魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花②

 午前零時十五分。世界を闇の帳が覆い、多くの者が寝静まる時間帯。

 されどその時間は、世界に満ちる悪意から人知れずこの世を護る者達、また或いは己の生存を掛けて戦う者達の時間であった。

 その中の決して少なくない者達が、戦いに出て生きて帰れる保証はない。敵は怪物だけでなく、他ならぬ自分自身である事もそれに拍車を掛けている。

 故に彼女らは身に宿した力で鮮烈な光を輝かせ、魔の剣や槍に銃器に弓を携え、無惨且つ美しく戦い続ける。

 やがて滅び去り、或いは成れ果てるその日まで。

 魔法少女と呼ばれるその存在を、世の多くの人々は架空の存在として疑わず、しかしそれは確たる現実としてこの世に存在しているのであった。

 

 そしてここにも、魔を帯びた存在がいた。

 但しそれは、この世の理が生み出したものではなかった。

 

 しかし彼は血を流して肉を裂かれ、骨を砕かれながらも戦いを終えて、血みどろの身体を住処へと帰還させていた。

 異界の存在ではあれど、その行為と生き方は魔法少女とさして変わり無く思えた。

 

 住処に入る前に、彼は額から流れる血を拭った。降り注ぐ青白い月光が少年の、ナガレの姿を照らし出す。

 拭ってもまだ途切れぬ血を更に拭いながら、彼は今日の狩りを思い返していた。

 

「手強かったな」

 

 そう口にした彼の姿は衣服の至る所が破れ、戦闘の苛烈さを伺わせた。

 斬撃や刺突、殴打による単純な破壊による破損もあれば。熱で焼き切れた個所や、酸で溶かされた部分まであった。

 今の彼が纏うのは緑色のジャージであったが、戦闘の苛烈さゆえに出動の度に使い潰している始末である。

 このあたりの不経済さに、彼は魔法少女の変身能力を少しだけ羨ましいと思っていた。

 が、変身の瞬間に全裸になる手順を踏むのは自分には無理だなとも思う。

 

 変身の瞬間に閃光が発せられ、普通はそれが目暗ましとなるが彼の眼はそれを貫通し、光の中で衣に覆われる魔法少女達の裸体を毎回目撃させられていた。

 下半身は可能な限り見ないようにしているが、それでも見える時は見える。

 世の男が羨みかねない事であるが、彼はそれに嫌気しか抱いていない。

 

 そう思ったあたりで、漸く流血が止まった。布越しに頭を触る感触からすると、頭蓋骨にもヒビが生じているらしい。

 二日もあれば治ると自己診断。

 身体の各部位からも可能な限り汗と血を拭い靴も土を払ってから、もう随分と見慣れた場所と化した、この建物へと入っていく。

 左手首に引っ掛けたビニル袋が月光を受け、中身の卵型の物体を晒していた。

 袋は丸く膨らみ、一個当たりの大きさから察するにその個数は十を優に超えていることが伺えた。

 

 かつて荒廃と繁栄を交互に享受し、今は役目をほぼ終えて、静かに滅びへと向かう神の家へと彼は足を踏み入れた。

 侵入と同時に、彼はある匂いを捉えた。それは彼の、いや、男というか雄の本能に触れる匂いだった。

 

「……」

 

 自分の鼻の良さを呪いながら、彼は鼻孔から脳に入り、極小の針の先でちくちくと突かれるようなその感覚を無視して歩いた。

 歩を進める度に、それは強くなった。辿り着いたとき、針は釘となっていた。

 釘は彼の本能を刺激しつつも刺さらず、理性というか性的嗜好の障壁に阻まれていた。一種のATフィールドだろう。

 

 彼以外の男なら、恐らくは数歩手前で懊悩に狂っている。

 臭気というか香りの源泉は、薄汚れたソファーの背もたれに置かれていた。

 際どさを覚えるほどに短く切り揃えられた丈の、薄い青色のホットパンツだった。それはそこから生じているのだった。

 眼を逸らすように彼は視線を落とす。元々こちらを目指していたのである。

 

 ここまで一切の音を出さずに歩き、袋のガサつく音すらも立てずに中から薄闇色の卵型の物体を右手で取り出し、指先で摘まみ手を伸ばした。

 ある距離に達した時、卵は闇を吸い取った。小さな雲のように溢れた闇が吸い込まれ、その奥から鮮烈な赤色が輝いた。

 それはソファーの手摺に置かれた、真紅の宝石だった。その形は、金属で縁取られた卵型をしていた。

 彼が闇を吸い取らせた物体と、何処か似た造形の代物だった。

 

 そしてその宝石の傍らに、更なる赤が広がっていた。赤とは、ソファーに寝転ぶ少女の長い頭髪だった。

 髪の主は佐倉杏子であり、彼女は今眼を閉じて、手足を投げ出すような姿勢で眠っていた。

 体勢的に、まるで巨大な蜘蛛を思わせる姿となっていた。苦痛に呻いた果てに、漸く寝入ったが故の姿だった。

 

 だがそれ以上に目立つのは、彼女の今の服装である。上は大きめのタンクトップのような黒シャツ一枚、下は素っ気ない白のショーツ一枚。

 シャツから伺える隆起の形からして、その下にはブラは通されていない。よく見れば左の胸に生じた突起が見えた事だろう。

 右のほうに至ってはブカ付いた部分から、先端を上向きに尖らせた桜色を晒してた。

 先の通り彼は眼が良すぎるが故に、一瞥しただけで詳細が見えてしまった。言及は避けるが、下着の本来とは異なる色なども。

 

 無言で、可能な限り雌の臭気を吸い込まないように口も閉じて、無音を維持して廃教会内を歩いていく。

 なお、杏子がこのあられもない姿をしているのは、彼を臥所に誘っているのではない。

 

 男として見ていないから、そもそも異性というものへの理解が足りず、男という存在に無頓着であるからに過ぎない。

 彼女の廃滅した社会性が、この状況を産み出す一助となっていた。

 

 歩いた先に、忽然と白い物体が聳えていた。

 薄汚れてはいたが、それは学校か会社などで用いられていたホワイトボードであった。

 そこには予めカレンダー然としたマス目が引かれ、予定が書きこまれていた。

 使用しているのはナガレだけらしく、彼の名しか入っていない。

 翌日、というよりも当日の予定を彼は新たに書き込んだ。

 

 その後自分の寝床に行き、プラケースに入れた私服を着替えとして確保。その場では着替えずにネカフェへ向かう事とした。

 血や煤で汚れた姿だが、これより更に酷い状況の自分や杏子を受け入れてくれた場所でもある。

 幸い金は、武器調達を兼ねて壊滅させた暴力団事務所から永久に拝借したので暫くは余裕がある。不都合な分は追加で握らせようと彼は思った。

 

 準備を整え、ゆっくりと出口へと向かう。再び真紅の魔法少女の傍らを通ると、彼女の寝床の周囲に堆積した無数のゴミが目についた。

 使い潰した歯ブラシ、応急処置に用いた血塗れの包帯。

 更には丸められて、テープで止められた使用済みの生理用品や、くしゃくしゃに潰されたティッシュが即席麺の容器に割り箸諸共乱雑に突っ込まれていた。

 

 羽虫が湧いていないのは、恐らくこの廃教会に住まう連中の存在を虫達が本能で察知している為だろうか。

 帰りにゴミ袋沢山買っとこうと、彼は思った。

 ここ最近、杏子が殊更に退廃的になっているのが気がかりだが、自分には魔女を葬ってその卵を集める事しか出来そうにない。

 彼女の内面は彼女のものであり、彼が踏み込む事では無いだろうし、そんな事が出来そうにない。

 やれることをやろう、彼はそう思っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いつも通りあいつをリョナって四肢切断して、内臓を抉り出してから全身にロンギヌスの槍を九十本くらい刺して地面に縫い留めて」

 

 朗らかな口調で物騒極まりない言葉を述べる美しい少女の声が、見滝原の一角で木霊する。

 

「お前は雌臭い、風呂入れ、犯らせろ、尻向けろ、犯すぞ、殺してやる、殺してくださいと言わせてやる。ただあいつの耳元で優しくそう言ってあげればいいだけじゃないか。何を複雑に考えてんのさ」

 

「ド直球すぎんだろうがよ」

 

 澄み渡る青空の下、街中を練り歩きながら不健全極まりない会話を続ける両者であった。

 必要最低限の意味の抜き出しを除き、物騒で卑猥な言葉に対する反論を行う気は彼には既にない。無駄だからである。

 ナガレとしては「着替えの買い出し行くから付いてきてくれ」としか言わなかったが、廃教会の勝手な常連と化しているキリカには事情が察せていた。

 狂った頭脳の持ち主だが、頭の回転はまともな所があるのが、この魔法少女の恐ろしいというか嫌なところであった。

 

「否定はしないんだな。よし、じゃあ早速自警団にも召集駆けて佐倉杏子のしあわせ処女喪失プランその二十九。ツンデレ路線脱却及び殺菌滅却浄化処置プラス魔法少女服強制逆バニー化作戦をだね」

 

「やめろ。コトを大きくすんじゃねえ」

 

 どうやったら思い付くのか分からない最悪な作戦名に、彼は思わず吐き気を覚えた。会って十数分でこれである。

 何時まで経っても、キリカの不意打ち的な不健全性絡み発言には慣れない。

 慣れてしまったら、多分また一つ人間性ってのを喪うんだろうなと彼は思った。

 

「じゃあ、なんで私に声かけたのさ」

 

 てくてく歩いて彼の前に立ち、両手を腰の辺りで組んで問うキリカ。

 一昔前位の青春ドラマであったような演出だが、実際の会話の内容は清々しさとは真逆。

 爛れた劇薬と腐り果てた廃液が交わった末に生まれた、未知の毒物みたいなものである。

 そもそもコトを大きくするなと言われてこの返しとは、完全に自分の災厄性を自覚しているとしか思えない。

 

「ん~、どうなの?ねぇねぇねぇねぇねえったらあん♡」

 

 美しい顔を近付けながら、彼を弄びつつ性の快楽に浸る矯正のような甘い声を出し、身を寄せる様に更に接近していく。

 甘いと言えば、彼女が近付く度に甘ったるい香りが彼の鼻を刺した。

 先程貪り食われたドーナツのせいもあるが、それ以外の菓子の香りも混ざっている。

 そして更には恐らく、彼女自身の体臭がそもそも甘い。

 人工的なものに特有の刺々しさが感じられない事から、彼は察したというか察せられた。

 

 魔法由来かと思えばそうでもない。これが体質だとするのなら、蠱惑的極まりない。

 現に今も花の様に自然で甘い香りを漂わせつつ、彼の眼の前では身長148センチに似合わない巨乳が揺れている。

 不自然にならない程度に肉付きの良い尻の形がくっきりと浮かんだ丈の短いピンクのスカートも、中身が見えんばかりに左右に振られていて。

 

「あ」

 

 そこで彼女は気が付いた。彼もキリカの外見から生じる違和感や鼻の良さからして気付いてはいたが、どうか違ってくれと思っていた。

 因みに彼女からの問い掛けについては、次のこの発言が無ければ彼は応える筈だった。

 

 

「ブラとパンツ穿いてくるの忘れてた。君相手だからどうでもいいし、それに何時犯されるか分かったもんじゃないからね。破られて投げ廃られちゃ勿体ない」

 

 

 この責任はどう取る気だい?キリカはそう言った。

 親し気な態度から一転、胸の前で腕を組み毅然とした態度でナガレを見据える美しい少女。

 麗しき断罪者となったキリカであった。

 

 身長差が約12センチもあるので、やや見上げる姿勢に近い。

 拘束具を外された胸は、まるで硬さが無いかのようにキリカの両腕によってぐにゃりと潰れていた。

 恐らく手を乗せて軽く力を入れれば、何処までも沈むような弾力があるに違いない。

 

「じゃあそれもついでに買おうぜ。要件が一度で済ませられっからよ」

 

 憮然とした口調で、事も無げと言った風にナガレは言った。

 そろそろ苛立ちも限界だが、まだ序盤もいい処なので黙らせるに黙らせられない事が彼には歯痒かった。

 もちろん、沈黙させる方法とは暴力か餌付以外にはあり得ない。

 

「くそ…友人に…こんな奴にレスバ負けするとは……ちくしょう…」

 

 対するキリカは彼の反論に敗北感を持ったらしく、膝を折って地に手を着いた。

 眼が涙ぐんでいるあたり、本気で悲しんでいるらしい。

 今のこの状況でその態勢はやめろとナガレが説得し、嫌だと愚図るキリカを納得させるまで、彼は一時間四十二分と十三秒を要する事となった。

 

 

 

 














相変わらず仲良しな二人でありました
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