魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第15話 新しい平凡な日常

 心地よいまどろみを引き剥がすように、佐倉杏子は目を覚ました。

 外から差し込む昼の光が、昏い教会の中に一抹の明かりを与えていた。

 そのまま上体を起こす。

 

 羽織っていた毛布がずるりと下がる。

 いつもの黒シャツを杏子は羽織っていた。その下にブラは着けていない。

 新しいのを持っていたが、どうにもつけるのが面倒だった。

 故にブカついた隙間からは赤い突起が外気に触れ、薄い生地故に見えてなくてもその形はくっきりと浮かんでいた。

 

 

「よう相棒」

 

 

 羞恥心など何処吹く風で、眼を擦りつつ杏子は声を掛けた。

 寝床としているソファの、杏子から見て足先のあたりにはナガレが座っていた。

 

 

「ああ。元気か、相棒」

 

 

 言いつつ、彼は左手でペットボトル入りの水を差し出した。

 残る右手で自分の分を飲んでいる。

 杏子はソファの上で尻をスライドさせて彼に近付くと、ペットボトルを奪うように受け取った。

 そしてごくごくと飲み始めた。

 ナガレが既に飲んでいた方の水を。

 

 

「うっま」

 

 

 そう評し、ナガレに水を返す。二口分程度残してあるのは、つまりそういう事だろう。

 残った分を、ナガレは平然と飲み干した。その様子をからかうように、そして満足げに杏子は見ている。

 

 

「どうだった?」

 

「水だな」

 

 

 杏子の問いにナガレはそう返した。事実以外の何物でもない。

 

 

「それだけかよ。美少女の唇付きだぜ?」

 

「じゃああれ、ソース味がした」

 

 

 これも事実だが、それを指摘すると杏子の顔は赤くなった。

 顎先から額、耳までが朱に染まる。まるでアニメの演出さながらに。

 そのまま悶え始める杏子。それを尻目に新しいボトルを杏子の手に握らせ、今までの事を思い出し始めた。

 

 夜中の自然公園で告白されてそれを受諾。

 照れ隠しに襲い掛かってきた杏子と、半共生状態の魔女に命じて開かせた魔女結界にて杏子と交戦。

 交戦時間は四時間に及んだ。

 ナガレは右目を蹴り潰され、左腕を喰い千切られて右手を切り飛ばされ、肋骨を槍に切り刻まれた。

 杏子は両腕を肩の付け根から捥ぎ取られ、腹を半分以上切り裂かれて傷口から腸を垂らし、細首は千切れかけた。

 

 その状態で、杏子は口に折れた槍を咥えて彼に挑んでいった。

 血反吐を吐き、全身を彼と自分の血と体液で穢しながら獰悪な斬撃を繰り返した。

 ナガレも似た様子で応戦した。口に牛の魔女を咥え、佐倉杏子と切り結んだ。

 

 何かを常に咥えているという状態ゆえに、当然口が開いている形となる。

 そのせいで、両者は笑いながら戦っているようだった。

 いや、本当に笑いながら凄惨な戦いを繰り広げていたのだろう。

 

 得物を噛む力さえ失い、体内を巡る血が枯渇寸前になった時、漸く戦闘は終わった。

 そして肉体を治癒し、いつものネットカフェでシャワーを浴びて食事や漫画を読み終えてから二人は帰宅した。

 ナガレが指摘したソース味とは、ネカフェの個室で杏子が食べていたカップ焼きそばの事である。

 

 金額の節約の為と杏子が言い、一部屋に二人のプログラムで入った為に、室内では頻繁に杏子が唇を求めてきていた。

 暴れられてもヤバいと黙っていたが、そろそろ対策を考えようかとナガレは思い始めた。

 真っ先に思い付いたのが唾液を毒物化させるかと思ったのは、彼らしいと言えばそうかもだが、キリカに毒血を啜られた経験からそれを実行するのはやめとこうと彼は思った。

 

 その後廃教会に帰宅し、ナガレはアニメ鑑賞に没頭。

 杏子は眠りに落ちた。そして今に至るのである。

 

 

「元気かよ」

 

 

 彼は尋ねる。殺し合いをしておいて、という感じだがメンタルの面を言っている。

 

 

「ああ、落ち着いてるよ。ちゃんと大人しくしてる」 

 

 

 悶絶を終え、杏子はシャツを捲って腹を見せた。

 腰より下に裾を下げ、鼠径部近くまでが見えた白い肌を撫でる。

 

 撫でられる手の下にあるのは、消化器官ではなく命を育む袋である。

 そこに新たな命を宿したかのように、どこまでも優しい手付きで杏子は撫でる。

 これも彼に対する挑発行為だが、功を奏した様子は無い。

 

 

「あたしはあの化け物みたくなりたくねぇ」

 

 

 杏子の脳裏に浮かぶのは、白と黒を基調とした髑髏顔の魔神。

 力の暴走の果てに無限回ほど宇宙を滅ぼした悪魔。

 

 杏子がドッペルと向き合う前、廃教会でその名前を出していたことからナガレは化け物が何を差しているのかは分かった。

 意味不明な性格は相変わらずなものの、今は善落ちみたいな状態をしているが、別にそれは伝えなくてよさそうだった。

 にしてもあいつは今どこにいるんだろうか?と一瞬だけ思った。

 

 どうでもよくなった。彼をして無敵過ぎる存在なので、負けることは無いだろなと思っている。

 どうせ今もどこかで何かを破壊したり殺戮したりしてるのだろう。

 少なくとも今の自分達と接点があるとは思えない。

 

 

「力は制御して管理しねぇとな。あんたみてぇに」

 

「俺としては自信がねぇけどな。でもお前はちゃんと出来てたじゃねえか」

 

 

 彼の指摘は、チーマー連中相手に魔法少女の力を行使しなかった事についてである。

 

 

「まーね。でもあたしは弱ぇな。あんたがいなかったら、きっと今頃全部の穴から精液垂らして全身も精液まみれの傷だらけにされてどっかに捨てられてる」

 

 

 そんでもって捨てられた先で拾われて、今も別の連中に輪姦されてっかも。

 酒とかクスリを無理やり飲まされてキメさせられて、自分から腰振ってエロい言葉叫びまくってんのかも。と杏子は加えた。

 

 立石に水の如くに自分の陵辱劇を語る杏子の様子に、彼はどうしてもキリカの存在がダブっていた。

 しかしあちらは挑発行為、杏子の方はどうも願望じみているところがあると彼は感じていた。

 微妙な表情の変化を読み取れるのは、常日頃から殺し合ってる所為だろう。嫌な観察眼である。

 

 

「なら身体鍛えようぜ。これでも昔は空手道場やってたからな。教えんのは嫌いじゃねえし下手でもねぇ」

 

 

 なおも自分を辱める妄想を語る杏子の話を切断するように、別の切り口で話を進めるナガレ。

 彼女の妄想に付き合う気は無いようだ。

 

 

「経営はヘタクソだったみたいだけどね」

 

「痛いとこ突きやがるな。とりあえず、明日から走り込みとか筋トレでもしてみるか。お前はまずは基礎体力上げた方が良さそうだ」

 

「気が向いたらね。……あぁ、悪い、起きたばかりだけどそろそろ寝るわ」

 

「ああ。んで、起きたらメシでも行こうぜ」

 

「牛丼屋がいいかな。肉の気分」

 

「いいな。んじゃ、おやすみ」

 

「ああ。おやすみ」

 

 

 普通の会話だが、此処に至るまでは長過ぎた。

 杏子もそれを感じているのか、毛布を羽織ると安らかな表情で眼を閉じた。

 

 

「あ、そうだ」

 

 

 と思いきや眼を開いた。

 

 

「添い寝したかったらご自由に。なんなら胸でも尻でも触ってくれて構わねぇよ。でも、シたくなったら起こせよな。自分の膜がブチ破られて血ぃ流すとこはちゃんと見たいし痛みも感じたい」

 

 

 そう一気に捲し立てて眼を閉じ、即座に寝息を立て始めた。

 演技ではなく、本当に寝入ったのだった。

 勝ち逃げしやがって、と彼は思った。

 

 思うところがそれでいいのか、と思わなくも無い。

 そして彼はソファの前に置かれているテレビにイヤホンを繋ぎ、アニメ鑑賞を始めた

 彼女の傍から動かない、という事が、添い寝と言った彼女に対する彼なりの妥協点なのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 闇の中、巨大な赤紫の物体が聳えていた。

 それは佐倉杏子が己の内に取り込んだ、彼女の中の殺意の感情。

 ドッペルを構成する元となる、負の感情そのものの姿。

 ゲッターロボを模した、全身に装甲を纏った無貌の騎士風の姿の存在。

 

 それが、左右と背後から伸びた鉄の檻に囲まれ、そこから伸びた幾つものワイヤーやボルトによって各部を拘束されている。

 鉄の檻は微細に震えていた。それは、この存在が拘束を良しとせずに解き放たれたがっている事を意味していた。

 

 

「往生際が悪ぃ奴だな」

 

 

 そう呟いたのは、魔法少女姿の佐倉杏子である。

 槍を肩に担ぎ、全長40メートルほどのそれを見上げている。

 

 

「こりゃケージってやつかな。どっかエヴァっぽいのは仕方ねぇか」

 

 

 眼の前の状況を杏子はそう分析した。

 

 

「ここはあたしの夢の中、つまりは心の中だからな。あたしも随分とあの作品に毒されてんな」

 

 

 そう言った杏子の足元の黒い地面が隆起し、上昇していく。

 夢の中と彼が言った通り、自由自在であるようだ。

 その間も、異形の騎士は拘束を振り払おうと微細な動きを繰り返す。

 だが拘束は固く、びくともしない。

 

 

「これがあたしの演出で、意味がねぇ事は分かってる」

 

 

 杏子は言葉を紡ぐ。

 

 

「なんせお前はあたしで、あたしはお前だ」

 

 

 顔の前に杏子は立つ。

 

 

「でも今の形は気に喰わねぇから、お前をあたし色に染めてやる」

 

 

 そして槍を構える。

 

 

あたし(お前)は、あいつをこの世界に…いや、あたしの手元に繋ぎ止めるための楔と鎖になってやる

 

 

 槍に魔力を使い、形を変える。

 

 

あいつはあたしにとってのゲッター(欲しいもの)で、あたしはあいつにとってのゲッター(奪うもの)になる

 

 

 変形したそれから伸びたコードを、杏子は力強く引いた。

 猛々しい機械音が鳴り響く。

 杏子の手に握られているのは結界魔法の鎖を刃とした回転鋸、血のような真紅のチェーンソー。

 

 

「あーっ、たくよぉ。面倒だねぇ、惚れた弱味っつぅのはさぁ」

 

 

 その切っ先を騎士に向け、更に近寄っていく。

 

 

「ああ……そして、あたしは……あたしは…なんて、なんて卑しい魔法少女で」

 

 

 自分の心へ、それを切り刻む道具を携えて。それを大きく振りかぶって。

 

 

 

嗚呼、なんて卑しいゲッターなんだ

 

 

 

 そう呟き、佐倉杏子は己の心の現身へと、唸りを上げて回転する鋸を振り下ろした。

 その時の彼女の表情は、黒一色で塗り潰されていた。ただ口元だけが、半月の形に開いていた。

 
















佐倉さんの進化が止まらない
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