魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第16話 竜と朱

 猥雑な音と眼が痛くなるような光が、薄暗い室内に乱舞する。

 雑多な笑い声と下品な冗談、そして時折女の嬌声までが入り混じる。

 過度にスキンシップをしているか、影で交わっているかだろう。

 当然、それらの発生源である人の数も多い。

 

 大体は若者で、ラフな格好であったり着崩した制服だったりと言った具合である。

 それぞれが店内に置かれた筐体の前に陣取り、財布に悲鳴を上げさせながら硬貨を投入していく。

 そして湧き上がる悪罵と歓声。

 それを彼は心地よいと感じていた。

 

 

「サバトってな、こんな感じなのかね」

 

 

 何時ものジャケットを羽織り、両手をポケットに突っ込みながら店内を進む。

 顔で見れば美少女そのものだが、纏った雰囲気は精悍に過ぎる男のもの。

 荒々しい気配と可憐な姿が全くの矛盾なく合一された姿は、佐倉杏子曰くの性癖破壊兵器。

 

 しかし本人はこの姿にも慣れたもので、この外見もいいかなとか思いながら生きてる。そう思った方が楽な事に気付いたのだろう。

 この外見に魂を押し込められてから約半年、今の名はナガレ。嘗ての名と言うか真名は流竜馬である彼は今日も楽しく生きていた。

 

 

 歩いていると、前方に人だかりが見えた。

 その場から外れた時間は数分だが、その間に何かあったらしい。

 トラブルには事欠かねぇ街だなと彼は思って前に進んだ。

 

 人だかりをするすると抜けた瞬間、彼の視界を人間の背が埋めた。

 身長160程度の彼の前に、180センチほどの男が吹き飛ばされていた。彼はそれを難なく片手で受け止め、地面に叩き付けた。

 宙で一回転し、足から落とす。

 

 剥離骨折程度で済ませてやったのは、どういったいきさつかは知らないからだ。

 剥離骨折を負わせた理由は、どうせろくでなしだからと思ったからだ。

 

 女子中学生相手に集団で襲い掛かる奴らが、まともである筈が無い。

 

 視線を前に向けると、数人の男たちを相手に立ち回る少女の姿が見えた。

 繰り出される殴打を軽やかなステップで交わし、繊細な指を拳に固めて相手の顎や鳩尾を打ち抜く。

 鋭い蹴りを膝裏に叩き込み、身体を倒して顔面を踏みつける。

 

 足裏で歯が折れて鼻が砕け、汗と血が床に放射状に飛び散る。

 そこで更にごりっと踏み付け相手を気絶させる。

 周囲に残った男は一人。

 一目見ただけでまともな人種ではなく、暴力沙汰に慣れた雰囲気を纏わせている。

 それが明らかに怯え、そして屈辱に震えていた。

 

 それを紅い眼が凛と見据える。

 軽蔑と嘲笑、そして挑発の眼差しだった。

 紅い視線に魅入られたように、男は叫んだ。ポケットに突っ込んだ手を抜き放つ。

 岩のような拳には刃物の光。バタフライナイフが握られていた。

 それが少女の前に来る寸前、動きを止めさせられていた。

 

 刃は、少女よりも逞しいが、ナイフを握る男のそれより遥かに細く繊細な指によって止められていた。

 男の体重と全身の筋力を総動員して押し込むが、全く以てビクともしない。

 美少女のような貌の、野性味を帯びた少年の右手の人差し指と親指が刃の先端を「ちょこん」と掴んでいた、それだけで。

 

 

「せめて素手でやれよ」

 

 

 そう言うや、ナガレはナイフを奪い取った。といっても、軽く手を上に上げた程度でナイフの柄は男の手から離れていた。

 代わりに柄を握り、刃に歯を立てる。ギャラリーの何人かは、その様子に淫らなものを思い浮かべたかもしれない。

 霞がかったように、陶然とした表情になっている連中がそれである。

 牙のような歯が刃に触れた瞬間、バギンという音が鳴った。

 

 刃に加えられた力によって、ナイフの刃は圧壊させられていた。

 大型のプレス機にでも掛けられたかのように、鉄の塊がグシャグシャになっている。

 口元に残った小さな破片を、ナガレはプッと吐き出した。

 

 飛翔した破片は、持ち主の膝に軽く突き刺さった。頑丈なはずのジーンズの抵抗など、全く無意味だった。

 与えられた痛みと恐怖が男を恐慌状態に陥らせ、男は意味不明な叫びを上げて逃げていった。

 

 ギャラリーたちはその背を追った。何度も蹴躓いて転びながら、男が店外へ出た後にはその加害者二名の姿を追った。

 視線を巡らせたその者達が見たのは、苦痛に呻く五人の男たちの無様な姿だけだった。

 

 

 

「無茶する奴だな」

 

「君の真似をしただけだ。魔法少女と生身でやり合う君のな」

 

 

 看板やら壁やらを蹴り、建物から建物へと飛翔しながら両者は言葉を重ねる。

 屋上の手摺を蹴り、ナガレの身体は宙を舞った。

 その手には、赤眼の少女が抱かれていた。お姫様抱っこと言えば分かりやすいか。

 

 

「じゃあ、次は何処へ行こうか。ナガレ」

 

「お前に合わせる。行きてぇとこ案内しな、麻衣」

 

 

 夕焼けに身を焦がすように、ナガレと朱音麻衣は全身に赤い色を映えさせながら飛翔していった。

 血に濡れているようにも見えた。

 何時もの二人のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ナガレ。デートしないか」

 

 

 休日の昼下がり。午後三時あたりになった時に、廃教会には客が訪れていた。

 薄紫色のセミロングヘアに血色の眼をした魔法少女。風見野自警団の一員、朱音麻衣である。

 廃教会の入り口に立つなり、開口一番にそう言った。

 叫んだわけでもないのに、凛とした声はよく響いた。

 

 その時のナガレは、ソファに座っていた。隣には佐倉杏子がいて、一緒にアニメ鑑賞をしていた。

 何かを言おうとして、ナガレは口を開いた。その口を、杏子の唇が塞いだ。

 肉を貪る獣のように、彼に覆いかぶさって唇を重ねて舌を彼の口内で暴れさせる。

 

 赤髪のポニーテールが、それこそ獣の尻尾のように左右に激しく振られていた。

 杏子は麻衣の存在を完全に無視しつつ、麻衣が来たことで生じた感情のままに行動していた。

 

 

『…悪いな』

 

 

 ばつが悪いに過ぎる様子で、ナガレは麻衣に魔女経由で思念を送った。

 

 

『気にしなくていい。その雌餓鬼が悪い』

 

 

 波長的には全く動じず、

 

 

「失礼する」

 

 

 と一言加えてから麻衣は廃教会に足を踏み入れた。

 杏子は麻衣を一瞥すらせずにナガレの唇を貪り、手と足を彼に絡める。

 流石にイラっときたのか、彼は両手を杏子の肩に添えて身を抱くのを阻止していた。

 

 しかし形的には、似たような感じになっているので杏子の思惑は達成されていた。

 何であるかは言うまでもない。

 麻衣へのマウント取りである。

 

 その身体が、ずいと引き上げられた。

 猫でも掴む様に、麻衣は杏子のパーカーの帽子部分を引っ張っていた。

 

 

「よぉ発情紫髪女。相変わらず雌臭ぇ匂いしてやがんな。どんな匂いか言ってやろうか?」

 

「ああ。そちらも元気そうだな、佐倉杏子。色気違いここに極まれりといった感じだな」

 

「負け惜しみかい?ちなみに匂いってのは経血を煮詰めて固めてゲロをぶっ掛けたような感じだよ」

 

「どうとでも受け取るといい。そしてお前は一度病院にでも行くといい。正直引いてる、というか心配になる」

 

 

 実質的に二回目の会話がこれである。

 言うまでも無く廃教会内の雰囲気は最悪である。

 テレビだけが、それとは無縁のようにアニメ映像を流していた。

「ガガガ、ガガガ」という声が聞こえた。オープニングテーマの一部だろう。

 

 

「単刀直入に言う。ナガレを暫く借りたい」

 

「ああ、いいぜ」

 

「そうか。なら力づくで」

 

 

 変身、しようとしたが、麻衣はそこで取りやめた。

 不信感よりも、喜びが大きく勝っていた。

 既に麻衣の視界からは、眼の前にいる筈の杏子の姿は消えていた。

 風見野の街を歩く、自分と彼のビジョンが脳裏に浮かんでいる。

 

 

「ああ、貸してやるよ」

 

 

 そこに割り込む、杏子の声と顔。

 声は穏やかで、天使のような微笑みを浮かべている。

 

 

あたしの彼氏、貸してやるよ

 

 

 その表情と声で、杏子はそう言った。

 悪魔、という言葉が相応しい。

 麻衣の顔から表情が消えた。

 

 

「そいつとは、昨日話を着けたんだ。付き合おうってさ。その様子だと、てめぇもその話を切り出す積りだったみてぇだなぁ」

 

 

 表情を一変させ、杏子は嘲笑う。

 

 

「腐れクソゲス淫乱発情のキリカにも言われただろうけどさ、いっつも遅ぇんだよ、バーーーーーーーーーーーーーーーーーーーッカ!」

 

 

 耳まで裂けたような半月の笑みは、悪魔でさえも眼を背けそうな有様だった。

 楽しそうに笑う杏子。本心だから、そして遠慮する相手で無いから思う存分に相手を傷つける言葉を告げていた。

 その様子はまるで、嘗てのナガレに向けていたそれである。

 彼女の最後の理性というか善性が

 

 

『どうした?濁っちまったのかい?安心しなよ、そん時ゃあたしが責任もっててめぇを殺ってやる。てめぇの亡骸も成れの果ても、何もかもを刻んでやるよ。文字通り身も心もぜぇんぶねぇ!』

 

 

 と言うのを押し留めていた。

 理由は隣に彼がいるからである。

 杏子は、背後から高まりつつある彼の怒気を感じていた。

 付き合う云々を受諾したからと言って、行動を全肯定するわけでないのが彼らしい。

 

 口を挟まないのは、これが女同士のバトルであるからだろう。

 下手に介入すると、全てが悪化するだろうと彼は思っていた。

 その原因は他でもない彼自身だが、これを無責任と評すかは難しい。

 

 震える麻衣。

 そして口が開かれた。

 そこから溢れたのは

 

 

「はっ……は……ハハ……ハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!!!」

 

 

 泣き声でも絶望の慟哭でもなく、確たる意思を有した哄笑。

 

 

聞いたぞ!聞いたぞ佐倉杏子!ナガレは借りるぞ!いいな!!

 

 

 杏子の顔にずいと顔を近付け、麻衣は息を吹きかけるようにして叫ぶ。

 口から放たれる息は甘く、熱は炎のように熱い。

 当のナガレは「俺なんかのどこがいいんだろ」と思っていた。

 そこに思念が割り込んだ。

 

 

『まぁいいさ。あんたはまだ完全にあたしのモノになってねぇからな。いいさ、楽しんでこいよ』

 

 

 杏子はそう送った。

 先程の毒々しい言葉と異なり、すっきりさっぱりとした趣きのものだった。

 彼が察する限り、それは本心のようだった。

 

 再確認は野暮と想い、彼は家主の言葉に乗った。

 主体性ねぇなぁと彼は自分の行動をそう思ったが、他に選択も無さそうである。

 

 こうして、ナガレと麻衣の風見野デートが開幕したのであった。















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