魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第30話 鏡映すは屍山に血河④

 爆風が身を震わせ、炸裂した熱の余波が肌に熱を齎し、絶え間ない轟音が鼓膜を聾する。

 破壊の力を備えた熱線が空間を切り裂き、赤紫の毒液の滴る槍穂と刃が縦横無尽に振るわれる。

 熱線を躱し刃の斬線の合間を掻い潜りながら、少年は拳と蹴りを鏡面の魔法少女達に叩き込み、その肉体を破壊していった。

 彼の徒手を受け、少女達の筋肉が断裂し内臓が破裂する。頑丈な背骨が砂糖菓子のように崩され肉体の可動域を越えた不自然な体勢で降り曲がる。

 機能停止に陥った同胞を踏み越えながら、少女達は一時の停滞も無く四方から少年の姿をした悪鬼へと無言の進撃を続けていった。

 

「ちょっと多過ぎんな」

 

 誰へともなく彼は呟いた。その時は丁度、徒手に切り替えてから二百体目の魔法少女の頭部を左の裏拳で破裂させた時だった。

 吹き飛ぶ血肉と脳漿を避けて屈んだ上空を数条の熱線が過ぎ、それらは軸線上にいた不運な数体の魔法少女の上半身を瞬時に蒸発させた。

 閃光によって開いた隙間に向かい、彼は地を蹴って疾駆した。左右から囲むように連打される刃が身に届く前に、振られた手刀が少女達の手首を砕き、或いは斬り落としていく。

 

「犬の頸よりゃ楽だろな」

 

 彼はまたも呟いた。経験則からではなく、彼の同類から聞いた話からの推測だった。呟きが終わる頃、疾駆の果てに彼は前方に拳を突き出した。

 それは黒い物体を撃ち抜き、肘まで埋まった。そして抜け出た拳が何かを掴んだ。

 

「お前はちょっと休んでな。餌なら浴びるほどくれてやらぁ」

 

 黒い物体から引き抜かれた手には、長大な斧槍が握られていた。黒い物体とは、本体である斧が生み出した直立する牛を模した義体であった。

 数体の魔法少女に群がられ、全身に刃を突き立てられていたところに彼は拳を突き込み、強引に本体を取り戻したのだった。

 引抜き際に旋回した残忍な円弧が、巨体に集っていた少女達を肉塊へと変えていた。そのまま再度再再度と巨大な得物をまるで細い棒切れのように軽々と振い、その度に犠牲者を量産していく。

 先程の発言に矛盾があるのではないかという思考は、彼の嫌味とかそういった次元の話ではなく俗に云えば天然な思考からのものだった。率直に言えば彼は馬鹿だった。

 

 武器に徹する魔女もまたそれを察しているらしく、彼を見つめる異形の眼はどこか奇異な存在に向けた視線となっていた。

 対する彼はと言えば、破壊の旋風を撒き散らしつつ自身を包囲する魔法少女達を次々と刈り取っていった。

 腕力で言えば彼のそれは魔女と比べて数段劣るが、斧の扱いは魔女のそれを大きく上回っていた。

 

 大振りである筈の斧の一閃は、ほぼ密着に近い位置からの斬撃にさえ対応し、そのひと振りが終点に至るまでに十本以上の刃を迎撃していた。

 砕かれた刃の群れに一瞬遅れ、それらの主である少女達の背から鮮血が吹き上がりその身はずるりとずれ落ちた。

 人の垣根が絶えて生じた隙間の奥で、魔法少女達の刃がそれぞれの身に纏った衣装や髪の色に準じた光を宿した。

 一瞬を更に刻んだ時の後、刃の先端からは熱線が迸った。それの中心に立つ彼の身はほんの一瞬、無数の色が混じった極彩の光に染まった。

 光が弾けた後にも、彼はその場で立っていた。斧を振り切った姿勢であった。彼の服の数か所が焼け焦げて剥離し、肌の上には幾つもの火膨れが出来ていた。

 そして彼の周囲を囲む魔法少女達の腰から上が消失していた。肉体の断面は炭化し、炭で覆われた肉体の真ん中からは粘着質となった血が滲んでいた。

 

「危ねぇな」

 

 その一言には苦痛と緊張感があった。破壊を終えた斧の眼は瞬きを繰り返していた。見たものと成したことが信じられないというように。

 彼が振るった一閃は、飛来する熱線をその切っ先で逸らし、挙句に周囲に弾いて拡散させていた。

 光速に肉体が対応出来るはずもないためこれは、切っ先から着弾点を予測し放たれる寸前に振り切ったから、そして相手が近距離であったために可能と為った絶技だった。

 二射が来る前にと、彼は魔法少女達へと飛び込み、暗黒の大斧を再び振り下ろした。

 

 線上に立つ魔法少女の全面を完全に覆う大盾に薄氷の鋭利さを持つ刃が激突したとき、盾の表面を六角形の魔力の膜が覆った。

 これまでも幾度も見た、防御に優れた魔法少女が魔力の障壁であった。障壁に刃が喰い込み、軽減された威力を大盾がビタリと受け止める。

 だが鉄壁を誇る防御からの反撃を成そうとした時、盾の裏側にいた緑髪の少女の頭蓋は陥没させられていた。痙攣して崩れる少女の背後には拳を血で濡らしたナガレが立っていた。

 

 刃が障壁に喰い込んだ時、彼は咄嗟に固定された斧の柄を掴み、盾の上を滑るよう前転していたのだった。回り込み様に拳を振り下ろしそして今に至っていた。

 主の手から離れた大盾を奪うと、彼はそれを真横へ振るった。鉄壁の盾は巨大な面の範囲攻撃となり、迫っていた数体の魔法少女達を圧殺した。

 肉の内側で砕けた骨が肌を突き破って外に出た様は、内部で爆薬が炸裂したかのようだった。激突の衝撃で外れた斧を掴むと彼は盾を構えた。

 そこに向けて視界を埋め尽くす数の遠距離攻撃が殺到していく。超高温や魔力で生成された弾薬が盾の上で弾け、無数の火花を散らし爆風の渦が巻く。

 

 朦々と上がる熱風と粉塵を突き抜け、孤影が上空へ躍り出た。全ての刃の切っ先がそちらに向き、破壊の光を撃ち放つ。

 照らし出された孤影は、頭部を潰された緑髪の魔法少女だった。上空で人体が弾け微細な破片となって降り注ぐ中、愚策を悟った魔法少女達は再び前方に得物を向けた。

 その間に彼の準備は終わっていた。粉塵を切り裂き、無数の飛翔体が魔法少女達へと向かって行った。

 それは魔法少女の刃を砕き、衣服と肉と、存在の全てを粉々に砕く小さな破壊の落とし子だった。

 内側から自らを切り裂くそれらによって、白い粉塵の濃度は薄まり熱風によって開いていく。乳白色の闇から顕れたのは、鈍い輝きを放つ黒銅色の鉄の筒だった。

 けたたましい回転音を挙げて運動するその先端から、無数の弾丸が撃ち出されていた。

 

「好き勝手散々撃ちやがって。こっちも遠距離戦でやってやらぁ!」

 

 叫ぶナガレが携えたのは全長一メートルほどの長さの銃器、分かりやすく言えばガトリングガンであった。

 四本の鉄棒を円柱に加工した鉄で包んだそれは、なんともいえない手造り感に溢れていた。右手で重心を支え、左手は引き金付近に添えられた手車を回している。

 連なる弾薬は斧の中央の眼の奥から次々と補充されていた。弾薬もまた一つ一つ微妙にサイズが異なっており、彼の謹製である事が伺えた。

 魔女を介した弾丸である為か、弾が接触した魔法少女側の熱線の威力は減衰し彼の元へ届く時には熱の殆どが消えていた。

 

 相手の攻撃と相手自身を破壊しつつ、異界の技術が施された手造り兵器が魔法少女達を際限なく打ち砕いていく。

 そして質の悪い事に、毎分数千発は撃ち出される弾丸は狙撃の精度を誇っていた。

 後衛魔法少女を盾として進撃を図った近接主体と見える魔法少女達は、肉体の盾越しに頭や胸を貫かれていた。

 無数の屍が泥濘となって広がった時、漸く彼は歯車を回すことをやめた。

 

「弾切れか。もっと用意しときゃよかったな」

 

 愚痴った相手は魔女に対してのものだろうか。十分近く撃ち続けたというのに、この男は何を言っているのだろう。

 唯の重しとなった、酷使により戦端を真紅に染めたそれを、彼は惜しげもなく投げ捨てた。

 一抱えもある鉄の塊は飛燕の速度で飛翔し、その先にいた不運な魔法少女の頭部へと激突。その頭を粘土のように圧し潰した。

 だがその背後からは、更にわらわらと後続が進軍を続ける様子が見えた。迫りくる魔法少女達の姿には、同一個体と思しきものが幾つも見えた。

 

「ネタが尽きてきたのか?」

 

 彼は率直に感想を呟いた。現実と虚構の違いは彼も理解してはいるのだが、このメタフィクションな発言は呉キリカの影響があるものと思われた。

 彼女が知れば、いい迷惑と思うに違いない。

 










マギレコで言えば彼もブラスト偏重なのかもしれません
次辺りで今の話を一区切りさせるべく頑張ります

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