ヒーロー・アドベンチャー・コブラ・ザ・サイコガン 作:ガラガラガララ
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どこかで悪魔が、ブルースを弾いている。
そんな夜だった。
不夜城に立ち並んだネオン輝く雑居ビルの群れ、群れ、群れ。
廃ビルの錆びた扉を蹴破り、コンクリートの床に散乱した空のウイスキーボトルを蹴り転がし、コブラが無遠慮に突き進む。
「おーいっ、いるのはわかってんだっ、出てこいよっ」
闇に向かってコブラが叫んだ。
「……ったく、誰だよ」
奥の部屋から顔を覗かせたのは、ヨレヨレのコートを着込んだ小太りの男だった。
「早速で悪いが本題に入らせてもらおうか。あんたが女から盗んだ形見のオルゴール、返してもらいたい。
勿論、タダとは言わないさ。十万払おうじゃないか」
「は、たかが十万ぽっちだあ?いいか、あのオルゴールはよ、三百万出しても欲しいって奴がゴロゴロいるんだ。
わかったらとっとと出直してくるんだな。ああ、そうそう、金が用意出来ないってんなら、身体でもいいぜって伝えておけ」
「は、盗人猛々しいとはこのことだな」
そう言うと、コブラが肩を竦めてみせる。
「何とでも言いな。何なら警察なりに駆け込めばいい。もっとも、あのオルゴールは曰くつきの品物だ。
あの女だって脛に傷持つ身だからな。おいそれとは警察にゃ届け出られねえだろうぜ、へへ」
男が嘲るようなニヤついた笑みを浮かべてみせる。
その瞬間、銃口から放たれた弾丸が、男の耳朶を吹き飛ばした。
「その話は女から聞いてる。じゃなきゃ、この俺に助けを求めたりはしないだろうからな」
男に近づくと、その鼻先にパイソン77の銃口を押し付けるコブラ──熱くなった銃口が、男の鼻先を炙った。
途端に男の背筋が、恐怖で凍った。
「ま、待てよっ、俺をここで撃ち殺した所で、オルゴールは戻っちゃこねえぞっ」
「それならオルゴールはどこにあるんだ?俺もまどろっこしいこたぁ、嫌いでね。
オルゴールを大人しく返すなら、このままこっちも黙って引き下がろうじゃないか。
あんたの大事な命はひとつだし、怪我してもつまらんだろう」
コブラに問いかけられ、男が地面につばを吐くと、観念するように両手を挙げた。
直感的にコブラが、躊躇なく自分を撃ち殺すであろうことを理解したのだ。
「は、あんたみたいなヤバイ奴が、あの女の後ろに控えていたってわかってりゃ、あんなオルゴールなんぞにゃ手は出さなかったぜ」
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コブラの身体にまとわりつくのは、美女のしなやかな肢体だった。
唇と唇を重ね合わせ、ふたりが互いを情熱的に求め合う。
女の濡れた唇から漏れるくぐもった喘ぎ声──潤んだ女の瞳がコブラを見つめ続けた。
「ああ、コブラ……ッ」
コブラの指先が、なめらかに女の背筋を滑ると、豊満に突き出た形の良い臀部を弄っていく。
ベッドの上で、それからふたりは一夜を明かした。
目を覚ましてから、譲は女と一緒にシャワーを浴びた。
それから何も言わず、コブラは女と別れた。
陽光がやけに強く感じられる。
「それにしても良い女だったな」
コブラはキューバ産の葉巻を咥え、愛用のジッポーライターで火をつけた。
本当に良い女だった。
陶磁器のように白く吸い付くような肌をした女だった。
名前は最後まで分からずじまい、一夜限りの火遊びだ。
家に戻ると、合格通知が届いていた。
譲はその合格通知をゴミ箱に放り捨てると、ボブ・ディランのアルバムを掛けた。
流れてきたのは『風に吹かれて』だ。
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雄英高校に入学した所で、コブラには何の感慨も湧かない。
当たり前だ。
譲は、ヒーローなんていうものを職業にしている胡散臭い輩には、全く興味がないからだ。
1ーAと書かれたプレートのある教室に入る。
教室内は、他の生徒たちが浮かれているせいで騒然としていた。
「本当に騒がしいったらないね。いや、元気があって大変よろしい事」
ポケットから取り出したリンゴを齧りながら、コブラが教室を見回す。
すると、芋虫のように動く寝袋を見つけた。
何だ、コイツは、と、コブラが寝袋に近づく。
すると、寝袋からヒョッコリと顔が突き出た。
不精髭を生やした無気力そうな目をした男の顔だ。
「よお、どうだい、一つ。朝のリンゴは身体に良いんだぜ」
譲は、ポケットから新しく取り出したリンゴを、男の目前に差し出した。
「……それでは遠慮なく頂こう」
譲から受け取ったリンゴを一齧りし、男が言う。
「今日からこの教室の担任になる相澤消太だ。それにしても君達は合理性を欠く。時間は有限だし、友達ごっこがしないなら他所でやれ。
ここはヒーロー科だぞ」
教室に居る生徒一同を見渡すイレイザーヘッド、その言葉に生徒達が静まり返った。
コブラひとりを除いて。
「まあ、まあ、そう怒りなさんな、大将。確かに時間は有限だ。だからこそ人生は楽しむべきさ。
それに和気藹々とお喋りするのも情報交換の一つだし、
これからチームを組んで互いに学ぶことを考えれば、親交を深めるのも一つの合理性って奴だよ。
オタクの好きなな」
そう言うと、譲が馴れ馴れしく担任の肩を叩く。
このコブラの態度には、イレイザーヘッドも少々毒気を抜かれた。
「どうやら君は口から先に生まれたタイプのようだね」
皮肉交じりに相澤がコブラに返す。
「ああ、良く言われるよ。実際、俺もお袋から出て来たときゃ、自分でも口から先に生まれたと思ってるさ。
所でさっきの合理性についてだが、行動心理学者のダン・アリエリーの『合理性と井戸の問題』についてどう思う?
つまり、オタクが折角掘った井戸をどこかの馬鹿がぶっ壊した。
壊されてオタクは腹を立てたが、壊した馬鹿はこう言う。
『俺を追い掛け回すより井戸を直したほうが合理的だぞ』って。
ここで相手を追い掛け回さずに井戸を直すのは確かに合理的だ。
でも、その馬鹿をとっちめるのも同じくらい合理的だ。
見せしめと制裁になるからな」
「なるほど……君の言うことも最もだ。先ほどの発言は撤回しよう」
コブラの言葉にイレイザーヘッドが大きく頷いてみせる。
「こっちもわかってもらえたようで嬉しいよ」
それから初日ということもあり、グラウンドで個性把握テストが開始された。