魔法少女きょうこ☆マギカ 流れ者達の平凡な日常(魔法少女まどか☆マギカシリーズ×新ゲッターロボ)   作:凡庸

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第23話 破壊×破戒

「がはっ……ごふ……ぐぷ……」

 

 

 錆び味の呼吸、焼けるような喉の痛み、口内に満ちる粘ついた血液。

 血を吐きながら、佐倉杏子は呼吸していた。

 何時もの事、ではあるが今回は特段に酷い有様だった。

 

 手足はそれぞれが肘と膝のあたりで喪失。

 脚は肉と骨が綺麗な断面を見せていたが、両腕は筋肉の筋や血管が強引に引き摺り出され、壊れた家電のような様相を呈していた。

 

 骨や肉もミキサーに掛けられた挽肉のような有様であり、そこからは常に、鮮やかな色をした肉同様に生々しく新鮮な苦痛が間断なく生じていた。

 例えるなら、肉の内側に無数の蟻を詰められ、それが常に肉を貪り食っているような。

 

 更に負傷はそれに留まらず、今の杏子は上半身と下半身が二つになりかけていた。

 仰向けの上半身とうつ伏せの下半身の間を、身体の内側から溢れたねじれた腸がかろうじて繋いでいる。

 狂わんばかりの激痛。しかしそれが却って今の正気を保っているという状況だった。

 苦痛に満ちた生と呼吸を続ける杏子を、煌々とした炎の赤が染めていた。

 

 惨殺死体同然の有様と化した杏子の周囲には、炎が広がっていた。

 何で出来ているかも定かではない異界の地面が、魔を帯びた炎によって燃えている。

 本棚や椅子、ビルらしきものや巨大な時計台のようなもの。

 魔女の美意識が生み出した歪な構造物たちは、少なくとも杏子の見える範囲に林立するそれらは例外なく破壊され、炎の凌辱を受けていた。

 

 

「ぐふっ…」

 

 

 血の塊を吐き出す杏子。

 それが胸に滴り、腹へと伝う。

 胸に付いている筈の、魂の宝石は今はない。

 その代わりとでも言うように、吐き出した血塊は杏子の胸にこびり付いた。

 真紅の魔法少女服は、焼け焦げと鮮血の赤で赤黒く染まっている。

 

 それも普段の事ではあるが、今回は事情が異なる。

 今回の加害者はナガレでもキリカでも麻衣でも魔女でもなく、新しく出会った者だった。

 

 血を吐き出した口の中を、杏子は舌で舐め廻した。

 血と胃液と体液。自分由来の味しかしない。

 食べ尽くした料理の味や、固形物は全く無い。

 そこに杏子は僅かな安堵を覚えた。

 

 何考えてるんだ、と苦笑したくなった。

 苦痛の方が大きく上回り、浮かびかけた笑みが砕け散った。

 

 

「ごぶふっ……」

 

 

 同時に再度の吐血。

 体内の血を出し尽くすのかと思わんばかりに、口から大量の深紅が溢れる。

 出口を求めているのか、眼からも血涙が滝のように落涙していく。

 胡乱となった視界が、不意に真っ赤に染まり切った。

 更に熱風が杏子の全身を叩く。

 叫ぶ間もなく、杏子の全身を灼熱と猛風が打ちのめし、四肢を喪い上下半身で分けられかけた身体を吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

 

 

「かず…みいいいいいいいいいいいいいい!!!!」

 

 

 ナガレの絶叫。

 唸る風切り音。数は二つ。

 一つはナガレの斧槍。もう一つは十字を描いた黒い杖。

 十字部分が柄となり、そこから伸びた長大な直線が刃となっていた。

 そして刃同士が激突。

 

 二人の周囲もまた炎で満ちていた。

 激突の瞬間に生じた衝撃が、燃え盛る炎さえも吹き飛ばす。

 

 

「グルルルルル……ゥゥゥアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!」

 

 

 咆哮。

 十字の黒い刃を握るのは黒い魔法少女。

 童話の魔女を思わせる鍔広の帽子を被り、最低限の部分しか身を覆っていない極めて露出の高い衣装を纏っていた。

 

 交差する刃の向こう、童女の朗らかさとは無縁の魔獣の如き有様と化したかずみ。

 刃を喰い止めている間も、かずみは彼に向けて顔を突き出し、可憐な歯が並んだ口を引き裂けんばかりに開いてガチガチと噛み合わせていた。

 まるでピラニア、または大型猛獣、或いは古代の覇者の恐竜か。

 

 

「美味いもんでも…ねぇだろうが」

 

 

 苦々しく呟くナガレ。

 背中に背負った悪魔翼はほぼ崩壊状態、頭から生やしたゲッター1モチーフの角は右側が根元付近から欠損。

 首筋には歯形、どころか歯の痕。

 右肩や脇腹、左腕などにも同様の傷が生じている。

 齧られ、噛み砕かれ、喰われた痕だった。

 

 それを指摘したナガレの言葉に、かずみは反応した。

 彼の血で染まった歯を、桃色の舌でぺろりと舐めた。

 唇の端には歪み。

 笑っているのだった。

 そこには、童女のように笑うかずみの面影があった。

 

 その笑顔に向かう、黒い閃光。

 牛の魔女と融合したナガレの背から伸びた、魔女の一部を変形させた黒い鞭。

 竜の尾のような多節の鞭。先端は鋭利な刃。

 それでかずみの首を締め上げ、無力化するのが目的だった。

 一度の瞬きを更に十数分割する程度の時間が、かずみと鞭を繋ぐまでの時間だった。

 

 

バリッ

 

 

 その時間の後に、音が鳴った。

 かずみの歯が、超高速で迫る鞭の刃部分を文字通り喰い止めていた。

 視認した瞬間、彼の身体は宙に浮いていた。

 かずみが口に鞭を咥えたまま、首を激しく振っていた。

 地面に一度叩き付けられ、今度は逆に放り投げられていた。

 

 

「ぐああっ!」

 

 

 苦鳴、そして吐血。

 折れた肋骨が肺に突き刺さっている。彼はそう判断した。

 空中で身を翻すナガレ。

 彼の本能に最大警戒の危機感。

 これまでに既に何度か受けている。

 

 異界の地上約10メートルから見渡す景色。

 一面の炎、破壊された異界の構造物。

 そして深々と抉られた、渓谷さながらの大破壊。

 それを為したものが次に来ると、彼は察した。

 

 彼の方に向けて顔を見上げているかずみ。

 その口が開いた。

 

 

「ぐぅぅあああああああああああああああああ!!!」

 

 

 絶叫が大気を震わす。

 その震えに、力が加わっていた。

 かずみの口から漏れ出るのは彼女の魔力。

 それが空気を激しく掻き回す。

 一瞬にして、その結果が発生した。

 

 彼の眼の前に広がるのは、一面の渦。

 その直径は、20メートルにも達していた。

 

 掻き混ぜられる空気の渦は、表面に無数のささくれを有していた。

 飲み込まれたら、どころではない。

 触れたら全てが破壊される。

 その結果が、地上を巨大な獣の爪とぎの如く抉り抜いた大破壊である。

 

 

「当た……るかぁ!!」

 

 

 破壊されていた魔翼を再生させて飛翔。

 破壊の範囲から間髪で抜け出る。

 大渦の側面から、かずみを急襲しようと回り込む。

 

 渦の根元を見る。そこにいた筈のかずみがいない。

 

 

「ふっ」

 

 

 彼の右耳に吹き付けられる吐息。

 振り返るよりも早く、彼は高速で退避した。

 彼がというよりも、魔翼が先に動いていた。

 

 彼と同化している魔女が危機感を覚え、逃避していた。

 佐倉杏子が発生させた、疑似ゲッターロボとでも言うべき全長40メートルに達する異形。マガイモノ。

 更には杏子のドッペルが相手でさえも逃避をしなかった魔女が、極限の恐怖により一時とは言え彼の拘束から抜け出ていた。

 

 だが彼は、魔女のさせるままにさせた。

 癪だが、今はそうした方がいい。

 というか、そうしなければ死ぬ。

 

 

「がああああああ、あああああああああああああああああああ!!!」

 

 

 叫びと共に右手を突き出すかずみ。

 握られた剣の先端には紫電。

 それが放たれた。

 

 

「がぁっ!」

 

 

 ナガレの苦痛の叫び。

 放たれた雷撃は空中に生じたヒビのように広がり、彼の元へ届いた。

 ほんの先端を掠めた程度であるのに、魔翼の片方は根元から弾き飛ばされていた。

 背中の肉も胴体の半ば近くまで焼き尽くされた。

 

 肋骨の前はほぼ全損、後ろも焼け焦がされるという地獄の苦痛。

 苦痛の中で着地する。

 その足元に雷撃が叩き込まれた。

 残っていた魔翼を翻して回避する。だがその代償に、雷撃に触れた右翼も左翼と同様の運命を辿った。

 しかし、彼には休んでいる暇はなかった。

 

 苦痛に対する肉体の反応。

 意識の喪失という甘美な誘惑を振り払いながら、彼は回避を繰り返した。

 一瞬も休まず、バク転にバックステップにと身体を動かし続ける。

 

 それが停止したのは、数分後か十数秒後か。

 地面に足を着けているかずみと彼との距離は、10メートル程度。

 その間に、無数の穴が開いていた。

 

 彼を狙って放たれた雷撃の名残だった。

 孔の淵には紫電が宿り、淵は超高熱によりガラス化していた。

 孔の底は全く見えず、闇が溜まっている。

 

 

「お前…」

 

 

 口から血塊を吐き出すナガレ。

 欠損した左眼を覆い隠すのは、今現在魂を奪われて死体と化している呉キリカの遺品の眼帯。

 残った右眼で、彼は新たに登場した黒い魔法少女を見ていた。

 

 

「強過ぎるだろ」

 

 

 掛け値なしの称賛、そして脅威への警戒心。

 それが等配分に混ぜ合わされた言葉を、彼はかずみへと送った。

 













フム


イツモドオリデ


ナニヨリ


(観測者の呟き)
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