魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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エピローグ1 Darkness・Prompt

 赤。緋。紅。朱。

 眼にも鮮やかな赤が、鏡で形成された地面の上を覆っていた。

 新鮮な血液は肉の内から解放されたばかりであることを示す、芳醇な臭気を放っていた。

 湖面の如く広がる血溜りの上に、大小様々の人体の部品が、まるで島々のように点在している。

 

 指、手足、耳、頭皮、肝臓、腎臓、膵臓、心臓に腸に、そして抉り出された子宮が。

 全てが三センチほどの厚みを持った血溜りの上に置かれている。ばら撒かれている。

 そしてそれは、今も続いていた。

 

 鏡の世界の中に少女の怒号と咆哮が鳴り響き、音速を超えた速度で降られる斬撃が、そこへ迫り来る煌びやかな衣装を纏った少女達を切り裂き無意味な肉片へと変えていく。

 少女達は衣装や頭髪の色も様々だったが、ただ一つだけ、顔が鏡で形成されているという共通点があった。

 その鏡が、加害者の姿を映していた。

 

 薄紫の毛髪を紫の帯で巻いた、白と紫の布地で構成された武者風の姿をした少女の姿が、肉片となって血の海に沈んでいく少女達の鏡の顔に映っていた。

 風見野屈指の実力を誇る魔法少女、朱音麻衣である。

 振り終えた一刀の先で湧き上がる、間欠泉のような血の奔出。分かれた人体から溢れる臓物の山。

 

 しかし、血色の瞳はそれらの地獄を見ていなかった。

 彼女が見ていた、いや、求めていたのは新たな敵の姿であった。

 

 血の海の上に山と浮かぶ死骸の奥に、それはいた。

 真紅。人型の炎のような姿。

 十字架を模した穂を先端に付けた長槍。

 その認識の瞬間、麻衣の意識は炸裂していた。

 憎悪によって。

 

 

「あああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

 

 魂が砕けたような絶叫。そして疾走。

 真紅の魔法少女の複製が槍を構えるより早く、麻衣は複製の喉を右手で捉えていた。

 複製の細い首からは出血。麻衣の手は掴むのではなく、全ての指の切っ先で複製の首の肉を貫いていた。

 親指と人差し指に至っては、背骨にまで達している。

 

 残る左手は複製の腹に触れていた。と見るや五指が曲げられ、鉤爪のように衣服と肉に喰い込んだ。

 麻衣はそれを一気に引いた。痙攣する複製杏子。

 その腹の肉は、いや、腹は消失していた。

 滝のような血が腹腔から溢れ、左手が握る衣装と肉の塊と腹腔の間を丸ごと引き摺り出された各種内臓が吊り橋のように繋いでいる。

 

 そして麻衣は右手に軽く力を込めた。

 砂糖菓子が砕ける様に、複製杏子の骨は折れた。

 骨のみならず、筋線維も柔らかい上質の肉が歯の上で裂けるように簡単に千切れた。

 落下した首を、麻衣の足が即座に踏み潰す。

 鏡と肉と骨と脳髄の混合物が弾け、麻衣の膝から腰までを彩った。

 

 

「ぐあああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 再び咆哮。

 同様に落下した首から下の肉体を、麻衣は踏みしだき始めた。

 手足が簡単に外れ、宙に舞う。

 肉が満遍なく均され、無惨な挽肉と化していく。

 

 トドメとばかりに、完全に原型を喪った複製杏子の肉体の何処かを踏み潰したとき、何かが麻衣の頬を掠めた。

 鏡か骨か。

 あるはその両方が交じり合った破片が彼女の頬を掠めて肉を抉り、薄く出血させていた。

 

 そのまま数秒、麻衣は動かなかった。

 頬の傷から溢れた血が唇に触れた時に彼女は動いた。

 

 

「うぐぐうぐうううううううううううううううううううううううううううう!!!!!!!」

 

 

 懊悩と憎悪と、嫉妬が混じった雌の咆哮。

 全身をわななかせて叫び、そして左手に掴んだ複製の腹の肉と内臓を麻衣は顔へと押し付けた。

 そしてそれをまるでタオルとして扱うかのように、顔をゴシゴシと拭き始めた。

 当然、麻衣の貌は血に染まった。

 薄紫色の毛髪も血塗れになり、顔から喉、胸に鮮血が滴る。

 

 

「はぁ…ハァ……あああああああああああああああああああああああ!!!!!」

 

 

 慟哭。

 膝を折り、血の海に跪きながら麻衣は泣いていた。

 両手で杏子の残骸を抱き締めながら。

 

 肉塊は麻衣の腹の前で抱かれていた。

 皮を隔てて、麻衣の命を育む器官の直ぐ近くの場所で。

 

 憎むべく相手の肉片を、我が子を慈しむように抱きながら、朱音麻衣は涙を滂沱と流して泣いていた。

 いや、涙ではなかった。

 麻衣の顔を染める鮮血と、彼女の涙から出るものに差はなかった。

 麻衣の涙腺から溢れているのは、涙ではなく鮮血だった。

 

 泣き叫ぶ麻衣の背後で足音が生じた。

 血色の眼から血涙を流しながら、麻衣はそちらを見た。

 そして彼女は笑った。

 泣きながら笑っていた。

 

 そこにいたのは、白と黒で構成された奇術師のような、男装じみた衣装を纏った少女の姿。

 その美しい姿が飛翔したとき、麻衣の両手は抱き締めていたものを握り潰していた。

 

 臓物と血肉が弾ける。それが飛び散るよりも早く、朱音麻衣は跳躍していた。

 黒い魔法少女の複製よりも高く飛び、相手が両手の爪を振る前に斬撃を放った。

 

 キリカの複製の頭頂から股間までが両断され、空中で二つに裂けた。

 

 

「あああっ!!!!」

 

 

 血塗れの麻衣が叫び、空中で刃を振う。

 一閃にしか見えなかったが、キリカの肉体は二十を超える数の破片に分断されていた。

 それが落下する前に、麻衣は先に着地し刃を走らせた。

 

 魔力を乗せた刃が虚空を切り裂き、その中へとキリカの破片を放逐した。

 切り裂いた際に生じた僅かな血だけを残して、複製キリカの存在はこの世から消滅した。

 

 憎悪と嫉妬の対象の複製を葬った麻衣の周囲で、再び足音が鳴った。

 彼女をぐるりと取り囲むそれらは、真紅の魔法少女と黒い魔法少女の複製体だった。

 それらを麻衣は見渡した。

 眼は完全に血に染まり、瞳と白目の差が消えていた。

 

 

「ふ…ふふ…」

 

 

 肩を震わせながら麻衣は呟く。

 

 

「ふふ…ふ…ふふ…」

 

 

 昏い笑い声だった。

 

 

「ふはははははははははは!!!ハハハハハハハハハハハ!!!!!!」

 

 

 紅い血の坩堝となった眼をぐにゃりと歪ませ、口に半月の笑みを浮かべ、麻衣は哄笑を上げながら複製達へと襲い掛かった。

 麻衣の拳が複製杏子の顔面を砕き、回し蹴りが複製キリカの胴体を横薙ぎして下腹部から内臓と肉を弾けさせる。

 自らに襲い来る槍と爪を刃で迎え撃ち、その隙間から身を切り刻まれながらも朱音麻衣は殺戮を続けていく。

 

 横に滑らせられた斬撃が杏子の頭部を横に輪切りにし、隙間から切り裂かれた脳髄がドロリと零れた。

 キリカの豊かな胸を手刀で貫き、そのまま体内を手でこね回し、可能な限りの内臓を引きずり出して他の個体へ目暗ましとして投擲する。

 

 殺戮の叫びを上げながら、麻衣は刃を振い続ける。

 その脳裏には、キリカから寄せられた記憶が浮かんでは消えていた。

 

 彼女曰くの愛。一週間に及ぶ異形の行為。倒錯しきった性の交差。

 それを振り払おうと刃を振るうも、異常な記憶が麻衣を苛む。

 その中で彼女は愛しいものの姿を求めた。

 下腹部が熱を持って疼く。その欲望は麻衣の最後の正気に思えた。

 

 彼の姿を求める中で、麻衣は一つの願望を描いた。

 それは今よりも時を重ねた彼の姿。

 思い浮かぶが上手くいかない。

 今の姿が可愛いに過ぎる為に。

 

 今の姿も好きではあるが、彼女の嗜好としては更に男らしい姿が望みであった。

 例えば、どうやっても自分では勝てない、屈するしかないと認めさせられるような。

 

 その時、記憶の最中に何かが浮かんだ。

 一瞬にも満たない時間、彼女はそれを見た。

 

 

「あ」

 

 

 それは一瞬で消えた。

 輪郭も朧気だった。

 それでも、彼女には分かった。

 そこに彼の面影を認めたからだ。

 

 そしてそれは、あまりにも強過ぎた。あらゆる意味で。

 

 認識した瞬間、麻衣の理性は弾けていた。

 恐怖による熱と冷気、そして欲情に。

 垣間見た姿は、彼女の願望そのものだった。

 

 一か月ぶりの性的絶頂。

 快感と言う言葉では表せない極致。

 浴びる血の香りと肉を切り刻む甘美な感触。

 

 そして槍に貫かれる胸、爪に切り裂かれる腹部。

 

 痛い。

 

 痛い痛い痛い。

 

 

 だが、それが心地いい。

 

 

 痛みさえ悦びに変わるほどに、彼女は彼と深く繋がれたと感じていた。

 それが一方的なものであると理解しつつも、彼女はそう思えてならなかった。

 殺戮の中、麻衣は嬌声を上げていた。

 喉が枯れ果てるまで、そして襲い来る憎悪の対象たちを皆殺しにするまで、それは止まらないに違いない。

 

 彼女の胸の下で揺れるソウルジェムは、自他の血に濡れていたが鮮やかな光を放っていた。

 

 その内側では、黒い渦が巻いていた。

 渦の形は、何処か蛇に似ていた。

 表面に無数の棘を持った蛇が三匹、のたうっているかのような。

 それは蛇と言うよりも、竜と称した方が近い形状をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「麻衣ちゃん…」

 

 殺戮を続ける麻衣を、遠方より見続ける存在がいた。

 小高い鏡の丘の上に、赤ずきんを思わせる衣装の栗毛の少女の姿があった。

 魔法少女の身体能力向上にて、佐木京は麻衣の表情をつぶさに観察していた。

 女の悦びに浸る、悦楽の表情を浮かべて殺戮に勤しむ美しい死天使がそこにいた。

 

 

「麻衣ちゃん…綺麗」

 

 

 その様子を陶然と見守りながら、京は熱に濡れた言葉を発した。

 潤んだ目で、京は麻衣を見る。親愛に溢れた眼差しだった。

 その鼻先を、血臭が掠めた。京は一瞬顔をしかめたが、すぐに表情を綻ばせた。

 視線の先の存在と、同じ香りを感じていると思ったからだ。

 

 今日の周囲には、幾つかの十字架が置かれていた。

 鎖に縛られているのは、真紅の魔法少女と黒い魔法少女…だったものとした方がいい物体だった。

 切り裂かれた衣服は十字架から垂れ下がり、剥き出しの肌は隙間なく傷で覆われていた。

 腹腔は開かれて空洞になり、内側の内臓は全て取り除かれている。

 

 その傍らには、複数の人型が立っていた。

 肌は布、内側は綿。童話に出てくるような中世風の農民の子供を模した人形だった。

 眼の位置に孔を開けた麻袋を被った、身長120センチ程度の存在達は、手に鋸やナイフ。

 釘に金槌を握っていた。

 

 刃物や鈍器は血に濡れていた。

 何をしたかは一目瞭然だった。

 

 

「麻衣ちゃん…」

 

 

 京は名を呟く。

 そして手を握り締める。

 握られた右手は、小さな人形を握っていた。

 黒くトゲトゲとした髪、人工物であってもオリジナルの容姿を備えた可愛らしい顔。

 

 ナガレと呼ばれる少年を模した人形だった。

 京に握られ、胴体がぎりぎりと締め付けられていた。

 その間から、血滴が零れていた。

 

 更に指の隙間からは濡れ光る内臓の破片が零れた。

 どうやら、複製杏子やキリカから抉り取った内臓の一部を人形の腹に詰めているらしい。

 凄まじい憎悪の片鱗であることが伺えた。

 

 

「大丈夫だよ…麻衣ちゃん……私が…魔法少女の……ヒロインの私が、麻衣ちゃんを助けてあげるからね……」

 

 

 殺戮の光景を眺めながら、佐木京は力強く言った。

 言い終えた後も、京は麻衣の名を呼び続けた。

 
















闇は闇を、病みは病を惹き寄せる
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