魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第38話 そまりゆく、くれないのこころ②

叫びが終わり、音が絶えた。

止めたのではなく、喉が裂けて遂には機能しなくなっていた。

それでも叫んだ。溢れ出る感情をぶちまける為に。

それでも感情は減らず、寧ろ吐き出せば吐き出すだけ増えていった。

懊悩に苦悩、そして後悔が渦を巻く。

 

頭が割れんばかりに痛むが、それで思考が絶えることは無い。

痛みによって寧ろ感覚は鋭敏になり、心の苦痛が実際の痛みとなって彼女の感覚に押し寄せる。

 

やがて痛みは寒気と化した。開いていた口が、生理的な反応によりがちがちと歯を鳴らして痙攣する。

苦痛と記憶が渦巻く中、杏子は自身の身体が仰向けになっていることに気付いた。

見上げた先は曇天の空。それでも今の彼女の心に比べれば、光が澄み渡る快晴に違いない。

 

倒れていた身が、突如として起き上げられた。

冷え切った身体を抱くのは、杏子よりも少し年上に見える少女だった。

眩いばかりの、黄金を思わせる毛髪がくすんだ紅の眼に眩しく映っていた。

死人とばかりに冷えた身体を抱く少女の顔の左右では、カールを巻いた髪が揺れていた。

 

その髪型と、豊かな胸を通して与えられる温かさ、そして優しさが杏子の心に熱を与えた。

枯れ切った喉からは裂傷に等しい痛みが生じている。それでも何かを述べようと、杏子は口を開いた。

この温もりを、放したくはなかった。

 

「離せよ」

 

しかし、彼女の口から出たのは拒絶の言葉。

やめろ、黙っていろと。心の中で杏子は叫んだ。

それでも実体としての杏子は拒絶の言葉を続けた。

相手の少女は共にいようと叫んだ。

伸ばされた手を、杏子は腕を振り払った。

互いに主張を交え、互いに一歩も譲らない。

解決策は一つしかなかった。

 

双方が魂に刻んだ色を光として放出し、その身を変える。

紅と黄金、紅の戦士と黄金の姫騎士姿の魔法少女が対峙し、激突する。

そして勝敗は決した。当てる気のない砲撃では、真紅の魔法少女を止める事は出来なかった。

掻い潜る必要すら無く、杏子は姫騎士へと肉薄し、先端に十字架を頂いた真紅の槍を姫騎士の喉元へと突き付ける。

そこで終わっていた筈だった。

 

杏子の意思に反して、止めた筈の槍が動いた。

突き出された槍は先端を跳ね上げ黄金の少女の左目を貫き、そして巨大な槍穂が頭部を貫通した。

槍の先端には弾けた頭蓋の破片が引っ掛かり、内側から吐き気を催す黄色の脳漿がこぼれていた。

 

やめろ!と心が叫ぶが止まらなかった。

杏子は槍に力を込め、串刺しにしたまま獲物を宙に浮かせるや、槍を両手で握ると槍の切っ先を地面に向けて突き刺した。

廃墟が連なり、家屋の墓場のようなった街外れの一角で、姫騎士姿の魔法少女が地に縫い止められていた。

 

そして、彼女は気付いた。

残虐を振った杏子の口は半月を描いている事に。

痙攣する魔法少女に近付き、身を屈めて苦痛に苛む様子を眺める。

無造作に槍を引き抜き、傍らに放ると杏子は顔半分を血に染めた魔法少女の腹に尻を置いて跨った。

 

そして右手を拳に変え、腕を振り上げて降ろす。

魔法少女の剛力で、少女の繊細な顔が一撃で陥没した。

左手は細い首を握っていた。締めるのではなく、殴打によってずれ動くことを防ぐ為の行為だった。

再び拳が姫騎士を襲った。

抉れる肉、飛び散る血と骨が真紅の魔法少女を深い紅色に染めていく。

 

一通り破壊すると、暴虐の対象は僅かな起伏を繰り返す豊かな乳房に向いた。

胸の上に垂れた、黄色のリボンもまた既に赤黒く染まっていた。

それと衣装ごと、杏子の両手が乳房を握った。

 

卵の様に美しく丸い形が一瞬で変形し、握り潰した新聞のようにぐしゃぐしゃとなった。

肉の断面からは分厚く黄色い、敷き詰められた魚卵の様な脂肪層が覗いた。

そのまま指先に力を込めて、肉の内を進む。

固いものに接触し、杏子の指がそれを捉えて一気に引いた。

 

肋骨を掴んだ指により、姫騎士の胸が内側から強引に一気に開かれた。

筆舌に尽くしがたい苦痛に、姫騎士の全身が痙攣する。

開かれた奥には血で濡れた肺と鼓動を続ける心臓が置かれていた。

 

ぶちぶちと音を立てながら、胸の肉というよりも胸部自体を身体から引き剥がし、杏子は心臓に手を置くや力と体重を掛けて圧し潰した。

夥しい量の出血が生じ、少女の開いた胸を孔として滾々と血がそこに注がれていく。

血が溜まりゆく肉の孔に向けて、杏子は蹴りを放った。

何度も何度も、狂ったように。

孔の内側の臓器は完膚なきまでに破壊され、バラバラになった肺が血を吸い深紅に染まっていた。

 

それでも、黄金の魔法少女は生きていた。

杏子が再び屈み、今度は両手で首を絞める。

最早髪は黄金ではなく、黄と赤黒の汚らしい色になっていた。

杏子が彼女の首に向けて伸ばした両手と入れ違いになるように、姫騎士も腕を震わせながら両手を伸ばした。

だがその手の向かう先は、杏子の首では無かった。

姫騎士の両手が触れたのは、杏子の両頬だった。

 

「ごめんなさい」

 

潰れた顔と裂けた唇を動かして、黄金の魔法少女が告げた。

まだ血の付着していない手で、杏子の頬を優しく撫でる。

 

その両手を杏子は握った。

瞬間、繊手が全て圧し折れ無意味な肉塊と化した。

 

獣の咆哮が響いた。

口を耳まで裂けんばかりに開いた、佐倉杏子の声だった。

開いた口は弧を描いて地へと向かい、潰れた顔で微笑む姫騎士の顔に齧りついた。

 

「ごめんなさい」

 

それでも謝罪の言葉は続いた。

対する杏子は、紅の肉食獣と化していた。

ひしゃげた骨を噛み砕き、折れた鼻を齧り取り、一本残らず砕かれた歯と曳き潰された舌を飲み込んだ時、姫騎士は漸く動きを止めた。

下半身以外のほぼ全ての部分の原型を喪失した魔法少女の肉体から、上半身を赤黒に染め切った佐倉杏子が立ち上がった。

 

心の内では再び絶叫が吹き荒れていた。

かつて命を救われ、交友関係を結んだ先輩魔法少女の無残な姿を、杏子は破壊の様子の隅々までを見せられていた。

 

ははははは、と実体の杏子の声が聞こえた。

それは哄笑だった。

 

「あんたとはもう、覚悟が違うんだ」

 

口元に半月の笑みを浮かべた悪鬼の貌で、佐倉杏子は姫騎士の亡骸へと告げた。

かつて実際に姫騎士に向けて放った離別の言葉に、内心の杏子の憎悪が炸裂した。

視界は蕩けて色彩を失い、万物の輪郭が融けていく。

 

 


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