魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ) 作:凡庸
虚無が切り裂かれ、光が闇を駆逐していく。
汚濁と生命を思わせる暗緑の光と、万物を照らし焼き尽くす金色の光が交差し互いを切り刻んでいく。
それらは光でありながら、決して同一にはならぬ光であった。
破壊の奔流は、ある一点から生じていた。
宇宙は既に黒くなく、二色の光に染まっていた。無限に等しいその果てまでも。
光の文字が紡がれ、ZEROと呼ばれた魔神の口が大きく開く。
装甲が亀裂の様に開き、禍々しい形の牙の列となる。その奥で光が迸ったと見るや、巨大な光の渦が放たれた。
横の幅は果てしなく広く、そして光の速度を持った酸の嵐が宇宙を呑み込まんとして荒れ狂う。
遥か彼方、緑の光を纏う戦鬼は、己に迫る大嵐に向けて左手を突き出した。
「ドリルッ!」
青年の叫びに呼応し、剛腕を形作る深紅と白の装甲が変異を遂げていく。
五指は溶けあい、その切っ先が螺旋を描きつつ一気に伸びる。
肘から先が巨大なドリルへと変貌し、紫電を撒きつつ回転を開始する。
「ストォォォムッ!!」
咆哮と共にドリルが纏う紫電が解き放たれた。
自身より遥かに巨大な大渦に激突し、死の渦の進行に喰らい付く。
「行くぜぇぇっ!!」
互いを削り合う螺旋の中央に向けて、深紅の戦鬼が飛翔した。
自身が放った螺旋を唸りを上げるドリルでぶち抜き、その破壊力を受け継ぎ進む。
肩に足先にと、巨体の端が強酸に触れて腐食し黒茶色の錆を噴いて朽ちていく。
だが、深紅の戦鬼は止まらない。
宇宙を覆わんばかりの大渦を切り裂き進む戦鬼の前に、再び光の文字が並んだ。
大渦を突き破り、刃渡りが戦鬼の体長の十倍はある巨大な刃が戦鬼の眼前に切っ先を広げた。
寸前で戦鬼が身を翻し、刃の直撃を掻い潜る。
既に遥か彼方へ飛翔した刃が慣性の法則を完全に無視した挙動で反転、戦鬼の元へと舞い戻る。
「トマホークッブーメランッ!!」
戦鬼の肩から四つの鉄塊が射出され、それらは主の右手が伸びると同時に同数の手斧と化した。
柄を指の間に挟み、一振りの元で全てを投げる。
先の刃で切り裂かれていた渦を更に切り裂き、巨大な鋼の刃へと斧の群れが挑む。
超高速で回転しながら飛翔する斧が刃に接触、無音の空間に金属の絶叫が鳴り響く。
接触の瞬間に三本の斧が黒と銀の塵と化した。
金属音を鳴らしつつ、斧と刃が拮抗し刃が戦鬼の寸前で動きを止めた。戦鬼の放った斧もまた、尋常な存在ではなかった。
だがその拮抗もほんの一瞬。残る一本もまた金切りの断末魔を上げつつ破砕される。
そして、その一瞬で十分だった。
「ドリル・アタックッ!!」
動き出した刃に向けて、水平に構えられたドリルが腕から撃ち出される。
放たれた瞬間、爆発的に肥大化し、刃にも相当する巨大化を果たした。
ブーメラン状の刃と真っ向から激突し、ドリルと刃が互いの身を削りながら喰らい合う。
ぴったり一秒が立った時に刃はぐねりと捩じれ、真っ二つに砕かれた。
「こいつはなんでか知らねえけど当りにくいからな。隼人の呪いか」
巨大な破片が機体の左右に流れていく中、青年が何故か得意げな口調で呟いた。
余程信頼のおけない武装であったらしい。
言っている間に腕の断面からは無数のコードと金属柱が伸びて内部を形成し、八角形の微細な金属片が表皮となり装甲と化して覆い尽くす。
腕を再生させた戦鬼を金色の光が照らした。
それはあらゆる包囲から降り注いでいた。
浮かび上がった文字が示す名の通り、十字の光の刃が戦鬼の周囲の全方位で輝いていた。光の奥には、異形の翼を背負い、太い右手を掲げた魔神の姿があった。
手の人差し指が伸び、戦鬼の存在する方向を指していた。
指揮者に従い奏でられる演奏の様に、一糸乱れずに編隊を組み光の十字架が戦鬼に迫る。
光に照らされる戦鬼の背後で、深紅の衣が大きく靡いた。魔鳥の翼の如く翻り。深紅の戦鬼の全身を頭部を除いて包み込む。
「ゲッタァァアアビィィィムッ!!」
青年の咆哮と共に、戦鬼の全身がより一層の深紅に染まる。
血で染め抜いたような衣の表面に無数の紅の点が発生し、そこから閃光の束が放たれた。
迫る金色に向けて、深紅の熱線が向かって行く。
それは無数であるというのに、正確無比に光の十字架へと着弾していった。
深紅と金色の力は拮抗し、双方の光が砕け散る光が乱舞する。
その光を貫き、深紅と漆黒の巨体が激突した。
「ゲッタァァトマホォォックッ!!」
裂帛の叫びと共に振り下ろされた二本の戦斧を、魔神の剛腕から生えた刃が受け止め弾く。
弾かれた斧は歪み、無数のヒビが入っていた。
「二度もさせねえってか」
先に放たれた刃を破壊した事ついてである。
先程のは様子見で、こちらが本来の強度だろう。
深紅の戦鬼に対して、耐久面では魔神が桁違いに圧倒しているのだった。
だがそれを全く気にせず、再び斧が振るわれる。
斧が砕ければ拳と蹴りを叩き込む。
魔神もまた剛腕を振い、深紅の装甲が歪みつつも受け流し、攻防が続いていく。
激突。更に激突。轟音に次ぐ轟音が、無音の空間に響き渡る。
深紅と漆黒の拳が激突する度に、空間自体が歪み、そして破れていた。
空間の破壊は光を越えた速度で広がっていた。
陽炎のように揺れる、歪んだ空間が無数の火花の様に広がる破壊の中央で、二体の機械の怪物達が対峙していた。
進化の力を纏った深紅の戦鬼と、終焉にして原初の魔神が。
それぞれが突き出した右の拳が激突する。
その時既に、数が意味を為さぬほどに激突は積み重ねられていた。
深紅の戦鬼の胸部の緑のパネルは砕け、左腕は半壊していた。細かい損傷を挙げればキリがなく、全身が損傷し火花を噴いていた。
対する魔神は全くの無傷。ミリ単位の傷すら付かず、恐らくは分子単位で微動だにしていない。
拳の激突から一瞬の後、砕けたのは深紅であった。
逞しい五指のみならず肘辺りまでの装甲が弾け飛び、波及した衝撃によって右胸も半壊する。
破壊は留まらず、戦鬼の背中の装甲も大きく割れた。
激戦の末、深紅の敗北にて勝負は決したかに見えた。
戦鬼の頭部、この機械の怪物を操る青年が息を吐いた。
諦めでも絶望でも、まして迎える死を前にした自己満足のそれでは無かった。
研ぎ澄ました牙を見せて嗤う、魔獣の吐息であった。
「舐めるなよマジンガーZERO!!」
軽い音が拳の接触面で生じた。それは黒の装甲の上で鳴った。
音は続いた。深紅の戦鬼のそれよりも一回りは巨大な拳の表面を細い線が奔っていく。
次の瞬間、漆黒の拳の甲は弾けた。装甲が破裂し、内部に敷き詰められた異形のメカニズムが露出する。
それらを砕きながら、戦鬼の拳が前へと進んだ。
僅かなコードが纏わりついた、剥き出しのフレームで形作られた拳が魔神の腕を砕いていく。
肘までを一気に破壊し、殊更に分厚い装甲で覆われた胸部へと激突する。
破壊不能の物体を掘削した代償に更に損傷し、全損寸前となった拳が魔神の装甲を砕き突き刺さる。そして振り切られた拳は終焉の魔神の巨体を揺るがせ、その身を大きく弾き飛ばした。
光の言葉の通り、それは終焉の魔神の感嘆の感情を示していた。
「はっ負け惜しみほざいてんじゃねぇ」
青年の挑発を完全に無視し、魔神は述べた。
「そうかい。俺からしたらてめぇはマジンガーZのパチモンなんだけどよ」
終焉の魔神は平然とした様子で、光の文字を述べた。
青年が釈然としない表情となる。当然の事だった。
「ざまぁ見ろ。しばらくそのザマでいやがれ」
破損の断面から無数のコードが伸びるも、不器用な編み物の様に解れて外れ、瞬時に終わる筈の再生が成されない。
絡みかけたコードや装甲の断面には、暗緑の光が不吉な鬼火のように灯っていた。
「てめぇも苦労してるらしいな」
己が最強にして唯一無二の存在とするために、無限回ほど宇宙を滅ぼしてきた魔神。
そして無数の宇宙を虚無へと変えてきた悪夢の光を纏う戦鬼が、正確にはそれを支配下に置いた青年が会話を続けている。
宇宙レベルで大迷惑な存在同士、気が合うのだろうか。
「あん?」
終焉の魔神が残った左腕を掲げ、人差し指を伸ばした。機体毎振り返り、その方向を青年が視認する。
完全に背を向けているが、大して気にしていないようだった。
使い古された古典的な罠を張られていたら、奇襲が成功するかは別として引っ掛かるタイプの人種らしい。
闇が駆逐され、光で覆われた宇宙の奥で無数の蠢く光子の輝きが見えた。
それらは大小様々の、多少の相似はあれど異なった姿を持っていた。
「光の木偶人形にしか見えねぇ。なんだこいつら」
青年が戦鬼の操縦席で、魔神の云う『可能性の光』を指差し尋ねる。
妙にフランクな口調は、既に魔神を敵という事を忘れている為だろうか。
或いは何も考えていないのか。
「答えになってねえよ」
「はっ間抜けが」
青年の罵詈も、過去の敗北も気にした様子もなく魔神は達観していた。
終焉と原初を冠した魔神の、時間と空間を超越した視点故のものだろうか。
「ああそうかい。じゃあさっさと掛かってきな。こいつら諸共ブチのめしてやる」
「じゃあそこで待ってろ。こいつら蹴散らしてから相手してやらあ」
魔神に言われるまでも無く、青年はこちらに迫る無数の光が敵意を示していることを察していた。
可能性の光達の手には曖昧模糊とした形状ではあるがそれぞれの得物が見てとれた。
そして何より、常人なら数億回は発狂に陥るであろう殺意が青年にひりひりとした緊張感を与えていた。まぁ、それは何時もの事であるのだが。
そして自身が勝つという事も、微塵として疑ってはいない。
そう光が告げると、魔神は異形の翼を伴い戦鬼から見て遥か上空へと飛翔していった。
意味深な言葉に対し、青年は怪訝な表情を作っていた。
「なんだあの野郎。インガとかなんとか言ってる事ワケ分からねぇな、日本語喋れってんだ。あれがチュウニビョウってやつか」
呆れながらそう言ったが、チュウニビョウなる存在について彼も全く理解していなかった。
とはいえ彼にとってやることは変わらない。
無駄話が終わる頃には、機体の修復は少なくとも外見だけは完了していた。
戦闘続行は危険かつ無謀であると、戦闘における操縦代行以外は優秀なシステムが具体的且つ分かりやすく説明をするが、残念ながら青年にその献身が届くことも無い。
説明を理解していないのか逃げるのが厭なのか、恐らくは同じなのだろう。
負傷してるからと言って、気負いなど微塵もなく深紅の戦鬼は外套を翻し、紅の彗星と化して可能性の光の中へと真っ向から突き進んでいった。
群がる光も敵である事に変わりなく、相手の言葉を信ずるならば、この無数の光もまた全てがZEROである為だ。
真マジンガーZEROの作中でたまに生じる独特の雰囲気を再現できていたら幸いです(首質となったブロッケン伯爵、ミネルバXの並行世界の映像をポップコーンとコーラ片手に鑑賞する光子力研究所の面々など)