魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

170 / 468
番外編 流狼と錐花⑧

 緑、翠、碧、碧、みどり。

 

 緑の色は、彼女の色。

 

 あの美しく崇高で、何物にも代えがたい色、愛の色。

 

 それは神聖で高潔で、何者にも踏み入れさせてはならない不可侵の色。

 

 それなのに。

 

 それなのに。

 

 それなのに。

 

 

 みどりをみると、わたしのこころに、あのおんなのすがたがひびく。

 

 

 

「ハァ…何度見てもキレイだヨネ…このカラダ」

 

 

 女の声がみみにとどく。

 

 硬いきんぞくのベッドにねかされた私。

 

 はだかにされて、あかんぼうみたいに寝かされてる。

 

 顔をうしろからつかまれて、くびをまげさせられて、あの女をみせられている。

 

 緑の長い髪、兵隊さんみたいな服。

 

 それが今はじょうはんしんだけが羽織られてる。

 

 したは肌が剥き出し。

 

 ガーターベルトだけがのこってて、したぎもはいてない破廉恥な姿。

 

 そのみためで、そのおんなはわたしにてをのばしていた。

 

 はずかしいばしょのすこしうえに、そいつの両手が置かれた。

 

 おへその少し下あたりだった。

 

 みどりがみおんなの両手の先が曲げられて、ないふみたいに鋭い爪がひふにささった。

 

 いたい。

 

 いたいよぅ。

 

 そうおもったら、すごいいたみがわたしをおそった。

 

 ゆびがいっきにねもとまで、皮膚を突き破ってわたしのにくにつきささった。

 

 ぺっとぼとるをひっくり返したみたいに、たくさんの血があふれだした。

 

 噴水みたいに、ぴゅーって流れたりもした。

 

 あばれるわたしを、たくさんの手がおさえた。

 

 黒と白のローブを袖に通した手だった。

 

 ひっしにあばれたけど、くさりでも縛られてたからなにもできなかった。

 

 緑髪女の手が肉に喰い込んだまま、左右に一気に引かれた。

 

 すごいいたみで、わたしはびくびくとふるえた。

 

 下腹部が温かかったから、多分漏らしたんだと思う。

 

 肉が観音扉みたいに開かれて、血がだぱだぱと溢れ出る。

 

 ひらいたそこに、あのおんなはてをつっこんだ。

 

 またすごくすごくいたくなって、わたしは必死に暴れた。

 

 まわりからは、荒い息が聞こえた。

 

 あいつら、私が解体されるのを見て欲情しくさってたんだろうね。

 

 ぶちぶちとおとがして、わたしのからだのなかから何かがひきずりだされた。

 

 赤い血が火花みたいに弾けて、わたしのからだが赤く染まった。

 

 みどりがみおんなの灰みたいにしろいからだも、わたしの血でぬれてた。

 

 広げられた両手が、左右のそれぞれで、先がふくらんだ袋をつかんでた。

 

 しろまる。

 

 キュゥべえ。

 

 ももいろで、ぴんくいろのしろまるだった。

 

 あの女が指でつまんでたのは、しろまるの耳だった。

 

 わたしにはそうみえた。

 

 でもそれはちがう、形は似てるけど、ちがう。

 

 ちがうけど、それでいい。

 

 考えたくなんてないから。

 

 ももいろピンクのしろまる。

 

 もっぴーって呼んだら、ちょっとかわいいかも。

 

 そうおもってると、あの女はしろまるの耳を二つ纏めて噛んだ。

 

 くしゃりくちゃりっていう音がした。

 

 

「アア…この歯ざわり、噛み潰した感触、溢れる肉汁……アナタの卵巣、これでもう五回目だけど、本当に壊し甲斐があって……最ッ……高ーーーー!」

 

 

 くちゃくちゃと、あの女は私の卵巣を噛み潰して…いや、食べていた。

 

 そしてしろまるのくびの断面に手を突っ込むと、それをごういんにこじ開けて私にみせてこういった。

 

 

「ホラァ、見てぇ……コレがアナタのベィビールームゥゥ……ハァアア……ココで美しいアナタの遺伝子を受け継いだモノの命が育まれるんだと思うと、ゾクゾクするゥ……!」

 

 

 そのしゅんかん、わたしは吐いた。

 

 はいたけれど、何も出なかった。

 

 むねのまんなかに、大きな隙間ができてた。

 

 いぶくろはもう、とられちゃってたんだ。

 

 それでもくうきを吐いてると、まだ眼の前でひろげられてる、わたしのいのちのゆりかごが、くろぐろとしたいろにかわっていた。

 

 わたしのからだのいちばんおくのいろも、赤からみどりにかえられていた。

 

 あの女の手から伸びた、腐った魔力のせいだった。

 

 そしてみどりのいろがひろがって、私の肉が闇へとかわる。

 

 

 嗚呼、そうだ。

 

 おもいだした。

 

 わたしはもう、何度も、何度も。

 

 このおんなにきりきざまれて、作品にされていたんだった。

 

 そのしょうこが、あそこにあるのをみつけた。

 

 てんじょうからのびたくさりが、わたしのりょううでをしばってつりさげてる。

 

 むねからかふくぶにかけてをひらかれて、ひらいたすきまには、私の首が見えるだけでも五つはつめこまれてる。

 

 無理矢理肉を押し広げられて、たくさんの私の首が詰め込まれてるせいで、にんぷさんみたいにおなかがふくらんでる。

 

 おなかのなかのわたしの目玉はぜんぶえぐられて、まっくろいあなになってた。

 

 あなとくちと、みみと鼻で、何かがうごいてた。

 

 たくさんのちいさなむしが、わたしのにくをたべてそだってた。

 

 わたしのおにく、おいしいのかな。

 

 そしてとられたおめめ、どこだろう。

 

 あった、見つけた。

 

 にんぷさんにさせられたわたしのちょうど反対方向。

 

 くびをきられて、フックがついた鎖で肩を貫かれて、ぶらんって吊り下げられたわたしのからだ。

 

 わたしは軽いせいなのかな。

 

 首に刺されたかぎつめ一本で、かるがると吊られてた。

 

 またおなじようにひらかれてたけど、そのなかみに…。

 

 

「ヴァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 叫び声が聞こえた。

 

 

「違う!違う違う違う!」

 

 

 聞こえた。

 

 

「こんなのは、こんなのはアリナが思い描く理想の世界じゃない!」

 

 

 聞こえる。

 

 

「本当の世界は、アリナが描きたい地獄は、もっともっともっともっと!もっと醜くて美しい!こんなの…この程度じゃ…」

 

 

 聞こえる。

 

 

「ヴァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!」

 

 

 けもののような、こえがきこえる。

 

 でもわたしは、そのあいだずっとわたしをみてた。

 

 つりさげられたわたし。

 

 あたまはあったけど、くびからおへそのしたまでをきりさかれて、きずぐちを何本ものくさりでひろげられたわたし。

 

 ひろげられた傷口の中から、さんにんのわたしがでていた。

 

 ひとりは、全身の皮をむかれてた。

 

 一人は、全身を赤黒く焼け爛れさせていた。

 

 最後の一人は、からだは無傷だったけど、うわあごからうえがなかった。

 

 その三人の私の身体の上に、たくさんのないぞうがぐるぐるとまかれていた。

 

 焼けただれた私の首に、神経でつながれたたくさんのめが、首飾りみたいにまかれてた。

 

 さんにんのわたしは、ひとりのわたしのからだから、がんばってうまれようとしているみたいにみえた。

 

 それをみたときに、わたしはとてもつらくなった。

 

 つらくてつらくて、かなしくて、そしてこわかった。

 

 きもちがわるかったって訳じゃない。

 

 例えるなら地獄から、わたしがうまれかわっているみたいにみえたから。

 

 それがなんでつらいのか、かなしいのかわからない。

 

 でもつらかった。

 

 くるしかった。

 

 なまえをよんだ。

 

 彼女は呼べない。

 

 触れさせてはならない。

 

 だから、二番目の名前。

 

 たすけてほしいひとのなまえ。

 

 多分、「ゆうじん」って言ったんだと思う。

 

 

 そうつぶやいたわたしを、あのおんながじっとみていた。

 

 わたしがゆうじんについておもってるあいだに、暴れまわってたみたいだ。

 

 そこにある全ての私は、ずたずたに破壊されていた。

 

 魔法を使ったんだろうな。

 

 肌の表面から緑色のあぶくを立てて、たくさんの私が融けていく。

 

 

 あの女が、にやっと笑った。

 

 わらうとかがんで、私の破片に指を這わせた。

 

 ぐずぐずになっていたわたしのはへんは簡単にゆびのさきで、バターみたいに溶けた。

 

 とけたそれをゆびさきでもてあそびながら、あのおんなは、そのゆびをじぶんの股の間に…。

 

 その瞬間に、私の心は弾けた。

 

 弾けて溢れて、そしておおきなすがたになった。

 

 そうなったわたしを、あのおんなと、なんにんもの白と黒の姿がみあげていた。

 

 あの女は、

 

「キレイ…」

 

 と呟いていた。

 

 そして、わたしはおもうままにあばれまわった。

 

 何本もの手足が飛んで、内臓があふれだして、ひめいとぜっきょうがこだました。

 

 ちとぞうもつのあめがふるなか、あのおんなはぜんしんをきりさかれながらわらっていた。

 

 わらいながら、ぐちゅぐちゅとおとをたててなにかをしていた。

 

 わらいつづけるかおとからだに、なんぼんも、なんぼんも、おおきなはりをうちこんだ。

 

 なんぼんも、何本も撃ち込んだけど、そいつの、アリナの笑いは止められなかった。

 

 私が覚えてるのはそこまでだった。

 

 からっぽになった私の心。

 

 さっき呟いた名前が、埋めるように反響していく。

 

 

 ゆうじん、友人、わたしのともだち。

 

 どこにいるの。

 

 でておいで。

 

 こわいことなにもしないから。

 

 いつもみたいに、なかよくおどろう。

 

 わたしのもやもやを、そのいのちで受け止めておくれ。

 

 

 ゆうじん。

 

 友人。

 

 わたしの、たったひとりのおともだち。

 

 おんなのこみたにいかわいいけれど、男らしくてかっこいい。

 

 おとこなんてとうさんいがいしらなかったけど、もう他の男なんてどうでもいい。

 

 友人とは、なんどもころしあった仲だから。

 

 ほかのやつじゃ、これいじょうふかくはつながれない。

 

 だからゆうじん、おねがいだから、わたしと。

 

 そうおもったとき、あたたかいおんどをかんじた。

 

 なんどもかんじた、あついたいおん。

 

 ああ、これは。

 

 なんだ、ゆうじん。

 

 そこにいたのか。

 

 大丈夫、こわいやつはどこにもいない。

 

 わたしがきみをまもってあげる。

 

 私の胸からお腹に掛けて開いた傷が、唇みたいに友人を包む。

 

 ろっこつが牙みたいにのびて、ゆうじんのからだにぐさぐさっと刺さる。

 

 友人の身体の中で、肋骨の先からはえた鋭い針がそだっていく。

 

 錐のような根っこ、まるでわたしは花みたい。

 

 錐の花、キリカ、呉キリカ。

 

 わたしのなまえ。

 

 きみはゆうじん。

 

 わたしとおなじ黒い髪。

 

 まるでおおかみみたいな、あらあらしくてかわいい髪。

 

 どこからきたのかわからない、ナガレモノ。

 

 流れ狼、私の友達、あの紅い女からナガレってよばれてる友人。

 

 きみのあついからだにふれる、わたしのひえきったぞうもつが、きみのたいおんであたたかくなっていく。

 

 錐の根から吸い上げた、君の血潮が私の身体にはいってく。

 

 それでも足りない。

 

 まだ寒い。

 

 だからね、きみのくびを思い切り噛んだ。

 

 私はヴァンパイアだからね、いいだろう。

 

 昔もこうしてあげたよね。

 

 懐かしいね。

 

 あのときのきず、きえないはずなのに、もうあとかたもない。

 

 だからもういちど、こんどはきえないようにしっかりときざもうね。

 

 歯が根元まで、友人の喉に喰い込む。

 

 たくさんのちが溢れ出して、わたしの中に流れ込む。

 

 ながれる、ながれる、ナガレ。

 

 友人が私の中に入って来る。

 

 開いた傷の中のわたしの内臓が、友人の灼けた肌に触れる。

 

 あたたかい。

 

 きみのいのちは、あたたかい。

 

 そのいのちを、わたしはそだててみたい。

 

 なんどもあいつにえぐられて、なんどもこわされた、ももいろのふくろがうずく。

 

 せいよくじゃなくて、そこをつかいたいって欲望が私の中で渦巻く。

 

 君の存在を、私の胎内でつなぎとめてやる。

 

 りゆうなんて、おしえてやらない。

 

 おとめにはひみつがおおいのさ。

 

 ああ、友人。

 

 温かい友人。

 

 でも、そのあたたかさがかわっていく。

 

 わたしのからだは熱を持ち、きみの身体が冷えていく。

 

 あたためなくちゃ。

 

 私は焦った。

 

 ごくごくと熱い血を飲んで、きみから血を吸い上げて、私の体に熱を宿らせて、君に熱を与えるべくだきしめた。

 

 内臓を君の身体に絡めて、よりふかくつながろうと、わたしのなかにみちびいてあげようとした。

 

 あたたかいわたし。

 

 つめたい君。

 

 身体の中で、きみがきえていくような気がした。

 

 いかないでって思いながら、わたしは君を見た。

 

 私を見る君がいた。

 

 黒くて黒くて、やみよりもふかい、きれいなおめめ。

 

 めのなかに、ぐるぐるとうずがまいてる。

 

 こわいけれど、ゆうじんのものだからこわくない。

 

 でもこわい。

 

 こわくてこわくて、めをそむけたくなった。

 

 でも、ゆうじんだからちゃんとみてあげた。

 

 そしたらゆうじんはわたしにこういった。

 

 

「もう終わりか?」

 

 ゆうじんのこえは、よわよわしかった。

 

 かおも、しにんみたいにしろくなってた。

 

 いつものゆうじんだった。

 

 ふてきなえがおで、わたしをみつめるところも、おんなじ。

 

 すき。

 

 好き。

 

 だいすき。

 

 愛してないけど、君が好き。

 

 だからもっとふかくつながりたいと、わたしはゆうじんをぎゅって抱き締めた。

 

 ろっこつがさらににくをさいて、錐の根がゆうじんのほねにもくいこんで、君の骨のなかでそだっていく。

 

 そしてわたしは、ゆうじんのめを、くろいうずをじっとみつめた。

 

 そのなかに、わたしのこころはすいこまれていくみたいだった。

 

 やがて流れ流れて、今の私達の身体のように、私の心が友人の中に融けていく。

 

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。