魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花⑱

 朝が来た。青白い光が夜の闇を駆逐していく。

 その光でさえも、照らし出せない闇があった。

 闇は人の形をしていた。深紅に染まった闇だった。

 紅に当るのは両者から噴き出し、互いを染めた血の色だった。

 それが酸素に触れて、黒へと変わっていた。

 

 ナガレと呉キリカが、朝焼けを浴びて対峙する。

 

「二度目だな」

 

 ナガレが言う。幾度となく致命に至る傷を負っては、治癒して戦闘を継続し続けた。

 治癒の回数は覚えていないが、数百回は行使された筈だった。

 しかしそれでも追い付かず、傷に塗れた姿となっていた。

 

「うん。今日もいい天気だね」

 

 キリカが返す。こちらも似た有様であり、彼より更に酷かった。

 豊かな胸には縦横に傷が刻まれ、内部に詰められた黄色い脂肪を外気に晒していた。

 腹部は裂け、桃色の管が垂れ下がっている。

 

 両者が手に持つ得物も無事では無かった。

 彼が右手に持った、メイン武装である牛の魔女は半壊状態。

 長柄は通常の三分の一程度の長さとなり、両刃の斧は鮫にでも貪り喰われたかのようにボロボロになっている。

 キリカに至っては右手自体が欠損していた。

 

 肩の辺りで切断され、今も生えている斧状の爪がコンクリを貫き地面に突き立ち、腕は肉の棒となって倒れている。

 残る左手の魔爪も数は五本であったが、全てに刃こぼれとヒビが入れられていた。

 三日半に突入した死闘も遂に決着が近付いてた。

 両者ともに満身創痍。死ぬ寸前なのである。

 

 それでいて戦う事をやめようとしない。

 悪鬼羅刹でさえも眼を背けそうな二人であった。

 

「さっきっていうか…この前の二人、覚えてる?」

 

「ん…あぁ、ヤッてた奴らか」

 

「割と若かったけど…子供、いるみたいだったね」

 

「熱心に世話しちゃいねえようだったけどな」

 

 行為に励む最中に聞こえた会話には、可愛くない雌ガキという言葉が含まれていた。

 どっちにも似てない、あの緑髪が気持ち悪いとも。

 

「子供育てるのって、大変なんだね」

 

「だろうな。想像もできねえや」

 

 どういった事情があるのかは、その会話だけでは分からない。

 ストレスもあるのだろうなと思いつつ両者は内心で、緑髪の女の子という程度しか姿の分からない子供の安息を願っていた。

 例えそれが無力な行為であるとしても。

 

「あとアレ、どう思う?」

 

「何が?」

 

 話題を切り替える様にキリカが口火を切った。

 

「ホラ、アレだよ…その…量産機しゃぶるやつ。っていうか、女の方も舐めさせてたから…」

 

 血の気の薄い肌を、ほんのりと僅かに赤めて彼女は言った。

 普段の猥談と、実際に初めて見た性行為の様子を重ねての言葉はまた別のものであるらしい。

 

「俺は好きじゃねえな。触るんならまだしも、舐めたりって感覚が分からねぇ」

 

「私も咥えるのはゴメンだね。ていうか友人、君は年上らしいがJCにこんなコト平然と言うなよ。事案だぞ、事案」

 

「お前が振ってきたんだろうが。じゃなきゃ俺から言うか、こんなコト」

 

「うわー、責任転嫁だ責任転嫁。君さ、もう父親なんだからそういうとこしっかりしなよ。ってごめんごめん、君は赤ちゃんでちたね」

 

 ゆーあー、まいさん!あいあむまざー!オッパイ飲む?乳首何処かに吹き飛んでるし母乳なんて出ないけど。

 羞恥の色もどこへやら、キリカの世界が展開されていく。

 閉口しながらそれを見つめ、彼は

 

「完全復活だな」

 

 と言った。

 

「ふふん。ご覧の通り、もう絶好調さ」

 

 傷だらけの姿で、腹から臓物を垂れ下がらせ、右腕をまるごと欠損した状態でキリカは朗らかに言った。

 顔は乾いた血で赤黒く染まり、今もじわじわと頭皮から垂れて彼女の顔を新鮮な血で濡らしている。

 

「それにしても心配性だな、友人は」

 

「お前の友達だからな。心配くらいさせな」

 

「そうだね。君は私の唯一人の友達だ」

 

 ふふんと快さそうに鼻を鳴らしてキリカは笑った。

 しかしその笑いの後で「あ」と呟いた。

 

「どうした?どっかで落とし物でもしたかよ」

 

 なら探しに行くか?と彼は付け加えた。

 両者の周囲は全てが破壊され、荒涼の極みとなっていた。

 見滝原の郊外にある、廃棄されたラブホテル街に二人は来ていた。

 

 ここなら迷惑が掛からないだろうという、大迷惑存在二人から世界への配慮であった。

 荒廃しきったお城じみた建物にキリカははしゃぎ、ガラスを無意味に割っては哄笑を上げていた。

 

「凄いな友人!そういえば私もここで生まれたらしいよ!宿されたって意味でさっ!」

 

 妙にハイテンション且つコメントに困る発言を聞きながら廃墟内を二人で探索し、肝試しじみた遊びを行ってからナガレは魔女に命じて結界を開いた。

 

「あのさ友人。これやるんなら、ここ来た意味あるの?」

 

 という質問と共に、両者は異界へ誘われた。

 この言葉に、彼は答えられなかった。

 前述の理由に加え、ただ風見野からここに来る際に乗った電車の車窓から、遠くの山肌にあるここが見えて、ちょっと気になってたからという理由があった。

 それが結局は、魔女が結界を維持することに疲れ果てて両者を放逐。

 第二ラウンドの場として活用されたのだった。

 その結果、まともな建物は全て無くなっていた。

 乱舞する魔斧達に切り刻まれ、砕かれ、遺物と化していた建物達は遂に役目を完全に終えたのだった。

 

「日中だとバレるから、ハデなのは夜中にしようぜ」

 

「そうだね。公共のマナーは守らないと」

 

 と両者は結界の外へと出た際に取り決め、律儀に守りながら凄惨な死闘を行っていた。

 話を戻す。キリカが何かを呟いた件についてである。

 

「いやね。友達って言えば、えりかは今頃どうしてるかなって」

 

「なんだ、引っ越しでもして別れた友達でもいんのかよ」

 

「わぁお。友人すっごいね、大当たりだ」

 

「俺の勘もたまには当たるな」

 

「たまにっていう割には君の勘は鋭いよ。もうここ三日間、何千回も殺しそびれてるからね」

 

 欠伸を堪えながらキリカは言う。

 ナガレも苦笑する程度のリアクションだった。こう言ったやり取りは既に何度も行われている。

 

「また会いたいな、えりか。まぁ、それはその内というコトで。あ、これ伏線だから。覚えといてね」

 

「ああ。努力してやら」

 

 反射的な様子でナガレは返した。その時、彼が右手で握る斧が震えた。

 刃の傷口からは黒々とした、闇そのものとでもいうような異界の体液が溢れ出した。

 闇は彼の傷だらけの腕を伝い、傷口へと入り込む。

 

「限界か。いいぜ、来な」

 

 言うが早いか、牛の魔女は動いた。

 斧の形が溶け崩れて液状化し、宙へと拡がる。

 

 そして、彼の手へと降り掛かった。

 彼の手から腕へと伸びていき、傷と体表を覆っていく。

 傷から肉に入り、骨にまで達する。

 闇からは粉のように微細な黒が散っていた。やがてそれが消え、その中身を朝日の中に晒した。

 

「無茶するね」

 

「お前が相手だからな」

 

 光を浴びながらも、それもまた乾いた血に塗れた両者のように黒い輝きを有していた。

 何本かが欠損していた彼の指先は、金属光沢を持つ細く長い爪へと変わっていた。

 爪の先端、人で言えば指の腹に当る部分からは小さな斧状の刃が生えていた。

 触れたものを確実に傷つける為だろう。

 何かを慈しんで抱くことは敵わなそうな、攻撃性に特化した手であった。

 

 それの根元に当る掌は元の大きさより巨大化し、まるで猛獣の掌を思わせる形状へと変化していた。

 そして肘までを、横に倒した複数の刃、それも斧のように弧を描いた刃を重ねたような装甲が覆っていた。

 金属光沢を放ちながらも、どこか有機的な趣を持った獣の腕へと、ナガレの腕が変化していた。

 

「中々に良いデザインだね。まぁ精々、魔女に叛逆されないように気を付けなよ」

 

「御忠告ありがとよ。ま、上手くやるさ」

 

「ならいいけどね。ところで、さ。そのトランスフォームを見てて思い出したんだけど」

 

「何だよ。妙に改まった声出すじゃねえか」

 

「私が君を喰って君から奪った血肉を、私が自分を削って君に新しい血肉を与えたコトだけどさ。あれ、なんだったんだろうね」

 

 両者の間で、しんと静寂が舞い降りる。

 どう答えるべきか、というよりも、質問の内容の理解に苦しむ問いだった。

 何秒かが経った。

 そして彼は答えた。

 思考というより、経験と自らの本能に従ってその答えを自分なりに導いていた。

 

 

……、ってのじゃねえのか」

 

 

 彼が告げた言葉の最初の部分に、鳥のさえずりが覆い被さった。

 その言葉を構成するのに用いられた声量は、彼の声としては信じられない程に小さかった。

 自信が無いのか、軽々しくは言えないものか、それとも…恥ずかしいのか。

 

「そうか。君はそう思うのか」

 

「上手く言えねぇケドな」

 

 それを、キリカは聞き取っていた。

 受け取ったキリカは二度、瞬きを繰り返した。

 表情に一切の変化は無い。

 それだけだった。

 

「そうか。そっか。そうか」

 

 キリカは言葉を繰り返した。

 声にも変化は無い。

 ただ自らが聞いた言葉を確認するように、自らも確認と認識の言葉を繰り返す。

 

「あのお陰で俺は助かった。そのまま喰うコトも出来たろうけど、お前はしなかったからな」

 

 変な言い方なのは分かっているが、生きながらえているのは彼女のお陰である事に違いはない。

 

「そうだね。友人がいなくなると寂しいし」

 

 想像したのか、キリカの声の調子はトーンが落ちていた。

 

「俺もお前らに会えなくなるのは嫌だしな」

 

 ナガレも自分なりの言葉で同意する。

 傍から見ると狂気に満ちた遣り取りだが、両者としてはそれらは本音であるのだろう。

 

「じゃ、いこうか」

 

「ああ」

 

 その意思を保ったまま、両者は駆けた。

 向かう先は言葉を交わしていた相手。

 

 ナガレはキリカへ。

 

 キリカはナガレへ。

 

 友と呼ぶ相手を破壊するために、魔を帯びた武具を振った。

 

 何故殺し合うのか、と問われれば両者は首を傾げるかもしれないし、理由を即答するかもしれない。

 常人では理解しえぬ領域に、少年と魔法少女はいるのだった。

 

 一つ確かな事は、最初はキリカが彼との刃の交差を望み彼もそれを受けたという事である。

 

 彼女にはその欲望があり、そして彼にはそれと真っ向からやり合える力があった。

 

 ただそれだけの理由でも、両者が殺し合うのには十分な理由なのだろう。

 

 そして刃は放たれており、既に言葉は無意味となっている。

 満身創痍の両者は、全身から血を吐き出しながら血風を撒いて腕を振るった。

 ナガレは右手を水平に構えて突き出し、キリカは左手を右に向けて振った。

 

 この時、キリカは速度低下を全開発動していた。

 ナガレもまた右腕と融合した魔女に命じ、相手の魔法を分解しに掛からせる。

 それでも粘りつくような速度低下魔法により、キリカの動きはナガレよりも先んじていた。

 彼の右腕。

 黒い鋼の獣の腕の先端で輝く魔爪がキリカの身を美しい黒水晶のように引き裂き砕くよりも、キリカの魔爪が彼の首を無慈悲に切り落とす方がコンマ0.05秒は速い。

 

 その時だった。

 ナガレが突き出した腕が、更なる異形と化したのは。

 

 伸ばされた五指が中指を基点として切っ先を集中させ、手が一つの刃と化した。

 そして腕を構築していた装甲が松毬のように開いた。

 但し開いた装甲は平面ではなく、無数の鋭角と化していた。

 

 鋭角の切っ先はナガレの方へと向いていたが、その隆起は鋭利な刃であった。

 一瞬を更に分割する刹那にて、籠手のようだったナガレの腕は異形の槍へと変貌していた。

 変形の際に生じた力により彼の腕である槍の速度が増加し、切っ先は速度低下魔法を切り裂き、キリカの爪へと追い付いていた。

 

 

 その形状に、キリカは見覚えがあった。

 梵字で描かれた名前、意味する言葉は千手観音菩薩。

 それを見た自らと似た名前の、巨大な異形の騎士の腕。

 

 

 認識の瞬間、赤黒い魔爪と漆黒の突撃槍が激突した。

 破壊による破片が宙にバラ撒かれた。

 柔らかい肉と鮮血、そして赤黒い魔爪と黒い衣装が。

 

 魔斧を顕現させる左手首のブレスレットごと、左腕は破壊されていた。

 肘までを肉片に変えてキリカの身体から捥ぎ離しても槍は止まらず、文字通りの手刀となった彼の指先はキリカの胸を貫いた。

 鼓動を続ける心臓が体内で挽肉となり、指は背骨を砕いてキリカの背から抜けた。

 

 しかしそれでも、キリカは戦闘不能には至らなかった。

 肘までをキリカの体内へと埋めたナガレの首へと、キリカは開いた口を躍り掛からせた。

 歯は全て牙へと変じていた。

 これが命中すれば、ナガレは首を喰い破られるどころか切断される。

 

 牙と肌の接触の直前、キリカは体内で生じる震えを感じた。

 それは自分の身を抉る、異形の騎士の腕を模した彼の腕から生じていた。

 刹那の後、キリカの身体から大量の血飛沫と肉が溢れた。

 朝の大気を紅く赤く染めるそれは、無数の紅い蟲が彼女の内より解き放たれたかのようだった。

 

 血飛沫の発生源は、彼の腕だった。 

 赤い光景の中、キリカの体内に突き刺さった槍は機械的な音を立てて、地獄の坩堝の如く回転していた。

 表面の刃は魔法少女の身を切り刻むだけに飽き足らず、凄まじい力によってキリカの肉体をねじ切りに掛かっていた。

 彼の首へと向かう彼女の顎も、その力によって首を捻じ曲げられて強制的に留めさせられている。

 

 ごぎん、という音が鳴った。

 彼の胸に、キリカの両脚による蹴りが直撃した音だった。

 骨と内臓がミックスされた挽肉を吐き出すキリカの胸の傷から異形の槍が引き抜け、ナガレの身体が倒れる。

 蹴った方のキリカもまた宙を舞い、受け身も取れずに落下した。

 何秒が経過したか、先に立ち上がったのは黒い魔法少女であった。

 

「ハァ…はぁ…ハぁ…」

 

 胸に開いた大穴、どころではなく胸から下腹部にまでの肉が弾け飛んでいた。

 中身の内臓に至っては、肺は全損し肝臓と腸は回転する槍によって、肉叉に絡められた麺のように束ねられて引き千切られていた。

 

 回転による力はそれだけに留まらず、キリカの小柄な身体自体も大きく歪めていた。

 彼女の身体は四肢が壊れた人形の如く、いびつな歪みを与えられていた。

 その姿で、彼女はナガレの元へ鮮血と挽肉を零しながら歩いていく。

 破壊された腕から滴る血を集め、傷口の断面からは一本だけの小振りな魔斧が生えていた。

 これが正真正銘、最後の力だった。

 

 ほんの五メートルほど進むだけで、キリカはかなりの時間を要していた。

 その間に、ナガレも立ち上がっていた。

 腕の魔槍からは、鋭角が剥離していた。

 残っているのは、至る所に骨が見えるほどの傷が入れられた傷だらけの右腕と、五指を形成する壊れかけの鋼の爪。

 既に左手は右手以上に切り刻まれており、全くの役に立たない状態だった。

 

 またキリカに強打された胸は肋骨が折れ、折れた骨が肺と肉に突き刺さっていた。

 口から溢れる鮮血も拭わず、彼は目の前にキリカが来るのを待った。

 

 キリカが前に立ち、彼を見据える。

 黄水晶の瞳と、血の色を帯びて赤みを添えられた黒い瞳が向かい合う。

 互いの身は、キリカから飛び散った鮮血と挽肉と脂肪で彩られていた。

 気持ち悪いという感情は今はない。そんな余裕はない。

 そういった感情は、全てが終わった後に取り戻せばいい。

 

 キリカは左腕を掲げた。

 ナガレは構えずに待った。 

 迎撃か、抜刀術のように全ての力を一気に開放する道を選んだのだろう。

 

 そして振り上げられたキリカの左腕が降ろされた。

 その瞬間、キリカは思った。

 

『ばいばい、友人』

 

 そう認識した瞬間、彼女の動きが不自然な形で停止した。

 剛力を以て振り切られる筈の腕は、ただ重力に引かれるだけの緩慢なものと変わっていた。

 

「ああ…」

 

 キリカは前へ倒れながら呟いた。

 この原因を理解したのだった。

 身体を作動させることを拒む負の力の源泉は、彼女の背後にあった。

 

 腰の辺りでクロスされた二本の長い帯の中央に置かれた菱形の宝石は、酸化して黒く変じた血液よりもどす黒く濁っていた。

 喪失を思い浮かべた事による負荷が、最後の力を彼女から奪い去っていた。

 

 行動と全くの矛盾を見せた彼女の心。

 理不尽極まりなく、あらゆる理解を拒むような現象だった。

 その事に対する思いを、キリカの唇はこう述べていた。

 

「良かった」

 

 呟きながら、キリカは前へ倒れた。

 倒れたが、地面には落ちなかった。

 糸が切れた人形のようになったキリカを、ナガレが支えていた。

 

 軽い身体が寄り掛かっただけで、彼の身体もまた崩れそうになっていた。

 だが必死の力を込めて、彼は耐えた。

 最後の拠り所とでもするように、キリカの身体を抱いていた。

 

「はは。あと少しだったのに」

 

 自分を内側から侵していく異形の何かに耐えながら、キリカは笑った。

 いつものような、天使の笑顔で。

 

「なぁ友人、最後に」

 

「最後じゃねえ」

 

 縋るようなキリカの言葉を、ナガレは断ち切った。

 そして彼女の背後に回していた右手を開き、腰のあたりに近付けた。

 腕と同化した魔女に命じ、魔女の体内に格納していたそれらを手の中に顕現させる。

 

 長い爪と化したその手には、複数の黒い卵が握られていた。

 物理法則の如く当然の現象が生じ、キリカのソウルジェムは存分に闇を吐き出しグリーフシードは闇を啜った。

 握られていた五個のグリーフシードは、完全に濁り切り、キリカの宝石は元の色を取り戻した。

 

「…用意良いね」

 

 疲労感と苦痛、そしてどことなく残念そうな響きを帯びさせてキリカは言った。

 

「お前らと一緒に行動すんだからよ。準備位はするさ」

 

「うわ、なんか言い回しエロいね。ゴムを常に持ち歩いてるみたい」

 

「お前…」

 

「あ。あと私とする時はゴム着用禁止だからね。体内に異物が入るのって、なんかキモいから」

 

「あー…そうなの」

 

 浄化したとはいえ、傷はそのままであるのにキリカは元気であった。

 生々しい性絡み発言に奇襲を受けつつ、ナガレは安堵していた。

 

「うん、そうなの。じゃ、こっちもお礼をしてあげよう」

 

 言うが早いか、キリカが彼へとぴょんと跳ねた。

 そして瞬時に再生させた両腕で彼の肩を抱き、唇を重ねた。

 

「んん…ちゅ」

 

 唇から桃色の舌と、黒い魔力が送られた。

 ついでに行き掛けの駄賃とばかりに、彼の口内の血を唾液と共にじゅるっと啜る。

 彼の身に入った魔力を魔女が検知し、瞬時に自らへと取り込み力を復活させる。

 彼の全身に治癒魔法が行使され、全ての傷が癒えていく。

 

 鋼の爪は夢のように消え、代わりに肉で出来た手が再生される。

 ナガレの身体が熱を帯びてきたと察した時、キリカは唇を離して彼の身に自分の細身を絡ませ、滑り降りる様にして地面に足を付けた。

 

「ありがとよ。また死ぬとこだった」

 

「こちらこそ。あと数秒で私が私で無くなるトコだった」

 

 互いに身を再生させつつ、少年と魔法少女が語り合う。

 ナガレがキリカの右腕を拾い手渡すと、キリカは

 

「気が利くね。ありがと友人」

 

 と礼を言った。

 これに限らず互いを瀕死に陥れた事の原因は互いにある事を、両者は理解どころか認識しているのだろうか。

 

「んじゃさ、友人。これから私の家帰って、ゲームでもしようよ」

 

 渡された腕を肩にくっ付けながらキリカは言った。

 腕は問題なく接続され、何の後遺症も無く元通りとなった。

 

「お、いいな。じゃ、さっさと行くか」

 

 その様子に驚きもせず、ナガレは楽しそうに同意した。

 微笑むキリカは変身を解除し私服姿となり、ナガレは魔女に命じて自分の体表の全ての血と体液、そして臭気を消し去らせた。

 女子力の賜物或いは乙女や淑女の嗜みとでもいうのか、キリカはそう言った行為を治癒と並行して行っていた。

 

 身支度を整え清潔な身となった二人は、清冽な清水のように輝く朝日の中を歩いていった。

 ただ仲の良い年少者二人として寄り添い歩きながら、キリカの家へと向かって行く。

 先程までの死闘の事など翳りも残さず、またそれらなど今の歩みや呼吸と同じであるかのように。

 平凡な日常の一幕であるかのように。

 

 

 

 

 










二人のほのぼの模様でありました(そしてキリクへの風評被害。それにしても今週最終回のアークは果たしてどうなることやら…)
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