魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
薄闇の支配する劇場の中、ナガレは眼を閉じていた。
生来の喧しさで出来ている彼の人生の中でも、静穏な時はあるものだった。
そしてそれは長く続かないのも常であった。眼は開かれ、薄闇を喰らうような黒い瞳が外気に触れた。
「おっ待たせ~~」
僅かな親しみと無関心さが1:9で配合された挨拶を放ち、二席開けて彼の隣に座ったのは呉キリカであった。
彼女が座席に座るや、キリカは売店で販売される食糧の乗せられたプラスチックのプレートを座席に接続し、
乗せられたものを貪り始めた。そこからは甘い臭気が立ち込めていた。これでもかと蜂蜜の掛けられた大盛のポップコーンであった。
「別に待ってねぇよ」
「テンプレ通りのツンデレ発言ご苦労さん」
「てめぇとはほんと話通じねぇな」
「理解させられない君が悪い」
「クソガキが。後で覚えてろよ」
「それは君の方だ。相当恨みを買ってるからな、覚悟しとくといい」
親しみの死滅した会話はいったんそこで切れ、少ししてから再開した。口火を切ったのは並ぶ黒髪の中の、男の方だった。
「俺が何かやったか」
「今時そんな台詞、転生ものの主役でも云わないぞ」
「いいから言いやがれ。アイスくらいなら買ってやる」
「君、この映画観るの今回で何回目だい?」
「さぁな。5回くらいじゃねえのか」
「これで28回目だよ、くそぼけ」
末尾の罵詈に湧いた怒りはしかし、述べられた数字の前に一旦は引いた。
「マジか?いくら俺でもそこまでバカじゃ」
「バカだからこうなってるんだよ、友人。頼むから私の話を聞いておくれよ」
「手短にな。そろそろ始まっちまう」
年少者特有の素晴らしい身勝手を携えながら、彼はキリカの話を聞くことにした。
「映画を観るのはいい。歌も文化の極みだとか、タブリスも言っている」
「誰だよ、そいつ。なんとなくブサイクそうな名前だな」
「友人、君は今ある世界を敵に回したぞ。それで敵と言えばだね、君はこの映画を見るに当たって身近な奴に声を掛けて回っただろ」
「ああ。自警団の連中とも観たな」
「その結果は?」
「……あ」
「気付いたか、自らの罪の重さに」
「あいつら学生だったな。だから今日誘っても来なかったのか」
「違うっつのおバカ」
キリカは溜息を吐いた。深い深い溜息だった。
「この映画は人の心を融かす劇物だ。エログロと狂気で満ちた一種の呪物だ」
「お前が薦めてきたんだろ」
「呪物というのはあながち間違いじゃない。映画会社の言葉を信じれば、これはある時ネットを通じて世界にばら撒かれた映像作品群だ。
作者は不明でキャラクターの声優も不明、作品として流れ出た事以外は何も分かっちゃいないんだ」
「唐突にアホみてぇな事言い始めたな。てめぇ頭大丈夫か」
「ここは魔女のいる世界で、君も話を信じるならここじゃない何処かから来たんだろうが。何だって起こるのさ」
「なるほど、お前さん思ったより頭いいな」
「褒められても全く嬉しくないのが君らしくていいね。で、最初に26話の連なる物語が流れた。
謎に満ちた作風と麗しい美少女・耽美なガチ〇モ描写は多くの暇人を沼に引き込んだ」
「俺、それ見てねぇんだけど」
「黙れ情報弱者。全部円盤にしてあるから今度くれてやるから一緒に観ようよ。それが数年前の事で、この映画が来たのは今月の頭の事だった。
凡そ理解不能な結末を迎えたこの作品は、完結編と銘打たれた状態で掲示板やらSNSを通じて世に生まれ出でた」
「あーーーー…やっと分かった」
「聡明な友人よ、答えを述べよ」
「タダで観れるから、みんな映画館来ねぇんだな。今もガラガラだ」
「だからそうじゃねえって言ってるだろ。私のキャラを壊すな、腐れ異世界人め」
キリカの黄水晶の眼は天を仰いだ。救いを求める御子のように。
「あの内容だぞ。殺戮のオンパレード、エログロのラッシュ、更に難解な結末とあと最低な冒頭場面」
「ああ、あれは俺もどうかと思った。そういうのは隠れてやるもんだ」
「女子にそれを云うな。カルト的な人気があるからこうして劇場でやってるが、あれを初見ならともかく以降に人を誘う奴はどうかしてる」
「それがこの報いか。悪いことしちまったな」
声には彼には珍しい悲痛さが含まれていた。
ここ最近の激戦と殺戮で薄れていたが、魔法少女は紛れもなく人間の子供なのであった。
「一緒に感想言ったりする相手が欲しいのは分かるけどね。今回はモノがモノだからな、万死に値する。
今何気なくほざいたその台詞通り、君は魔女かドッペルにでも喰われちまった方が良い」
「あいつらにロボット物は合わないってこったな。今度は魔法少女が出てくる映画にしといてやら」
「前言撤回だ、同情の余地は無い」
凡その事例に虚無を纏ったキリカの感情の中で、この一言は明確な意思を持って放たれていた。
そして続けてこう言った。
「というか君、この映画に出てくる何よりも無惨に死ぬぞ。君は私も含め、全ての同伴者から莫大な殺意を買っている」
言い終え、冷ややかな視線をナガレに送ったキリカの眼に映ったのは、唇の前で人差し指を立てたナガレの顔だった。
気付けば、上映開始まで数秒前となっていた。
前回、五日程度前に来館した時の彼は包帯ぐるぐる巻きの木乃伊だったが既に完治したらしく五体満足の状態だった。
キリカが記憶を辿ると、最初の来館の翌日にはこの状態になっていた。
大問題作であるこの作品中の羽付き白ウナギじみた生命力と、妙に常識人じみた様子はキリカの癪に障った。
心中で『殺してやる』と唱え続けながら、キリカは映画に視線を向けた。
序盤から視聴者を振いに掛ける試練の後に、映像化された地獄が幕を開けた。
書いといてなんですが、イノセントで済まされる事では無いと思います
あとカヲル君は超絶美形です