魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第11話 紅の決断

 金属音。そして少女の苦鳴。

 その後、更に激しい金属音が重なる。

 白い世界を、二つの暴風が蹂躙していた。

 

 一つは赤紫色の装甲で全身を覆った、獣じみた姿のヒトガタ。

 目鼻が無く、昆虫を思わせる造形の口元を持った、異形の騎士の姿であった。

 毒によって破壊されていく肉体を彷彿とさせる、痛々しさと毒々しさで彩られた巨体が動くたびに暴風が吹き荒れ、白い霧が千々と縮れて地面が砕ける。

 

 殴る蹴る、背から生えた蛇竜の尾が鞭となって旋回する。

 吹き荒れる暴風は全て、暴力によるものだった。

 

 それらに対し、もう一つの暴風が喰らい付くように挑んでいた。

 40メートルを超える巨体から繰り出される殺意の行為に、真っ向から挑んでいた。

 その真紅の暴風の名は、佐倉杏子と言った。

 

 真紅の外套の裾が燃焼し、燃え行く衣が翼となって、杏子に飛行能力を付与していた。

 巨体の攻撃を掻い潜り、時には手に持った槍斧でいなしつつ、彼女は飛燕の速度で赤紫の装甲の上のスレスレを飛翔する。

 

 

「喰らいな!」

 

 

 叫びながら斬撃を見舞う。

 杏子が振り下ろした一閃は、鉄仮面の額から口元までを一気に薙いだ。

 だが。

 

 

「ちっ!」

 

 

 杏子の舌打ちを、飛来した巨大な拳の衝撃が掻き消した。

 回避はしたが、外套の一部が僅かに掠めていた。

 それだけで、杏子の身体は大きく弾き飛ばされていた。

 

 宙を舞う身体は、血と体液に濡れていた。

 衝撃によって内臓が痛み、口からは鮮血が吐き零される。

 

 どうせすぐにまた壊れると、肉体の損傷は放置しつつも破れた外套は修復。同時に空中で姿勢を制御し、突撃。

 接近し再び斬撃を見舞う。

 伸び切られた手首の関節を狙っての一撃だったが、手応えは変わらなかった。

 

 堅牢な装甲に、斧の斬撃が弾き返される。

 また弾かれずとも、細かく連なる装甲は鱗のような役割を果たし、杏子の刺突を受け流していた。

 油によって滑るかのような感触が実に気持ち悪く、杏子は粘液で濡れた爬虫類か魚だと思った。

 

 

「よく出来てやがるな!」

 

 

 考えてみれば、相手は自分である。

 自分の攻撃の特性を理解し、対策を練ったのだろう。

 そして自分であるという事は。

 

 

「やべ!」

 

 

 異界の空に挑む様に、天に向けて伸ばされる長大な得物。その影が杏子に降り掛かる。

 巨体の数倍はある、長大に過ぎる十字槍が聳えていた。

 色は体色同様の毒々しい赤紫であり、表面も滑らかではなく悪性腫瘍のような無数の瘤が浮いていた。

 

 先端の十字の刃はねじくれ、ドリルを思わせる獰猛な形状となっていた。

 その刃を受けるものを貫き抉り、苦痛を与える事を至上の目的としているとしか思えない。

 

 天に向けられた先端が霞む。

 直後に異界を砕くような金属音が號と鳴った。

 

 異形の十字層槍が振られ、その切っ先が佐倉杏子を捉えていた。

 受けきれるものではなく完全回避も間に合わないと見て、杏子は迫る槍の側面を得物で弾いて飛翔、好機を伺う為に距離を取る。

 

 しかしそこに迫る赤紫の死線。

 槍が多節に変化し、杏子に向かって恋慕のように追い縋る。

 

 

「しつけぇな!!」

 

 

 回避し、または斬り払って叫ぶ。

 叫びつつ、理解もしていた。

 相手は自分。

 同じ、同じである。

 

 つまりあちらは、自分の行動も予測可能。

 杏子は考える。自分ならば、小うるさい蠅をどうするか。

 

 理解した時、背骨は氷と化した。

 槍の柄を持つ異形の騎士の背後で、大量の闇色の十字架が形成されていった。

 一つ辺りの大きさは掌サイズではあった。但し全長40メートルを誇る巨体の、である。

 

 

「サザンクロスナイフ!!」

 

 

 杏子は叫ぶ。同時にあちらも闇色の十字架を放った。

 真紅の十字架が杏子の背後から飛翔してゆき、相手のそれに喰らい付く。

 圧倒的なサイズ差故、杏子の十字架は次々と破壊される。

 しかしその度に生成し、片時も休まず攻撃を続ける。

 

 数百の十字架に対し、彼女は数千数万の刃で対抗した。

 ここが現実ではなく、心の中だからこそ可能な無茶な行為だった。

 

 二種の光が互いを喰らいあい、黒と赤が千々と散る。

 殺意と闘志の光が乱れ散る様に、杏子は少しだけ想いを馳せた。

 

 

「あいつが好きそうだな。こういう光景」

 

 

 言いながら薄く笑う。

 そこに、杏子の十字架を突破した複数の黒い十字架が飛来した。

 彼女の姿が闇に包まれる。

 ほんの一瞬だけ。

 

 闇の表面に斬線が入り、二十を超える十字架はバラバラに切り裂かれた。

 開かれた闇の奥に、旋回させた槍を携えた杏子がいた。

 致命の攻撃をいなした杏子であったが、その表情には苦さがあった。

 

 

「…間に合わねぇ」

 

 

 切り裂いた闇を砕きながら、巨大な拳が杏子に迫る。

 槍斧を基点に結界魔法を発動。

 衝撃を殺しながら、巨拳の表面を滑るように回避するも力の差は歴然であり、杏子は弾丸の速度で吹き飛ばされていった。

 口に目に耳に鼻からは鮮血が迸り、両腕は皮が破け、筋肉が粒状になって弾け飛ぶ。

 二百メートルは吹き飛び、地面に激突し、数度のバウンスを経てようやく停止した。

 

 

「がふっ」

 

 

 血の塊か肉片か、臓物の一部か。

 恐らくはその全てである、赤黒い塊を吐き出す杏子。口から吐き出したものは、排泄物と同じ悪臭を放っていた。

 脳髄を焼く不快感に身を委ねる間も与えず、その上空に既に異形の騎士が迫っていた。杏子に向けて降り注ぐ影。

 無数の剃刀を縦に連ねたような溝が刻まれた足裏を、彼女は見た。

 

 赤黒の染みになる直前、足の落下が停止した。

 彼女はその瞬間に全身から血を曳きつつ飛翔し、死の影から離脱する。

 

 

「…すまねぇ」

 

 

 上昇した彼女が見たのは、騎士の脚に身を絡ませてその動きを止めた、自らが生み出した瀕死の蛇竜の姿であった。

 既に全身に赤紫の槍を突き立てられた蛇竜は、爪を有した五指に身を裂かれ、真紅の破片となって散った。

 光となって分解される寸前、蛇竜は元の姿に、杏子の十字槍の姿に戻っていた。

 

 偽りの生命を与えた存在が消えゆく様に、杏子は胸が痛む感覚を覚えた。

 肉が大きく抉れ、赤い宝石とその周囲の肉が僅かに残った襤褸雑巾のような胸に、針が刺すような想いが去来する。

 

 対する騎士は、破壊を成した事に充足感を抱いたのか杏子への追撃をせずに顔を彼女の方へ向けていた。

 巨大な両腕を横に広げ、刃の如き五指を翼のように広げている。それは威嚇と嘲弄、そして殺戮への歓喜を表していた。

 その姿に、佐倉杏子は殺意に満ちた自分が上げる、哄笑と咆哮が聞こえた気がした。

 

 

 その様子に、佐倉杏子は思った。

 

 

 ―――ああ。漸く、分かったよ。

 

 

 そして同時に、佐倉杏子は一つの決意をした。

 それは破滅を招きかねない決断だった。

 

 恐怖は殆ど無かった。

 自分が死ぬだけであるからだ。

 

 ただ、喪失感と寂しさがあった。

 死んだ後で、自分は彼に逢えるのだろうかという想いを抱いた。

 少年の姿の中に潜む、竜の名を持つ男に。

 

 そして彼女は武器の構えを解いた。

 矛先を巨体へと向けていた槍は下方に流れ、槍を握る右手の力は緩んでいた。

 

 

「あたしはてめぇに勝てねぇ。けど、あたしはてめぇに勝ってやる」

 

 

 矛盾に満ちた杏子の言葉。

 それが届いたか、異形の騎士は動きを止めていた。

 罠と思っているのか、それとも呆れているのか。

 

 

「来いよ」

 

 

 苦痛に震える唇を、強引に笑みの形に歪めて彼女は言った。

 次の瞬間、それは叶えられていた。

 光もかくやと言った速度で、赤紫の槍が突き出された。

 それは滞空する杏子の胸に突き刺さり、下腹部近くまでを一気に切り裂いた。

 

 だがそこで、騎士の動きが停止した。

 蓄積した殺意の為か、赤よりも紫が色濃くなっていた装甲の巨体は、ぴくりとも動かない。

 いや、動けなくなっていた。

 騎士は自らが繰り出した攻撃の、その異様な結果を垣間見ていた。

 

 十字を模したねじくれた槍は杏子を貫いてはいたが、彼女の背中から抜け出てはいなかった。

 巨大な刃は、完全に彼女の中に埋没していた。

 

 

「これ、を…」

 

 

 苦痛に満ちた声で、杏子は言葉を絞り出す。

 そして彼女の血染めの顔が、苦痛から別のものへと変化していく。

 

 

「まってた」

 

 

 その顔には、殺意や狂暴といった感情さえも上回る様な、獰悪な狂気の笑みが浮かんでいた。

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