魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
無名の闇が何処までも広がっている。
無限に、そして果てしなく膨張を続ける宇宙には万物の存在を許さぬ無で満ちていた。
虚無とは何も無いから虚無なのだ。
無の揺り篭に揺蕩う眠りのような空間にふと、小さな点が生じた。
例えるなら窓辺に付着した一滴か埃のように、擦るだけで消えそうな微弱な光であった。
一瞬の後、光はあらゆる方向へと広がった。
虚無の闇は光を留めておく事は敵わず、花開くように光は奔った。
宇宙を埋め尽くす勢いで広がった光の中央には、無限の宇宙と比べれば余りにも矮小な、だが巨大な物体が蠢いていた。
光はそれらから発せられていた。光は二色あった。
鬱蒼とした、生々しい生命の息吹を思わせる暗緑色と、燦燦と輝き万物を焼き尽くすような太陽の如く金色の光があった。
暗緑と金色の光を纏うのは、ヒトの姿に酷似した二体の巨人。
血で染め抜いたような深紅の色を基調とした、二本の角を六角形の顔から生やした機械の戦鬼。
黒と白の装甲で覆われた、武者の兜を彷彿とさせる厳めしい面貌を持った機械の魔神。
戦鬼の深紅の拳と魔神の漆黒の拳が激突し、双方の纏った光が大海原の如くに荒れ狂う。
戦鬼と魔神だけではなく、双方の光もまた戦いを繰り広げてるようだった。
戦鬼のズダボロの外套がはためき、魔神が背負う真紅の翼に光が映える。
吹き荒れる光の中で互いの拳を突き合わせたまま、二つの巨人が対峙する。
「あんたみてぇな有名人に喧嘩吹っ掛けられるたぁ、俺もサマになってきたじゃねえか」
深紅の戦鬼の中で、精悍と戦意に満ちた若い男の声がした。
無音の筈の宇宙空間の中でありながら、それは確実に響いていた。
「行くぜぇっ!!」
煮え滾るマグマのような戦意が、咆哮と共に放たれる。
突き出し合わせた右拳とは逆の左手が上がり、肩から展開された手斧を掴み一気に振り下ろす。
銀の一閃が、魔神の胸部放熱板に吸い込まれるように奔り直撃する。
深紅の戦鬼の剛力に機体に悪霊の様に纏わる暗緑の光が力を与え、物理法則を捻じ曲げた力が加わる。
一振りで惑星さえも両断する一撃はしかし、真紅の装甲板の上で刃が微塵と砕け散った。
その砕け散る無数の銀光が赤の光を孕んだ。
「ゲッタァァァビィィィムッ!!!」
宇宙を震わす怒号と共に戦鬼の腹部の一部が開き、深紅の熱線が解き放たれる。
戦鬼の体高をも上回る太さとなり、熱線が魔神の姿を覆い尽くす。
深紅の射線は果てしなく続き、その一撃は無限の空間を貫き宇宙の一角を深紅の光で染め上げた。
その光が縦二つに裂けた。その内側から顕れた魔神の装甲は冷え冷えとした輝きを保っていた。
一つの銀河を丸ごと消し去る破壊の奔流を真っ向から受けるなど、物理法則を超越した頑強さであった。
掲げられた逞しい両腕から伸びた巨柱に等しい五指を、深紅の戦鬼もまた引けを取らぬ太さの五指で迎え撃つ。
両手の間で凄まじい力同士の応酬が開始され、黒と深紅の装甲がめきめきと軋む。
先に変化が生じたのは深紅であった。装甲の表面に僅かな歪みが生じ、そこを基点に装甲が内側へと凹んでいく。
頑強さと力においても、魔神が戦鬼を上回っていたのである。
「鉄の城は伊達じゃねえな」
数多の悪鬼羅刹に神仏を葬り去ってきた一撃が無力となり、力の差も思い知らされた時、深紅の戦鬼を操る青年の貌に獰悪な笑顔が浮かんだ。
怖れを知らぬ虫の勇気ではなく、恐怖を知りつつそれを上回る闘志が湧き上がる、正気ながらに狂気を孕んだ人間の笑顔であった。
底知れぬ強敵と戦う事が心底楽しくて仕方ないらしい。
「そうこなくっちゃな。楽しもうぜ、マジンガーZ!」
叫ぶ青年の声は、友に語り掛けるような口調があった。
だが言い終えた途端、彼の表情に変化があった。楽し気な様子が消え去り、代わりに怒りが表出していた。
「そうか、てめぇが」
青年の眼の前で、魔神の姿に変化があった。
面貌の口に当る部分を覆う装甲に亀裂が入り、その言葉のまま横一列に髑髏を思わせる口が顕れた。
胸の放熱板や四肢の末端部分が牙の様に尖り、逞しい腕からは左右から獰悪な形状の刃が飛び出した。
背中の紅の翼は異常な形に捩じれ、蕩けた。巨大な背中を蕩けた真紅が廻り、そして形を成した。
それは数字の0(ゼロ)、または∞(インフィニティ)、そしてZを思わせる異形の翼が魔神の背中に広がっていた。
「野郎!」
青年が吠え、深紅の戦鬼の頭部が前へと進む。
魔神の頭部、水晶のような光を放つ部分へと戦鬼の額が激突する。
渾身の一撃。しかし体幹は小動もせずに、一回り以上に巨大化した魔神は佇んでいた。
一方の深紅の戦鬼は背後に後退し、二体の間に距離が生じた。
戦鬼の紅い手からは、同色の液体が滴っていた。
離れたのではなく、魔神の方が離したのであった。
力負けをするのは何時振りかと、青年は考えた。覚えている限りで二例ある。
星々を喰らう魔物と、兵器を使い宇宙を消滅させる機械の皇帝の二つであった。
だがその両方も、多少なりとの傷は与えられていた。
眼の前の存在はそれすら皆無と来ている。
「風の噂って奴に聞いたが、てめぇがそうか。終焉の魔神とかぬかしてやがる奴か」
青年の頬を一筋の汗が伝う。
奥歯がわなわなと嘶くように震える。
それを噛み殺すように食い縛る。
そして出来上がった表情は、先程と変わらぬ戦鬼の笑みであった。
この男はきっと今までもそうであり、そして仮にあるとしたのなら、死のその時までこうだろう。
「俺ぁこれでもZと兜は尊敬してんだがよ。てめぇと、それと何故かグレートとプロ勇者は好きじゃねぇんだ」
勝手な物言いをする頃には震えは消え、汗も絶えていた。
傷付いた両手の表面を内部から生えた無数の触手が覆い、装甲と機能が完全修復される。
両肩からせり上がった戦斧を深紅の手が掴み取る。
「行くぜ!マジンガーZERO!!」
炎と化して、深紅の悪鬼が終焉の魔神へと迫る。
吹き荒ぶ暗緑のエネルギーと、戦鬼を操る青年の意思を受けながらも魔神は悠然と聳えていた。
魔神の周囲に光が集約し、そして形を作っていく。それは光の文字となって、青年の前に輝いた。
激突の瞬間。
闇は光に駆逐され、世界を白光が埋め尽くした。
描く必要があったので番外編です。