魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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前回と前々回の間が開きすぎましたが、続きです。




第2話 転がる道化④

怖い。

 

怖い怖い怖い。

 

怖い怖い怖い怖い怖い。

 

怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い。

 

 

優木の頭脳は、その言葉で埋め尽くされていた。

後ろで息づくものの吐息が、鼓動が聴こえる度に頭に浮かぶ文字の色が濃さを増し、数と大きさも増えていく。

そんな陳腐で馬鹿げた表現が思い描かれるほど、優木の混乱は深まっていた。

 

「(なんで、なんで私がこんな目に合わなきゃいけねぇんだよ!クソが!)」

 

だが、幸い且つ皮肉なことに、恐怖の最中に生じた悪意が、

優木を狂気じみた正気に戻していった。

先の演説の際と同様に、無尽蔵に湧き上がる悪意が恐怖を押しやっていく。

明瞭になっていく意識の中で、優木沙々は思考する。

 

自らの家族を破滅に追いやって尚、のうのうと生きている害虫を駆除し、

自分が支配する空間を広げるという大義名分を成すために、自分はあの廃教会に赴いた。

 

事前の調査の際、街角で一目見た途端に義憤にも似た怒りを覚えた。

自堕落な社会不適合者、衣食住にも事欠く哀れなくたばり損ない。

そのくせ、幼い外見の中には野性味のある美しさが見てとれた。

 

それが特に、『生意気だ』という意識を優木に抱かせた。

また年下の同類への憐れみは全くなく、家族殺しへの好奇心と

刹那的な生き方への侮蔑が彼女の興味を引いた。

そして嗜虐心以外にも、佐倉杏子を狙った理由はあった。

 

自分は、また自分を気に食わないと思っている連中は大勢いるが、

そいつらは卑怯にも徒党を組んでいた。

何度か生じた激突の際、多数の魔女を従えてなお毎回のように、

優木は数の暴力を思い知らされていた。

ならばこそ、今の自分には成長が必要だと思った。

その栄えある生け贄として、孤独に生きる魔法少女である

佐倉杏子が選ばれたのであった。

 

優木にとって不運だったのは、杏子に目を付けたはいいが、

初見から見下していた上に、最近の調査を怠っていたことだった。

その結果の一つが今現在、彼女の背後にいるのである。

 

 

優木の予想では、もう今頃は帰路に着き、

甘い菓子を魔女達と分け合っているはずだった。

風見野で一番のホテルにでも泊まり、無数の星々の下、

遥か彼方で立ち昇る火災煙を眺めていたかった。

そして友人を兼ねた魔女に数時間前まで魔法少女だったモノの残骸を餌食として与え、

その憐れな生涯と、これからの自分の栄光への旅路に思いを馳せているはずだった。

 

それが、何で。

 

魔法少女ですらない、たかが人間如きにここまで接近されなければならないのか。

何故、こんな恐怖を味わわされているのか。

少しばかりの力を得ただけの、佐倉杏子の下僕なぞに。

魔法少女のマガイモノごときに。

そんな理不尽な事はあってはならない。

 

 

気に入らない奴らの頭目が、戦略的撤退をする自分の背に向けて、

声高らかに言った言葉が、優木の脳内に反響した。

 

 

『魔法少女は力ある者』

 

 

「えぇ、全くその通りですね死ね」

 

悪罵と共に、忌々しい思い出が彼女の心に去来する。

コミュ障の挙動不審地味子、そのお友達の露出狂一歩手前のデコハゲ。

頭お花畑の赤ずきんもどきに、武芸者気どりの脳筋バカ。

そしてそいつらを取り仕切る大バカ者からの有難いお言葉に、優木は心中で同意した。

 

 

『故に正しくあるべきであり』

 

 

「そうですね死ね、バケツ頭のクソ女」

 

 

その言葉の次は忘れてしまった。

大事なのは、自分で覚えている部分の意味だけだ。

 

そう、正しくあるべきなのだ。

 

世の中に蔓延る無数の不快な星屑どもは、

自分という月と太陽の下でのみ、その輝きを許される。

それはあくまで例えであるとは分かっているが、

物語とはそうあるべきだと優木は確信していた。

 

自分が得た魔法は、とてもとても素晴らしきもの。

これを使い、人生の旅路に転がる糞同然の有象無象共を

蹴散らしながら、切り開いていく栄光の未来。

 

やがて訪れる、完璧なる大団円。

この命が尽きるまで、享楽の限りを尽くし最後の最期まで、

与えられた生を愉しみ尽くしてやると。

 

それを邪魔するのは下等な紅い蛆虫と、そいつに与えられた力で粋がる紛い物。

自分という物語の、頁の中に紛れ込んだ異物。

あっては成らない『偽りの物語』。

 

『偽書』とでも云うべき、汚濁の記録は自らの力で完膚なきまでに焼き尽くしてやる。

姿勢の支えとしている杖に、魔の力が満ち満ちた。

 

そして驚くべきことに、ここまでの思考に要した時間は、なんとコンマ五秒以下。

凄まじい凝縮をされた悪意だった。

振り向きざまに、彼女は自分なりの正義の悪意を破壊の力として解き放った。

 

 

「死ね!メスガキ野郎!!」

 

 

閃光の照射と共に、優木が叫ぶ。

動作に全くの停滞は無かったが、ほんの一瞬優木は思った。

あ、洗脳でも良かったじゃんもったいねェ、と。

 

至近距離で白熱光が炸裂し、熱風が優木の肌を叩いた。

更に爆音が鼓膜を劈き、閃光が優木の眼を眩ませる。

 

足場の魔女が苦痛の叫びを挙げたが、知ったことではなかった。

優木自身も輻射熱を受け、肩や腕、それに顔など、

肌が露出した部分に幾つかの火膨れを負った。

最優先で顔に治癒魔法を発動、醜い爛れが瞬時に消失し、

ついでに肌に宿った熱も拭い去る。

余波でこれなら、中心部にいたあの女顔は跡形もなくなっているだろう。

 

それを証明するかのように、優木の立つ場所からちょうど、一メートルほど離れた

着弾点と思しき場所からは、うっすらと煙が立ち昇っていた。

 

黒い炎のような、人型をした煙が。

それは大きく揺らめいて、そして。

 

「ぐがぁ!?」

 

それが煙などでは無いと気付いたころには、もう遅かった。

優木の薄い胸元に、薄闇を宿したかのような黒い右拳が突き立っていた。

 

「てめぇ今、凄ぇツラしてやがったぞ。魔法少女がどういう生き物なのかは

 まだよく知らねぇけどよ、そうやってエネルギーの充填でもしてんのか?」

 

肺の空気が一気に抜け、絶息の苦痛が優木を襲う。

だがそれを、彼女は全くとして認識が出来なかった。

目の前の存在が、苦痛による気絶を赦してはくれなかった。

 

優木の青い瞳に映る黒い瞳、その内部で更なる黒が円環を描いている。

異界を思わせるような渦巻きが、優木の意識を捉えて離さない。

離れられない。

 

否が応にも、優木は眼前の光景をまざまざと見せられる羽目となった。

 

己の胸に突き立つ右拳は、半分程度が自分の肉に埋没していた。

へこみ具合からすると、肋骨や肺にクレーターが生じていることが分かった。

それはいい。

良くはないが、今はどうでもいい。

 

散々に女顔だの、メスガキだのと馬鹿にした少年の顔が文字通りに自分の顔の前にある。

不思議と火膨れの数は少なかったが、少年の顔には無数の傷が生じていた。

陶器に生じた罅のような裂け目が、鼻筋と頬、額に眼尻にと拡がっている。

それらは全て、断面が黒く変色していた。

瘡蓋よりも、更に黒くエグい色に。

 

「やるじゃねぇか。口だけってワケじゃなさそうで安心したぜ」

 

声と共に、少年の右腕が引かれた。

ぐぽり、という生々しい音を立て、優木の胸に生じた

肉の陥没より少年の拳が引き抜かれる。

 

それに伴い、今度は彼の左手が動いた。

まるで地の底からの風が吹き上がるように、それは彼の頭上に高々と掲げられた。

頂点には異界の光源を受けて、漂泊の光を放つ得物があった。

 

掲げられた斧の表面からは腐敗した肉が燃焼していくような、

鼻を劈く甘ったるい異臭が白煙と共に立ち昇っていた。

不意に斧の一部が剥離し、彼の足元で、優木と彼の狭間で弾けた。

 

反射的に眼で負った際に、少年の全身の様子が見えた。

膝、胸、腹と着衣の至る所に、抉り取られたかのような破損があった。

そこから覗く素肌には、顔と同様に黒く染まった傷跡が見えた。

嗜虐的な興味からか、無意識に鼻孔の感覚が強化。

彼女の嗅覚は、濃厚な鉄錆の香りを捉えていた。

 

「今まで、散々やってくれたなぁ…」

 

呪詛を聴いた優木の脳裏に、不気味な予想が浮かんだ。

 

恐らくこいつは、帯魔女の拘束から逃れる際、

先程の魔女の剛腕により肉体の広範囲に渡って深い傷を負ったのだろう。

 

そして先に放った破壊光を、斧の腹で受け止めた。

 

自分に絡みついていた魔女の肉片を巻き付けた斧で。

 

両者の間に落ちた欠片には、黒く焦げつつも、絹のような体表の面影があった。

 

そして更にこいつは、この可愛げのあるツラをした女みたいな声の少年は。

 

こちらが放った魔力の熱で全身の傷を焼き、強引に出血箇所を塞いでいた。

 

意図的か偶然かは定かではないが、あまりにも馬鹿げているとしか思えなかった。

第一、光速で飛来する破壊魔法を、幅が広いとはいえ

斧なんかで受け止められるというのが怖い。

その斧も、どうみても既製品のそれではなく、黒曜石に似た輝きを放っていて、

原始の野蛮人が振るっていた化石じみた感じがしてて怖い。

 

複数の断片を、無理矢理つなぎ合わせたような

溶接跡や接合痕が各所に見受けられ、手造り感が溢れていて怖い。

それと、魔女の皮膚で防いだとはいえ、破損していないのは何で、怖い。

そもそも斧って何、さっきまで無かったでしょ。

そんなのどっから出したの怖い。

 

顔に生じた傷を埋める黒い跡が、妙に似合ってて少し気に入ったけどやっぱり怖い。

そして揺るぎもしない闘志、というか殺意が一番怖い。

 

「今度はこっちの番だ」

 

恐怖に慄く道化を無視し、黒血で顔を染めた少年は呟いた。

今度も、こっちの番も何も今思いっきり殴ったじゃねぇかざけんなよ雌顔、

という突っ込みの思考が生じた。

同時に、優木の肉体は彼女自身も驚くほどの速さで動いた。

一種の奇跡、火事場の馬鹿力というやつだろう。

 

一降りにされた軌道上に杖を横に倒し、渾身の力で受け止める。

鈍い金属音と共に一対の得物が噛み合い、双方の動きは停止した。

時間にして、ほんの一秒ほど。

 

「あっ」

 

間抜けな声と同時に、優木の杖は下方に押しやられていた。

無論、停滞していた斧もまた下方に降りた。

かっ、と妙に小気味のいい小さな破砕音が生じた。

 

朱の液体を迸らせつつ、漂泊の刃が優木の右肩に突き刺さっていた。

皮膚と肉を裂き、細い肩甲骨を半ばまで断ち割っていた。

 

「ぎっ…ぎぃいいいやあああああああっ!!!!」

「え?」

 

超至近距離、互いの吐息が顔にかかるくらいの距離で、

激烈な音を立てて叫ぶ道化に、傷まみれの少年が怪訝な声を挙げた。

 

「てめぇっつうかお前さんよ。

 あいつと腕の太さは変わらねぇってのに、随分と力が弱すぎやしねえか?」

 

言いつつ肩から斧を引き抜き、そのまま水平に左へと走らせる。

特に何の反応もなく、乳房の上あたりに薄っすらとした傷が奔った。

 

「あぁぁぁああぁぁああっ!」

「お前、魔法少女なんだろ?今のくらい避けろよ」

 

攻撃した方が困惑するという、謎の状況が発生していた。

これは優木が戦意喪失に至っているためだったが、ナガレはこれを罠と思っていた。

その為、彼の攻撃は更に続くこととなった。

 

斧を軽く一振りして血肉を飛ばし、背中とジャケットの間に仕舞うと、

軽く構えた後に正拳を数発繰り出した。

罠を警戒しつつ、今行えるだけの全力で、最大の速度で。

何の対応もなく、全ての拳が着弾。

優木の肉との接触の際には、のれんを手で軽く押し広げるかのような

虚無的な感触が彼の両手を包み込んでいた。

その感触が正しいことを表すように、優木の顔面を含む上半身は、

一瞬ではあったが『ぐしゃぐしゃ』になっていた。

 

それでも彼は攻撃の手を緩めなかった。

一応女性という事を考慮してか単純に触れたくないのか、

『そこ』以外の全ての箇所に鉄拳の嵐が撃ち込まれた。

時折蹴りも織り交ぜながら、少年は道化に残酷な乱舞を叩き込んだ。

 

「お前…本当にあいつの同類か?」

 

全てが終わったのは最初の数発の着弾から、時間にしてほんの五秒程度の後。

しかしながら優木にとっては、数時間にも渡る拷問を受けた気分になっていた。

 

何もかもがクリーンヒットし、全身の肉が骨から

剥がされたんじゃないかとさえ、優木は思っていた。

そのぐらい、全身が隈なく痛かった。

吹き飛びかけた優木の胸倉を少年の右手が握り、吊り上げていた。

魔女から数センチほど浮いた足の先端が、ぷらぷらと宙に揺れていた。

 

「そりゃピンキリなんだろうけどよぉ、さっきの縫い包みどもの方がよっぽど強かったぜ?」

 

優木は思った。

腕力なら、こいつよりも強い同類は無数にいるだろう。

だが、こんなに痛いのは初めてだった。

腫れた皮膚には、体表で風を感じる度にミリ間隔で針を刺されるような感触が宿り、

肉は鈍い痛みと共に、支柱である骨から剥離したかのような空虚感を訴えている。

眼は虚ろになり、口からは血泡が溢れている。

 

だがその状態でも、優木は復讐の機会を伺っていた。

 

対する少年は退屈そうな、ついでにほんの僅かに

気の毒そうな感情を宿した眼差しで、その様子を眺めていた。

観察してきた結果から、こいつがロクでもないことを考えているときには

眼に見えて顔が変化すると、彼は学んでしまったのである。

 

「んじゃな。下で待ってる」

 

言いざま手首の軽いスナップだけで優木を放り投げ、自身は背後へと跳んだ。

少年の立っていた位置を、巨大質量が掠めた。

今になってやっと治癒が完了した卵型魔女の、巨大な羽による一撃だった。

 

「とりあえず、そのしぶとさは認めてやるよ」

 

不思議なことに、その声には純粋なまでの感嘆さがあった。

そんな事を気にする余裕もなく、落下の恐怖で発狂寸前にあった優木を、

配下の魔女が優しく受け止めていた。

対して少年は異界の重力に引かれ、地面に向かって落下していった。

高さは目測で約四十メートル。

少年が重傷であろうがなかろうが、人間であれば死ぬ高さであった。

 

落ちていく姿を見た途端に、優木の身体は虚脱感に包まれた。

魔女の掌の上に尻をつけ、そのまま背中を背後へ倒し、異界の空を仰ぎ見た。

 

勝った。

自滅に追いやったとはいえ、自分は遂に邪悪を打ち倒したのだと。

心地よい達成感が、優木の心で湧き躍った。

ああそうだ。

多分、殆ど死んでるだろうが、帰り際に先程の落下物は拾っておこう。

死んでなかったら魔女に命じて回復させ、

色々と遊んでしまおうと、優木は妄想を抱いた。

現実逃避の妄想だった。

 

 

「ねぇ、優木とやら」

 

 

そして、『現実』が顕れた。

 

秒と経たず、淫らな感情が砕け散った。

どこからか生じたのは、やや舌足らずな発声の女の声。

誰のものかは言うまでもない。

 

「あたし、さっきあんたに言ったよねぇ…」

 

言うな、いや、言わないで。

お願いします。

聴きたくない。

 

 

 

「 「『引き摺り下ろして、細切れに』してやる」…ってさぁ」

 

 

 

ひぃっ!と叫びかけた優木の口を何かが塞いだ。

何か確認するより早く、それは全身に絡みついた。

 

優木だけではなく、彼女の足場と、周囲の二体の魔女にまで。

口内にまで侵入してきたために、優木には形状がはっきりと分かった。

これは、これらは、一つ一つが菱形をした真紅の縛鎖だと。

 

必死に抵抗する足場の魔女の手が、赤い鎖に爪を立て、強引に引き剥がしに掛かる。

だが少し引いたところで、巨腕が粉々に砕け散った。

割れていく破片の間を縫いながら、縛鎖を従えた真紅の十字が周囲を超高速で飛び回る。

 

数十、数百と周囲を周り、拘束力が爆発に強化されていく。

それまで三体毎にされていた拘束も、巨人の手が纏めて握ったかのように

一か所に纏められていた。

優木がいる場所を基点とし、左右から挟み込む形にて。

 

「あ…あの」

 

幸か不幸か、先程の魔女が鎖を引いた場所は優木の口の近くだった。

魔女は鎖を、砕けていく腕の道連れとしたために、優木の口元の拘束が解けていた。

これを、優木は最大の好機とした。

知略を振り絞り、生き残る手段を探し出す。

 

「て、提案、提案がある、いや、あります!聞いてくださいお願いします!」

 

悲痛な、この世の全てに絶望し、全てを奪われた少女のような憐れな声で

優木は叫んだ。

 

「同盟!同盟結びましょ!役立たずな魔女を潰して、グリーフシードも提供します!

 邪魔な魔法少女どもは洗脳するなり調教して、好事家に売り飛ばしたり出来ますし、

 売却ルートの開拓だって、何だってやります!まだやった事ないけど、

 前々から興味はあったから、すぐにやり方を覚えます!

 勿論、貴方の分の分け前はちゃんとお渡しします!

 あぁあと、魔女の餌の管理とかなら大得意なんで、誘拐から餌付けまで、

 何だってやります!やらせてください!」

 

視界の遥か先に、真紅の縛鎖の流れが見えた。

空中から下界に向かい、終点には何よりも紅い深紅がいた。

 

「報酬は、生きてるだけで、あの、生かして貰うだけでいいですから!

 あと、貴女が、いや貴女様が今度あの野郎で遊ぶ時に混ぜていただければ、

 私も洗脳でサポートするので更に面白いコトが」

 

言いながら、よし、これで大丈夫だろうと優木は思った。

これだけの好条件とこの演技なら、あの業突張りの愚か者も、

流石に自分の価値を見出して納得するだろうと。

 

でなければ、自分はあの、黒髪の女顔以下ということになる。

 

そんな訳はない。

そんなことが、あっていい筈がない。

 

 

「ワケの……ねぇ……」

 

 

鎖を伝い、小さな声が優木に届いた。

優木の顔は、まるで運命の出逢いを果たしたかのような、輝きに包まれていた。

 

「あ、やっぱりOKでしたか?じゃ、早速これを解いて一緒にあの野郎を」

 

媚びた表情を浮かべた途端、拘束下にある魔女たちが一斉に嘶きを挙げた。

魔女の言語に詳しいものなら、それらが主への悪罵と気付いただろう。

 

 

 

 

ワケの分かんねぇコト言ってんじゃねぇえええええええええ!!!!

 

 

 

 

怒りという言葉が生易しく思えるような獰悪な咆哮と共に、

これまでに優木が見たことがないほどの、莫大な魔力が紅い光と共に現出。

三体合わせて十数トンはあろうかという巨大質量の塊が、

前後左右に百メートル単位で振られに振られ、

巨人の巨腕に弄ばれる餌食のように空宙で暴れ狂った。

 

暴虐を欲しいままにする、紅い魔力を宿した鎖を握る佐倉杏子の細い手が、

下方向へと振り切られた。

その挙動に類似性を覚えたのか、傍若無人な暴風の中で優木は、

先程の少年が優木に振り下ろした斧の輝きを思い出していた。

だが今のこれは、危険度と破壊力において、先とは比べ物にも成りはしない。

 

長い長い、四つの悲鳴を垂れ流しながら、

三つの災厄と一つの邪悪が地に向けて堕ちていく。

 

それは地表への、小惑星の追突の光景を連想させた。

その例えを引き継ぎ、優木を星と捉えるならば。

 

落下の最中に優木のいる場所から聴こえた悲鳴は、

夜空に流れる千億の星々が一斉に挙げた絶叫とでも云うべき代物であった。

 

そして悲鳴も苦痛も憎悪も、これまでの愚行さえも抱きながら、

巨大質量群は硬い地面へと墜落した。

 

 

 

 

 

 




ここまでです。
別編の沙々にゃんは、本当に素敵です。
キリカとの二戦目において
「魔法少女の使命を忘れたんですかぁ?」→美少女
「他はどうでもいいんですよぉ!」→下衆顔
「ドクズがっ!(と言われた後)」→ダラ汗
の顔の変化は素晴らしすぎます。


ついでに当然と言えばそうなんですが、決戦の最中にワケの分かんねぇ事を、
激昂状態にある人に言うのは危険です。
そんな事言ったために負けた人らもいました(新ゲ最終回並み感)。
まぁ、あれは相手が悪すぎたのとそれまで舐めプしてたせいもあるでしょうが。

ではまた次回。

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