魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第31話 煉獄の決闘者

「あー、もう。友人てば空気を読まないから困る。普通魔法少女が未知なる力を発揮したのだから君は爆発四散して然るべきだ」

 

 呉キリカは苦々しく語った。自らがその状態で。

 彼女の肉体は鎖骨の真ん中あたりで胴体と切り離された頭部、太ももの付け根から切断された脚に、肘で切断された腕にと惨殺体の様を呈していた。

 断面からは言うまでも無く滔々と血潮が溢れ、酸鼻な香りを異界に振り撒いている。

 その様子に善や憐憫の心の部分を刺激されない訳でもないが、その破壊を成した本人のナガレの顔に動揺はなかった。慣れたのだろう。

 

「てめぇらほんと不死身だな。つうか硬くて速ぇとか反則もいい加減にしやがれ」

「『魔法』少女だからね、多少のチートは赦せ」

 

 キリカの応対にナガレがふんと鼻を鳴らした。横文字の意味はよく分からないが、多分ズルとかそういうのだろうと野生の勘が告げていた。

 その反則持ちの戦闘生物を斬り伏せた事に関する自負心が皆無であるのは、キリカが生きているからだろう。

 

「硬くて強いと云えば、君の腐れ思い出話にそんなのがいたね。なんだっけか、たしかマジン」

 

 残り数文字で足りる言葉はそこで一瞬途切れた。何事にも無関心を通すキリカの、その血みどろの背にほんの少し、薄ら寒いものが這ったのである。

 

「ああ、お前さんはちょっとあの化け物に似てやがる。人の話聞かねぇとことかワケ分からねぇところとか」

「『終焉にして原初の魔神』だっけかね。御大層なお名前だことさ。ついでにたしか未来予知からの即死技も使えるんだっけかね。

 たしかに生意気な奴だ、著作権法違反で死刑を望む」

「いつか纏めてぶっ潰してやるさ」

 

 ナガレの返しでその話題での会話は終わった。

 キリカは彼の話を妄言としか思っておらず、ナガレ自身も愚痴を聞いて貰いたいとも思わず有言実行あるのみだと思っていた。

 

「にしてもなんだい、その斧は。神浜の調整屋に新作かい?それとも腐れマギウス製?」

「手製だ。変な言葉並べるんじゃねぇ」

「変な奴にそう言われるとは連中も不運だね」

「どうやって作ったとか、聞かねぇのか?」

 

 妙な返しにキリカは怪訝な表情をしたが、乗ってあげる事にした。聞いてほしそうな顔つきだったからである。

 一秒悩んでキリカは決めた。彼女にしては長考であった。

 

「さて、第二ラウンドといきたいところだけれど」

 

 選んだのは無視だった。ナガレの顔に、露骨な残念感が浮かんだ。こいつほんとにガキだなと、キリカは思った。

 言葉を紡ぐのに並行し、キリカの肉の断面に黒い靄が這った。

 見る見る間にとも足りぬ時間の間に、断裂していた肉と骨が接合し衣服も水同士が溶け合うように癒着する。

 二秒と経たずに惨殺死体から傷一つない健康体としてキリカは再生した。生物の範疇を越えた超回復はまさに魔法の賜物だった。

 

「友人如きに構ってるヒマはないな」

 

 並び立つ黒髪の怪物二体の顔を、熱を孕んだ風が叩いた。途端に両者の顔面に無数の汗の珠が浮いた。

 飛来した熱は灼熱であった。そして四つの黒い瞳の中には、真紅に染まった世界が見えた。

 歪な鏡面は視界の限りの果てまで、波のようにのたうっていた。蛇のように打ち上がり、空中で気体へと果てていく。

 建造物が蕩け、根元から崩れていく。地面もまたある一点に向けて流れて溶け落ち、その一点は灼熱の坩堝となっていた。

 底知れぬ巨大な坩堝の中心に、それはいた。

 

「お前、なにやらかした」

 

 怒気を隠そうともせずにナガレは聞いた。彼はキリカの方を向かず、正面を見ていた。

 灼熱の坩堝の上に立つものに。そこにいたのは、燃え立つ炎を纏った人体であった。紅いワンピースを纏った身体は、女体の形がよく見えた。

 身長はやや高くなり、真紅の体が備えた肉体的特徴は数年の加味を経ていたが、その長髪といい体つきと言い、正体は容易に察せられた。

 だがその正体を見出すのに最も役立ったのは、そこから発せられる殺気と怒りであった。

 そしてそれは、これまでにない程に増大していた。

 

「友人はリョナラーのようだな」

「さっさと言え」

「熾烈な爭いの果てに背骨を踏み砕いて動けなくしてから手足をぶちぶち千切って、あの顔面鏡連中の群れに放り込んだってとこかな。

 それ以降、佐倉杏子が連中に何をされたかまでは責任は負えないね」

「悪魔かてめぇ」

「悪魔はむしろアレだろう。ホラあれだよ、前に君と観た映画であったね。『炎の悪魔』って呼ばれてた怪獣ラド」

 

 言い終える前、彼の全身を熱波が叩いた。寸前、彼の右手が伸びて何かを掴んだ。

 吹き飛ばされるも同然で飛翔し着地した彼の眼には、人型の炎と、それに吊り上げられたキリカが見えた。

 真紅の細くしなやかな手がキリカの喉を掴んでいた。接触面からは白煙が上がり、すぐに熱波に散らされていく。

 

「やぁ佐倉杏子。一足先に大人になったようだね、おめでとう」

 

 焼け爛れるを通り越して蒸発した喉を、超再生で無理矢理戻しながらキリカは告げた。それが彼女の遺言と為った。

 吊り上げから叩き付けへと彼女の位置は動き、蕩けた地面に接する直前で急停止した。

 彼女の上顎と下顎を、炎の指が捉え縦に開いていた。何かしらの声が挙がる前に、開いたそこへと真紅が一閃した。

 復讐の悪魔又は女神と化した佐倉杏子の口から発せられた熱線であった。

 

 天から注ぐ裁きの光のように、それは黒い魔法少女の身体を一瞬にして一片残らず焼き尽くしていた。

 熱線は地面を貫き、一体は灼熱地獄と化した。地獄の坩堝の中、炎の女の貌が動いた。眼鼻の形はうっすらと残っていた。

 その全てが虚無を宿したような無表情を宿していた。怒りと憎しみの純化によるものだろう。

 純粋な負の感情に支配された少女の、炎色の虚無の眼は、新たな獲物を見つめていた。そしてその獲物は今、その瞳の中で彼女に刃を翳していた。








また随分と空いてしまい、申し訳ありませんでした。
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