魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第75話 狂依存の錐花、懊悩の朱い音

「しっかし、まぁ…」

 

 ハスキーさを帯びた少女の声が空間内に木霊する。

 

 

「発情紫髪のワープ魔法で友人を助けに来たはいいが……佐倉杏子の性的倒錯行為、ここに極まれりだな。君もそう思わないかい?朱音麻衣」

 

 

「雑魚キャラみたいな説明口調に過ぎるな、呉キリカ。貴様に同意するのは不愉快だが…今回は反論する意味も無いな」

 

 

 仲の悪さを証明するように、距離を取って並ぶ呉キリカと朱音麻衣。

 両者の間の雰囲気は言うまでも無く最悪である。

 そしてその前には、佐倉杏子とナガレの姿があった。

 

 互いの身体を重ね合い、互いに寄り掛かる事で転倒を防いで立っていた。

 それだけ見れば尊い姿であっただろう。

 

 しかし、両者を取り巻く環境は異常そのものだった。

 周囲には血と臓物の破片が飛び散って異様な臭気を発し、その出処である佐倉杏子は全身に隈なく傷を負っていた。

 切り傷に打撲にと、美しい身体には執拗な拷問を受けたような凄惨な傷が無数に浮かんでいる。

 

 破れた腹からは小腸が垂れ下がり、時間の経過により粘膜が乾いて表面がささくれていた。

 そんな彼女に抱かれるナガレもまた酷い火傷を顔や体に受け、両腕は異様な形状の義手で構築されている。

 だが、最も異常なのは両者を一本の真紅の槍が貫いている事だった。

 

 それは佐倉杏子の手に柄を掴まれ、ナガレの背から入って彼を貫通し、杏子の背から抜けていた。

 槍はナガレの心臓と杏子の胸の宝石を貫き、それらを繋いでいた。

 

 

「へぇ、友人てば気持ちよさそうな顔してるね。可愛い」

 

 

 室内の異様さには一瞬で慣れ…いや、そもそも気に留めてすらいないようなキリカの言葉はナガレの顔の直ぐ近くで生じていた。

 それこそ、唇が彼の肌に触れそうなほどの。

 

「どけ」

 

 ナガレの顔を覗き込んだキリカを、麻衣は憮然と除けた。

 そして彼の顔をしばし見つめた。杏子の事は完全に無視している。

 

 

「はぁ…」

 

 

 溜息を吐く麻衣。欲情で熱く濡れた吐息だった。

 その様子に、キリカは理解出来ないといった顔になった。

 そして麻衣は懐から端末を取り出し、意識を失って目を閉じたナガレの顔を撮影し始めた。

 写真は連射で、可能な限りのアングルを試していく。

 彼の顔の全てを記録せんばかりの、舐め廻すような撮影が続く。

 

 

「それ、部屋に飾るのかい?天井や壁や床にびっしりと」

 

「愚問だ」

 

「サイコパス」

 

「勝手に言え」

 

 

 キリカの言を鼻で笑い、麻衣は撮影を続ける。

 

 

「そして意気地なし」

 

 

 しかしそう言われた時、彼女はシャッターを切る手を止めた。

 

 

「なんで撮影で我慢するのさ。どうして友人の唇に自分のそれを重ねないんだい?」

 

「…それは、卑怯だからだ。そういうのは堂々と同意のもとで行うべきだ」

 

「立派だね。そんなんだから色々と先を越されるんだよ」

 

「……詳細を話せ」

 

「お前と会話しろだって?スズメさんやアシナガグモと会話してた方が話が弾みそうだね、断固として拒否する。でも」

 

 

 いい様、キリカは麻衣の襟首を掴み引き寄せた。

 精神的な動揺もあり、麻衣の反応は遅れていた。

 普段なら、キリカの手が衣服に触れた瞬間にその手首を切り飛ばしている。

 

 

「教えてやるくらいはしてあげよう。愛というものを」

 

 

 そう言うや彼女は朗らかな笑顔を浮かべ、麻衣の額に自分の額を重ねた。

 次の瞬間、麻衣は悲鳴を上げた。

 

 皮膚が触れた時、キリカは魔法を使っていた。

 自分の記憶の一部を麻衣へと見せたのである。

 

 少し前に彼との間で繰り広げた、筆舌に尽くしがたい日々と行為の様子を。

 

 

「貴様…それでも人間か」

 

 

 麻衣の言葉は、問い掛けではなく拒絶だった。

 自分と同じ種族の存在であると、考えたくなかったのである。

 

 

「魔法少女だ。お前と同じ、ね」

 

 

 彼女の言葉を予想していたか、キリカは朗らかな笑顔で、悪意を滴らせながら答えた。

 上がりそうになった悲鳴を、麻衣は必死にこらえた。

 

 

「あれが、愛…だと?」

 

 

 具体例を麻衣は出さなかった。キリカが彼に対して行った行為の全てが、麻衣の理解を超えていたからだ。

 

 

「うん、私は友人を愛してる。無論、性的な意味も多分に含む」

 

 

 聞いた瞬間、麻衣は歯ぎしりを鳴らせた。ぎしぎしという音の先に、破壊音が生じた。

 狂気に対する気付の為に、奥歯を噛み砕いたらしい。

 

 

「あれの……肉体を用いての捕食行為や吸血が、性だと?冗談もいい加減にするんだな」

 

 

「生物としての本能と言っておくれ。私は子宮に命を宿したい」

 

 

 呉キリカに対して、麻衣は生理的な気持ち悪さを感じた。

 話が噛み合わないのもあるが、純粋に、とても気持ち悪いのだった。

 

 

「貴様が母になると云うのか。悪夢のような冗談だ」

 

 

「まーた嫉妬か。そのくせ自分は変わらない。だからお前はずーっと中途半端なままなのさ」

 

 

 反論に対するカウンターは麻衣の心を貫いた。

 キリカから垣間見せられたビジョンには、裸体を彼に晒すキリカの姿も映っていた。

 更には欲情に狂い、ベッドの上で苦しむキリカの手を優しく握る彼の様子も。

 どちらも性行為には至っていないが、麻衣にとってそれは、執着の対象が奪われて無惨に破壊されていく光景に等しかった。

 

 

「言葉では嫌ってて、依存するために憎んでるっていう異常性癖持ちで、そのくせ友人で自慰行為をするのが大ぁい好きの佐倉杏子は友人を実質支配下に置いて常時総菜にしまくりで、数えた限りだと一日で最大二十五回はしくさってる。私も家に二十四日と十三時間二分五十二秒も友人を滞在させて母君にも紹介済みだ」

 

 

 打ちのめされた麻衣に対して、キリカは更に言葉を投げ掛ける。

 その一語一語が、麻衣の心を更に抉る。

 

 

「裸体も余すことなく…ってほどでもないけど晒したし、見ての通り肉を開いて内臓の奥まで見て貰った。そしてキスをしながら血と肉をじゅるじゅると啜って」

 

 

 恍惚とした表情でキリカは告げる、そしてトドメと言わんばかりに

 

 

「ここに啜った血を溜めて、そして今一つになっている」

 

 

 下腹部を撫でながら、腰から外したダイヤ型のソウルジェムを麻衣へと掲げた。

 青紫の色の下に、赤い何かが流動している様子が見えた。

 麻衣は感じた。

 湧き上がる吐き気と嫌悪感、狂わされていく己の正気。

 

 そして、嫉妬と欲情を。

 

 

「で、お前は何?狂ったふりをして、それを口実に浅ましい欲情のままに友人の胸の肉を貪り食っただけじゃないか」

 

 

 十二分に狂気に浸った事柄を例に出し、それを更に欲望の値が低すぎると付け加え、キリカは断罪者の如く口調で告げた。

 

 

「親が…厳しいんだよ」

 

 

 蚊の羽音よりも小さな声で麻衣は言った。

 両親から異性交遊を認められていないという事だろう。

 その返事にキリカは深いため息を吐き、そして侮蔑の表情を浮かべた。

 

 

「たかがそれだけが愛の障壁か。軟弱な」

 

 

 吐き捨てるキリカ。

 麻衣は耐える。それしか出来ない。

 

 

「お前と話してると無力感に苛まれるね。ああ、早いとこ今の場面終わらせて、友人といちゃいちゃとセックスしたいよ」

 

 

 麻衣の肩がびくりと震えた。

 怒りと無力感と嫉妬が綯い交ぜになり、彼女の中で増えていく。

 

 

「互いに血深泥血塗れになって、皮が消し飛び肉が弾けて骨がブチ折れ、内臓がぐちゃぐちゃになって垂れ下がる。その中で牙を見せて嗤い合って、死の寸前まで殺し合う。嗚呼、なんてすばらしい性行為なのか」

 

 

「そ…れの…どこが…性行為…なんだ」

 

 

 たどたどしい口調の麻衣。唇からは鮮血が溢れている。

 舌を噛み切ったのだろう。

 

 

「生と死が交じり合う、どっちが死んでもおかしくないほどの命と血肉の交差だから。肌を重ねるよりも相手の体温と存在の温かさや尊さを知れるのさ」

 

 

 キリカは堂々と胸を張って答えた。

 それが真理であるかのように。

 

 

「因みに子供の名前も既に考えてあるんだ。男の子なら『キリカ』、女の子なら『キリカ』だ。発音が違うだけで大分印象が変わるだろう?」

 

 

「貴様の…事は…大っ嫌い…だったが…今…それを更に…更新、した…貴様は…腐肉に集る…蛆虫以下の…腐れ外道だ」

 

 

「はっ。それは自分の顔を見てから言うんだね。嫉妬と欲情に劣等感、それが今のお前の貌だ」

 

 

「…黙れ」

 

 

 唸り声を伴いながら麻衣は言う。

 右手は既に腰に差した刀の柄に触れている。

 

 

「話を戻すけど、そんな命の重ね合いを私は何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も」

 

 

 楽しそうな表情で、狂った録音機のようにキリカは同じ言葉を重ねていく。

 

 

「何度も何度も何度も何度も何度も友人と繰り返してる。あとその後で友人の生の手で傷口に薬をぬりぬりしてもらった時なんて、嗚呼」

 

 

 頬を紅く染め、白手袋で覆われた両手を両頬に重ね、細い身を蛇のように捩らせながら

 

 

「あ、ヤバ。思い出すだけでイッちゃう。だってさ、あいつの手ったら妙にやらしいんだよ。骨と神経に触れた時なんて、私は直接あの指に触れられる骨と神経に嫉妬して狂いそうになったんだ」

 

 

 と言った。顔が蕩け、腰が震えているあたり、快楽に溺れかけているという事は嘘ではないようだ。

 

 

「黙れ」

 

 

 血潮の臭気が濃厚に漂う室内に、キリカが発する雌の香りを感じながら麻衣は再び言った。

 

 

「あ、無理。我慢できない。あ、あ…あぁ…友人、そんな奴から離れて、早く私と肌と血肉を重ねようよぅ」

 

 

 既にキリカは麻衣を見ていなかった。

 微動だにしない彼の元へと、キリカは両手の繊手を伸ばした。

 欲情に駆られていながら、それは我が子を抱く母のような優しい手の広がりを見せていた。

 そこで麻衣の精神が限界に達した。

 

 彼女の脳裏には、ナガレを自らの子供だと定義したキリカの姿が映っていた。

 そして、毒に侵された彼を救うべく、慈母の表情を見せた彼女の姿も。

 

 

「黙れぇぇぇぇぇえええええええ!!」

 

 

 嫉妬と憎悪に狂った叫びを上げながらの抜刀。次元を切り裂く力を乗せられた刃が煌いた。

 

 

「うん、そうするといいよ。お前がね」

 

 

 その声は、麻衣の背中で生じていた。

 同時に感じる、全身に粘りつく異様な時間経過の気配。

 その認識と、激烈な熱さと痛みは同時に来た。

 

 

「------------!!!」

 

 

 声にならない叫びを麻衣は挙げた。

 豊かな胸が内側から抉られ、豊富な脂肪が外気に晒されていた。

 蜂蜜のような黄色い脂肪は血に塗れ、折れた肋骨が四方に飛び出ている。

 その中央には、赤黒い斧が血と脂に濡れた切っ先を見せていた。

 

 

「よいしょっと」

 

 

 軽く言いながら、キリカは麻衣の背を蹴った。

 背中から胸を貫通した右手が引き抜かれ、麻衣の傷を更に広げた。

 ぐちゃぐちゃに破壊された麻衣の胸の惨状は、かつて彼女が食い散らかしたナガレの胸の様子に似ていた。

 それだけが、麻衣にとっての救いであった。その事が、砕け散りそうな麻衣の心を支えていた。

 それを察したか、キリカは優しく微笑んでいた。

 

 抉り出した麻衣の心臓を、倒れた麻衣の顔の前で掲げながら。

 そしてそれを、ゆっくりと自らの美しい顔の前に近付け、まるで林檎でも齧る様に歯を立てた。

 絶叫する麻衣。

 その彼女へと、キリカは回し蹴りを放った。

 胸を大きく抉られた麻衣は木の葉のように吹き飛ばされ、佐倉杏子の血肉で彩られた壁面に激突し、新たな血の花を壁面に咲かせた。

 

 

「うええ、ゲロマズ。やっぱり私にはカニバリズムの気は無いんだな。ノーマルな性癖で助かったよ」

 

 

 ぺっぺと渋柿でも吐き出すように、キリカは麻衣の心臓の破片を床に吐き捨て本体を握り潰した。

 麻衣の心臓が弾け、四方八方に無意味な肉片となって飛散する。

 

 

「当然ながら、友人じゃないと駄目か。全く、友人ときたらどこまで私を愛に狂わせれば気が済むんだ?」

 

 

 嘆く様に呟くキリカ。されどその黄水晶の眼には、子と伴侶を見つめる慈愛の色が映えていた。

 そしてそれは、ある存在を見た時に一変した。

 誰であるかは言うまでもない。

 彼と抱き合ってい、槍で繋がれている真紅の魔法少女である。

 

 

「お前、邪魔」

 

 

 憎悪以外の感情を廃した声は、一切の熱の籠らない永久凍土のような声だった。

 それに等しい冷たい瞳を暗澹と輝かせながら、キリカは杏子の元へと美しい死神のように近付いていく。

 

 

 














久々のお二人
書いててなんですが、地獄みてぇ……
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