魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花③

 可憐な美少女のような顔をした、野性味ある美少年が見滝原市内の歩道を歩く。

 それに付随し、ゴロゴロという音が鳴っている。音の源泉は彼が右手で引きずる黒いキャリーバッグの車輪であった。

 そのキャリーバッグは大きく、子供なら身を屈めば二人程度は入れそうな大きさだった。

 そう、例えば

 

「友人」

 

「なんだい呉さん」

 

 今ここに入れられている、黒い魔法少女のように。

 

「私を視姦できなくて寂しいからってスネるなよ。それでなんだけどね、さっきからお尻に伝わる振動がいやらしい。お腹の奥が疼く」

 

 なんかお肉がきゅんきゅんする。まるで妊娠したみたいだよ。私処女だけど。

 そう、キリカは平然と言った。

 

「で、俺にどうしろと?」

 

 ナガレも平然と聞き返した。

 キリカの発言は慣れないが、気にしていたら負けである。

 そして彼は負けることが大嫌いだった。

 

「話をして呉。肉の疼きが紛れる」

 

「了解」

 

 ナガレの視線は青い空に向けられていた。キリカの説得に要した時間故に、今は昼時の時間帯となっていた。

 

「お、友人。今トキめいたね?」

 

「あん?」

 

「隠さなくていいぞ。ギャルゲー原作のアニメでもあるだろう?ヒロインのご出産のときに、ヒロインを孕ませた主人公様がこれからお母さんになるヒロインの手をぎゅって握ってがんばれ、がんばれって言うアレだよ」

 

 尊いね、素敵だね。ムカつくね。早くバトルをやって欲しいねとキリカは言った。

 素直でよろしい、と彼も彼でキリカの評を謎の基準で思っていた。

 現実の魔法少女への対策として、アニメや漫画の魔法少女物を読み耽っていた事があるからだろう。

 彼にとって、平凡な日常描写は退屈でしかないのである。

 例えそれが作中の人物の人生に大きな影響を与える事柄だとしても、所詮は架空と切って捨てている節がある。

 

「んじゃあよ、何が聞きたい」

 

「友人、君ってばこういうとこ実直でいいよね。さささささが声だけで何十回も絶頂出来て、朱音麻衣が狂信者じみた事し始めるのも頷けるよ」

 

「いいからお題を寄越せ。話せるコトなら話してやる」

 

「んーーーー、佐倉杏子との共同セイカツで楽しかったコト」

 

 言うまでも無く、セイのあたりには彼女の無意識の悪意があった。

 しかしこれは理解できないことでもなく、半年近く異性同士が一つ屋根の下に一緒にいるのに何もないのがむしろ異常なのである。

 キリカの悪意など無視し、ナガレはしばし考えた。

 外見が外見だけに、思考する彼の姿もまた美しかった。

 

 身に降り掛かる災禍を打ち倒し、愛するものを護るべく巨悪に立ち向かう誇り高き戦士の顔が浮かんでいる。

 だが実際に彼の脳裏を駆け巡っているのは、ロクでもない光景ばかりである。

 

 魔法少女の手足から鮮血が飛び、殴り殴られて互いの歯や肉が弾ける。

 関節技を極められた個所で肉と骨が抉れ、靭帯が悍ましい音を立てて断裂する。

 真紅の大輪の花か炎のような美しい姿と繰り広げる、互いの命を互いの贄と捧げるような死闘と苦闘。

 どれも確かに楽しく何物にも代えられない思い出だったが、それだけに選定が難しかった。これは難題だ、と彼は悩んでいた。

 

 もしかしたらこの世界に来てから、一番悩んでいるのがこの時だったかもしれない。

 毎日毎日、数時間ごとに繰り返された死闘の記憶を辿る。その果てに、一際思い出深い場面を見つけた。

 これだ、と彼は決めた。自信を込めて、彼はこう言った。

 

「そうだな…俺と杏子の二人で、簀巻きにした優木の両手両足を…たしか俺は足を掴んでよ。一緒にタイミング図って三二一で川に放り投げた時かな」

 

「頭おかしいね。他には?」

 

 期待など全くしていなかったかのように切って捨て、キリカは次を促す。

 同じく満足げな表情で彼は返した。

 

「サイゼ行った時、メニュー表裏の間違い探しやった時」

 

「一緒に?」

 

「席別だったな。俺は店の右端であいつは左端。念話で『まだ見つけてねぇのかよ間抜け』とか言い合いながらやってたな。あれは燃えた」

 

「なるほどね。改めて、お前らの関係が死滅してる事が分かったよ」

 

 なんで互いに同じ場所で生きてるのやら。そして常に殺し合ってる癖に生き続けてるのやら。

 そう呟いたキリカに

 

「俺にもよく分からねえ」

 

 と彼は答えた。完全に予測の範疇であり、キリカは欠伸をしながら聞いていた。

 

「ああ、もういいや。友人と佐倉杏子がどうしようもなくラブラブだってよぉく分かったよ。んで、それとね友人。悪いけどティッシュをおくれよ」

 

「鼻か?」

 

 ジッパーを開けてポケットティッシュをそこから入れた。

 理由を一応聞いたのは、心配しているためだろうか。

 たまに、素で人間の善性が出る男である。そしてキリカの発言にも、やはり特にリアクションを示さない。

 

「えっち」

 

「はい?」

 

 キリカから返ってきたのは、非難のような言葉。

 そしてその理由が述べられる。

 

「これは汚さないようにする為の予防策だよ。このバッグは私の為に態々買ってくれたものだろう?」

 

「はい?」

 

 順を追うと、このバッグは愚図るキリカを運ぶために彼が買ってきたものだった。

 場を離れる際、四足獣の姿勢にあったキリカ。

 今はノーパンであるが故に、下手したら真昼間の人々が行き交う往来の中で尻と秘所を露出しかねない彼女へ彼は、緊急処置として自分のジャケットを羽織らせた。

 そして急いで走って街を駆け、購入してきたそれにキリカをブチ込んだのである。

 都合よくこんな物が買えたことは、見滝原は都会だからと受け取っていただきたい。

 そして現状。彼の疑問が重なっている。しかし一方で理解が浮かんだ。

 

「さっきからね、ちょっと自分の身を試して実験中なんだ。題して『私は友人で欲情出来るのか』」

 

 ぱんぱかぱっかっぱっぱっぱーんと、壮大なファンファーレを模した声をキリカは挙げた。

 ナガレは道の傍らを見た。繁栄の裏側とでも言うべきか、汚濁の流れるドブ川が見えた。

 安い買い物では無かったが、キャリーバッグをすぐにでも投げ捨てたくなった。

 

「さて、ここで実験の発端をご説明しよう」

 

「勝手にしろ」

 

 容認したのは聞きたいからなどでは断じてない。拒否したら、さらに面倒になるからである。

 うん、するよ、しまくるよ!童女の口調と輝く笑顔を伴った声でキリカは言った。

 

「君は私を色情狂とでも思っているのだろうが、こう見えて私は性欲が薄い。生理の時とか、流れた血を拭き取ってる時にちょっと疼くくらいだ」

 

「へえ」

 

 このあたりで、ナガレは感情を捨て去る事って出来ねえのかなと考え始めた。

 んな器用な事無理だなと早々に諦め、魔法少女の話を聞くことにした。これも何時もの事である。

 

「それなのに私の周りの連中ときたら、どいつもこいつも爛れた性絡み連中ばかり。リナに至っても、最近は自宅に監禁してるさささささとレズ紛いの行為に耽ってるらしいし」

 

「思ってたより進んでんな」

 

「そのリアクションは予想外だね。やっぱ君、面白いよ。あとさささささの事心配したしたげてよ」

 

 相槌程度に返したが、彼としてもやはり、自警団長の趣味には少し驚いているようだった。

 一方で納得もしていた。魔法少女は恋愛する時間なんて無いだろうし、となると性の矛先が同性に行くのも無理ないだろうなと。

 また会った回数は少ないが、リナが優木を見る眼になんというかこう、妙に熱が入っている気がしていたのだった。

 そしてその視線の先には優木の尻があった。何かあったのかなと、彼はいらん心配をしてすぐに忘れた。

 キリカが言った心配という事も、それを指している訳ではないだろうに。

 

「ま、その素っ気ない態度も君の狡猾な罠なのだろうね。性に関心がない積りで、その実は欲望を抱え込んでる。そしていつか誰かが犯されるのさ」

 

 さも当然の、今曇ってるから小一時間もしたら雨が降るだろうね、といった風な言い方だった。

 

「さぁて最初の被害者はやっぱり佐倉杏子か朱音麻衣かさささささか。ってこれじゃ駄目だね、こいつら相手はいちゃいちゃラブラブな和姦じゃないか」

 

「…」

 

「となると大穴で佐木京か。あ、大穴っていってもそういう意味じゃないからね。他にはあれか、隣のクラスで今入院中の天才バイオリニストな美少年かな。案外いいカップルかもねぇははははは」

 

 自分でも満足する愚弄が出来たのか、キリカはけらけらと笑っていた。

 しかしそこで、思いがけない事が起きた。

 

「抱かれてぇのか?」

 

「え」

 

 キリカの笑いが途絶、彼女は何を言われたのか分からなかった。

 

「俺に抱かれたいのかって、そう聞いてんだよ」

 

 バッグの上部分を軽く小突き、ナガレは追加で言った。

 振動が伝わったのか、キリカは「ひゃうっ」と可愛い悲鳴を上げた。

 

「さっきから黙って聞いてりゃ爛れた事ばっか言いやがって。俺が黙ってばかりとでも思うかよ?」

 

 何事にも限界はある。彼も流石に怒っていた。

 周囲を見渡すと、視界の奥にそれっぽい雰囲気の場所と建物が見つかった。

 

「こんな上品で綺麗な街でもそういう場所はあるもんだな。これから二人で行ってみるか。このままなら怪しまれにくいしなぁ。ええ?」

 

 ここまで言っておきながら、彼はキリカに欲情などしていない。

 ただ腹が立って仕方なく、その衝動を言葉に乗せて述べているだけだった。

 後先を考えない男である。

 

「…友人」

 

「…なんだよ」

 

 キリカの暗い声に彼の口調のトーンも下がる。自分でも子供相手に不健全トークを言ってて疲れたのだろう。

 

「どうして、泣いているんだい」

 

 冷え切った水で濡れたような声でキリカは問う。

 

「泣いてねぇよ」

 

 涙など最後に何時流したかと彼は思った。

 記憶を辿ると、それが全く分からない程度には自分が涙と無縁だと分かった。

 

「ううん、心が泣いてるよ」

 

「だとしてもお前に分かるか、んなもん」

 

「分かるさ」

 

 全てを受け止めるように優しく、そして有無を言わさぬ強さの声でキリカは言った。

 

「君を、私が分かってあげる」

 

 バッグのジッパーが開き、そこから二本の美しい手が伸びた。

 それは彼の右手を掴むと、凄まじい力でその内部へと導いた。

 バッグに捕食されるかのように彼の身体が吸い込まれ、そしてジッパーが閉じた。

 

 バッグが激しく揺れ、動いていく。やがて平坦な道から下へと続く坂道に向かって行く。

 傾斜したバッグは重力と、さらに内部からの力を受けて一気に加速。凄まじい速度で坂を下る。

 

 バッグの中身は地獄と化していた。

 闇の中、上も下も下着を纏わないシャツとミニスカートの私服姿ままで、魔の力を発揮した少女が少年の身体に身を絡ませていた。

 

 明らかに人間の骨格の可動範囲や硬度を無視し、キリカの身体はナガレの身体と交わっていた。

 骨を自ら砕いて関節を伸ばし、キリカの身体は柔らかくしなやかな異形の人体と化していた。

 総評すれば、今の彼女の身体は首から足首までが蛇か鞭のような構造となり、彼に絡んだ彼女の細身はナガレの腰から背へ廻っている。

 更に腹へ身を絡ませて一周し、美しい顔同士が闇の中で向き合っていた。

 

 異形ながら美しい光景ではあったが、細身で華奢なキリカの身体から伝わる圧搾は巨像さえも絞め殺す超剛力。

 両腕もまたそれぞれが一頭ずつの蛇のように彼の背を抱き、両手を牙のように彼の肩肉に喰い込ませながら凄まじい力を加えていた。

 人間なら即死どころかバラバラになる異形の力に、少年の身体は耐えていた。

 身に絡みつくキリカの身体に指を突き立て、それ以上の圧搾を阻んでいる。

 

「うふ、くひひ、ふははは」

 

 実に楽しそうに、サディスティックな響きを纏った声でキリカが笑う。

 笑う彼女の口から香る匂いは、強力な麻薬じみた魅力を孕んだ甘ったるい香りであった。

 

「…へっ……」

 

 歯を食い縛り、全身の筋肉を総動員して美しい蛇と化したキリカに抗うナガレ。

 彼もまた黒く渦巻く瞳で彼女を見据え、唸り声交じりの吐息を漏らした。

 

 バッグはその間も走り続けていた。道行く者達も慌てて避ける。

 だが幼き子供が間に合わず、迫るそれを茫然と観ていた。接触の寸前、バッグの側面の一部が破裂。

 そこから生じた拳が地面を叩いた。するとバッグは軽々と宙を舞い、近場の建物の二階へと落下。

 幼子はその様子を見て、思わず呆けた後に笑い出していた。

 楽しそうに笑う子供を抱え、若い母親が更なる危機が来ないものかと不安に駆られて急いで逃げていく。

 

 一方の悪鬼どもはといえば、運動エネルギーは消えずにバッグは更に進む。建物の屋上の手摺へと至った時に再度拳が地面を叩いて飛翔。

 高々と跳んだ果てに、ビル同士の隙間へと墜落した。

 

 壁面に激突し続けながら、壁を擦って漸く地面へと着いた。

 そして半壊したそれの中から、まるで卵の殻を破る様に黒い影が立ち昇った。

 先に出た影は

 

「ホラよ」

 

 と手を伸ばし、居場所を共有していたもう一人の存在に手を貸した。

 

「ん、ありがと」

 

 遅れて出てきたキリカは素直に礼を言い、彼の手を取って立ち上がった。

 んっ、んっと言いながら背骨を伸ばし、両手をぷらぷらさせ、関節が元に戻っているのかを確かめている。

 その後はだけていたシャツや捲れていたスカートを元に戻す。

 その間、彼は建物の隙間の奥に見える昼の光景を見ていた。

 呉キリカという美しい悪鬼に再び襲われる可能性があるというのに、律儀なものである。

 

「あーあ、あと少しだったのにね」

 

「ぬかせ」

 

 何があと少しだったのかは、当事者たちにしか分からない。

 

「でも案外、唇は柔らかいんだね。魔女の腕も平気で喰い千切る歯があるんだから、唇も刃物じみてると思ったのに」

 

 自分の唇を、それ自体が工芸品のように美しい繊手の先でぷにぷにと突きながらキリカは言った。

 

「お前、それで良かったのか?」

 

 顔をキリカの方に戻し、ナガレが尋ねる。

 その声はどこか昏い。自分に対してではなく、キリカを慮っての感情が伺えた。

 

「なにがさ。別にあれで私が孕むってわけでもないのに…ってもしや、もしかして?」

 

「んな訳ねぇだろ」

 

「なーんだ。流石に君も、そこは普通の人間か。ちょっと面白みに欠けるね」

 

「お前…」

 

「いいよいいよ。どうせまたすぐ顔か、頭ごと作り替える羽目になるんだからさ」

 

 はははと朗らかに笑って言うキリカの笑顔は、暗闇の中でも輝いて見えた。

 同時に彼は奥歯を噛み締める。

 どの世界にこんな事を言う中学女子がいるのか。

 

 そして何度、自分はこの存在を破壊してきたか。

 彼女の凶行に対し、取るべき行動をしなければ簡単に殺される相手なのは分かる。

 しかしそれでも、理不尽という怒りが募る。魔法少女という存在は、彼から見ても日常が凄惨すぎる。

 

「ま、忘れるまではこの感覚は覚えておいてやるよ。いい感じに不快さと心地よさが混じった珍しい感触だった」

 

「そうかい。好きにしな」

 

 少しオトナになれたかも。と付け加え、キリカは相変わらずの朗らかさで笑っていた。

 その様子に彼も気分を切り替える。

 

 なんでこいつ彼氏いねえんだろ、とナガレは不思議で仕方なかった。

 性格の問題という考えは彼には無い。魔法少女はこういうものだと思っている。

 その上彼自身が認識する普通というものは、通常人類のそれとかなりズレている。

 

「ま、外の光景を見た限りだと着いたね。長い道のりだった」

 

「ホントにな」

 

 心の底からといった風に、彼は言ってた。

 そして暗い路地裏から、闇から光の領域へ向けて歩き出す。

 

「さぁ行こう友人!私達の冒険の始まりだ!」

 

 路地裏の出口、その目の前。

 闇と光の境目に立って、世界に降り注ぐ光の欠片を浴びながらキリカは光に負けない眩しい笑顔で振り返り、彼の方へと右手を伸ばして叫ぶように言った。

 何人かが思わず彼女の方を見たが、彼女は気にも留めない。

 今の彼女の意識の中で、世界には自分と彼と、そしてここにはいないもう一人しか存在していなかった。

 

「おう!」

 

 彼女の様子に応える様に、先程まで死闘を繰り広げていたことなど忘れた様子で彼も叫んだ。

 そもそも魔法少女との死闘など、彼にとって喰う寝る或いは呼吸するに等しい行為である。

 恨みも何も無く、両者は光の中へと飛び込んだ。

 

 

 












追記
なおその冒険の目的は、佐倉杏子さんの新しい下着とホットパンツを買う事である。
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