魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花㉖

「何が…素晴らしいだ」

 

 魔法少女や私への賛美を送るそいつ。

 私の姿をした何かへと、私は歯を剥き出しにしながらそう言った。

 今の私の姿を誰かが見たら、威嚇する猛獣か何かに見えたかもしれない。

 

「その美しさ、その心、そして魂」

 

 威嚇なんて全く通じなかった。

 まるで子猫でも撫でる様に、そいつは微笑んでた。

 

「つまり、貴女の全てだ」

 

 それは断言だった。

 本心からそう言ってるんだって分かった。

 分からせられた。

 

「きもちわるっ」

 

 思ったままに私はそう言った。

 キモいっていうよりも生々しい拒絶の言葉だ。

 少しは私の気持ちを思い知れ。

 

 そう思った。

 でも

 

「よし、完成っと」

 

 …そいつは、何時の間にか手に何かを持っていた。

 膝の上にあるのはスケッチブック、そして右手にはボールペン。

 左手には万年筆やら色鉛筆やらが握られてる。

 

 ずっと見ていた。

 片時も目を離していなかったのに、コイツの行動は変化していた。

 なんなの、これ。

 

「事後報告になったが、貴女を描かせていただいた。いかがだろうか」

 

 そう言って、そいつはスケッチブックを広げてこっちに向けた。

 言ったとおりに、私が描かれてた。

 魔法少女姿の私、呉キリカ。

 

 私から見て左のページには、両手から爪を生やして両腕を垂らして立つ私がいて。

 右ページにはまるで踊ってるみたいなポーズで、爪を生やした両手を頭の後ろでクロスさせている私がいた。

 その姿は、少なくともこいつには見せていないと思う。

 

 でも、これまでの魔法少女生活の中で、確かにそんな姿をしたことがあったっていう実感はある。

 何故、知ってるんだっていう疑問は既に湧かない。

 

 こんな意味不明な奴を相手に、常識で考えても意味が無い。

 でも考えることを辞めれば、私はそれこそ死人と同じだ。

 考えろ、思え、挑め。

 

「絵柄、違うんだね」

 

 とりあえずそう言った。

 左の私に比べて、右の私は顔が丸みを帯びているように見えた。

 何だろう、ソシャゲとかでよくあるランクアップ前と後のバージョン変化って感じなのかな。

 

「うむ。描いている間に変化した」

 

 私には描いている様子さえ見えなかったのだけど、とは言わない。

 もう既に私の負け同然の状態だけど、これ以上負けを重ねたくない。

 

「失礼な奴だね」

 

 だから非難の言葉を向けることにした。

 こいつは度し難い存在だが、何故か悪意は感じない。

 だから報復は無いだろうと思った。

 素直に認めるけど、死ぬのは嫌だからだ。

 会えなくなるのが嫌な人は、こんな私にだっている。

 

 しかしながら、私の命はこいつの掌の上に置かれた塵芥も同然だとは理解している。

 吹かれれば簡単に吹き散らされて、そして二度と戻らない。

 

「本当に申し訳ない。つい熱気が入ってしまった」

 

 苦笑ししながらそいつは言った。

 どうやら殺される心配は無いらしい。

 じゃあ存分におちょくれる。

 

「熱気って何に?」

 

「貴女に」

 

 ごめん。

 無理。

 ここから何かを繋げようと思ったけど…こいつほんとに、きもちわるい。

 

 はい?と拒む様に言い返す。

 

「私は貴女のファンだ」

 

 うわぁ。

 うわぁっていうか。

 キャーだよ、キャーって感じだよ。

 

 悲鳴を上げて逃げたい。

 たすけて、友人。

 

「…きもちわるっ」

 

 本日二度目。

 前の時より嫌な気分だったから、発音にもそれが表れてた。

 

「そう受けて頂いて構わない。私はそれだけのことをしたのだ」

 

 平然とそいつは言う。

 現象、まるで概念を相手にしてるみたいだ。

 

「そういうお前は、何なのさ」

 

「なんだと思う?」

 

「…自らの存在を問い掛けるとはね」

 

 ムカつく。

 ほんとに。

 

「あ」

 

「なに」

 

 気付いたような声に、私も苛立ってた。

 

「いやね。前にもそう言われたもので」

 

「成長しないのかな」

 

「進化はしてるんだけどね。成長って難しいんだよ」

 

 言葉の一つ一つが妙にオーバーだ。

 それでいて、嘘は言っていないって気がする。

 

 なんだ。

 なんなんだこいつ、ほんとに。

 

 駄目だ、飲まれる。

 話を変えろ。

 

「よく描けてるよ。今度描き方教えてね」

 

「ご評価を感謝する。そして残念だが、それは無理だ」

 

「企業秘密かな」

 

「そういった訳では無いのだが、時間が足りない」

 

「お仕事、お忙しいの?」

 

「今は鞄持ちの身習い事のようなものをしている。昔はカウンセラーもしていた」

 

 淀みなく返事を返してくる。

 何かに雇われているのか、という内情と過去の一端を伝えてきた。

 

 カウンセラーか。

 確かに私はこいつに促されるみたいにして、言葉を引き出されている感じがする。

 

「何か悩んでるのかい?私でよければ話を聞こう」

 

 あ、もう無理。

 限界。

 プチりんときた。

 

「お前、何様?」

 

「私は私だ。貴女の思うままの存在と受け取って構わない」

 

 椅子に座り続けながら、微笑んでる。

 頭の中で怒りと恐怖と嫌悪感と、いろんな感情と一緒に思考の光が駆け巡る。

 こいつの今までの発言、私が今まで生きてきて見聞きしたもの。

 それらをごちゃ混ぜにして私なりに考える。

 

 こいつに常識は通用しない、なら、狂った考えでもいいからぶつけてやる。

 吐き出してやる。

 カウンセラーを名乗るんなら、本望だろうさ。

 

「なら、私はお前を神様とでも定義してやる」

 

「ほう」

 

 感心したみたいだった。

 眼も少しだけ跳ね上がったのが見えた。

 

 なんだろうね、核心でも付かれたんじゃあるまいし。

 いいや、気にしない。

 どうせ演出だよ、演出。

 

「それもあれだよ。よくあるだろう?ループする世界とかを司ってる奴」

 

「続けて」

 

 そいつは話を促す。

 私と同じ黄水晶の眼は、興味に輝いて見えた。

 癇に障る。

 

「云われなくとも。話を聞く限りだと、私の事を随分と知ってるみたいじゃないか」

 

「私は魔法少女が好きだ」

 

「答えになってないね。あと言い方気持ち悪い。観測者って言うか変態だ」

 

「どう捉えられても構わない」

 

 何度目かだけど、こいつに付き合うのは無理だ。

 だから自分の意見を述べよう。

 

 そしてなるほど、ふむ…観測者か。

 なるほど、神の視点てやつか。

 

 …何言ってんだろ、私。

 でもいい。

 吐き出してやる。

 

「そうだ。お前は世界を見てる。確かめる術も無いし実感なんてある訳ないが、私達が生きるこの世界は何度も時間をやり直してるとしよう」

 

 吐き出す。

 

「何を切っ掛けかは分からないが、終焉を迎えた世界はまたゼロに還って繰り返す」

 

 吐き出す。

 何故かそう言った時、そいつの笑顔がさらに深くなった気がした。

 緩く開いていた口が、半月の形になったみたいに。

 知った事か。

 

「その中で私達は何度も生まれて生きて、何度も死んで、出逢い別れてを繰り返す」

 

 言っててなんだけど、心が張り裂ける思いだ。

 仮にそうだとしたのなら、私達は単なる駒で道具じゃないか。

 

 道具となるのは構わない。

 でもそれは……いや、よそう。

 

「憎しみ合い、或いは関わりもせず、そして…」

 

 言葉に詰まる。

 でも言う。

 

「愛し合う」

 

 これだけははっきりと言える。

 この言葉は私を構成する重要な因子だ。

 

 『愛』。

 『愛』だ。

 

 この言葉を思うだけですべてに対して救われる。

 それでいて、身と魂を刻まれる思いが去来する。

 

 そうだ、それでいい。

 その度に愛を感じられる。

 私はそうしていないと、生きていられない。

 いや、存在し続けられない。

 

 他者に依存しないと、私は私で、呉キリカでいられない。

 

「お前は私が…いや、私達が悩む様子とか、身と心が刻まれる様を見てせせら笑ってやがるんだろう」

 

 そういった物語でよくある事だ。

 戦いを宿命づけられて、何度も戦い最後の一人になるまで、或いは決定的な破滅を回避するために戦い続ける。

 

 もし勝者になっても結果が望むものでなければ、容赦なく時間は戻される。

 或いは破滅を回避できず、次を目指して時間を戻す。

 

 私はアニメはよく見るけど、こういった作品が好きなのか嫌いなのか、正直よく分からない。

 でも視聴者、即ち全てを客観的に見れる神の視点は気楽だ。

 当然だけど、キャラクターの懊悩や苦悩は個人差はあれど娯楽の部類に違いない。

 

 神の視点で、愚者であり道化である駒たちの様子を見て悲しんで燃えて萌えて、笑い続ける。

 あの時のアレがああなった。

 今回の世界ではこうだった。

 次回からはどうなるのだろう。

 

 そんな感じに考察しながら。

 

 でもね、改めてそう言ってて思った。

 これは嫌だ。

 

 少なくとも私はそんなループに、円環に巻き込まれるのは御免だ。

 次があるからとか、そういうのは好きじゃない。

 終わった時は戻らない、ただ無為に消えるだけだ。

 言ってしまえば全てが無駄になる。

 

 仮に何かを残せたとして、それが何になる。

 上手く説明は出来ないが、私はそういったものにはなりたくない。

 今の私の未来は、今の私が創って遣る。

 次とか前とか、知ったこっちゃない。

 

 自分でも気持ち悪くなってくるくらい、考えが滾々と湧いてくる。

 それを次々と吐き出す。

 

 さっき思った事を言葉にして、カウンセラーを名乗るそいつに叩き付ける。

 そいつは頷きながら聞いている。

 

 時々相槌を打ちながら、実に興味深そうに。

 自分の意見は述べず、ただ私の話を聞いている。

 

 認めたくないけど、聞き手としてのこいつは中々に優秀らしい。

 私も昔小学校でカウンセリングを受けたけど、結局は「君も辛いけどみんな悩んでる。だから学校に行こう。ちゃんと人と話そう」っていう結果を求めての誘導だった。

 今思えばあのカウンセラーは大学出たばっかりくらいの歳の男だったけど、どさくさに紛れて私の尻と胸、更には股も触ってた気がする。

 

 話をしてる最中の視線は、私の身体で性を主張する部分を粘ついた視線で見てた。

 私から話を引き出しながら、想像の中で私を犯しくさってたに違いない。

 

 たどだとしく言葉を続ける私の口に自分のものを突っ込んで、頭を抱えて強引に前後させて口と喉を犯すとか。

 今よりも小さい身体を抱えて、後ろから突き込んで強姦するとかさ。

 もしかしたら、結構危なかったのかも。

 

 そういえばあいつ、クビになったんだかカウンセリングは途中で終わっちゃったんだよね。

 ひょっとして、他の誰かに手を出したか実生活で何かやらかしたのか。

 それとも母さんが手を回してくれたのかな。

 あの人、そういうとこにはめざといから。

 

 嗚呼、それにしても、そんなに小学生女子の乳と尻と膣が欲しいのかね。

 なんか友人の気分が分かってきた。

 

 子供に欲情する奴は異常だ。

 友人は正しかったんだね、諦めないけど。

 

 何時の間にか、私の口は動くのを止めていた。

 意思と言葉は何時の間にか乖離してて、私は思考に没頭してた。

 それに気付いて、私は心と体を一つに戻した。

 そして、突き付けてやるようにしてこういった。

 

「お前の正体なんか知らないが、お前は私の世界に踏み入ってる。私の心という世界を覗いて、支配した気分になっている。お前は狂った破壊者だ」

 

 人と同じ姿を取って、人の心に干渉する。

 破壊者、または心を世界とすれば破界者とでも呼んでやろうか。

 

 ここまで来ると、私の妄想も大したものだと思えてくる。

 将来は絵本作家にでも成ろうかな。

 言い終えてそいつを見ると、眼を閉じて腕を組んで考えていた。

 そいつがまた口を開いたのは、私がそれを見てから直ぐの事だったけど、なんか妙に時間が掛かった気がした。

 

 

「破壊者か。そう言われると返す言葉も無い」

 

 

 肯定しやがった。

 まぁ確かに…カウンセリングでは患者の意思の否定はしない方がいいと聞くけれども…なんだ、この。

 肯定された事の安堵、いや、納得感は。

 

「私は私がしてきた事を悔やみはしないが、確かに褒められた行為ではない」

 

 そいつは続ける。

 淡々とした口調で。

 ただ事実を言うように。

 

「だが私は生まれた意味と、なりたい自分を探していた。随分と回り道をしたものだが、今の立場は気に入っている」

 

 おかしい。

 こいつは本当におかしい。

 

「その結果、私は力を得た。ならば今は得た力を使い、やるべきことを為すまでだ」

 

 何故私の話から、そういった言葉が出てくる。

 それじゃあ、まるで、ほんとうに…。

 

「それは呉キリカ、貴女も同じ事だろう」

 

 そして唐突に、話の主題に私を置いた。

 訳が分からないよ。

 

「思うままに。されど自らを律する自らの法の下に、貴女もやるべき事と成したい事を為すといい」

 

「…いい事言ってるつもりかい?」

 

「そう受け取ってもらえるなら、何よりだ」

 

 そう言って奴は微笑む。

 形で見れば、こちらも笑い返したくなる形だった。

 私もこんな感じなんだろうか。

 客観視ってのは難しいね。

 

 そう思うと、空からぽっと光が射した。

 最初は何処から来たのか分からない。

 でもそれはどんどん広がって、私達の周囲を埋め尽くしていった。

 

 それは夕焼けみたいな、血の色みたいな光だった。

 さっき色々考えたけど、世界が壊れていく様っていうのは、こういう感じなのかも。

 

「どうやら、奴は勝ったらしい」

 

「当然だ」

 

 奴って言い方はさっきもしてた。

 誰を表すのかは考えるまでも無いね。

 とことんウザい存在だな、こいつ。

 

「さて、私はそろそろ消えるとしよう。さらばだ呉キリカ。私は良き時を過ごせた」

 

 赤く染まった私は、そう言った。

 

「うん、ばいばい。二度とそのツラ、見せないでね」

 

 私もそう言った。

 本心から、もう二度と会いたくなかった。

 

「名残惜しいが、私の事は忘れた方がいい。あの存在についても同じだ」

 

 やっぱり話が噛み合わない。

 そしてそれはきっと、私の後ろにある大きな六角形だろう。

 手から生やした爪の刃を鏡みたいに使って、後ろを見た。

 赤い光に包まれてるのに、それは濃い緑で輝いてた。

 

 

「マハールターマラフーランパ」

 

 

 それを見ていると、そいつはそんな言葉を言った。

 何かの呪文みたいだった。

 

 私達とは違う、アニメや漫画の中の、創作物の中の魔法少女が使うみたいな。

 それが言い終わった時、そいつの姿は曖昧なものに代わっていった。

 手足に胴体にと、モザイクみたいな茫洋とした輝きが広がっていって、最後は顔も覆い尽くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれ、何だろう。

 

 あのモザイクみたいな光、何かを隠しているみたい。

 

 あ、消えた。

 

 何も無くなった。

 

 そもそも、私は此処で何やってるんだろ。

 

 此処って何?

 

 そしてそんな事より、友人は何処?

 

 何この赤い光。

 

 怖い。

 

 寂しい。

 

 友人に会いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そう思った時、口の中に味がした。

 

 眼が覚めるような潮の香と命の味が口いっぱいに広がって、私っていう器を満たす。

 

 友人の味。

 

 

 

 

 どうせ誰も見てないし、言ってしまおう。

 

 たかだか友人如きが相手だし、勿体ぶった伏線も無しで問題なし。

 

 うん、そうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 の味がした。

 


















そろそろ書いてて怖くなってきた。
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