踏切境界線   作:空潟 聿

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林川貴帆

 受験前。私は、皆とは別のクラスで授業を受けていた。皆がするような勉強では志望校は合格できないと親が言い出して、夏休みからずっと別教室で自主勉強をしている。本当なら親は私を家に閉じ込めて家庭教師と一対一で勉強をさせたいみたいだが、それだと出席日数が危うくなるとかで保健室登校という形が取られた。学校側も揉め事は起こしたくないと言うように、そんな私の親の我がままを特例として認めてしまった。

 正直、この特例措置は密かに私もほっと息をついていた。私もクラスに馴染めていなかったからだ。それに、親の我がままは今に始まったことではない。親のことであれこれ言われるのは慣れている。男子は大声で噂話をするように馬鹿にし、女子は小声で陰口を叩く。そんなクラスで肩身を狭くしているくらいなら、外野で何と言われようとひとりで勉強しているほうが幾分もましだった。

 しかし、私は今日自分の教室に行かなければならなくなった。

 どうやら担任の先生が産休で変わったらしい。今まで私と親の関係、私とクラスメイトの関係を察して頻繁に別教室に面談にきてもクラスに引き込もうとはしなかった前の先生とは反対に、頻繁に訪れては教室に来いだの一緒に授業を受けろだのと今の先生は言う。今まで適当に誤魔化していたのだが、今日ついに「給食の時間に大切な書類を配るから教室に来なさい」と先生が言った。大切な書類。入試に関する資料だったら困ると思って、仕方がなく教室に向かうことにした。

 久しぶりに教室に向かう道のりは、思ったほど変わっていなかった。しかし、私が通り過ぎると他クラスの同級生からの視線がついて回るのが分かった。通り過ぎる場所場所で様々な人が口々に私を指差して噂話をしていた。

 どうやら給食の準備をしているようで、白衣を着た人たちがちらほらいる。私の教室も違わず、教室の中はこれから給食を取りに行こうと言って白衣に着替えている人たちがいた。

 そこに私が入っていったからか、クラスメイトはほとんど私に気づいていないかのようだった。意図的にそうしているのかもしれないが、そうだとしても都合はよかった。

 教室の中に先生の姿を探したが、先生の姿はそこにはなかった。大切な書類とはいったい何なのか、早く書類を貰って退室したいものだが。否、あの先生のことだから給食はここで食べていけと言いそうだ。そんなことを考えていると、教室の後ろにあるロッカーの上に色とりどりの紙が並べて置かれているのが見えた。

 ロッカーに近づきその紙を見てみると、黄色の出席カードや白色の授業感想カード、水色の自主勉強時間記録カード、黄緑色の読書記録カードなどがあった。どれも初めて見るものばかりで、新しい先生になってからいろいろな取り組みがなされているようだった。

 突然、私はここにいるのが馬鹿らしくなった。ここにいるべきではないと感じたのだ。

 気がつけば私は教室を後にしていた。先生を捕まえる前に。先生を捕まえられなくても、先生の言う大切な書類が貰えなくてもいいと思った。この教室にいるくらいなら大切な書類は今貰わなくてもいいと思った。どうせ、先生が私に渡せなかったら文句を言うのは親で、親が出てくれば先生は書類を親に渡さなければならなくなるのだから。今日、私がわざわざ先生を捕まえて貰う必要はない。そうに違いない。

 そう思って教室を後にして歩いていたのに。

「おお、林川、きてたのか」

 帰ろうとしていた矢先に担任と会ってしまうとは。

「書類な、教室にあるから教室に来い。ついでに給食も教室で食べたらどうだ?」

 綺麗に剃られた髭。若い男の先生。親の言いなりで別教室で勉強することを強いられている可哀想な女生徒を救ってあげたい熱血教師。そんなところだ。私は一応の会釈をし、押し黙る。先生は笑った。

「心配しなくていい。給食だけでも、な?」

「……いえ、いいんで」

「あ、おいっ」

 私は走ってその場から逃げた。否、逃げようとしたのだが。

「まあ、そう言わずに。な?」

 逃げるより先生が私を捕まえるほうが先だった。腕を捕まえられて走ろうとしたのをクンと引っ張られた。

「皆普通にしてくれると思うから心配しなくていいぞ。ああ、給食が終わったら書類渡すから待っててくれ」

 教室に行くまでの少しの間、先生は一方的に私に喋りかけていた。

 教室に入ると、先ほどと違って先に入った先生に注目が集まったのか、後続していた私にまで視線が集まった。皆が皆「こいつが教室にいる」と言うような目で私を見ていた。

 しかし、うるさいのは視線だけだった。先生が言うように、私を腫れ物扱いするような人はいなかった。おそらく、先生にそうするように言われていたのだろう。きっと、朝の会で「今日は林川が教室に給食を食べに来るから驚かないで普段どおりに接してやれ」との指示があったに違いない。でなければ、この人たちがこんなに大人らしい反応ができるはずがない。

 私は教室の片隅に用意されていた席に座って給食を食べた。周りは楽しそうに話をしながら給食を食べているが、私にとってはそれらは雑音でしかなかった。私の内側に彼女たちはひとりもいない。クラスメイトの話し声はどうしても私の外側でしか鳴らない。それはきっと、クラスメイトにとっての自分も同じで。

 なんとか給食を食べ終え、食器を片付けると、先生は「よくやった」と言うように微笑むと私に書類を寄越した。私はその書類を受け取るとさっさと教室から出て行った。

「は……」

 自習教室に行ってため息をついた。先生の言う「大切な書類」は、ただの明日の時間割表だった。明日は朝から教室のほうに来い、というメッセージなのだろう。私はすぐにそれを鞄の中にしまった。

 

 次の日も、その次の日も、同じ手で私は先生に教室に連行された。そのうち給食だけは教室で食べるという風になっていた。面倒極まりないのだが、あの先生から逃げるほうが面倒で、給食さえ教室で食べれば他は何も言われなかったため嫌々ながらも給食を教室で食べるようになっていた。

 それが今日は、体育の授業に参加するように言われてしまった。よりによって苦手な体育に声をかけやがって、というのが内心だが、先生が体育の授業に参加するように言うのも当然だった。先生は体育が専科なのである。自分の目の届く範囲であれば私が授業に参加してくれるだろうと考えたに違いない。体操服がなくてもスカートを脱いでハーフパンツになればいいからと言われ、連行された。もし私がスカートの下に体操服のハーフパンツを履いていなかったらどうするつもりだったのか、と考えてみるが、それはそれで校則違反だと取り締まられていたか、と結論づけた。

 なんとか断るか逃げるかできないかと思ったが、そうしたところで捕まってしまうと思い、先生の言うことに従って大人しく体育館に行くしかなかった。

 体育館に行くと、体操服を着たクラスメイトがわらわら並びもせずに立ち話をしていた。私が体育館の隅で膝を抱えていると間もなく先生が入ってきて、授業を開始した。先生は私を見つけると嬉しそうに笑い、張り切った様子で大縄を生徒たちに見せた。

 私は息を呑んだ。先生は、私たちに大縄跳びをさせる気でいるのだ。

 その大縄を見た瞬間、体育館中にクラスメイトたちのブーイングが飛び交った。喜ぶ生徒は極僅かで、嫌いな生徒が大勢らしい。

「そんなことを言っても授業は授業だからな。やるぞ」

 先生はそう言い切ると体育委員に準備体操をするよう指示をした。

 体育委員が中心になって準備体操を始めると、先生はこちらに歩いてきて私に話しかけてきた。

「林川、お前も大縄に入れ。端っこのほうでいいから」

「でも」

「大丈夫、跳べる跳べる。皆も失敗するし、気にしなくていいぞ」

「はぁ……」

「ほら、そろそろ体操が終わるから参加しろ。な」

 そう言われてしまえば仕方がない。自分がこの子を救ってみせると堅く決意している新米先生に挫折させるようなことをさせるのは気が引けた。

 準備体操が終わると体育委員が大縄を広げ始め、皆がそれに沿って並び始めた。先生は縄の端っこに行ってそこにいる女子たちと少し話をすると私を手招きした。

「ここな」

 そう言って先生は私を縄の端に配置した。確か端のほうが跳びにくいのではなかったか、と思いながらも、もしかしたらクラスのど真ん中に入れるのは止めておこうと思ったのかもしれないと思い、私は何も言わなかった。

「いきまーす。せーの!」

 ぶんっ、と大縄が回る。一回、二回跳んだところで真ん中のほうが崩れ、ストップした。大縄跳びに失敗はつきもので、最初こそはその失敗を笑っていたが、次第に空気は悪くなってくる。引っかかるのは大抵女子で、止まる度にすかさず男子の怒号が飛んだ。

「おい! しっかりしろよ!」

「ふざけんな!」

 汚い言葉が飛び交い、売り言葉に買い言葉と言うように気の強い女子が言い返す。

「こっちのほうが跳びやすいかも」

 クラスの中のギャル寄りの子に突然手を引かれ、私はいつの間にか縄の端から縄の中部に連れてこられていた。

「ごめん、私上手じゃなくて……」

「大丈夫、跳ぶときに引っ張ってあげるから」

 彼女はそう言って笑ってみせた。

 その笑顔にほっと胸を撫で下ろしたのも一瞬で、次に跳び始めたとき、引っかかったのは私だった。

「いい加減にしろよ真ん中の女子!」

 誰が引っかかったか特定できない男子がまた怒鳴り声を上げる。周囲の女子の誰かが「私じゃないのに」と愚痴を零したのが聞こえた。

 いよいよ大縄跳びをしている雰囲気ではなくなって、先生が休憩を入れようと言った。

「あーあ、やってらんねー」

 皆が口々にそう言い、先生の休憩を聞いて分散し始めた。

 私も大縄から離れ、ちょっとトイレにでも行こうと体育館を出ようとした。

 体育館から少し出たそのとき、不意に「このまま逃げられるのでは」という考えが頭の中を過ぎった。そうだ、トイレに行くふりをしてこのまま逃げてしまおう。そう思った。そう思ったときには軽く走り出していた。

 とりあえず体育館から遠いトイレに行ってしまおう。近くのトイレは混んでいたと言い訳すればいいのだから。体育館の近くにトイレがあるなんて知らなかったと言ってもいい。ぐるぐるそんな言い訳ばかりを考えながら小走りをしていると、後ろから同じように小走りで後をつけてくる足音が聞こえた。

(嘘、誰か追いかけてきてる……?)

 先生ではなさそうだった。先生だったら、後をつけてくるのではなく捕まえにくるからだ。おそらく、クラスメイトの誰かだ。誰かが、私を追いかけてきている。

 しかし、私は振り返ってその誰かを確認しようとはしなかった。それをしたらその瞬間に捕まってしまうと思ったからだ。昼間で誰もいない部活棟を走り抜け、角を曲がったところで茂みに隠れて一息ついた。私を追いかけてきた人は私が消えたことに驚いたのか辺りを見回すとそのまま引き返した。その追いかけてきた正体を見て、私は驚きを隠せなかった。

 その人は、クラスメイトの女の子だった。顔見知り程度の、同級生以上も以下もない女の子。大人しい子で彼女と親しい子ともあまり盛り上がって話さないような、笑い声を上げないような女の子。小学校の入学式で学年代表でお祝いを貰う役目を担ったものの緊張のあまり壇上で涙を流してしまった、一年一組の一ノ宮さん。

 一ノ宮さんがなぜ私を追ってきたのかは分からない。しかし、一ノ宮さんが通り過ぎていってしまった今、その理由は半ばどうでもよくなっていた。

 私は茂みから這い出て立ち上がった。さっさと教室にスカートを取りにいって今日は学校をさぼろうと思った。今から家に帰っても親はどうせ家にいない。早退したという連絡が担任からいったとしても、体調が優れなかったと言えば誤魔化せる。今日これ以上学校にいられる気分でないことは事実だし。

 私の自習室は部活棟の一階にある。今走り抜けてきた校舎だ。私はその自習室に帰って手早くスカートを穿き、そのまま手ぶらで教室を後にした。部活棟から裏門までは目から鼻の先の距離だが、裏門を越えるのが大変だと思うのだ。裏門の鍵が開いているか分からない。閉まっているとして、教科書や宿題の詰まった鞄を持っているのはどう考えても不利だ。

 しかし、私の予想は杞憂に終わった。裏門に手をかけると裏門の鍵が開いていて、私は何の苦労をすることもなく校外に出ることができた。

 まだ授業中であるというのに校外に出てしまった。とうとう自分の意志で悪いことをしてしまっている、というのが頭を過った。今頃、あの熱血先生は騒いでいるのだろうか。否、騒いだところで私を校外まで探しにくるまではできないだろう。

 迷惑をかけて申し訳ないと思う反面、このくらいいいだろうと思う自分がいる。その両面の自分を気にしないようにしながら家へと帰った。

 家へ帰ってしばらくすると、家に母親から電話がかかってきた。学校からいなくなったということで学校から連絡がきたのだと、慌てた様子で電話口で喋っていた。私は気分がよくなかったから早退したことと、今休んでいること、少しよくなってきたことを母親に伝えた。母親はそれを聞いて安堵したようで小さくため息をつくとまた別の話を始めた。

 私の体調を心配して早めに仕事を終えてきた母親は、明日の学校を休むように私に言った。明日を休めば土日の休日になるからだ。私も今日の明日で学校に行きたくなかった。都合がいいと思いながら、「うん」と返事をした。

 

 翌日、私は家で休むようにという母親の言いつけを破って外に出かけた。理由は至極簡単で、母親の用意した昼食を口にしたくなかったからである。今まで反抗のひとつもしてこなかったが、昨日のことがあってもうどうでもよくなっていた。私は学校を脱走した、完璧な優等生ではなくなったから。

 そんなこんなで近所のデパートへ向かい中へ入り、食材を買うか惣菜を買うかはたまた食べて帰るか悩みながらうろついていた。そのとき、ふとした瞬間に振り返ると、ある人影がちらりと見えた。その一瞬見えた人影を見、私は自分の目を疑った。

「ぇ……?」

 その人影はクラスメイトの一ノ宮さんだったのだ。一瞬しか見られなかったし彼女はコートを着ていたが、その人は確かに一ノ宮さんだった。

 私は彼女に見つからないように隠れるようにして足早にエスカレーターに乗った。違う階に逃げてしまおうと思ったのだ。

 しかし、一ノ宮さんは私の存在に気がついていたのだと思う。

 私がエスカレーターを駆け上り始めたと同時に、彼女も同じようにエスカレーターに向けて走ってきたのだ。

 私は逃げるしかなかった。エスカレーターを上り、その階を蛇行するように疾走しては再びエスカレーターで次の階へ行き、フロアを走っては階段で次の階へ駆け上り、それを繰り返して気がついたときには最上階だった。

 最上階は見るからに高級なレストランだった。そのレストランしかないようで、入口から入るか、引き返してエスカレーターで下りていくかしかない。その状況を把握するのに一瞬止まってしまったのがいけなかった。私は一ノ宮さんに捕まった。一ノ宮さんは私の腕をつかみ、息をあげていた。私も一度止まってしまった足を動かすことができず、そのまま立ち尽くしていた。

 そのとき、入口がすっと開いて中から上品な給仕の制服を着た女性が姿を現した。

「お嬢様……?」

「……」

「どうなさったんですか? とりあえず、中へ」

 その女性は、一ノ宮さんを「お嬢様」と呼んだ。私は状況がつかめないまま一ノ宮さんに連れられてそのままレストランへ入り、席に着いた。

「お任せでいい。家の人には内緒にして」

「かしこまりました」

 二言三言、一ノ宮さんは女性に指示をすると女性はテーブルから去っていった。

 一ノ宮さんと向かい合ったものの、私と一ノ宮さんは一言も話さなかった。料理が運ばれてきたときに「どうぞ」と言われただけで、前菜がきてもサラダがきてもスープがきても、メインらしい料理がきても。私も一ノ宮さんも黙々と料理を食べるだけで何も話しはしなかった。

「あの」

 やっと口を開いたのは、食後のコーヒーが運ばれてきたときだった。一ノ宮さんが口を開いた。

「この後、少し付き合ってくれない?」

「……うん」

 どうして私の後をつけてきたの。昨日も今日も。とは、聞くことができなかった。

 コーヒーをお互いが飲み終えた後、一ノ宮さんは先ほどの給仕の女性に会釈をすると店を後にした。私も彼女の後をついていき、レストランを去った。

「……あの」

「ごめんなさい、後をつけるなんて真似して」

「……うん」

「でも、あの、なんか、見てないと心配で」

「……心配?」

「なんというか、林川さん、今にも壊れそうだから」

「え?」

「ひとりにしたら壊れちゃうんじゃないかって思ったの。だからといって、私が何をできるかって言っても何もできないんだけど……」

「……」

 エスカレーターを降りながら、ぽつりぽつりと一ノ宮さんは私に話した。

「どうして今日、私がここにくるって分かったの?」

 私は尋ねた。少し黙って、一ノ宮さんは申し訳なさそうに言った。

「今日、林川さんのお家の近くからずっと見張ってた。もし家から出てきたらついていこうと思って。夕方まで出てこなかったらインターホンを押して、お家にあがらせてもらおうと思った。でも、林川さんは出てきた」

「……気にしすぎだよ。ほとんどクラスにいないクラスメイトじゃん」

「林川さんは特別だから」

「え?」

「特別なの。私にとって」

「……」

「だから」

 そこまで言って、一ノ宮さんは押し黙った。そのまま四階でエスカレーターを降りると、おもちゃコーナーを通り過ぎてぬいぐるみ売り場で立ち止まった。

「この後、ゆっくりお話しできない?」

「……」

「お願い」

「……」

 私は何も答えなかった。正直、一刻も早くここを去りたかったから。けれど、そんなことを一ノ宮さんに言うわけにはいかなかった。

「これどう思う?」

 一ノ宮さんが手にしたぬいぐるみ。最近話題になったなんとかオオハシというオウムで、黒い体にオレンジ色の派手なクチバシを持つ鳥のぬいぐるみだった。そのオウムは頭の悪そうな顔をしていて、派手で大きな顔で、人を見下し嘲笑っているかのようで。

「いいね。馬鹿みたい」

 まるで、私を見ているかのようだった。

「じゃあこれ買ってくる。ここから動かないでね、絶対だよ」

 一ノ宮さんが言った。私は微笑んで頷き、彼女がレジへ向かったのを見てゆっくりとその場を立ち去った。

 少し離れたところで足取りは小走りになり、私はトイレへ向かった。トイレの奥の窓から身を乗り出し、気がつくと飛び出していた。あ、飛び降りたのだと思った。死ぬのだろう、とも。しかしなぜか、物凄い解放感に満たされていた。一ノ宮さんには悪いことをするだろう。もしかしたら、自分が私を死に追いやったと自責するかもしれない。もしかしたら、彼女に一生のトラウマを植え付けることになるだろう。恋ができなくなるかもしれない。一ノ宮さんのせいじゃないって、遺書を書いておけばよかった。でも、もう、いいや――。

 

 死ねば終わりだから。

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