サーティ・プラスワン・アイスクリーム   作:ルシエド

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その2

 人には個性があるものだ。

 好みのエロ本を見つけた時、野口希望なら"Aもん見れたなAカップ"と思うだろう。

 井之頭一球なら"Eもん見れたなEカップ"と思うだろう。

 戦う者には戦い方の個性があり、嘘つきには虚言の傾向があり、リーダーにはリーダーシップのタイプというものがある。

 

 佐藤朔陽は、周りより少しだけ優しく、少しだけ我慢強く、少しだけ誠実で、少しだけ頑張り屋な身で頑張って、周りを引っ張っていくタイプ。

 

(あー、しまった。

 一球くんと希望くんに疲れてるとこ見せちゃった……

 少し休んだしもう大丈夫だと思うけど、今後は気を付けておかないと)

 

 疲れていても、疲れた顔は見せない。

 それが上手くリーダーをやるコツの一つだ。

 疲れた顔を絶対に出さないともなると悪手だが、疲れた顔を見せる相手と場面くらいは選んだ方がいい。

 痩せ我慢がリーダーの資格になる、そんな者も居る。

 

「ほらよしよし、元気出して和子ちゃん」

 

「うえっ、えぐっ、ざぐびぃぃぃぃぃぃ」

 

 強い自分を演じなければ、クラスメイトが自分にすがれない。

 気丈な自分でなければ、クラスメイトが寄りかかれない。

 頼りがいのある自分でなければ、泣き叫ぶ和子が安心して泣きつけない。

 号泣する和子の小さな体を抱きしめて、彼女の髪を撫でてやっている朔陽に、少し前まで僅かに見せていた疲れは見て取れなかった。

 

「よしよし」

 

 小柄でも女性らしい体つきに、黒髪長髪で色白な美人とくれば、その泣き顔だけで興奮する男性は少なくないだろう。

 赤くなった泣き顔も、頬を伝う涙も、可愛らしい女性が見せる心の弱さも、男性の庇護欲と恋愛感情を誘うものだ。

 ただ、慈しみの心をもって和子に接する朔陽に対しては、それはメスゴジラのフルヌード程度にしか性的感情をかき立てない。

 

「和子ちゃんは悪くないよ。

 だから、誰かの味方をしようとした過去の君まで、否定しないで」

 

「サクヒ、サクヒ、私っ……!」

 

「和子ちゃんは悪くない。

 敬刀くんも間違ってるわけじゃない。

 だから泣かないで。今は辛くても、きっと辛いまま終わることはないから」

 

「ぐすっ、えうっ……ほんと……?」

 

「大丈夫、和子ちゃんも敬刀くんもすれ違ってるだけだから。

 不安になったら、僕が今言った言葉を信じて欲しい。

 でもそのためには、和子ちゃん自身が頑張らないといけない。分かるよね?」

 

「……うん」

 

「よしよし、いい子いい子。

 僕も手伝うから、頑張ってハッピーエンドで終わらせよう」

 

「ん……頑張る」

 

 あれだけ手酷く拒絶されてなお、和子はまだ敬刀と向き合おうとしていた。

 精神的に弱くても、ハートの芯の部分が強いのか?

 朔陽に励まされたら即立ち上がるくらいに単純な性格で、かつ朔陽に依存しているのか?

 どちらなのだろうか。

 いや、両方だろう。

 彼女はしょっちゅう腰が引けている臆病者ではあるが、踏み出すべき時に踏み出さない卑怯者ではない。

 

 そんな彼女が、朔陽は嫌いではなかった。むしろ好きだった。

 

「あ……サクヒ、伝書鳩が来たよ」

 

「正式名称は魔力鳩だよ、和子ちゃん」

 

 魔力鳩は朔陽の手の上で消滅し、手の上に手紙だけが残る。

 手紙の送り主はヴァニラ・フレーバー。

 内容は、朔陽とその友人に対する呼び出しと、依頼であった。

 

「……魔力鳩、恋川さんが料理したら美味しく食べられるかな」

 

「このみさんに無茶振りするのはやめようね」

 

 朔陽は涙で酷いことになった和子の顔を拭くべく、タオルを取って水で濡らした。

 

 

 

 

 

 体は疲れていないのに、敬刀は多大な疲労感を感じて起きた。

 疲労感で眠ってしまうことは珍しくないが、疲労感で起きるとは珍しい。

 それは体が疲れているからではない。

 心が疲れているからだ。

 心の疲労は、心の苦痛とも言い換えられる。

 彼は疲労感で起きたと感じているが、その実心の痛みで起きたも同然だった。

 

 敬刀に割り当てられた部屋の中に、小さくくぐもった苦悶の声が広がり消える。

 

「……ぅ」

 

 体を起こしたくない。

 想いが体を縛る。

 起きて他の人と顔を合わせたくない。

 想いが体を縛る。

 朔陽に会って、若鷺さんを傷付けたことを責められたくない。

 想いが体を縛る。

 泣かせてしまった若鷺さんを、これ以上傷付けたくない。

 想いが体を縛る。

 憎い気持ちが、胸の奥で渦巻いて、渦巻いて、渦巻いて。

 

 敬刀はそれら全てを振り切って、半ば眠っていた体を起こした。

 

「……」

 

 ベッドの上で膝を抱えて、竹刀を握る。

 竹刀を握っていないと、そのまま倒れて起き上がれなくなりそうな気がしたから。

 ギュッと握って、竹刀の感触を確かめる敬刀。

 せめて戦う力を握り締めていなければ、心が壊れてしまいそうだった。

 

「……」

 

 敬刀は変えたかった。

 いじめられていた頃の自分を苦しめていた『何か』を変えたかった。

 その『何か』を倒したかった。

 『何か』が何か分からないまま、ただただ『何か』が憎かった。

 その『何か』がなければ、全て上手く行くと思っていた。

 教科書をゴミ箱に捨てられるたび、いじめっ子に服で見えない部分を殴られるたび、親を侮辱されるたび、机と椅子を隠されるたび、『何か』を憎まずにはいられなかった。

 

 加害者に対する加害者が居ると知り、『何か』が何なのか分からなくなっていった。

 インターネットの中に『何か』は居るようで、居なかった。

 敬刀を苦しめた『何か』は倒せない。

 それが分かってくると、その現実を振り払うように、力が欲しくなった。

 

 いじめをするような人間になりたくないと思って剣を振り、いじめを止められない無力な自分が嫌で剣を振り、その結果として強くなっていった。

 

「……うぁ」

 

 そうやって、強くなって、強くなって……その果てに、敬刀は和子を泣かせた。

 後悔しかない。

 悔恨しかない。

 自己嫌悪が溢れ出て、今までいじめっ子に向けていた憎悪が自分に向かう。

 敬刀にとって、歩み寄って来た和子を理不尽に罵倒した自分は、死んで欲しいほどに大嫌いないじめっ子そのものだった。

 

 敬刀に泣かされていた和子の姿が、敬刀の記憶の中の、いじめっ子に泣かされていた敬刀の姿とダブる。

 和子を泣かせた敬刀の姿が、いじめっ子とダブる。

 

「……! うっ、おえっ……!」

 

 自己嫌悪で、急激に発生する吐き気。

 桶に吐き出すのが間に合ったのが、既に奇跡のようなものだった。

 敬刀は竹刀を手首に当てる。

 竹刀に刃など付いていないし、それで普通リストカットなどできないが、敬刀であれば腕の骨ごと両断できる。

 確実に死ねるリストカットを実行できる。

 それでも、この自己嫌悪だけでは、彼は自殺なんてことまで実行できない。

 

「はぁっ……はぁっ……」

 

 人は簡単には死ねないし、簡単には生きられないのだ。

 何も考えずに生きていけたら、何も考えずに死ねたらどんなに楽か。

 大半の人間が流されて生きたり、流されて死んだりしてしまうのは、楽な生き方を選ぶ人間の本能であるのかもしれない。

 バカみたいに巨乳貧乳の話だけ考えて生きているような者達は、きっとそれだけである程度は幸せなのだ。

 敬刀のように生きることが怖くて、死ぬことも怖い者は、どこへ行けばいいのか。

 

 敬刀はいじめられっ子だった頃、自分に力が無いことを嘆いていた。

 だから強くなった。

 今の彼には力がある。

 なのに、いじめられっ子だった頃と同じ苦しみが、彼を変わらず蝕んでいる。

 

 『自分に力がないから、自分の人生はこんなにも辛いんだ』という言い訳があった。

 敬刀が自分を騙すための言い訳だった。

 もうその言い訳は通じない。

 敬刀が自分を騙すために使ったその言い訳は、もう二度と使えないのだ。

 彼は戦う力を手に入れ、強くなってしまったのだから。

 

「……う、っ、ッ……!」

 

 敬刀はかつて弱者だった。今は強者だった。

 かつていじめられていた。今は女の子をいじめてしまっていた。

 かつて攻撃され泣かされる者だった。今は攻撃し泣かせるものだった。

 かつての敬刀は、クラスメイトと仲良くしようとして、それを拒絶されていじめられ。

 今の敬刀は、クラスメイトと仲良くしようとしてきた和子を拒絶し、泣かせたのだ。

 

 今この世界で、敬刀を誰よりも責めているのは、敬刀自身である。

 

「敬刀くん」

 

「……」

 

「敬刀くん、部屋に入っていい?」

 

 トントン、と部屋のドアを叩く音がする。

 朔陽の声がする。

 敬刀は応えない。

 だが朔陽は、沈黙の拒絶を無視して部屋に入って来た。

 

「敬刀くん」

 

「……放っておいてくれ」

 

 何が正解か、朔陽は考える。言葉を選び対応を選ぶ。

 慰めか? いや、慰めは拒絶されてしまうだろう。

 放置か? いや、今この状態で放置するとまず間違いなく悪化する。

 ここで敬刀の味方をして敬刀の肯定をすれば、心情的に和子の味方をしたがっている敬刀は心が壊れるくらいに怒るだろう。

 ここで和子の味方をして和子の肯定をすれば、自分を責めている敬刀を更に追い込むことになりかねない。

 

 どうするべきか。

 朔陽は敬刀の内心を推測しつつ、慮りつつ、気遣いつつ、考える。

 そして最適解を見つける。

 朔陽は敬刀と目を合わせ、拝むようにして彼に頼み込んだ。

 

「君の力が必要なんだ。僕に力を貸して欲しい」

 

 追い込まれた敬刀に、朔陽は助けを求めた。

 それはこの状況における最適解。

 敬刀は青い顔で、辛そうな心に鞭打ち、苦しそうに立ち上がって、胸の痛みに耐えるようにして竹刀を握った。

 

「……今回だけだ」

 

 どんなに辛くても。

 どんなに苦しくても。

 どんなに逃げたくても。

 友達が困っているのなら、歯を食いしばって助けるために動いていける。

 剣崎敬刀は、根っから友達想いな男であった。

 逃げたいという気持ちに、助けたいという気持ちが打ち勝ってしまうくらいには。

 

「……あ」

 

「……」

 

 朔陽の要望に応え、部屋の外に出て、そこで敬刀と和子の目が合った。

 反射的に顔ごと目を逸らす敬刀。

 和子はそれを"顔も合わせたくない"という意志表示として受け取ったが、その実"顔を合わせられない"というのが正しかった。

 罪悪感が邪魔で、罵れない。

 嫌悪感が邪魔で、謝れない。

 申し訳なくて、顔を合わせられない。

 顔を見たらそれだけでつい罵倒してしまいそうで、顔を合わせられない。

 

 屋敷を出ても、朔陽と和子と共に出発しても、目的地に到着しても、敬刀は和子の方を向くことはなく、一度も口を開くことはなかった。

 

 

 

 

 

 姫が彼らを呼び出した地は、和子が「わぁ」と思わず声を漏らしてしまうほどに美麗な土地だった。

 

 緑っぽい青と、青っぽい緑の二種類の木々がCの字の形に立ち並ぶ林。

 林に囲まれた美しい湖。

 湖の水は水晶のように澄んでいて、それでいて汚れを吐き出すはずの生命の営みで溢れていた。

 魔力か何かが作用して、食物連鎖と生命活動の過程で吐き出される不可避の汚れを、浄化か沈殿させているのだろう。

 林の合間から湖に流れ込む水。

 大きな湖の真ん中に浮かぶ小島。

 湖の表面を照らす太陽、そして二つの月。

 透き通る水の表面がキラキラと輝いているそれは、この世のものとは思えないほどに幻想的で美しく、透明感と輝きを両立する宝石を思わせた。

 

 和子は朔陽の後をとことこと付いて行きながら、ヴァニラ姫を見て手を振ろうとして、その横でなごやかに手を振っているスプーキー・パンプキンを見てぎょっとした。

 

「やあ」

 

 なんか居た。

 この湖は巨大だが、王都からここまで来るのに時間がかかる観光名所の類ではなく、王都からもさほど離れていない場所にある。

 最強の騎士と現王の長女である姫が二人だけで外出するには遠出すぎて、魔術込みで走って王都に戻るには遠すぎて、魔法で王都に戻るのであれば極めて近い、そういう距離。

 スプーキーが居てもおかしくはない。

 だが、彼がここに居るのがおかしくなくても、彼がここに居る理由くらいは知りたいのが人情というものだ。

 

「詳しいところはこちらで説明する、と手紙に書いてあったのですが」

 

「進みながら話そう。さ、そこの船に乗るといい」

 

 スプーキーは姫を小舟に乗せ、朔陽・和子・敬刀も乗せ、大きな湖に浮かぶ島に向かう。

 湖がとても大きいためか、湖に浮かぶ小島も大きく、村の一つくらいならすっぽり収まりそうなくらいのサイズであった。

 大きいが、どことなく奇妙な印象も受ける。

 超常的な存在が、神話の一説のように超常的な力を使い、自然の島と変わりないものを人工的に作ろうとしたらこうなるのだろうか、という印象を受ける島だった。

 騎士は船を漕ぎながら、朔陽の疑問に答え始めた。

 

「実は私と姫は面白い案を受諾していてね」

 

「面白い案、ですか?」

 

「王都を攻撃可能な広範囲を(ひそ)かに、(みつ)に監視。

 それに合わせてすぐに戻れる状態で私を王都から離す。

 最強の騎士は王都を離れて任務中だ、とわざと情報を僅かに漏らす。

 そして『チャンスだ』と思わせ、現在準備中と思われるフィーアの襲撃を誘うというものさ」

 

「そんなの、上手く行くんでしょうか」

 

「フィーアの知能なら引っかかる、と私は読んでいる。

 引っかからなければ、フィーアの補佐に誰かが付いているということさ。

 襲撃時期の誘導か、敵側の陣容の推測か、どちらに転んでも損はない」

 

「……餌が偽物であっても、釣れればいいというわけですか。ルアー釣りのような」

 

 わざと隙を見せて敵の動きを誘う作戦らしい。

 スプーキー・パンプキンが一時とはいえ王都を離れるというリスクは有るが、探りの一手としては悪くないのかもしれない。

 

「自慢ではないが、私は魔王軍の方に警戒されていてね。

 王都に居る時は、王都の護りとしての役割も果たしている。

 私が王都から離れたという情報は、餌としてはそれなりのものだと自負しているよ」

 

「なるほど」

 

「ちなみに、今日私がここに居る理由だが。

 君達に剣術指導をするため、と書類の上で処理されている。

 だからできれば剣を使える者を連れて来て欲しかったわけさ」

 

 朔陽達は、この元王子な最強の騎士が自然に王都を離れるための偽装目的として、ここに呼ばれたようだ。

 ……書類上は、だが。

 書類上は、朔陽達が偽装目的のために呼ばれたことは間違いないのだが、スプーキーはいざとなれば朔陽達の力を頼りにする気満々の様子だ。

 先日の吸血鬼の一件が、たいそうお気に召したらしい。

 

「僕らに話を振ったのは、王都を離れる名目があればなんでもよかったんですか?

 地球の剣士に興味があったからですか?

 地球人との友好を変わらずアピールするためですか?

 それとも……妹であるヴァニラ姫に色々と聞いて、僕らに気を遣ってくれたんですか?」

 

「全部正解、と言っておこう、サクヒ君。ただ……」

 

「なんでしょうか?」

 

「君が思ってるほど、私は陰謀家ではないよ。実は何も考えていないことも結構多い」

 

「えっ」

 

 色々と気を遣っているように見える。

 色々と策を巡らしているようにも見える。

 陰謀家のようにさえ見える。

 ただ、スプーキーがいつも色々と考えた上でその中の最善を計算で選んでいるかというと、実はそうでもない。

 

「ただ、地球の剣士を知りたい。

 地球の剣術を知りたい。

 それだけの気持ちで動いている自分も、私の中には居るんだ」

 

「……趣味のいいことで」

 

 スプーキーが腰の剣に手をかける。

 チャキッ、と鍔鳴り特有の金属音が鳴り、竹刀を抜いた敬刀が前に出た。

 敬刀はとても分かりやすく、感情を吐き出す場所を探していたようだ。

 スプーキーの剣の指導にかこつけて、剣で感情を吐き出すつもりなのかもしれない。

 だが、それは。

 ……とても醜い、ただの八つ当たりでしかない。

 

「ヴァニラ姫、こちらに。僕らは一箇所に固まっておいた方が死ににくいと思います」

 

「分かりました、サクヒ様。……死ににくい?」

 

 なんとなく、朔陽は不穏な空気を感じる。

 ぼけーっとしていたら次の瞬間には首が飛んでいるような、そんな危うさを内包する、不穏な空気を。

 

「今日の俺はあんまり機嫌が良くない。

 上手く加減はできないが、気を付けろよ」

 

 

 

 指導という名の戦いの、幕が切って落とされた。

 開幕と同時に斬撃が大気までもを切って落とす。

 敬刀の竹刀が飛ぶ斬撃を放ったのだ。

 スプーキーは余裕でそれをかわそうとするが、運悪くそこでむせこんだ。

 

「ごほっ」

 

 重病人の咳を思わせる、気管支や肺まで痛めていそうなむせこみ方だった。

 回避の直前でむせこんだスプーキーは、高速で飛ぶ斬撃をかわせない……なんて、ことはなかった。むせこんで、落ち着いて、それからギリギリの位置で避けたのだ。

 "そこから回避が間に合うの"と、和子が驚くほどのスピードで。

 

「悪くない。心に迷いさえなければ、私に届く可能性もあった空の刃だ」

 

「ちっ」

 

 現代剣道の祖の一つ、北辰一刀流の開祖・千葉周作は厚み六寸(18cm)の碁盤を片手で軽々とぶん回し、発生させた風で蝋燭(ろうそく)の火をかき消したという。

 これが、飛ぶ斬撃の源流の一つ。

 剣道はそもそも、その源流に『斬撃を飛ばす技術』の雛形が仕込まれているのだ。

 飛ぶ斬撃が使える剣道家というのは、そう珍しいものでもないのである。

 

 敬刀が斬撃を飛ばす。

 目を凝らせば、一般人にも飛ぶ斬撃が見える。

 それは水槽の水の中を落ちてゆくコップのように、空気の中を進む透明な何かとしてサクヒの目に映っていた。

 

「っ!」

 

 敬刀の斬撃飛ばしは連続して放たれている。

 その目的は大きく分けて三種類。

 スプーキー・パンプキンにダメージを与えるか、防御させて動きを止めるか、回避させて動きを誘導するかの三種類だ。

 彼はこの三種を織り交ぜた斬撃を連続で飛ばし、出来た隙に切り込んで、近接攻撃で一気に決めようと考えていた。

 

 だが、スプーキーは攻撃を一発も貰わない。

 剣を抜くことすらせず、ひらひらとかわして防御もしない。

 そのくせ、敬刀の想定した方向に回避することさえしてくれなかった。

 

「心を静にしたまえ。それでは君の斬撃は飛びはすれど当たらない。

 君は本来、今の私程度であれば堅実に倒せるだけの強さを持っている。

 私に当てたいのであれば、攻撃前の感情の揺れ動きをもっと抑えなければね」

 

「うるさい!」

 

「……これは少し、根が深いか」

 

 スプーキーは敬刀の精神に何か問題があることをその目で確認し、それを解決する助力をすべきかすべきでないか、少し迷っている風だった。

 少し迷って、決断して、鞘に入れたままの魔剣を振るって斬撃を弾くスプーキー。

 

「!」

 

 飛ぶ斬撃は、岩を投げつける程度の重さは内包している。

 弾くにも一苦労するはずのものだ。

 にもかかわらず、スプーキーは鞘に入れたままの魔剣を振るい、無数の飛ぶ斬撃を紙飛行機か何かのように軽々と叩き落としていく。

 次いで、一歩で十数メートルの距離を移動し、鞘に入れたままの剣を敬刀の喉元に突きつけた。

 

「―――!?」

 

 敬刀は驚き、寸止めされたという屈辱に表情を歪め、後ろに跳んで距離を取る。

 そこからはまた繰り返しだ。

 敬刀は隙を伺いながら、隙を作るために斬撃を飛ばす。

 スプーキーは軽々と斬撃を処理し、距離を詰め、喉元に鞘の先を突きつける。

 その繰り返し。

 

 繰り返すたびに、敬刀の心の中で何かが削れる。

 "近付かせなければいい"と思考した瞬間、突きつけられる剣にその思考を両断される。

 後に残るのは"近付かれたら終わり"という思考のみ。

 こうすれば勝てる、という思考が、こうなったら負ける、という思考に変えられていく。

 剣の入った鞘を喉に向けられただけなのに、心も体も両断された気持ちになっていく。

 

「こほっ」

 

 時々スプーキーは、むせこんで動きを止める。

 スプーキーに追い詰められていた時は、「助かった」と敬刀はホッとする。

 敬刀が攻めている時は、「チャンスなのに追い込めない」と歯噛みさせられる。

 露骨なチャンスなはずなのに、勝利に繋がるチャンスにもならない。

 重病人に等しいこの男に追い込まれているという事実が、尚更に焦燥感と劣等感を湧き立たせていた。

 

「何を苛立っているんだい?

 剣に気持ちを込めても、それは剣士にしか伝わらない。

 私は君の心の闇を、言葉を通じてしか理解できないぞ」

 

「理解されたいだなんて、思っていない!」

 

「私は理解したいと思っている。

 理解した上で助けてやりたいと思っている。

 今の君は実に苦しそうだ。雑に振るわれ、剣が泣いているぞ」

 

 異世界剣・竹刀は、スプーキーにとって見たことも聞いたこともない異世界の剣。

 それが雑に使われているとなれば、剣の気持ちを代弁してやりたくもなろう。

 

「お節介な……!」

 

「尊敬されたいだけさ。

 まだ私も二十代半ばの若輩だ。

 十代の若者を導いて、尊敬されたいだけなのだよ。ふふっ」

 

 スプーキーは微笑む。

 掴みどころのない振る舞いと、内心が読み取れない表情と、器の底が見えない雰囲気が、敬刀の目に実像以上の『強敵』を映す。

 最強と呼ばれるだけのことはある。

 実力も高いがそれ以上に、戦いの中の駆け引きが巧みであった。

 敬刀はすっかり、戦いの主導権を握られている。

 

 そうなれば、後は一方的だ。

 敬刀はスプーキーを倒せない。

 スプーキーは敬刀に戦いのアドバイスをしつつ、剣士の実戦技術を教え、本気で切りかかって来る敬刀で遊ぶ。ひらひらと跳び回って遊ぶ。

 敬刀にも遊ばれている自覚はあったが、精神的に崖っぷちな状態の今の敬刀では、スプーキーのその余裕を刈り取れない。

 

 今の敬刀の頭の中には、朔陽や和子や自分の過去が絡む思考が渦巻いていて、それが脳のリソースを余計に使ってしまっているようだ。

 

「はぁっ、はぁっ、ハァッ……!」

 

「この魔剣とサクヒ君の聖剣に意志がある、という話は聞いたことがあるかな?」

 

「……少しなら」

 

「私の魔剣は聖剣の数倍自我が強くてね。

 人間で言うところの、愛が重くて気が触れた女性のような性情をしている。

 嫉妬深い魔剣が私に、この魔剣以外の武器を振るうことを禁止しているほどだ」

 

 疲労し判断力が落ちた敬刀の頭の中に、するするとスプーキーの言葉が入っていく。

 この会話はスプーキーによる、分かり辛い手加減の形であった。

 敬刀に気付かれないよう、会話という名の無駄な時間の経過で敬刀の息を整えさせている。

 会話が数分続けば、数分は呼吸を整えられるはず。

 

「この魔剣は私の命を吸う。

 鞘から抜けば二分か三分で私の命は尽きるだろう。

 全力で振るえばしばらくは青息吐息さ。

 そうでなくとも、常に命を吸われているせいで、私は常に重病人のそれに近い」

 

「……そんなもの、手放すべきじゃないのか」

 

「ははは、私がこれを手放す時は、私が戦いの中で死ぬ時だろうね」

 

 スプーキーは長生きできない。

 スプーキーはもうこの魔剣以外を振るえない。

 魔剣を抜けば数分で命尽きるだろう。

 それでも彼に、この剣を捨てる気は無かった。

 

「君も私も、知っているはずさ。

 渇望の果てに掴んだ戦う刃は、生半可な苦痛と絶望で手放すようなものではないと」

 

「……」

 

「私も君も剣くらいしか取り柄がない。

 だからこの道を進んだのだろう?

 自分にとっての大切な人を助けるには、これが一番だと考えて」

 

「……それは」

 

 図星だった。

 スプーキーは敬刀の内面を的確に言い当てている。

 それはこの二人が、どこか似ているからなのかもしれない。

 

 スプーキーが朔陽を気に入ったのは偶然だったのか?

 彼が当座とはいえ朔陽を聖剣の担い手に選んだのは、偶然だったのか?

 朔陽の親友の一人である敬刀とスプーキーに類似の部分があるとすれば、そこが少し怪しく見えてくるというものだ。

 

「ケンザキのケイト君。

 君には私と同じく、この魔剣に選ばれる資格がある気がする。

 だから私は君のことをほとんど知らないが、その原初の衝動だけは理解できるのだ」

 

 スプーキーの声には、共感と、同情と、理解と、憐憫が滲んでいた。

 腰だめに魔剣が構えられる。

 魔剣がドクンと鼓動して、鞘越しに昏い光が漏れる。

 

「負の感情から生まれ、憎悪の闇を振り切れず、悪を斬らんとする激情を持っている。

 世の中にある『何か』を心底憎んだ記憶を持っている。

 そして、この世界に唯生きているだけで、君は向かい風を感じているだろう?」

 

 スプーキーは鞘の先端に、ほんの少しの光を集め、敬刀の額をぶっ叩く。

 

「先人として君を導こう。その先に、辿り着いてみせろ」

 

 渾身の一撃が、その衝撃が、敬刀の意識を――その中身の暗い気持ちごと――吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――この世界に唯生きているだけで、君は向かい風を感じているだろう?

 

 スプーキーの声が、意識を刈り取られ気絶した敬刀の脳内に木霊する。

 殴って壊せない向かい風。

 抵抗しても消えてくれない向かい風。

 前に進めなくなる向かい風。

 ああ、そうだ。いつだって向かい風は感じていた。

 敬刀にとって、世界から消えることのないいじめは全て、向かい風だった。

 いじめにもいじめっ子にも消えて欲しいと思っている敬刀にとって、世界の全てが向かい風だった。

 

 いじめられていた学校から転校しても、転校した先で朔陽と再開しても、敬刀にとって世界の全てが向かい風に感じられることに変わりはなく。

 

「俺は情けないな」

 

 中三の時、夕焼けに染まる教室の隅で、敬刀はそう自嘲した。

 

「ありがとう、朔陽。

 お前が居なかったら俺、この学校でも駄目だったかもしれない。

 なんていうか、お前が救ってくれたんだ。

 いじめから逃れようとしても、自分を鍛えようとしても、中々上手くいかないもんだな」

 

 もう、二年半前のことになる。既に記憶の中にしかない、二年半前の教室の想い出。

 

「僕が救った? ……ああ、そっか。

 僕もしかして、明確にお礼言ってなかったのかな。

 それとも、敬刀くんの記憶に残る形で言えなかったんだろうか」

 

「は? 何言ってるんだ?」

 

 いじめの後に転校して来た敬刀を、一人の友人として全力で支え、敬刀の心を救った朔陽は口を開く。

 

「僕を先に救ったのは君じゃないか。

 幼稚園でいじめられていた僕を救ってくれたのは、敬刀くんじゃないか」

 

「―――え?」

 

 朔陽にそう言われても、敬刀は全く身に覚えがなかった。

 驚愕やら、動揺やら、困惑やらで硬直する敬刀。

 

「抹茶幼稚園。

 ももぐみ。

 子供達に大人気の、遊具と遊具の間にある大樹の下。

 いつでも子供達が集まってるあの場所で、僕は助けられた」

 

 朔陽にそう言われ、うんうんと記憶の海を探ると、やがて中三の敬刀の頭に五歳の頃の記憶がおぼろげに蘇ってくる。

 

「……あ」

 

 そういえば。幼稚園の頃、誰かを誰かから守ったような気がする。そんな記憶がある気がする。といった風に、何もかもがあやふな感じで、敬刀の脳裏に記憶が蘇った。

 

「な、なんか思い出した!」

 

「そう? そりゃよかった」

 

「お前よく覚えてたな、五歳の時だから何年前だ……?」

 

「まあそりゃそうかもね。

 いじめっ子はいじめた相手のことを忘れたりする。

 いじめられっ子はいじめのことを忘れない。

 ヒーローは助けた人のことを覚えてないこともある。

 助けられた人はヒーローに助けてもらったことを忘れない。

 記憶に残るかどうかって意味では、似たようなもんなのかもしれない」

 

「……」

 

 朔陽の変な着眼点に、敬刀は複雑な想いを抱く。

 ただ、なんとなくではあるが。

 朔陽に助けてもらってばかりだと思っていた敬刀は、先程持っていたその感情とは違う、なんだかよく分からない気持ちを持っていた。

 既知の感情の中では、"嬉しい"が一番近い、未知の気持ち。

 

「覚えてないなら、改めて言うよ。

 敬刀くん、僕をいじめから助けてくれてありがとう」

 

「―――」

 

 それは、敬刀の心を魂ごと揺らすほどに、敬刀の胸に響く言葉だった。

 

「君は僕のヒーローだ」

 

 言葉が心を揺らし、揺れた心に染み込んでいく。

 

「……俺はまだ、ヒーローなんかじゃない。

 俺を変えてくれたのはお前だ。

 お前がここで、転校して来た俺に剣道を勧めてくれて、俺は、それで……」

 

「それなら、小さい頃に僕を助けて変えてくれたのも君だよ。

 君は昔から僕のヒーローだ。

 君は腕っ節が強くなる前に、僕をいじめから助けてくれたんだから」

 

 剣に強さを求めた敬刀は、その日朔陽の中に、自分の中に無い強さを見た。剣を振っていても得られない強さを見た。朔陽の強さに憧れもした。

 

 それは何かを壊す強さではなく。

 何かを倒す強さでなく。

 何かをいじめる強さではない。

 誰かの心を救うためにある、そんな強さ。

 優しい心の中にのみ生まれる、そんな強さだった。

 

「敬刀くんは知ってる?

 いじめられっ子がいじめっ子に復讐するのは、快楽原則に沿ってるんだって」

 

「……いや、知らないな」

 

「最近読んだ本にそうあったんだよ。

 漫画とかRPGとかはそういうのに沿ってるんじゃないか、っていう学者さんの本」

 

 昔から変わらないことが二つある。

 本当に頭の良い人と、ちょっと知識を付けただけで頭が良いわけでもない人は、関係の無さそうな二つのものを関連付け、その二つの相関関係や類似性を語った本を出す。

 はてさて、朔陽が読んだ本とやらは、どちらの人種が書いたものなのやら。

 

「RPGは強い敵が居る。

 主人公は強い敵に攻撃され、いじめられる。

 シナリオで負ける時は、どんなに悔しくても勝てないからね。

 主人公は強くなって、以前勝てなかった敵に勝ち、プレイヤーは大喜びする」

 

「ふむふむ」

 

「ジャンプにも強い敵がいる。

 主人公は強い敵に攻撃され、いじめられる。

 敵は主人公を踏み躙り、バカにして笑う。

 主人公は修行して、以前勝てなかった敵に勝ち、読者は大喜びする」

 

「……ああ、確かにそうだな。

 分かる、分かるさ。

 偉そうなボスはぶっ飛ばしたい。

 自分のことを好き放題攻撃してくれた奴は殴り飛ばしたい。

 で、どんないじめっ子のボスキャラだろうと、主人公はいつか復讐してやれるってことか」

 

 ボスに倒されて教会に戻ったRPG主人公も。

 強大な敵に惨めに負けて敗者となった漫画主人公も。

 いじめられっ子に殴られ、うずくまっていた敬刀も。

 心は同じだ。

 想いは同じだ。

 『こいつを倒すために、強くなりたい』。

 『強くなってこいつを倒したい』。

 その部分の気持ちは、シンクロする。

 自分をいじめ、圧倒し、上から見下ろしている強者を"弱者だった自分"が倒してこそ、生まれるカタルシスというものはある。

 

「敬刀くんは敬刀くんの人生の主人公なんだねぇ」

 

 いじめという負の坩堝から生まれた、負の感情そのものだった敬刀の気持ちを、朔陽は無理なく正の方向へと導いていく。

 

「これからどんなにワルないじめっ子が現われても、君は立ち向かって、それで勝つわけだ」

 

「……ははっ。いいな、それ。俺は諦めない勇者様か」

 

「だね、RPGとかの主人公、勇者様だ」

 

 いじめられっ子であった彼が、他人に人生を振り回され自由にできなかった彼が、自分の人生の主人公は自分であると信じられるようになったのは、きっとこの時。

 

「辛いこと、悲しいこと、痛いこと。

 全部知ってるから、その分誰かに優しくできる勇者様だよ」

 

「……ああ」

 

 いじめの直後、敬刀の周りには色んな人間が居て、色んなことを言っていた。

 誰かは、「君は悪くない」と敬刀に言った。

 敬刀は今のままでいいのだと、集団で言っていた。

 誰かは、「かわいそうに」と敬刀に言った。

 敬刀をどうこうする気はなく、行動はせずに同情だけしていた。

 誰かは、「後は任せろ」と敬刀に言った。

 警察も教育委員会も、敬刀が余計なことをしないことだけを望んでいた。

 変わりたいという気持ちは敬刀の中にあったのに、敬刀の周りに彼のその気持ちを後押ししてくれる言葉は、ずっとずっと存在しなくて。

 

「なれるかな、俺はそういうのに」

 

「なれるはずだよ。だって敬刀くんは、そういう人になりたいんでしょ?」

 

 ―――弱い自分が嫌いで、変わりたくて仕方がなかった彼の想いを、朔陽が見つけてくれた。

 

 

 

 

 

 ネットの向こう側にいたいじめっ子の一人である和子を見て、敬刀は我を忘れてしまった。

 忘れたなら、思い出せばいい。

 『我』を、『自分自身』を、『自分自身の始まり』を、思い出せばいい。

 想い出が『自分』を取り戻させる。

 

 敬刀が強くなる理由は、負の感情に類するものだけではなかった。

 強迫観念だけではなかった。

 憎しみだけではなかった。

 強くなる理由は、悲しい過去だけではなかった。

 

 誇れる友との過去があり。

 過去の痛みを強さに変えた想い出があり。

 自分を正しく再出発させてくれた、友との絆があった。

 輝けるものが、想い出の中にはあった。

 

 朔陽は敬刀の人を守れる強さに敬意を払い。

 敬刀は朔陽の人を幸せにできる強さに敬意を払った。

 それが彼らの友情であり、絆であったのだ。

 

 変わりたいという気持ちは、いつだって、他人から貰うものではない。

 変わるための心の力は、他人から貰うことができる。

 人は自分を変えることで、他人に何かを与えられる人間になれる。

 敬刀が朔陽を変え、朔陽が敬刀を変え、二人が互いに与え会う関係になれたのは、そういうことだった。

 

 世界の全てが向かい風に感じる人生など、もう終わっている。

 友とは追い風。

 敬刀にとっての朔陽は、自分の背中を押してくれる追い風だった。

 人間、生きていれば向かい風を感じることもあるが、いつかは必ず追い風も感じるもの。

 

 憎しみに問われた心の中で、敬刀は初心を思い返していた。

 

 

 

 

 

 気絶より目覚める。

 倒れた体を起こせば、気絶したにもかかわらず、竹刀を強く握ったままの右手があった。

 立ち上がり地を踏み締めれば、鞘に入ったままの魔剣を握るスプーキーが居た。

 敬刀はポケットから本気のハチマキを取り出し、頭にギュッと巻く。

 

「いい夢は見れたかな」

 

「……思い出したんだ」

 

「ほう、何を?」

 

「俺が情けないことを。俺が弱かったことを。俺が剣を握る理由の一つを」

 

 右を見る。

 ヴァニラが居た。和子が居た。朔陽が居た。

 ありがとうと言いたい友が居た。

 ごめんなさいと言いたい友の友が居た。

 けれど、その言葉と気持ちをぐっと飲み込んで、目の前の敵に竹刀を向ける。

 

 ……善意で自分を導いてくれた、そのためにボッコボコにしてくれた、スプーキー・パンプキンという善なるいじめっ子に、まずは一発お返ししてやろうと思ったのだ。

 友達の前でカッコつけたいと、そう思ったのだ。

 もう自分は大丈夫だと、友に剣で語りたかったのだ。

 

「言い忘れたが、俺は剣の道を進む者であって、剣の術理だけで戦う者じゃないッ!」

 

 敬刀が島を、全力で踏んだ。

 剣道において重要視されるのは、一眼二足三胆四力。

 眼力の次に求められるは、強靭な脚力である。

 彼が全力で島を踏んだその瞬間、大きく固い何かがどこかで、ボキッと折れる音がした。

 

「! 和子ちゃん! 僕とヴァニラ姫を抱えて島の外に!」

 

「ほえ? あ、うん。分かった」

 

 真っ先に気付いたのは朔陽。

 朔陽の命を受け、和子は二人を抱え跳ぶ。

 ヴァニラ姫に一言語らせる間もなく消えた高速移動は、間違いなく正解だった。

 

 敬刀がもう一度島を踏む。

 そして、最初の一回で"地盤と繋がっている部分"をポッキリ折られた島は、その蹴撃でメンコのようにひっくり返された。

 

「なんとぉ!?」

 

 当然、スプーキーを含めた、島の上の全てのものが島から落ちる。

 スプーキーは白狼の騎士ブリュレが使っていたものと同じ魔術で空を駆け、そしてとんでもないものを見た。

 空を走っているスプーキーに向けて、『竹刀の代わりに島を持った』敬刀が、『竹刀の代わりに島で』斬撃を放ってきていた。

 

 島という名の剣を使う、暴力的振り下ろし。

 

「いっぺんくらいは……その偉そうな余裕ヅラ、ビビらせてやるさぁッ!」

 

「とんでもないなぁ、地球人ッ!」

 

 湖の水を姫が凍らせ、その上に立って戦いの行方を見ていた朔陽達の遙か上空で、最強の騎士と剣道部長が激突する。

 轟音。

 爆発。

 そして、決着。

 

 右手に鞘入りの魔剣を握ったスプーキーと、右手に島・左手に竹刀を持った敬刀が、湖の両端に降りて来る。

 二人は共に、左頬に切り傷を付けられていた。

 つまり今この戦いで、先の交錯の最後の一瞬のみ、敬刀とスプーキーは完全に互角だったということだ。

 

「島をぶん回しての斬撃は囮か。

 いやはや、私としたことが、完全に一本取られてしまったよ」

 

「……日本の武士は明治維新の後、刀を持ち歩けなくなりました。

 なので金属製のキセルや鉄扇を持ち歩いていたんです。

 日本ではその頃から、刀でないものを、刀のように振る技術が発達したんですよ」

 

 どうやら島を使っての斬撃をスプーキーが弾いたその一瞬の隙を、敬刀が竹刀で突いた様子。

 

「引き分けでいいかな? 私も流石に、ここから魔剣を抜くのはしんどいからね」

 

「実質俺の負けです。最強の騎士の胸を借りることができ、至極光栄でした」

 

 ありがとうございます、と敬刀は頭を下げる。

 始まる前は無かったはずの、敬刀からスプーキーに向けられた敬意が、今は誰の目にも明らかなほどに目に見えている。

 スプーキーは疲れた様子で、顔色を悪くしてその辺りの石の上に腰掛ける。

 敬刀は竹刀をその辺の木に立てかけた。

 続いて島もその辺の木に立てかける。

 林が一つ押し潰された。

 

「お姫様。お姫様が俺に回復魔法をかけた場合、どのくらいの傷を治せますか?」

 

「ケイト様のその頬の傷ならば、すぐにでも治せますよ。

 魔法と魔術の補助具も持ち歩いています。

 これなら致命傷の一つや二つくらいなら問題なく治せますね」

 

「そうですか」

 

 敬刀はそれを聞き、木に立てかけた島の方を蹴飛ばして、竹刀の方を手に取る。

 竹刀を持って和子の前で正座する。

 

「若鷺さん」

 

「は、はい。なんでしょう、剣崎さん」

 

「すまなかった」

 

「え?」

 

 そして、竹刀で切腹した。

 

「ええええええええええええええええっ!?」

 

 異世界には無い地球の文化。

 謝意を表す最善の方法。

 そう、切腹である。

 異世界から地球への誤解が、また一つ増加した。

 

「ゆ、『ユリムレイド』ッ!」

 

 最上級の回復魔法と回復魔術の併用技が、姫から敬刀へと放たれる。

 人間の体の傷が自然に治る極小の世界形成と、人間の傷を癒やす直接的作用が、同時に切腹した腹を治していく。

 姫が居なければ、間違いなく治しようもなく死んでいた。

 敬刀以外の全員が心底驚愕しているのを見るだけでも、傷の深さは伺える。

 

「朔陽に、聞いたことがある。

 若鷺さんはゲームで運営に詫び石というものを貰うと、特に喜ぶと。

 あいにく俺には詫び石というものが分からない。どうか、この詫び切腹で……」

 

「詫び切腹!?」

 

「悪行への償いは、正しい応報でなければならない。

 心の痛みを体の痛みで償おうとしている時点で醜悪だ。

 だが、俺にはこのくらいしか、若鷺さんに償う方法が思いつかんのだ」

 

「許してる! もう許してるから!」

 

「そうか。若鷺さんは心が大きいな……」

 

「あなたの腹の傷も大きいけど!?」

 

 姫の魔法効果は凄まじく、信じられないスピードで彼の腹の傷は完治する。

 

「よし、治った」

 

「よし治った、じゃないよ。このおバカ」

 

 朔陽が敬刀の頭をひっぱたいた。

 もうしないもうしない、と敬刀は苦笑いして平謝りする。

 そして、敬刀は和子に向き合った。

 

「すまない。俺は不器用だ。

 口が上手くもなければ、気持ちを全て言葉にもできない。

 だから行動で示させてくれ。

 俺は朔陽と同じように、若鷺さんのことも友だと思いたい」

 

「―――!」

 

「朔陽と若鷺さんの敵は、俺の敵だ。

 二人が本当の困難に立ち向かう時、俺も共に立ち向かおう。

 悲しみが二人を覆う時、その悲しみを断ち切りに行くと約束しよう」

 

 敬刀と友達になりたくて、彼に歩み寄った和子からすれば、それはこれ以上なく嬉しい言葉だった。

 敬刀の中にはまだ、あのいじめに関わった全てのいじめっ子を憎む気持ちがある。

 根底は変わらない。

 憎悪の想い出は消えてはくれない。

 

 それでも、自分のことを優しい勇者であると、ヒーローであると信じてくれる、友がいるから。

 

「朔陽の窮地は俺の窮地で、君の敵は俺の敵だ。

 朔陽と君の力だけでどうにもならなくなった時は、俺の剣を呼んでくれ」

 

「……ん。分かった」

 

 敬刀は朔陽だけでなく、和子をも守る誓いを立てる。

 和子は友達が出来たことが嬉しいのか、にやにやしながら頷いていた。

 

「それでいい。前を向き続けながら走り続けるといい、若者よ」

 

「!」

 

 スプーキーがいつの間にか、気配を消して敬刀の背後に立っていて、敬刀の髪の毛をくしゃくしゃっとかき回すようにして撫でる。

 

「前を向いて速く走る者が向かい風を感じるのは道理だ。

 風無くとも、走れば人は向かい風を感じるもの。

 けれど挫けるな。辛くとも、その向かい風は前に進んでいる証拠なのだから」

 

 人生における向かい風など、前に進んでいる証でしかないと、彼は言う。

 

「さあ、戦おう。悪が近くまで来ているようだ」

 

 え? と周囲の皆がスプーキーを見る。

 

 すると突然、王都の近くに巨人が現れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 出現した巨人を、巨人に親を殺された巨乳派の一球と、特に親は殺されていない貧乳派の希望が屋敷から視認した。

 

「ほら見ろ、お前が大好きなデカいおっぱいだぞ」

 

「あーはいはい巨人のおっぱいだから大きいなー……ってアホか!」

 

 反射的に巨人の迎撃に移れるのは、この二人だけのようだ。

 

「うっえ気持ち悪、巨人の全身から寄生虫がうねうね生えてやがる……」

 

 一球は巨人に見覚えがあった。

 自分がぶっ殺した、60mの方の巨人だ。

 あの戦いの後、死体がどこかに行って確認できなかった巨人の死体が今、全身に寄生虫を巣食わせながら王都に進軍して来ている。

 

 間違いない、魔将フィーアだ。

 黄泉瓜巨人軍の死体に、国一つ丸ごと制圧できる数の寄生虫を全て寄生させ、巨人の体を盾として王都に突っ込んで来るつもりなのだろう。

 全身から寄生虫が生えている。

 全身の肉の下で、寄生虫が蠢いている。

 今の巨人の外見は、怖気がするほど気持ち悪かった。

 

 巨人軍に対し憎しみを持っている一球ですら、思わず巨人に同情してしまいそうになったくらいに、その姿は醜悪で悪辣だった。

 

「サトーが言ってたろ。

 あのいっぱいいる寄生虫のどれかが、コアにあたる寄生虫だって。

 そいつを潰せればあの文字通り腐るほどいる死体寄生虫、全部死んじまうはずだぜ」

 

「あの巨人の寄生虫群の中に居るのか?

 いやそれはどうなんだ? 俺なら、そうだな……

 ベンチから指示出す監督みたいに、指示出す本体だけは安全な場所に隠しておくが」

 

「どうだろうな、それ。

 若鷺が一匹一匹探知して殺したんだろ?

 俺だったら、一匹だけ安全な場所に隠すとかしたくないな。

 木を隠すなら森の中で、あの大量の寄生虫群の中に隠れると思う」

 

「あー……確かに。若鷺さん居るからそっちの方が安牌なのか」

 

 若鷺和子が、フィーア・ディザスター視点の選択肢を狭めている。

 中核個体の単独行動に制限をかけている。

 なまじ知性があるために、フィーアの短絡的な思考が選ぶ選択肢は、極めて少なくなっていると言わざるを得ない。

 

「っしゃあ! ノックだ!」

 

「ヘイヘイヘーイ! ピッチャービビってるー!」

 

 一球と希望は巧みな連携を開始。

 希望がその辺の石をトスして、一球がバットで打つ。

 つまり、ノックだ。

 打たれた石は流星となり、巨人を寄生虫ごと潰さんと飛翔する。

 流星のノックマン作戦は十数の流星をマシンガンのごとく連射し、巨人の全身に着弾した。

 

「何!?」

 

 だが、無傷。

 流星と化した石は巨人どころか、柔らかそうな寄生虫に当たっても駄目だった。

 王都の守備を担当する兵士達が魔術を散発的に撃ってもいるのだが、その魔術が当たっても傷は全くない。

 

 巨人に救う無数の寄生虫が防御の魔術を発動し、それを複合的に組み合わせ、尋常な威力では突破できないバリアーを体表に展開しているのだ。

 

「なんてやつだ。マジカルだな……」

 

 おそらくフィーア・ディザスターの目的は、頑丈な巨人を魔術で守り、巨人の体ごと王都に突っ込むことだろう。

 巨人の力を魔術で底上げすれば、大体の守りは突破できる。

 そして王都に突入し、巨人の体から出て蜘蛛の子を散らすように拡散し、王都の主要人物達を一気に洗脳するつもりなのだ。

 

 いささか大味だが、巨人の体を寄生虫運搬体(キャリア)として使う発想は、この世界の市街防衛概念には想定されていない。成功する確率は高かった。

 

 巨人はズシン、ズシン、と進んでいく。

 王都への距離をある程度詰めた後、巨人の胸が膨らんだ。

 

「巨乳だ」

 

 一球が反射的に反応する。

 そして、次の瞬間胸が破裂する。

 

「きょ、巨乳が爆発した!」

 

 破裂した胸の中から、大量の寄生虫がボトボト落ちた。

 とてつもなく生理的嫌悪感を引き起こされる光景である。

 分裂生成された寄生虫の分体達は、巨人の巨乳から吐き出されるやいなや、囮役兼攻撃隊として王都への突撃を開始した。

 

「やべえ!」

 

 希望のサポートを受けた一球のそれは、まさしく千本ノック。

 だが足りない。

 千本ノックで雑に寄生虫達を潰していっても、手数が足りない。

 もう駄目か……と野口希望が諦めかけた、その瞬間。

 

「『クレスレイド』ッ!」

 

 ヴァニラ・フレーバーの土上級魔法が、巨大で頑強な土の壁を作り、巨乳から出産された寄生虫達を特定エリアに隔離した。

 

「虫、嫌いなんだけど、私」

 

 飛び込んだ和子が指と指の間にクナイを二本ずつ挟んで、合計十六本のクナイを握る。

 そして八人に影分身し、投げた。

 その数実に合計128。

 128の虫を潰し、次の瞬間には256の虫を潰し、一呼吸後には512の虫をクナイで潰した。

 

「はいさっさ……おぼろろろ」

 

 スプーキーは雑に虫を踏み潰し、体調が悪くなってきたせいか、最高クラスにかっこいいイケメンの口からゲロをぶちかます。敵に。

 ゲロまみれになった寄生虫の死体は、結構グロかった。

 

「持ってきてよかったな、島!」

 

 そして敬刀がちょっと借りてきた島を振るう。

 島を振る斬撃は剣道の基礎動作に忠実で、ただ一度振るうだけで寄生虫が全滅していく。

 地面もついでにぶっ壊れる。

 もののついでとばかりに巨人にも叩き込んでみるが、寄生虫達が共同で張る魔術バリアーは極めて強力で、島を振るっても鍔迫り合いにしかならない。

 

 魔将の名は伊達ではなかった。

 島程度の質量武器では、このバリアを突破するには、攻撃力が足りなすぎるのだ。

 

「……マジか」

 

 どうすればいい。

 どうすればこのバリアを突破できるのか。

 朔陽の頭に真っ先に浮かんだのは、スプーキーが温存している伝説の魔剣の開帳。

 だがそれも、敬刀の特訓のせいで青い顔をしているスプーキーに頼むには気が引ける。

 ならば、と。

 朔陽は一つ、至極堅実で妥当な攻撃作戦を思いついた。

 

「ヴァニラ姫、力を貸してください!」

 

「何か手があるのですか!?」

 

「問題ここで全部片付けちゃいましょう。

 転移魔法の実験と魔将討伐、一緒にやっちゃうんですよ!」

 

 姫は頷き、無言で魔法陣を展開する。

 何をして欲しい、と朔陽は言っていないのに。

 何をすれば勝てる、と勝算の証明さえ語っていないのに。

 姫は朔陽の心を理解しているかのように、朔陽の望んだ行動を取ってくれていた。

 

「こういうこと、ですよね?

 最近はサクヒ様の考えてること、時々分かるようになってきました」

 

「はい、そういうことです。召喚対象は―――」

 

 かくして。

 

 朔陽の思いつきは、姫の力で形になった。

 

「―――日本国・本土決戦用兵器! 自衛隊仕様! 『東京タワーブレード』ッ!」

 

 それは、五分だけの召喚術式。

 それは、金のない自衛隊が、今あるものを改造して作り上げた国防兵器。

 日本人ならば誰でも知っている、333mの電波塔型巨大剣。

 

「敬刀くんッ!」

 

「応ッ!」

 

 召喚されたそれを敬刀が手にした瞬間、タワーは剣へと変形を始めた。

 ガッションガッションと音が鳴るのも数秒のこと、数秒の後には333mの見事な剣が敬刀の片手に握られていた。

 

 これは自衛隊の剣。

 ゆえに殺人は許されていない。

 だからこそ、これは333mの逆刃刀である。

 これはあくまで自衛のための剣であり、殺さずの剣として此処に在る。

 

 日本人であれば、誰でもいつでも使っていい、フリーライセンス化がされた国防剣。

 国家に危機が訪れた時には誰がこの剣を手に取って、使い手が死すれば次の者がこの剣を握るという、継承の剣。

 人から人へ、この剣はいつの時代も手渡されてきた。

 異世界でも、この剣は人を守ってくれる。

 

 東京タワーは戦車の鉄が使われている。

 常識的に考えよう。

 兵器の鉄を溶かして新しく作るのは、普通は兵器ではないだろうか?

 東京タワーはその誕生経緯からして、兵器の申し子なのだ。

 自衛隊に鍛えられ、東京タワーは真の姿たる剣の姿を取り戻した。

 

 最大の有事には総理大臣が右手に剣たる東京タワーブレード、左手に槍たる東京スカイヤリーを持ち戦うことが、憲法にも定められている。

 

「うおおおおおおおおおおッ!!」

 

 敬刀が、東京タワーブレードを叩きつける。

 これは殺さずの剣。

 刃を持たぬ剣。

 全力で叩きつけたところで、人が死ぬことはない。

 されどこの剣は、刃が付いていないという意味において、竹刀に等しい。

 ゆえにか敬刀の手に馴染む。

 

 剣と使い手の相性の良さが、奇跡を呼んだ。

 

「見ろ!」

「巨人の体から!」

「フィーアの寄生蟲が全部叩き出された!」

 

 ポテチの袋を傾け、袋の底をポンポンと叩き、ポテチのカスを出すのと同じ原理だ。

 叩いたことで、飛び出して来た。

 叩き出せたなら、もう面倒なことは何もない。

 数百万か数千万かも判別のつかない寄生虫の山を見て、スプーキーが青い顔で鞘に入った魔剣を掲げる。

 

 魔剣の先が、朔陽の足元の虫を指した。

 

「サクヒ君、それが本体だ。潰したまえ」

 

「え? あ、はい!」

 

 そして踏み潰す。

 サクヒの足がぷちゅっと虫を潰したその直後、全ての寄生虫がビクンビクンとのたうち回り、やがて死んでいった。

 どうやら本当に、今潰した虫が本体だったらしい。

 全ての寄生虫が巨人体外に出るまでは、本体がどこに居るのかバレていなかったあたり、フィーアの作戦は間違っては居なかったのだろう。

 

 だが、ただひとつ。

 東京タワーブレードの存在を予想していなかったことが、最大にして唯一の敗因となった。

 

「朔陽」

 

「おつかれ、敬刀くん」

 

 見方によっては、敬刀が虫を叩き出し、朔陽がそれを潰すという連携によって勝ったようにも見える形。

 敬刀は、それがなんだか嬉しかった。

 

 敬刀が東京タワーブレードを掲げる。

 朔陽が聖剣を掲げる。

 二つの剣の腹が、軽くぶつかり合う。

 お遊びのような友情の確認。

 幼稚な互いの気持ちの確認。

 それでも、なんか嬉しくて。

 

 朔陽と敬刀は、顔を見合わせ思わず吹き出し、それからずっと笑っていた。

 何が楽しいのかも分からないのに、ずっと、ずっと。

 友達の顔を見て、笑っていた。

 

 

 


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