魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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番外編 流狼と錐花㊱

 一週間ぶり、正確には日付が変わったとので八日ぶりの帰還となった。

 役割を終えた神の家、風見野の廃教会である。

 空には相変わらず黒雲が浮かび、月光は世界を照らすには至らず薄く光の色を塗る程度に留まっていた。

 敷地内の広場を通り過ぎ、更に闇が色濃く溜まる教会内へと足を踏み入れる。

 

「ん…?」

 

 その直前に、ナガレは匂いを嗅いだ。

 種類は主に二つ、色濃い血臭とアンモニアの刺激臭。

 その根源を探すと、入り口から少し離れた場所にそれを見つけた。

 

 無言で近寄り、詳細を確かめる。

 

「……」

 

 なんと声を掛けようか、ナガレは考えたが結局は無言のままだった。

 乙女の尊厳を無視したかのように衣服を剥ぎ取られ、皮や肉、そして内臓を散乱させて白目を剥いて倒れていたのは優木沙々だった。

 ピクピクと死に掛けの蟲のように痙攣していたが、半壊した帽子にくっ付いているソウルジェムの様子を見るとまだ余裕があるようだった。

 

 顔の近くに複数のグリーフシードを置き、切断された手足を拾って断面をくっ付けてやってからナガレは廃教会へと向かった。

 少し心配だったが、彼が顔を近付けた瞬間に白目が解除され、陶然と蕩けた眼でナガレの顔を眺めた為に彼は大丈夫だなと判断した。

 傷口や場所からして加害者は杏子に違いなく、復活しても怯えて今日は来ないだろうと思い優木の事は放っておく事にした。

 今は、優木以上に厄介な存在と向き合う必要がある故に。

 

 屋内である為に、当然ながら教会内は更に闇が色濃い。

 踏み入れた瞬間、反射的に彼は匂いを嗅いでいた。

 今回の外出の切っ掛けは、教会というかこの場所の主の衛生面の改善を為すためであった。

 

 鼻を使った結果、臭気は人が生きるに当たって生じるものの最低限ほどしか感じられなかった。

 そのことに少し驚き、というよりも感心し、そして闇の奥を見る。

 散乱していたゴミが消え、空間に余裕が出来ていた。

 

 見渡しながら歩き、進んでいく。

 経年劣化が生じる床と二百キロに達する自重がありながら、床を踏み抜かないどころか一切の音を出さずに歩いていく。

 

 そして彼は、寝息を立てるものの直ぐ傍に立った。

 その時、ナガレは首を傾げた。

 ソファの上に横になっている者が誰かは、気配と髪型で分かる。

 問題は服装だった。

 いや、これを服装と呼べるのか。

 

 纏われていたのは、もこもことした質感の、服と言うか着ぐるみだった。

 青をベースとして、蛇腹のような縞模様の袖が通されている。

 ふっくらとした盛り上がりの腹の辺りには、大きな星マークが描かれていた。

 

 そのズングリムックリさと、細長い腕に彼は僅かながら既視感を覚えていた。

 投げ技や砲撃が得意な形態との類似点を見出していた。

 その自分の考えに、自分は自嘲気な笑いを感じた。

 あの存在と関わって、自分も毒されてるなと思ったのだ。

 

 そう思った後に、なんでこんなの着てるのかなとも思ったが、温かそうなので布団も兼ねてるんだろなと納得した。

 出処はどうせ、外の優木が何処かから持ってきたのだろうと。

 そして優木はと言えば、今では既に気配は消えている。

 逃げたのだろう。賢明である。

 

 仰向けに寝る杏子の近くに、彼は買い物の袋を置いた。

 今まで魔女の中に格納していたものだった。

 そして振り返り、自分の寝床へと進んでいく。数歩進んだ時、背後で音がした。袋を漁る音だった。

 

 再び振り向き、背後を見ると座りながら袋を探る杏子の姿が見えた。

 当然衣服と言うか纏ったものはそのままゆえに、まるで休憩中の遊園地のスタッフのような姿となっている。

 

「ただいま」

 

 その言葉は自然と出ていた。

 

「おかえり」

 

 憮然とした口調だったが、杏子もそれに返した。

 

「随分と長い買い物だったね」

 

「色々あってな」

 

 本当に、本当に色々あったなと彼は思いを馳せた。

 

「ふぅん。仲の宜しい事で」

 

 皮肉気に言う杏子。嫉妬ではなく、呆れの口調である。

 言いながら、新品の下着とホットパンツを無造作に取り出し寝床の近くに放り投げる。

 男の前でやる行為とは思えな、くもないが、それは余程親密な間柄くらいだろう。例えば同棲中のカップルのような。

 しかしこちらの場合は、そもそも意識していないといった風である。

 

「…ん?」

 

 袋を漁る手が止まる。何事かと思うと、杏子は袋の中から別のものを取り出した。

 それは、黒い袋だった。ナガレはそれに見覚えがあった。

 下着やホットパンツを買った後、キリカが何処からか入手してきたものだった。

 いつの間にか袋の中に混入させていたようだ。

 その袋には、一枚のメモ的な紙が貼られていた。

 

「『私からの気持ちです。使ってください』…か」

 

 それを杏子は読み上げた。要はプレゼントだろう。

 嫌な予感がした。

 ナガレと杏子、その両者がである。

 

「あー…ちょっと慎重に言った方が」

 

 ナガレはそう言ったが、それが反骨心を招いたようだ。

 躊躇していた杏子は手を一気に袋に突っ込み、何かを掴んだ。そして引いた。

 

 それを見た瞬間、ナガレの表情は引き攣った。

 着ぐるみを着た杏子の指先では、細いコードが垂れていた。

 コードの先には楕円形の小さな物体が付いている。コードの反対側には小さなコントローラーのようなもの。

 

 それらの色は、闇の中でも眩さを纏ったピンク色だった。

 何に使うのか、どうやって、そして誰が使うのかは一目で分かった。

 それに追い打ちをかける様に、コントローラー側には袋と同じくメモが付着していた。

 

 メモには『佐倉杏子へ。使いすぎ注意ね by黒い魔法少女より』と書かれている。

 

 杏子はそれを無言で投げ捨てた。桃色の淫具は宙を舞い、彼女の寝床へと落下した。

 そして空いた手で、再び袋の中に手を突っ込んだ。

 

 引き抜いた手は、縦長の二十センチほどの物体を掴んでいた。

 四角い立方体はパッケージの箱である。

 

 そこにはヒラヒラとした短い裾のスカートを履いた、露出の高い衣装を纏った少女が描かれていた。

 肩は剥き出しで前述のとおりスカートの丈は膝よりも上、腕も肘までがレースで覆われていたが肩からその間までは白い肌が見えている。

 少女の髪は長く、絹のようなロングのストレートヘアが腰まで垂れていた。

 

 手には煌びやかな造詣の槍が握られている。このイラストが何を表しているのか、容易に察せられた。

 架空の存在ではあるが、魔法少女である。そしてその少女は、燃えるような真紅を基調としたカラーであった。

 服も髪も、金色の槍を除けば全てが紅で彩られた美少女だった。

 

 少女はこの世の残酷さを全て受け止める女神の如く微笑み、可愛らしくも勇壮なポーズを取っていた。

 

 そしてそのすぐ近くに、女性の器を模した形状をした淫らな唇と襞が赤裸々に描かれていた。

 サンプル画像と言うやつである。

 

 それを見て、彼は絶句していた。

 杏子は一声も発しない。

 無言でそれを、自分と似た容姿を持った少女が描かれた性の玩具を握っている。

 

 その箱にもまた、メモ用紙が貼られていた。

 曰く、

 

『こういうのって、本物より具合が良いらしいね by佐倉杏子のアンチより』

 

 とあった。

 言うまでも無く、廃教会内の雰囲気は筆舌に尽くしがたいものとなっていた。














次回、呉キリカさん編最終回
(そして記念すべきと言うか200回目となります)
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