺された。
そして、女の死体は樹海に埋められた。
事が済むと、四人の男を雇い入れた事件の首謀者は、その四人の男達も始末し、これでもう大丈夫だと安堵した。
だが、その安堵感は、数週間後に絶望へと変わり果てた。
今は真夜中だ。
鼻先に銃口を突きつけられ、海道は呻いた。
「だ、誰だ、お前は……」
「当ててみなよ。見事当てたらコロンビア旅行に招待するぜ」
おどけた口調だ。
だが、男と視線を合わせた瞬間、戦慄した海道は己の心臓が、氷の手で鷲掴みにされるような感覚に襲われた。
身体中の毛穴から脂汗が噴き出す海道。
男の凍てつくような冥い瞳──海道は理解した。
目の前にいる存在は、冷酷な死神なのだと。
「か、金ならあるぞ……」
「地獄の沙汰も金次第さ。俺の情けだ。金は地獄まで大事に持っていくといい」
「お、俺を殺しても一銭の得にもならないぞっ」
「……ひとつ言っておく。彼女は何も知らなかった。彼女があの場に居合わせたのは、ただの偶然だ。
だからあんたの悪事も何一つ見ちゃいなかったんだ」
「な、なんだと……ッ」
喘ぐように海道が言う。
「運が悪かったな。あんたが彼女に何もしなけりゃ、あんたも地獄に落ちることはなかったっていうのに。それじゃあ、あばよ」
「待てっ、待ってくれっっ」
男が人差し指を引いた。
パイソン77の撃鉄が落ちた。
銃口から煙と炎が噴き出し、弾丸が海道の眉間を貫いた。
リビングルームに充満する硝煙のむせ返る匂い。
男は海道満の犯した数々の悪事の証拠をその場に置くと、現場から立ち去った。
翌日、現役の衆院議員である海道満が、何者かによって、自宅で射殺されたという事件が、ニュースで大々的に報道された。
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土宮は下町、と言えば聞こえはいいが、半ばスラム化した町だ。
ヒーローやらヴィランやらが現れた動乱期、ここの住民達は警察に協力し、自警団を作り上げて、
他のヴィラン達との抗争に明け暮れた事で知られている。
だからこの町は、ヴィジランテ達の間では、かなり有名な町でもある。
もっとも、当時警察に協力していた自警団のメンバー達は、後に警察とヒーローの手により、次々に検挙、捕縛されていったが。
社会情勢が混乱していた時代ならともかく、警察機関やヒーロー組織が徐々に整備され、安定していくと、
ヴィジランテという存在は正直、国の執行機関からすれば目障りでしかなかった。
警察とヒーローが絶対に隠しておきたいスキャンダルの一つ。
だから土宮の住人達は、警察もヒーローも信用してはいない。
濡れ衣を着せられてムショにぶち込まれ、協力する代わりに帳消しにしてもらったはずの罪を暴露されれば、誰だってそうなる。
それゆえに土宮町の住人は、警察にもヒーローにも頼らずに全て仲間内で始末する。
土宮関連の人間は、とにかく結束力が固い。
そこに警察やヒーローが付け入る隙はない。
土宮の住人は、仲間内で支えあって生きているのだ。
この町の住民である
譲は捨て子だった。
彼は土宮町の小さな神社の祠に捨てられていた。
そこへたまたまお参りに来ていた義理庵の爺さんが、譲を拾い上げた。
譲は、下町の人々から様々な手ほどきを受けてスクスク育っていった。
そうとも、陽気でタフな少年に。
義理庵爺さん達に連れられて、譲は本当に色々な場所へと旅をした。
中東、アフリカの紛争地帯で戦闘に参加したこともあれば、マカオでは、行きがかり上だが、三合会の幹部の一人を暗殺したこともあった。
ヴィジランテの中には、非合法活動をする者も多い。
現代の日本社会では、ヴィジランテ自体がイリーガルな存在とも言えるが。
又、ヒーローはヴィランを捕まえるだけで、殺すということは滅多にしない。
だが、ヴィジランテの場合は、対象を明確な意思を持って殺すケースもある。
譲もこれまでに、悪党や敵対者を殺害している。
必要に迫られれば、殺しも躊躇せず。
いつしか、譲はヴィランやヴィジランテから恐れられる存在となった。
凄まじくタフな肉体と強靭な鋼の如き精神力、腰のホルスターにはパイソン77、そして左腕に備わったトレードマークのサイコガン。
ある男が言った。
奴は毒蛇だと。
また、ある男が囁いた。
奴は死神だと。
毒蛇を食う毒蛇──そして譲は、ならず者達から『コブラ』と呼ばれるようになった。
不死身の男コブラと。
そんな譲はいま、雄英高校に入学していた。
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話は入学前に遡る。
以前から、譲に目をつけていた国家公安委員会は、彼にある話を持ちかけてきた。
雄英高校を卒業し、ヒーローとして今後も政府に協力するならば、これまでの罪を全て揉み消すと。
そして断れば、義理庵爺さんをはじめとする、土宮町のヴィジランテ仲間を検挙するとも。
公安委員会は要するに譲を表ではヒーローとして、その裏では自分達のスパイに仕立て上げようとしているのだ。
海外の諜報活動にもヒーローという肩書きは、とても効果的だ。
また、裏の世界に通じているというのもポイントが高い。
意外だが、ヒーローの多くは裏社会の事情について、それほど詳しくはないのだ。
だから、場合によっては、国家公安委員会はヴィランと手を組むこともある。
政府とマフィアの関係は、どこの国でも一緒だ。
そしてコブラは、その申し出を承諾した。
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譲が襲いかかるロボットを蹴り上げ、殴り飛ばす。
切羽詰まったような他の受験者たちとは違い、どこかノンビリとした雰囲気だ。
時折、大きく欠伸をし、カールの掛かったモジャモジャの金髪を掻いたりしている。
傍目から見ればやる気がなさそうだ。
その癖、ロボットは的確に倒していく。
それも素手で。
譲のストレートパンチは、確実にロボットを捉え、その装甲を潰していく。
その様子は淡々としたものだ。
どこか熟練の職人による機械的な作業を思わせる。
気まぐれに他の機体に襲われている受験生を助けてやり、手を貸してやりながら、それでも譲はどこか覚めていた。
「おっと、危ないぜ」
ロボットに襲われそうになっていた小さな少年の背を掴んで、機体から放たれたロケットを避けさせた。
「おっと、サンキューなっ」
「何、良いって事さ」
陽気な笑みを浮かべ、譲がブドウ頭の少年にウインクを飛ばす。
──さて、ブリキの玩具と遊ぶのもそろそろ飽きてきたな。
電子葉巻を咥え、適当なビルの壁にもたれ掛かる。
その時、ビルが傾ぐように揺れたと思った瞬間、瓦礫が瀑布のごとく降り注いだ。
素早く身体を反転させ、譲が瓦礫の雨を躱す。
砂煙が舞い散った。
コンクリートの混ざった砂煙だ。
「きゃーっ」
すると、どこかで少女の悲鳴が上がった。
瓦礫にでも巻き込まれたのか。
譲は素早く付近の気配を探った。
少女はすぐに見つかった。
今まさに、瓦礫の下敷きになりかけた少女の姿を。
ダッシュした譲は、降り注ぐ瓦礫の雨から少女を庇った。
いくつかの瓦礫の破片が、譲の背中を無慈悲に打っていく。
「大人しくしてなよ、お嬢ちゃんっ」
少女を小脇に抱えると、譲は左腕から飛ばしたワイヤーで、安全そうなビルの屋上へと飛び乗った。
ショックで震えている少女を優しく地面に下ろし、譲が大丈夫だったかいと、声をかける。
「はい、大丈夫です……助けて頂いてありがとうございます……」
「そうかい。怪我も無さそうだし、よかったな。それじゃあ、ちょいとばかり俺の背に隠れていてくれ」
立ち上がった譲が、目前へと迫り来る巨大なロボット相手に相対する。
それは0ポイントの仮想敵だった。
「あの、早く逃げないと……」
「まあ、見てなって」
ニヤケた笑みを少女に向け、ウインクすると左腕を巨大ロボットに突き出す。
次の瞬間、激しい轟音とフラッシュが交錯したかとおもうと、巨大ロボットには三つの大きな風穴が空いていた。
巨体が、重苦しい音を立てて地面にひれ伏す。
いつのまにか譲の左腕は、紡錘型の銀色に光る銃に変貌していた。
これこそがサイコガン、悪党が死神の鎌と恐れるコブラの武器だ。