魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第18.5話 敗北者たちの平凡な日常③

「何時でも何処でも、血と色恋沙汰に狂ってるんじゃねぇよ。バァーカ」

 

 

 曖昧な輪郭を以て隔てた心の中で、三つの魂が出会う。

 先に呉キリカと朱音麻衣がいた。

 そして今、佐倉杏子も現れた。

 キリカと麻衣は自室の中に、杏子は廃教会の中にいた。

 

 

「やぁ佐倉杏子。そういえば君も奪われてたね。元気?」

 

 

 口撃を返そうとしていた麻衣よりも早く、キリカが反応した。

 麻衣は黙った。嫌いな奴だが、レスバトル最強格のキリカに任せた方が良さそうだった。

 尤も、キリカに敵も味方も無く分け隔てなく愚弄するのであるが。

 そもそもキリカ的には麻衣の事は味方となど思っていない。

 

 

「まぁね。さっきまであいつに抱かれてたし、身も心も満たされてるよ」

 

 

 嘲弄の表情で杏子言う。

 対する反応はというと。

 

 

「へぇ」

 

「ふぅん…」

 

 

 キリカは素っ気なく、麻衣は無関心を装っていた。心の中では激流が渦巻いている。

 

 

「抱っこされてたんだね。寂しいからとかなんとか言って、友人はああ見えてツンデレだから付き合ったとか」

 

「抱かれてた、って言ってんだろ」

 

「性的に?」

 

「ああ」

 

「具体的には?」

 

「そりゃあ」

 

 

 そこで杏子は言葉に詰まった。

 

 

「…イロイロだよ」

 

「佐倉杏子。惨めになるからそこらへんにしておきなよ」

 

「嘘じゃねえってんだろ」

 

 

 食い下がる杏子であった。

 キリカは溜息を吐いた。

 吐き出される息さえ輝いて見える。キリカはそんな美少女だった。

 

 

「歩き方」

 

「あン?」

 

「歩き方が非貫通仕様」

 

「なっ…」

 

「処女膜に引っ張られてる歩き方してる。バレバレだよ」

 

 

 そして美しい声で奏でられる言葉は禄でもないものだった。

 

 

「…テメェ、そんな知識どこで仕入れて来やがる」

 

 

 忌々し気に、そして敗北感を滲ませながら杏子は言った。

 キリカはエヘンと胸を張った。たゆんと揺れた。

 こいつら死なないかな、今すぐにと麻衣は思った。

 

 

「ハイ、それが答えだね」

 

「ああ?」

 

「今白状しただろ。自分が処女だって」

 

「テメェ…」

 

 

 曖昧な境界越しに杏子は呪い殺さんばかりの睨みを利かせた。

 キリカは気にした風も無く、春風のような顔で笑っている。

 異様な光景だった。麻衣はそれを異様とは思っていなかった。

 異常者二人の対峙が、まともである筈が無いと思っているからだ。

 

 

「というか君、身体に意識があるのかい?」

 

「ああ。あいつと寝てたらココに来た」

 

「まだ言うのかい。となると部分的には真実なんだろね」

 

「そう言ってんだろ。で、それが可笑しいってのか」

 

「友人の性格からして私と朱音麻衣の身体を回収したのだろうけど、私達の今の状況が魔法少女の普通だよ」

 

 

 動かない身体。生命の絶えた肉体。

 死体。

 ソウルジェムを喪った魔法少女。

 

 

「詳しく話しな」

 

「ソウルジェムの有効範囲は約100メートル。それを超えると肉体は抜け殻になる。あとソウルジェムが壊れても当然死ぬ。魂が破壊される訳だからね」

 

「…それ、マジか?」

 

「うん、本当」

 

 

 杏子は衝撃を受けていた。

 それは魂の具現化についてではない。それは既に魔女化云々で把握済みだ。

 問題なのは有効範囲と、ソウルジェムが破壊可能という事についてだった。

 

 少し前に佐倉杏子はソウルジェムを投擲した。

 それは二百メートルの彼方へと弾丸の速度で飛び、魔女の顔面を貫通して破壊した。

 ソウルジェムには傷一つ入らず、距離を隔てても杏子は問題なく肉体を動かしていた。

 

 物言わぬ死体となった恋敵二匹を見て、なんとなくそんな気がしていたが事実として突き付けられると流石に驚きと嫌悪感が湧いてくる。

 だがそれを押し退け、別の感情が顔を出す。

 表情にもそれが表れていく。

 

 

「てこたぁつまり、テメェらは脱落ってワケだ」

 

 

 口は耳まで裂けたように広がっていた。

 口から覗くは牙のような歯の列。まるで鮫のようだった。

 

 

「ははははは。そうかいそうかい。身体を自由に動かせるのはあたしだけで、テメェらは死体か」

 

「そうなるかな。見たままだよ」

 

 

 事実を告げるキリカ。

 あの景色綺麗だね、とでも云うようなあまりにも自然な様子に、杏子はずきりと胸が痛んだ。

 しかし退くか進むか、二択しかなかった。杏子は後者を選んだ。

 

 

「そいつぁいい。邪魔な奴がいない間に、あたしはあいつを貪るとするよ。テメェらが身体を取り戻すときには大人の階段て奴を上ってるだろうさ」

 

「相手にされる訳ないだろう」

 

 

 黙っていた麻衣が口を挟んだ。

 それは場に沈黙を生んだ。それはこの連中全員へ圧し掛かる事実であるからだ。

 

 

「ついでに佐倉杏子。カッコつけてるんだかなんだか分からないけど、お前も敗北者だからな。あいつの子宮の中で粘液塗れで温められてるコレクションの一つだ」

 

 

 それもまた三人の心に影を落とした。

 大概の事を言われることは平気な呉キリカだが、自分で言った言葉にはダメージを受けるらしい。

 

 

「うるせえよ、テメェだって同じ穴のムジナじゃねえか」

 

「穴、か。佐倉杏子、君も随分爛れてきたな」

 

「拾うな」

 

「いいもん、私は違うもん」

 

 

 ぷいっとキリカはそっぽを向いた。

 仕草だけなら可愛らしいし美しい。

 

 

「どう違ぇんだよ」

 

「私、友人の母親だし」

 

 

 杏子は絶句した。

 そうだった、と一瞬だけ思った自分を死ぬほど恨んだ。

 

 

「まだ言うか、それ」

 

「言うよ。言いまくるよ。お望みなら未来永劫に」

 

「吐きそうだ。お前らは不健全過ぎる」

 

「ん、想像妊娠したのかい?朱音麻衣。君もさっきの妊娠ネタをまた引きずるのか」

 

 

 やれやれ、とキリカは両掌を上向きにする古いリアクションを行った。

 麻衣は表情を引き攣らせている。

 杏子はその様子を見て、こいつらは狂ってやがると思った。

 だからもうほっとこう。杏子はそう決めた。

 

 

「まぁいいや。じゃれあってろよ狂人共」

 

 

 言い様、杏子は右手を鳴らした。

 パチンという音と共に、杏子の属する空間が変容していく。

 廃教会が消え、暗い空間が杏子の背後に広がった。

 その中に、巨大な影が聳えていた。

 

 全身に鎖を巻かれ、何本もの巨大な槍らしきもので関節や背中などの各部を貫かれ、地面に縫い留められている。

 闇の中であったが、それは人型に見えた。

 顔と思しき場所で、眼に当る部分が輝いていた。

 血のような深紅の輝きが、鬼火のように鎖の隙間から漏れていた。

 

 

「あたしにはやる事がある。邪魔すんなよな」

 

 

 そう言うや、その物体に向けて杏子は赤い閃光のように飛翔していった。

 そして十字槍を振い、その存在を斬りつけた。

 

 破片が飛び散り、鮮血のように紅い光が舞う。

 それを何度も繰り返す。

 闇と赤が交わる中、杏子の笑い声が聞こえた。

 心から楽しそうな声だった。

 

 

「どっちが狂人だ。自らのドッペル…なのかは分からないけど心を加工するなんて」

 

「そう…なのか?」

 

「多分ね。偶然だろうけど、調整屋モドキなことをしてるっぽい」

 

「それも神浜由来か」

 

「お、察しが良いね。知らずの内に自慰って賢者たいむにでもなったのかな?」

 

「確かにどちらが狂人なのだろうな」

 

 

 麻衣の言葉にキリカは少しだけ眉を跳ね上げた。

 発情紫髪女も言うようになってきたな、と彼女は思った。

 麻衣の皮肉には言葉を返さず、キリカは杏子の行為を見た。

 麻衣も見続けていた。

 

 二人の視線など意に介さず、杏子は槍を振い続けた。

 そして望む形に、魂が求めるままに心の一部を加工していく。

 殺意・破壊衝動・嗜虐心。

 杏子自身が嫌悪しつつも、自らの一部として認めたものを。

 

 

こいつは檻だ

 

こいつは鎖だ

 

こいつは枷だ

 

こいつはあいつを繋ぎ止めるためのものだ

 

 

 舞い踊るように槍を振い、自らの心を刻みつつ杏子はそう想いを刻む。

 異常な思考なのはとうに承知だ。

 この状況も異常であるし、自分の魂の変化も異常以外の何物でもない。

 だがそれを受け止め、更には利用さえして心を刻む。

 一つの形と願望を込めて。

 

 

あいつは…あたしのものだ

 

 

 闇の中、斬撃の破壊音と杏子の哄笑が響き渡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なるほどね」

 

 

 その様子を見て、キリカはそう呟いてほくそ笑んだ。

 

 

「ふむ…」

 

 

 麻衣も呟いた。秀麗な顎に手を添え、何かを考えている。

 少なくとも、杏子の行為に否定的ではなさそうだった。

 それはキリカも同じ様子であった。

 

 病と同じく、狂気は伝染するのだろう。

 例えるならそれは、何かしらの創作者が別の作品に刺激を受け、新たな物語を紡ぐように。















佐倉さん…ドッペル着て、どうぞ
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