魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第35話 虚構 対 現実-魔法少女-②

「心配するな…と言うのは傲慢だが、もう少し我慢してくれ。京」

「う、うん。心配かけてごめんね、麻衣ちゃん」

「気にするな」

 

異界の中を二人の少女が歩いていく。

一人は薄紫色の髪をした、武者風の衣装に身を包んだ少女。

もう一人は栗色の髪を赤い帽子で覆った、童話風の衣装を纏った少女。

風見野の魔法少女自警団に所属する、朱音麻衣と佐木京であった。

靴に踏みしめられ、表面に亀裂の入った鏡面がきしきしと音を立てた。それだけで、常人なら狂を発しそうな不快な音階だった。

それらが一斉に鳴った。歩みの際に生じるものよりも、かなり大きいものが複数。

乾いた骨を、強引に数本まとめて圧し折ったかのような。

 

歩き続ける魔法少女達に複数の影が降り注ぐ。京がひっと漏らした悲鳴よりも早く、麻衣の右手が動いていた。

腰に下げた日本刀が抜刀され、旋回し再び鞘へと戻る。ほんの一瞬の出来事だった。

光の線が空中を迸り、その軌道上には複数の魔法少女の紛い物たちがいた。

京の悲鳴が鳴り止んだ時、それらの腹が一斉に裂け、その内側から血と臓物と悪臭がブチ撒けられた。

襲撃と破滅は同時期であったため、京の悲鳴は一声で済んだ。

 

「こいつらもしつこいな。もう五度目だ」

 

発生した六体の死体を軽く見渡し、麻衣は平然と述べた。

武者姿に違わず、彼女の戦意と技量は魔法少女の中でもかなりの水準を誇っていた。

血の噴出も計算したのか、地面から跳ねた飛沫は最小限だった。自らが先陣を切りつつも、京の衣装を穢さないようにとの配慮だろう。

 

「そろそろ着いてもいい頃なんだがな。友人よ、お前の地図はアバウト過ぎる」

 

死体を跨いで気にせず歩き、ポケットから地図を広げて更に歩を進める。

盗み見をする訳では無かったが、京からも地図が見えた。

デカい矢印が地図の端に描かれていた。その地図の内容は、小学生でももう少しマトモに描くだろうといった迷画伯ぶりが発揮されていた。

地図としての役割が果たせているのか、甚だ疑問であった。

 

「だがこの世界の特徴がよく捉えられてるな。流石は我が友ナガレ、何時か未開の地を共に旅したいものだ」

 

弾んだ口調で告げる麻衣の顔は、随分と楽しそうだった。

まるで朗らかな花道を行く遠足の最中、恋の話に夢中になる童女のようだった。

異界とは言え、更に異界化させた地図を麻衣も平然と読める人種らしい。

両者の仲が良い原因は、知能というか認識能力のレベルが近いからかもしれない。

 

「あの…麻衣ちゃん?」

「ん?」

「あれ…じゃなくて、あの人の事、好きなの?」

「ああ、好きだ」

 

即答で応えた。再び京が小さく悲鳴を挙げた。

『あれ』と物扱いしてるあたり、ナガレが京に与えている印象の程度が知れた。

 

「大丈夫だ。愛とか性愛とかの話とは少し違う」

 

麻衣はそこで言葉を続けるか悩んだ。結局、話すことにした。

京の不安を少しでも拭えればいいという配慮と、自分は正直に生きたいという願望の為に。

 

「殺すのが惜しいくらいに、あいつを殺したい」

 

京は沈黙した。麻衣の表情は変わらず、言葉には彼女の明確な意思が込められていた。

 

「嗚呼勿論、しっかりとした対峙と宿命、そして正々堂々とした戦いの果てに待つ死闘にてだ。

 きっと凄く楽しいに違いない。魔法少女になってよかったと、ここ最近常々思う」

 

ふつふつと湧き上がる闘志のままに麻衣は続ける。

魔女を倒しても満たされない、魔法少女で自分と張り合う者がいない。

マンネリ化してきた中で見つけた恰好の相手に、麻衣は高揚感を覚えていた。

 

「おっと済まない。私としたことが」

 

話過ぎたと、麻衣は自身の態度を恥じた。方向を変えるべく、京に問い掛けを放つことにした。

 

「多分佐倉杏子も同じ場所にいるが、なんだかんだで奴の事はリナも認めている」

 

安心させるべく告げたが、内心では杏子に対する負の感情が渦巻いていた。

風見野最強の魔法少女であるという畏怖と畏敬に入り混じり、自分の最高の好敵手と同居している事により何時でも存分に殺し合える立場が羨ましいとの嫉妬があった。

それは麻衣自身も認識しており、それが良きことで無い事も理解していた。

方向性は破滅的だが、恋する乙女の感情だった。

それを杏子が知ったら麻衣の事は超弩級の大狂人と思うに違いなく、そして喜んで厄介者を押し付けるに違いない。

それもある意味のハッピーエンドである。

 

「でもあの子、私は苦手だな」

「大丈夫だ。いざという時はあの生意気な顔面にあいつ自身の槍を突き刺し、内臓を抉り出してバラバラにしてやる」

 

京の傍に寄り、彼女の両肩に自身の手を優しく置き、麻衣は極めて暴力的な言葉を口にした。

それは例によって京を安心させるためでもあったが、明らかに加減を間違えていた。

麻衣の脳裏には大スクリーンの中で繰り広げられる真紅と白との獅子奮迅の熱戦が、京のそれにはあと数年は拭いきれそうにないトラウマが蘇った。

例に出した上に言うまでも無く原因は、両者がナガレに見せられたアニメ映画である。

 

魔法少女の超身体能力、特に動体視力により引きずり出される臓物の表面に這う神経網や垂れ下がる眼球、大穴の空いた頭蓋骨から溢れる脳漿やズタボロにされた足の腱までがくっきりと見えていた。

京はその様子に当然ながら恐怖を覚え、麻衣はその再現を色々な意味で実行したいようだった。

地球上で最強の存在である魔法少女の、例外の一つではあれどハードで破壊的な生態が垣間見えていた。

ちなみに麻衣はナガレとの同伴合わせて十五回鑑賞し、京は一回目の前半でギブアップし救急車を呼ばれる寸前まで憔悴していた。

 

「大丈夫だよ!いざとなったら私も戦えるよっ」

「偉いぞ。腐れゴキ…呉キリカにやったように、鋏で手足を切り刻んで眼を抉り出し、人形達に肉を喰い漁らせれば流石のあいつも動きを止める筈だ」

 

珍しく好戦的な姿勢を見せた京に、麻衣は感動を覚えていた。

守られる彼女ではなく、自らを守れる彼女へと成長を遂げたのだと麻衣は確信していた。

鼓舞するように語る言葉も熱い。熱が入り過ぎている。

 

「それにしても驚いたな。京がそこまで奴に憎悪を募らせるとは」

「あはは…」

 

照れたように京は笑ったが、過剰防衛に過ぎる言葉を述べたのは麻衣であり、その困惑に対しての苦笑いだった。

だがその表情の引き攣りが完全ではないのは、多少なりとも杏子を嫌っているからだろう。

縄張りに侵入した魔法少女を必要以上にブチのめし、ATM破壊やカツアゲ、スリに明け暮れていたとの情報は得ていた。

更に道化からは性犯罪の斡旋に加担しているだの、性別を問わず廃教会内に連れ込み筆舌に尽くしがたい破廉恥な行為に朝から晩まで耽り続けているといった悪辣な嘘を洗脳魔法で刷り込まれていた。

魔法自体は麻衣から道化に加えられた凄惨な暴力で剥がされたが、植え付けられた映像込みのビジョンまでは消えなかった。

 

リナは強引に忘れるように努め、麻衣は笑止と洗脳の後遺症を吹き飛ばしたがメンタル強度の違い故に京には無理だったようだ。

その結果、京は佐倉杏子をまともな存在として見れていなかった。ある意味ナガレに次いでの道化の被害者と言える。

前者は曲りなりにも好意を寄せられているのに対し、京は完全にとばっちりであると思えば彼女の方が悲惨であるかもしれない。

 

「もしその時が来たら、本当の本当に、最後の最後に危ない時は私が力を貸そう。

 ちなみに奴の何処がそんなに気に入らないんだ?よく考えればそう接点はないだろう?」

 

冷静な問い掛けをする麻衣であったが、冷静になるのが遅すぎた感は拭えない。

 

「うーん…私とキャラが被ってるところが嫌かな…」

「確かに、京も色々と赤いな」

 

湧いた疑問は内に留めて麻衣は返した。

タイミングを逸したとしても、このあたりはナガレよりも大人である。

服装は赤いが系統が違い過ぎるし、杏子はそもそも素で髪などが炎の様に赤い。

性格も真逆どころか似てるところを探す方が難しい。

 

スレた性格は的を得た言葉を容赦なく吐き、己の本能の赴くままに生きる杏子の姿は京にとって自身のアンチテーゼに見え、それが嫉妬を生んでいるのかもしれなかった。

または、京自身としてはこれでも精一杯自分を出して生きており、それがキャラが被るとしているのかもしれないが。

その後も年相応の会話から、あの映画の感想等に花が咲いた。

内容が内容だけにその花は毒々しい食虫花のようであったが、時間は着々と過ぎ、目測ではあるが矢印の地点に近付いていた。

 

「さて、決戦の火蓋はすぐそこか」

 

どのような会話が繰り広げられたか、麻衣は望みを叶える気のようだった。

血色の眼には混じりっ気なしの殺意が燃え、全身に魔力の波濤が這い始めた。

京も困惑しつつ麻衣に従い、複数体の人形を召喚した。人間の幼児程度の体躯のマリオネット人形の手には体躯の倍近いサイズの大鋏や棘付きの棍棒が携えられていた。

 

その時、鏡面を歩く歩く両者の上に再び影が降りた。

敵襲かと思ったが、影の大きさが人間のそれではなかった。

遥かに巨大であり、麻衣と京が歩く周囲をも包んでいた。

 

影の主の方向へと二人の魔法少女は視線を送った。

視線の先は上空であった。

視認の瞬間、京は膝を崩し盛大に胃の中身をぶち撒けた。

一瞬で穴が開いたらしく、黄色い胃液に大量の朱が混じる。

傍らの麻衣が京の丸まった背を優しくさすり、不得手な回復魔法を行使し苦痛を和らげるべく努める。

京の呼吸がやや楽になった時、再び麻衣は空を見上げた。

善なる行為をしつつ、その表情はもまた慈愛に満ちた母のそれとなっていた。

 

「最高だな、友人よ。お前を喪った後の、無意味な虚無が待ち遠しい」

 

その表情のまま、煮え滾る殺戮・破壊衝動と、掛け替えのない友への親しみのままに朱音麻衣は天へと告げた。

 











風見野組、久々の登場です
マギレコでもこの人らに会いたいのですが、その願いが叶うのは何時の日か…
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