魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第6話 紅の決意

 昼の二時と少々、場所は風見野の廃教会。

 神の家としての役目を終えたその場所の中で、住人であるナガレと杏子は食事に勤しんでいた。

 

 杏子は一心不乱にハンバーガーを、しかも分厚い肉が何枚も入ったビッグサイズのものを大口で齧って次々と消費していく。

 ケチャップやマスタードが口を穢すが、ある程度になったら舌で一舐めして残らず啜る。

 包装紙に付着した調味料も、バーガーを食べると舐め取っていた。食べ物を大切にするという想いを、この少女は徹底しているのだった。

 

 対するナガレは弁当屋で購入した弁当を食べている。

 今食べているのは、いい具合に醤油が染み込んだ海苔が乗せられた海苔弁当だった。

 

 海苔を破かないように箸で手早く飯ごと斬り分けて口に運ぶ。

 タルタルソースが掛けられた白身魚のフライを齧ってオカズにし、キンピラごぼうをアクセントとして時々咀嚼する。

 食べながら、ナガレは対面に座る杏子の物欲しそうな視線に気が付いた。

 

 

「トレードするか?」

 

「ん」

 

 

 ナガレの提案に、杏子は右手を振った。

 右手が掴むのは柄を伸ばされた真紅の槍であり、その穂に包装されたバーガーが乗せられていた。

 それを受け取り、ナガレは代わりに新品の海苔弁当を乗せた。

 柄が引き戻され、杏子はそれを受け取りガツガツと食べ始めた。

 

 この遣り取りも平和になったなと杏子は思った。

 少し前なら槍は彼の頭を狙い、手加減無しで串刺しにする勢いで放っていた。

 つくづく異常だと呆れるが、懐かしさと寂しさを感じた。

 

 

 

 数分後、食事が終わった。

 食べたものの内訳は杏子がビッグサイズのバーガーを15個、海苔弁当を5個。

 ナガレは海苔弁当を13個にバーガーが3つ。

 両者にしては少なめの食事で、食べ終わってから二人ともに物足りなさを覚えていた。

 

 食休み程度に寝転び、ぼけーっとする。

 十五分程度そうしてから、杏子が口を開いた。

 絶頂と失神を繰り返したあの後、意識を取り戻してから丸半日間布団の中で考えていたことがあった。

 彼女はそれを伝えようとした。

 

 しかし八重歯を覗かせて開いた口は、虚空を彷徨うように開いたままになった。

 そのまま少し待った。

 心を決めたのは、更に数分が経過した時だった。

 

 彼女が口を止めたのは、その内容を告げるか迷ったという事もある。

 自分一人で解決すべきではないかと、杏子は思っていた。

 しかしそれをやっても、どうせ相棒は野性的な感というか本能で勘付く。

 そしたら伝えた方がいいと、それについては解決した。

 

 それでいて言葉を紡ぐのを止めたのは、言葉にしようと思い描いたものが、とてつもなく恐ろしかったからだ。

 自分の恐怖心を認めようとはしない、感じていても気合で黙らせる彼女にとっても、その存在は恐ろしかった。

 しかし、向き合わなければと思っていた。

 だから彼女は、ソファからむくりと起き上がり、彼の方を向いて言葉に出した。

 その名前は彼から聞いていた。

 すうと、大きく息を吸った。

 

 

 

マジンガーZERO

 

 

 

 その名前を出した時、杏子は背筋が凍えるのを感じた。

 外は燦燦とした陽光が輝き大気も相応の熱を持ち、それを風が運んできていると云うのに、室内の気温は真冬と化したような気がした。

 その言葉に、彼も反応した。

 表情には出さなかったが、うげ、という感慨を抱いた。

 

 

「たしかそんな名前だったよな。ここに来る前のあんたの仲間」

 

「ああ。それで合ってる」

 

 

 しかしながら、そろそろ話した方がいいと思っていた事でもあった。

 それを彼女から切り出されたことについて、自分の事を彼は情けないと思った。

 尤も、彼も食後に話そうとしていたところだったので、誤差程度ではあるのだが

 

 

「さしずめ、アレだろ。『サザンクロスナイフ』」

 

「うん、それそれ」

 

 

 努めてフランクな様子で杏子は同意した。

 彼がその存在に対して怖れを持っていない事、そして彼女自身が彼のようにあろうとしたことが、少なくとも表面上での動揺と恐怖を抑え込んでいた。

 

 

「お前、あれを何処で知った?」

 

「なんか、頭にパッと思い付いた。で、やってみたら出来た。で、やってみたら出来た。あいつの技かい?」

 

「ああ」

 

 

 彼は肯定した。牽制技とは言わなかった。

 使用者にとってはそうなのだろうが、実物は宇宙を切り刻み次元さえ超えて相手を追尾し殲滅する殺戮兵器である。

 そんな牽制があってたまるかと。

 

 

「使い勝手良いね。便利だよ」

 

 

 杏子は事実を告げた。その言葉のままだった。

 そして彼女は右掌を垂直に掲げ、そこに魔力を集中させた。

 掌サイズの十字架の刃、サザンクロスナイフの一枚が浮かぶ。

 

 

「ちなみに、一応確認するけどマジンってのは魔の神ってコトだよな」

 

「ああ」

 

「じゃあ、ガーって何?」

 

「俺も分からねぇ。聞いてみたけど本人も知らねぇんだと。造った奴に言ってくれとさ」

 

 

 その造った奴、即ち創造主は生まれた瞬間に踏み潰したという事を彼は聞いていた。

 まぁそれは別にいいと、彼は言及を控えた。

 

 

「あんな化け物相手に仲良いな、あんた。なんつうかアレかい。ヤバい奴にはヤバい仲間がいるもんだね」

 

 

 軽口を叩くが、杏子の内心は怯え切っていた

 彼の心の中で見た地獄どころではない異次元の地獄の中で、彼女はその存在を見た。

 0と無限を示すような真紅の翼、あらゆる物体を触れるだけで破壊出来そうな逞しい四肢。

 降り掛かるあらゆる災厄を、逆にぶちのめして蹴散らすであろう分厚く黒い装甲。

 白い王冠のような頭部。そして髑髏を思わせる貌。

 

 

 魔神。

 

 その言葉に間違いはないと思わせる姿をしていた。

 そしてあの貌というか、異様な存在感。

 例え生れ落ちた直後の生命体であっても、または美意識や認識能力と感覚機能の差異はあったとしても。

 その別なく、根源的な本能に根差した原初の恐怖を刻み込むであろう存在である事が分かった。

 

 

「まぁあいつ、アホみたいに強いけど趣味はロボアニメ鑑賞だったりするからな。あと新しい物好きでいつも何かを探してやがる。暇さえあれば俺にマジンガーZを勧めてくるしよ」

 

 

 そんな存在に対し、彼は愚弄ともとれる発言をした。

 彼女の内心を見抜いて気遣っている、よりも単に本心を言ったのだろう。

 

 

「マジンガーZってのは、たしか…」

 

「ああ、これだ」

 

 

 そう言うと、彼は魔女を呼び出した。

 そして魔女の眼の中から粘度を取り出し、手早くこね回し始めた。

 魔女の中は倉庫として使われているが、最早なんでもアリだなと杏子は思った。

 そう思っている内に、形が出来ていた。

 

 

「ほい」

 

 

 そう言った彼の掌の上に、それは乗っていた。

 ZEROと呼ばれた存在と酷似していたが、詳細が大分異なっていた。

 異形そのものと言った禍々しさが消え、代わりに神のような荘厳さと威厳が纏われた姿となっている。

 それでいてシンプルでどこかレトロな雰囲気があり、恐怖ではなく親しみを感じる姿に思えた。

 

 

「…これが、アレになるのか」

 

「そういうコトになるな。俺も一度見たけど、結構エグい変形してた」

 

 

 おぞましさを感じる杏子に対し、ナガレは何時もの様子だった。

 こいつメンタルヤバすぎんだろ、と彼女は思った。

 

 

 

 それから杏子は、ZEROと呼ばれる存在について尋ねた。

 かなり掻い摘み、ナガレは答えた。

 自分で話してはいたが、彼としても信じられなく、そしてどう考えても……。

 

 

「悪魔どころじゃねえな、そいつ」

 

 

 ひとしきり聞き終えた杏子は、声を絞り出すようにしてそう言った。

 そして急速に不快感を覚えていった。

 それは、耐えられるものではなかった。

 

 

「ーーーーーーーぅっ!」

 

 

 口を押さえて廃教会内を走り、転げ落ちるように外に出た。

 そして一本の木の根元に立つや、両手を幹に付けて思いっきり口を開いた。

 開いた口から、胃壁を溶かして赤に染まった胃液が滝のように溢れ出る。

 

 

「うええぇ!うげぇ!ぐぶぉ!?」

 

 

 吐き気が止まらない。

 

 身体が震える。

 

 気持ち悪い。

 

 恐ろしい。

 

 痛い。

 

 怖い。

 

 苦しい。

 

 辛い。

 

 

 杏子の中を、感情が駆け巡る。

 

 異界の存在の中でも、とりわけて邪悪な存在を垣間見た事は杏子の正気を削っていた。

 胃液を吐きながら、杏子は心を整理しようと努めた。

 繰り返される時間、滅亡する世界。

 完結し、平和が訪れたと思った矢先の更なる地獄。

 永久の拷問のようなそれに、彼女は打ちのめされていた。

 

 そんな地獄の苦痛を味わう自分を、異形の渦巻く眼が見ているような気がした。

 杏子はそう思った。

 その間も嘔吐は続く。

 固形物はなく、次々と生産される胃液と、それに溶かされ赤い水と化して流れる体組織が吐き出されていった。

 

 背を折り曲げて吐き続ける杏子の隣に、何時の間にかナガレの姿があった。

 彼は無言で杏子の背を摩った。

 大丈夫か、などは愚問であるし余計な気遣いは彼女のプライドを傷つけるだけだと思っていた。

 その事に、杏子自身も感謝していた。

 もし言葉を投げ掛けられたら、屈辱で自分を見失ってしまっていたかもしれないと。

 

 そしてそのことが、杏子の決意を固めた。

 溢れる胃液を、杏子は敢えて飲み込んだ。

 口を押さえ、更なる嘔吐を強引に抑える。

 

 五分が経過した。

 杏子は己の嘔吐感と恐怖。

 それらによる苦痛を黙らせ、ふらつきながらも両足で立っていた。

 

 そして傍らのナガレの顔をじっと見つめ、こう言った。

 

 

「…神浜に、あの鏡の世界に、あたしは行かなきゃならねぇ」

 

 

 嘔吐によって潤んだ眼であったが、そこには確たる意思が秘められていた。

 

 

「自分を…見失わねぇ為に……あたしは、あたしの心に勝って遣る……!」

 

 

 込み上げる胃液を強引に胃に留まらせ、杏子は言った。

 

 

「何時だ」

 

 

 と彼は尋ねた。

 

 

「今からさ」

 

 

 獣が歯を見せて嗤うように、杏子は今できる最大限の強がりしてそう応えた。

 

 

 


















新年早々不穏であります
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